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朝日ない世界・6

 あれから、リンと魔獣狩りに行ったり、サイトと魔獣狩りに行ったり、アンバーの部屋でまた4人で酒を飲んで気を失ったりした。フェリーチェとも聖堂で会って、当り障りない話をしたりもしたが…最近、聖堂に行っても時間が合わないのか会えて無かった…残念だ。

 ともかく、今日が交戦日だ!魔族と交渉を成功させて、契約も何とかするぞ!


「…リョータ…。」

「どうした?」

「リョータ……。」


 交戦地である平野で、他の前線に出るサイトやゾフとアンバーは先に位置についている。まだあやしまれるといけないからと言って、サイト以外の2人も通常通り前線に出てくれている。

 鐘が鳴った。交戦が開始された。

 それなのに、なぜか後衛に残っているフェリーチェに袖を掴まれている。何かを伝えたいようだが、すぐに前線に出るように言われているのか、苦しそうに胸を押さえている。

 悲しそうにも見える表情は、契約に逆らおうとする痛みのせいだと思う。


「大丈夫…じゃないよな。聞いてくるから、もう少し頑張ってくれ。」

「…… ・・・て…。」

「なに?」

「……。」


 何かを言ったよう気がしたが、聞き取れなかった。

 聞き返したが答えはなくて、袖を掴んでいたフェリーチェの手が、力が抜けたように落ちた。

 フェリーチェから表情も抜け落ち、そのままゆっくりとした歩みで前線に向かっていった。

 何を伝えたかったのかは分からなかったけど、本当に苦しそうだ。

 早く契約をどうにかして、助けてあげないと。


 気合を入れ直して、早速サイトを見る。

 魔族と戦っている。隠蔽しながら転移で近づき、鑑定する。

 いた。ダルという名前の影種族。隠蔽した状態で更に近づき、ダルにだけ声の隠蔽を解いて、話しかけた。


「ダルさん。話したいことがあります。少し外れてもらっていいですか!」

「…?」


 ちゃんと聞こえたようで、そのマントは一歩後ろに下がり、辺りを見回している。

 直感のスキルを持ってる…これで、危険を察知できるのか。俺に害意が無いのが分かるから、信用してもらえるかもしれない。 


「すみませんが、人間に見られないように、少し木陰に入ってもらえますか?」


 今回もお願い通り、森に少し入って止まってくれた。

 転移で近づき、人間側から見えない位置で姿の隠蔽を解く。

 いくら害意が無くても、姿を見せないのは誠意がない。それで信用してもらえないのは大変だ。


「俺はリョータ。異世界人です。」

「俺は影種族のダルだ。どうしたんだ?」


 黒マントの裾からは闇しか見えずとても不気味だが、声は優しげだ。何とかなるか?


「異世界人は人間達に契約で戦争に参加させられています。一人を除いて、次回からは攻撃しないようにするので魔族側に亡命させてもらえませんか?」

「そうなのか?…たぶん…こちら側に来るのは、大丈夫そうだけど…全員か?」

「いいえ…まだ人数は分かりませんが、亡命したい異世界人は何人かいます。」

「サイトも?」

「あー…そうです。サイトは、その…亡命させてもらって、なおかつ時々魔族か異世界人と戦闘と…命のやり取りの無い稽古?組み手?みたいな、戦闘をしたいって言うんですが、可能ですか?」

「…うーん。」


 マントが唸っている。やっぱり図々しいか?でも、亡命でサイトの名前が出るくらいだし、仲がいいんじゃないのか?


「人間の考えることは分かりませんが、前線に出る異世界人が居なくなれば、流石の人間も戦争を止めるかしばらく交戦をしなくなると思うんです。協力してください!」

「うーん…。ああ、たぶん大丈夫だと思うけど…一人っていうのは?」

「それが、自己再生のスキルの女の子なんです。契約が国の指示に従うで…本人は戦うのをすごく嫌がっているんです!魔族側に契約を破棄したり、何か裏切れるようにする方法があったら、どうか教えてください!」

「そんなことが…うーん…契約については探してるけど…うーん…。」

「…。」


 すごい唸ってる。二日酔いのリンみたいだ。考えてわかることなのか?それなら、いくらでも待つけど。

 しばらくして、唸るのが止まった。


「いや、ちょっとすぐに契約を変えるのは難しいようだ。異世界人がこちらに来るのは大丈夫そうだが…。」

「すぐは無理なら、どれぐらいかかりますか!?」

「正確には分からないけど、かなり長い年月がかかりそうだが…。」

「そんな…。」


 契約の変更が出来そうだというのに、それにすごく時間がかかるなんて…長い年月ってどれくらいだよ!?このままフェリーチェを放置なんてできない!

 他に方法が無いか、言いつのろうとすると、黒マントに遮られた。


「あれ、大丈夫なのか?」

「あれ?」


 黒マントがマントを変形させて示す平野を、隠蔽をかけて死角から出て確認する。

 え?…なんで?

 なんで、フェリーチェとサイトが戦ってるんだ…?

 呆然と見回すと、前線に居るはずのアンバーとゾフの姿が無い。鑑定で異世界人を探して、再度見回すと…見つけた。


 種類-異世界人の遺体


 なんで?なんでだ!?…ゾフも、アンバーも…リンまで!?なんで!?

 三人が死んでいて、フェリーチェとサイトが戦っている。

 後衛を見るが、ユーナの範囲治癒が見える。ユーナが無事ならほかの二人も大丈夫か?

 戦うフェリーチェとサイトを、周りの人間も魔族も、戸惑うように遠巻きに見ている。

 これは、どういうことなんだ?

 交戦前のフェリーチェの様子が思い返される…つまり、そういうことか?

 転移で戦う二人に近付き、この前サイトを攻撃した時のように風を強めにして、投げた。

 二人の間に着弾した小さな火は、激しい爆風で二人と引きはがすように吹き飛ばした。

 バリアを張った俺も追いかけるように、片方の近くに転移する。もちろん…。


「やってくれたな。」

「ごめん。フェリーチェが?」

「フェリーチェはあの話を知ってるのか?」

「もちろん。」

「なるほどな。フェリーチェには後日にすると言っていたから、分かっているかと思ったぞ。」

「え?」

「すべての指示に従う契約なら、聞かれたことにも答えなければいけなくなる。鑑定で知っていたなら、伝えないことが優しさだった。こうなる可能性を考えるべきだった。」

「…。」


 サイトの言葉に、激しい怒りが沸いた。もちろん、自分に対してだ。


「もういいさ。低い確率だった。運が悪かっただだけだ。ただ、俺はこのまま殺されるつもりはないが、別にいいな?」

「それは…。」

「どうにかして、再生を止めないとだな…面白いじゃないか。」


 フェリーチェを殺すということか。

 この前と違い、怒りは鎮火して戸惑いが占める。

 ニヤリと笑ったサイトがフェリーチェに飛び込み、二人の戦いが再開される。

 フェリーチェが魔法を放つが、サイトは避けたり打ち消したり、受け流したりしている。

 一方サイトの攻撃は、フェリーチェを削る。

 本気で戦っているのか、サイトの攻撃が少しでもかすれば、その部分は文字通りフェリーチェの血肉を吹き飛ばす。

 いくら再生するとはいえ、そんな…でも…サイトを止めるということは、フェリーチェにサイトが殺されると言うことだ。止めることなんて…できない。


 俺は最低だ。バカだった。

 仲間はずれは可哀想じゃない。結論が出るまで黙っているべきだった。

 サイトは低い確率で、運が悪かったと言ったが…俺の人間嫌いな態度も原因だったかもしれない。

 もし、新しく召喚されたのは人間を嫌っているようだが何か企んでいたりしないか…なんて聞かれていたら…それで、フェリーチェから人間にあの話が漏れたかもしれない。

 誰がどんな契約か伝えて無かったから、魔族側に亡命する話を聞いた人間は、敵に回ったら脅威になる前線組を殺すように指示したのかもしれない。

 リンも殺されているから、どんな指示だったのかはわからないが…俺の責任だ。

 俺が、フェリーチェを助けるつもりで…余計に苦しめた!最低だ!


 俺の自己非難はそこで、一瞬止まった。

 呆然と見ていた先で、サイトの腕が、フェリーチェの胸を突き通っている。

 二人の動きが、止まった。

 あのままなら、魔法は残った片手で対処される。距離が近くても物理でサイトを剥がすことはできない。フェリーチェは…死に続ける。

 もがくフェリーチェを見ても俺は…なにも…。

 ふと、フェリーチェと目が会った気がする。彼女の口元が動いた。


 ・・・・。


 何を言ったかなんて分からない。助けて?それとも…ころして…?

 答えを考えた瞬間、フェリーチェの身体が爆発するように吹き飛んだ。

 その爆発に巻き込まれないようにか、サイトが後退していた。

 その爆発した後には、フェリーチェは再生していた。


「自爆か。厄介な再生だな。本当に、面白い!」


 自爆が、おもしろい?死にたくなくて死にたいフェリーチェの、自爆と再生が…おもしろいだと?

 ふざけるなっ…!

 距離を取っている今だから、サイトの前方に転移で割り込み、フェリーチェと向き合う。


「俺がやる。」

「リョータが?」

「殺させない。」

「出来るのか?」

「…。」


 考えろ!殺さずに止める方法を!

 フェリーチェから魔法が撃ち込まれる。サイトだけでなく、俺も殺すように指示された内に入っていたようだ。

 バリアで防いだが…罅が入った。どうして。フェリーチェの魔法干渉力は俺と同じ。空間魔法はスキルだからこちらの方が上位のハズなのに…。

 連続で撃ち込まれる予想より強い攻撃を、バリアを何重にも張って耐える。

 …分かった。魔力を上乗せすることで上位にも影響があるようにしてるんだ。フェリーチェの再生でMPはどんなに使っても回復するから…強すぎるだろ!?

 このまま防いでいるだけでは、俺のMPが先に無くなる!

 どうにかして…どうにかして、止めないと!

 止めるのは…。

 フェリーチェの攻撃が止まった。苦しそうに胸を押さえた。

 それなのに、無理に笑おうと表情を作ろうとしてる。

 目が…合っている。口が動く。


 ・・

「言わせないよ。」


 フェリーチェは、サイトの攻撃と自爆の影響で、ボロボロの布きれが血で肌に張り付きほとんど何も着ていないような状態だ。

 転移で近付き、そんな彼女を隠すように正面から抱きしめるよう触れる。そして、その姿は消える。

 崩れ落ちた俺の後ろから、サイトが近づいてくる足音が聞こえた。


「リョータ?どうなったんだ?」

「大丈夫。居るよ。」

「む?」

「殺さないし、死なせない。時間を止めて、隔離した。」

「なるほど、空間魔法か。面白いじゃないか。やっぱり戦わないか?」


 サイトを見れば、服が所々破けていて、怪我も見える。

 先ほどの戦闘が余裕なものでは無かったのは、見て分かった。

 それでも、まだこんなこと言うなんて…こういう、性格なんだな。

 悪い奴じゃないけど、俺は、嫌いだ。

 笑ってサイトを見る。…ちゃんと笑えているだろうか。


「俺も最低だけど、お前も最悪だよ。俺はもう万全に空間魔法も魔法も使えなくなった。戦っても面白くないと思うけど。」

「そうなのか?」

「まぁな。でも、魔族が相手してくれるってさ。」

「それは…もう、交渉が終わったのか?」

「そうだ。もう、人間側に居る必要は無いだろう?」

「…そうだな!ハハハハ!リョータは、なかなかやるな!俺は気に入ってるぞ!」

「それはどうも。」


 他に亡命を望んでいた異世界人は、もういない。

 まだ耳に、最後の俺の名前を呼ぶ声が残っている。

 続く言葉は結局聞こえなかったけど、絶対に何とかするから。

 契約が変更できるまで、ずっと待つから…。だから、待っててくれ。




※※※




 約5年に及んだ長い交戦が終わった。

 異世界人の3人死亡と、2人の魔族領への逃亡者、そし1人の行方不明者を出して。

 私を含めたあの最後の交戦時に後方に居た3人以外の戦力が居なくなり、後方支援型のスキルの残りの異世界人では、交戦を続けるのは難しいと判断されていた。

 あと魔族側に動いた異世界人が、最大戦力であった一人と、もう一人の最大戦力をどうにかした異世界人であることから、味方として見知った脅威を敵に回すことで戦争に躊躇している。

 一応休戦中ということだが、このまま戦争なんてやめてしまえばいいのに。


 前線から帰ってきた負傷者たちに様子を聞いたが、人間達の間では、異世界人同士の仲間割れの戦闘ということになったらしい。フェリーチェがリョータに消されたのを見た人は多いが、生死は分かっていない。

 どうすればこんな結果を防げたのかはわからないけど、フェリーチェが自分の意志で仲間を殺したんじゃなくて、国の指示に従ったということは分かっている。

 そして私は、知ってる。

 二人がどんな関係だったのか。

 だから、二人は一緒に居ると信じてる。


 この時はまだ、仲間割れなんかじゃないって信じてもらえなかった。

 いつか二人が戻ってきた時に、傷ついた二人を受け入れられるように…また、こんな悲劇を出さないように。同じ世界で生きていただろう彼と同じように、怯えるだけだった私も頑張ることにした。

 だから…今日も私は、聖女様だ。

 ねぇ、人間達。私の影響力、広がってる?

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