朝日ない世界・5
とりあえず、これでフェリーチェ以外が魔族に攻撃することを防ぐことができた。
あとは、魔族に交渉するのと、フェリーチェを…何とかならないだろうか…。
何度唸ってもいいアイディアは出ない。魔族はみんな強いし、魔族側に聞けば何か方法が分かるかもしれない。亡命の交渉をしつつ、そのことも相談してみよう。
少し気が晴れたような気がする。
その後はリンに魔獣がお金になると聞いて、サイトの狩った魔獣を空間魔法に入れたままだったのを思い出し、サイトと一緒に換金しに行ったら分け前として半額もらったりした。
それを見ていたリンに、後日無給同士の魔獣狩りに誘われた。空間魔法でたくさん持ち帰り、稼いだ金で一緒に外に食べに行ったりもした。楽しかったが、今後はリンが飲酒するようなら、アンバーたちがいないところでは付き合わないことにした。
※
そんな感じで数日たった後、宿を出た所でフェリーチェに会った。
「フェリーチェ、久しぶり。」
「…リョータ…。」
「どこかに行くのか?」
「…聖堂…?」
「じゃあ、今って時間取れないか。」
「…大丈夫。」
「本当か?なら話したいことがあるんだけど、俺の部屋…は、マズいか。ユーナと同じ家だよな?お邪魔してもいいか?」
「…いいよ。」
まだ解決策は無いけど、解決できる可能性ができたし、このままだと仲間はずれみたいになってしまうから話した方がいだろう。
フェリーチェと並んで、この前もお邪魔した家に上がり込む。
「フェリーチェ、応接室ってここだよな?」
「………?」
この前案内された部屋を通り過ぎていくので、思わず声をかけた。のに、疑問を表すように小首を傾げられた。可愛い…けど、そうじゃなくて…。
「俺男だし、女の子だけで住んでる家だし、奥に案内してもらうつもりじゃなかったというか…ここなら、他にも人が来たりするみたいだから大丈夫かと思ったというか…なんというか…。」
「…部屋、こない?」
「へ、部屋!?」
「………?」
それなら、俺の部屋に連れ込んでも一緒だった…いや、一緒じゃないか?よくわからん!
キョトンとした表情のフェリーチェの前に、ぐるぐると思考絡まって動けなくなっていたところに、聖女様が顔を覗かせた。
「フェリーチェ、おかえり。リョータも来てたんですね。」
「お邪魔してます!」
「…ただいま。」
「今、お茶出しますね。そこの部屋、空いてるので使って大丈夫ですよ。」
「…ありがと。」
微笑んだ聖女様は、奥に姿を消した。お茶を持ってきてくれるらしい。
フェリーチェは踵を返して、固まっていた俺の隣の戸を開けた。
「…入って。」
「あ、ありがとう。」
聖女様のおかげで、予定通り応接室に案内されたわけだが…残念なのはどうしてだろう。
なんで俺はこんなキチンなんだろう!あのままフェリーチェについて、彼女の部屋に上がり込んでしまえば良かったのに!!
動けなかった俺が悪いのに、欝々とした気持ちでソファーに座ると…驚いた。フェリーチェが隣に座った。え?なんで?どういうこと!?
「えっと、椅子…え?向こうは?」
「…ユーナとアミナ、だよ?」
「うん…?」
「………?」
ローテーブル越しの椅子を指して伝えると、フェリーチェも同じく指して教えてくれる。
ええと、つまり?あっち側は、ユーナとアミナが座るってことか?ここは、応接室兼治療部屋だから…つまり、来た人の反対に座るのは治癒スキルの持ち主ということか。フェリーチェには治癒スキルもないし、そもそも自己再生するからこの部屋に入る発想が無かったのかもしれない。
だから、部屋に案内しようとしたし、俺と同じ側に座っているとそういうことか?
フェリーチェを見つめるが、指で椅子を指した姿勢で止まっている。たぶん、そういうことだろう。
「…なんか分かった気がする。」
「…そう。」
座る場所は気にしないことにして、隣のフェリーチェに向き合うように姿勢を変えた。
「この前話していたので、俺もいろいろ考えたんだ。先に言うけど、まだ解決策が見つかったわけじゃなくて…でも、途中経過だけど聞いてほしい。」
「…うん…。」
「俺はやっぱり異世界人が人間の戦争に参加して傷つくのはおかしいと思うんだ。契約には逆らえないけど、契約によっては逆らうことができる指示があることが分かった。」
「そうなの…?」
「そうだ。だから他の異世界人に会って、俺の鑑定のスキルで契約の内容を伝えて、人間に逆らえるように話をしたよ。それで他の人には協力してもらえるようになったんだ。」
「ほんと…?」
「いや…まだ、魔族側に亡命するのが条件の人が居るから、その交渉が上手くいったら何人か亡命する異世界人が居ると思う。」
「…亡命?…すごい…!」
キラキラした表情ですごいと言われてしまった。嬉しいが、まだ…そう、フェリーチェの件は解決していない…。
口が重くなったところで、ユーナが入ってきた。
「あ…二人は…いい仲なの?」
「…うん。」
「え?いや…はい、ありがとうございます。」
二人ソファーに並んで座っているのを見てか、いい仲と言われてしまった。
聖女様はにこにこ笑って、お茶を出してくれた。
フェリーチェも肯定してるし、そう、いい仲だ!…そうなのか?仲がいいと、いい仲って全然違うような気がするんだが。
笑みを深くする聖女様が向かい側の椅子に座った。今更訂正できず、若干冷汗が出た。
「それは嬉しいです!邪魔するようになりますが、リョータのこの前の話がどうなったかだけ、聞いてもいいでしょうか?」
「ちょうど今話してたんだ。他の人には話して来たけど、契約的に前線に出なくて良さそうだったよ。」
「良かった!…ええと、フェリーチェは…?」
「………?」
ユーナとフェリーチェの二人分の視線を受けてしまう。
覚悟を決めて、フェリーチェと目を合わせる。
「実は、フェリーチェの契約は”戦争中、国の指示に従うこと”なんだ。まだこの契約をどうすれば破棄したり逆らったりできるか分からない。」
「…そうなの…。」
「でも次の交戦時に、魔族と亡命の話をしながら、どうにかならないかも聞いてみるよ。フェリーチェを残していく気はないから…だから方法を探すまで待っていてほしい。」
「……ごめんね…。」
「え?なんで。」
「…わたしが、いると…。」
こんな悲しい表情をさせたかったわけじゃない…!
俺の言い方が間違ったのか!?膝の上で強く握られた手に、俺の手を重ねる。
「そんなことない!俺はフェリーチェと居たいよ!だから…だから、必ず方法を探す。待ってほしいんだ。」
「…ほんと?」
「待たせることになってごめん。でも、必ず見つけるから。」
「うん…待ってる、ね…?」
頬を染めて微笑むフェリーチェ…ああ、もうカワイイ!!
絶対、何とかする!
そうしたら…一緒に、魔族側に亡命してもいいな。人間は最悪だから、魔族側に…魔族も良くなかったら、俺が空間魔法で生活空間作れるし、一緒に…一緒に?
フェリーチェと重ねていた手が、握られた。小さい手だ。…意識したら、一気に顔が熱くなったのが分かった。
なんだこれ、なんだこれ!…なんだこれ!?
軽くパニックになっていた俺に、聖女様の声が届いた。
「ええと、私、もう出ますね?二人は…」
「俺も!」
「え?」
「…え?」
え?二人の視線を受けて、少し冷静になった。
勢いよく立ち上がってしまったので、フェリーチェと軽くつながれた手は離れてしまっている…。
なにやってんだ、俺…。こうなってしまえば、今から座り直して手を繋ぐわけにもいかないし…もう、最悪。ほんと、チキンだな!
「…俺も、帰ります…。」
「…うん。」
「…またな、フェリーチェ。ユーナも。」
「…また、ね。」
「ええ。お気をつけて…。」
ユーナの入れてくれたお茶を一気飲みして、とぼとぼと帰路についた。
何かのチャンスが、あの時に来ていたみたいだったのに…!




