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朝日ない世界・4

 ユーナに呼んできてもらったこの家に住んでいる異世界人は、アミナという女性だった。

 スキルは魔法特化・治癒魔法・回避で、契約は”戦争中、上官に指示された者を優先して治癒すること”。契約内容がユーナとほぼ一緒で、つまり治癒スキルについて制約があるが、戦争で攻撃に回る必要は無かった。

 話した感じだと、前に一度契約に逆らってしまい痛みを感じたため、上官には逆らえないと勘違いしていたようだ。すごく感謝された。ユーナと同じく、治癒魔法を盾にした脅しとして協力してくれることになった。


 通常の魔法で鑑定が出来るのに、契約の確認はできないということで、召喚された時の内容を一字一句覚えていないことから、勘違いして指示通り動いている異世界人は他にも居そうだ。

 亡命&ストライキ作戦は、案外上手くいくかもしれない…いや、フェリーチェがどうすればいいかまだ分からないし、他にもどうしようもない契約の異世界人も居るかもしれない。

 まだ魔族側に聞いてないから、受け入れてくれてくれない可能性もあるのか。

 次の交戦は魔族側に会うために確実に参戦しないといけないから、最短でも次の次まで時間があるだろう。ゆっくり考えればいいか。契約を伝えるだけでも、異世界人の自由の取得に役立つようだし。


 歓迎されたがユーナたちの所に居座るには、俺はチキンだった。

 泊まっている宿に戻ることにする。

 夕飯ぐらいあそこで食べて行けば良かったかな…でも、今フェリーチェに会わせる顔が無いか。

 宿で出してもらうのは無料だし、夕飯は宿で食べることは正解だ。そう思うことにした。

 食堂に行くと、前回の戦闘時に治癒要員として転移で運んだりした異世界人のリン・トールが居た。

 さっそく声をかけようと思ったが…ここだと、人間もいるのか。人間に逆らう相談だから、後で部屋に行って話したほうがよさそうだな。でも、部屋が分からない…。そうか、普通に世間話みたいに声をかければいいのか。


「ここいいか?俺の事、覚えてる?」

「いいよ。この前召喚されたリョータだろ。転移で運んでくれたから楽だった。」

「それは良かった。リンだろ?よろしくな。」

「よろしく。やっぱり転移って便利だよなー。」

「やっぱり?他にも転移出来るスキルの人がいるのか?」

「居るよ。アンバーって言うんだけど…今いないみたいだ。部屋に居るかも。」

「後で紹介してくれるか?」

「了解。食べ終わったらな。」


 他の異世界人も紹介してもらえる。一石二鳥だった。

 上機嫌で肉にフォークを刺す。

 何かの肉だ。少し硬いが、食べれる。調味料は、塩胡椒があるようなので安心だ。

 ただ、マヨネーズとかは見たことがない。

 確か、油と卵だったか?混ぜるだけでいいのか作り方に自信もないし、そう言えば卵料理を見たことないな。卵を食べる習慣はあるのだろうか。

 なんて考えつつ、リンと話しながら食べれば、食べ終わるのあっという間だった。


「リョータの国ではいろんな食べ物があっていいなぁ。僕が食べていたのは、こことそんなに変わらないよ。」

「そうなのか?」

「あーでも、ここって、果物は見ないんだよな。砂糖とは言わないから、甘味が欲しい。」

「え?果物ないのか?甘いものが特別好きなわけじゃないけど、無いとなると食べたくなるな…。」


 二人で故郷の甘味に思いを馳せつつ、苦笑しあう。


「…食べ終わったし、アンバーの所に行ってみる?」

「頼む。異世界人同士って、割と仲いいのか?」

「仲?いいよ。」

「良かった。ギスギスしてたらどうしようかと思った。」

「心配してたんだ?ギスギスはしてないから安心してよ。」


 リンに案内されて、アンバーの部屋に到着した。

 ノックで出てきた相手の顔を見て驚いた。正確にはビビった。かなり大柄で強面の男が出てきた。

 確かにこんな異世界人が居たのは、この前の戦闘の時に見えていたが…ヒョロッとしたリンが気軽に部屋を尋ねるくらいだから、勝手に違う顔を想像していた。


「今ちょっといい?リョータが、アンバーに挨拶したいってさ。あ、中にゾフも居るね。入っていい?」

「いいが…リョータ?ああ、新入りか。入れよ。」


 リンは部屋の中を勝手に覗き込み誰かを見つけて、許可が出るとさっさと中に入ってしまった。

 アンバーがもたれるように開けてくれている戸を恐る恐るくぐり中に入る。


「お、お邪魔します…。」


 中に入って絶句した。もう一人いたのは、強面その2だった。

 リンはその前で、堂々とコップを受け取りたぶん酒?を飲んで、くつろいでいる。

 戸惑って立ち止まってしまったが、後ろからきたアンバーに促されて椅子に座った。


「で?俺に何の用だ?」

「あ…えっと…リンに転移出来るって聞いてきたんですけど…口実で、実は異世界人の人と話したくてここに来ました。」

「あいさつ回りか?」

「え?まぁ…そうです。俺、リョータっす。よろしくお願いします!」


 っすってなんだ!噛んだ…。

 強面×2の状況で、緊張しまくってる…。

 うつむいてしまった顔を上げると、強面×2が肩を震わせて笑っていた。


「緊張しなくていいよー。二人とも、顔怖いけど、優しいよ?」

「おめーは、酒もらえりゃ、誰でも優しいだろうが!」


 リンがもう一人に殴られている。


「俺がアンバーで、あっちがゾフだ。まぁ、よろしくな。そんな緊張しなくても、取って食ったりしねぇから。」

「あ、はい。よ、よろしくお願いします…。」

「そうそ。おれは、ゾフだ!まぁ、飲めや!」


 え…この人、酔ってる?陶器の酒瓶とコップを押し付けられたので受け取ったが…年齢が…異世界だからいいのか。いや、先に話をしないと!


「あ、ありがとうございます。あ、あの!すみません!ちょっと、話を聞いてもらっていいですか?」

「「「ん?」」」


 三人ともこちらを向いてくれたが、全員酒を片手だ。

 …まぁいいか。


「この戦争って、なんだか異世界人ばかり損しているように見えたので、できれば戦争を止めるか、交戦

行為を延期させるかしたいと思ったんです。それで、異世界人が協力し無くなれば…なんとかなるかなぁと…。」

「ムリだな。」

「残念だが、召喚された時に逆らえないようにされてるんだぞ?」

 

 やっぱり、勘違いしているようだ。

 いや、実際そういう契約なのか?三人を鑑定した。…安心した。


「俺のスキルに鑑定があります。このスキルだと、契約内容までわかるんです。アンバーの契約は”戦争中、対価を受け取った分働くこと”。ゾフの契約は”戦争中、指示を受け入れた分だけ参戦すること”です。だから、事前に何かを渡されたり、指示をされたりしてるんじゃないですか?それを、受け取らなければ、逆らうことにはならないはずです。」

「そうだったのか?…そういえば、いつも先になんか言ってくると思ったんだ。」

「なるほど。思い返せば、そんなことを初めに言っていた気がする。戦争が始まってから指示に逆らったから痛くなったのか…。」

「ほあー。だから、アンバーとゾフばっかりお金もらってるんだ?僕は無給だよー。」


 無給?そういわれると、この前参加してからお金をもらってない。

 ただ働きだったのか!?人間ってサイテーだな!

 この宿の代金も食事代もかからず、服も支給されるのは…飼ってるつもりってことか?マジ、ムカつく。


「次の交戦の時に、魔族側に亡命できるか確認したり、他にも契約的に難しい人が居て…まだ、どうなるか分からないんだけど、協力してくれるか?」

「いいぞー!」

「俺も協力しよう。いいこと、教えてくれてたからな。」

「魔族側に亡命とか、おもしろそーじゃん!上手くいったら、おれも行くぜー!」

「そうだな。」

「えっと…二人とも、魔族側は敵だろ?嫌じゃないのか…ですか。」

「敬語じゃなくていい。」

「人間のがムカつくからなー。」

「魔族って言っても、出来るだけ死なないように手加減してるだろ?」

「っ…!どうしてそれを!」


 驚いた。敵として戦っているところに亡命するというから、どうなのかと思えば、サイトと同じく魔族側と話したりしている異世界人が他に居るとは思わなかった。


「あ?だって、効率わりーじゃん?」

「大規模魔法の打つタイミングとか、位置とか、あと撤退の時には追撃しないしな。」

「…そうだったのか。」


 勘違いだった。

 俺は分からなかったけど、人によっては見てれば手加減されているのが分かるようだった。


「へえー。気づかなかったなー。…ねえー!僕のーけーやくはー、どうなってるんだあー!」

「え?ああ、リンの契約は、”戦争中、交戦時に参戦し上官の指示で治癒対象に向かうこと”だから、アンバーとゾフみたいには自由にはできないよ。」

「え?」

「交戦時には、交戦地に居て上官の指示に従わないといけないけど、治癒対象に向かうこと以外は指示に従う必要は無いから、向かえばその後治癒しなくてもいいし、他の攻撃の指示も無視していい。」

「ええええ!ぼく、置いてかれるってことー?どーゆーことだあー。」

「えっと…リン、酔ってるよな?」

「よって、なあーい!」

「…。」

 

 リンに掴みかかられている。これ、絶対に酔ってる。

 覚えてないと大変だから、明日にでもまた説明したほうがいいのか…?


「リンはいつもこうだ。気にするな。」

「リョータも飲めー。ああん?おれの酒のめねぇとか、ゆーなよ?」

「あ、はい。いただきます。」


 リンを引きはがしたゾフに、顔を寄せられた。…マジ、顔怖えよ!

 持たされたコップに注がれた酒を一気に飲むと…。






 気付くと朝だった。 

 …頭が痛い。

 昨日の記憶が途中から無い。

 酒コワイ!俺、なんかやらかしてないよな?

 痛い頭を押さえて周りを見ると、昨日の最後の記憶通り、アンバーの部屋で椅子に座っていた。

 ゾフはベッドで寝ていて、アンバーは床に座りで壁にもたれて寝ている。

 リンは…呻きながら、床に転がっていた。


「…リン…、起きてるか…?」

「…うー…。」


 起きているか、判別できない。っていうか、大きな声を出そうとすると頭痛い。


「起きたのか?…おい、リン。起きろ!」

「うう……。あうー…。」


 声に視線を向けると、アンバーがいつの間にか起きていて、リンの半身を起こして揺さぶりだした。


「え、あの…。」

「酒弱いのか?まさか一杯で倒れると思わなかった。次からは、一気に飲むなよ?」

「はい…。」


 あの一杯で倒れていたらしい。醜態をされしていなくて良かった…けど、胸が痛いのはなぜだろう。


「二日酔いだろ?」

「え?」

「頭痛いんじゃないのか。」

「ああ。」

「リンを起こすから、治癒すればいい。俺も飲み過ぎたし、どうせ、ゾフもリンも二日酔いだ。」


 …ずっと、リンをガクガクと揺さぶっているが、平気なのか?

 さっきより、明瞭な声で唸っている。と思ったら、アンバーが突然手を放した。放り出されたリンは、そのまま床に衝突した…思いっきり頭打ってる…痛そう…。


「い、いたいー…。何?頭、めちゃくちゃ痛いんだけど…。」

「二日酔いだ。おい、治せ。」

「うーん?」


 涙目で目を開けたリンは、そのまま自分を治したようだ。光っている。

 その後に、アンバーが一瞬光る。


「リョータも直してやれ。」

「はいよー。」


 こちらを見たリンと目が合うと、俺も光り痛みが無くなった。


「痛くない…。リン、ありがとう。」

「どういたしまして。」

「…ちなみに、昨日の記憶あるか?」

「全部あるよ?契約の話だよね?教えてくれてありがとう!全部従わなくて良くて安心したよ。僕もリョータに協力するから…この後とか、他に話せてない異世界人の部屋に案内しようか?」


 ニコニコ笑ってるが…全部覚えてるのか。そうなのか。

 

「よろしく頼むよ。」

「出るのはいいが、出る前にゾフも治していけ。起きた後が面倒になる。」

「はいよー。」

「俺もゾフも、酔って記憶が無くなったりしないから、安心しろ。魔族との交渉頑張れよ。」

「ああ、頑張るよ。」


 リンが寝たままのゾフに治癒魔法を掛けて、部屋を出た。

 後は一人か?いや、フェリーチェが…うーん。


「あと、ここに住んでるはサイトとセルディだ。」

「サイトには話してある。」

「じゃぁセルディだね。女の子たちには話した?」

「フェリーチェ以外には…。」

「そうなの?ちょうど会えなかったのか?」

「ちょっと…気まずくて…。」

「…そうなんだ。」


 残る一人は、そう。強面じゃない方の異世界人だ。

 昨日、心構えなく強面×2と対面したと思えば、気持ちは軽い。

 リンのノックで顔を出したのは、記憶通りの顔だった。


「…なんだ?」

「セルディ、ちょっとお邪魔してもいい?」

「………。」

「ああ!リョータだよ。リョータが話したいって言うんだけど、いい?」

「…どうぞ。」


 いや…朝が苦手なのか、記憶よりも眉間に皺が刻まれていて、あきらかに不機嫌そうだった。

 でも、アンバーやゾフよりはましだ。


「お邪魔します。俺は、リョータです。最近召喚されました。魔族と人間の戦争に疑問を持っていまして、異世界人が協力しなくなることで、戦争を止めたり、交戦を延期出来ると思っています。」

「…。」

「俺の鑑定のスキルで、召喚の時の契約まで見えるのですが…セルディの契約は”戦争中、交戦時に前衛か後衛として参戦すること”ですね。交戦には出ないといけませんが、前衛に出ないでもらうことはできますか?」

「そうか。」

「…。」


 そうかってどっちだ。やっぱり、不機嫌だったりするのか?


「……ああ、わかった。最初に前衛で出るから後衛に下がれなくなったのか。そういうことか。

 …悪いな、朝だから頭が上手く働かないんだ。…あー戦争が?いや、いい。とりあえず、俺が前衛に出なければいいのが分かった。了解した。」

「セルディ、寝てた?」

「さっきまでな。」

「起こしちゃったみたいで、ごめんね?」

「構わない。リョータも、契約のことを教えに来てくれて、ありがとう。」

「あ、はい。役に立てて良かったです。」

「じゃあ、僕ら出てくね?お邪魔してごめんね。お休みー。」

「おやすみ。…おやすみ?」


 不機嫌ではなく、朝が苦手な人だったようだ。

 リンに手を引かれて外に出た。


「セルディ、怒ってなかったね?」

「朝が苦手なんだな。」

「そうだよ。朝行くと、だいたい怒られるから。」

「は!?知ってて、朝に連れてったのか?」

「え?だって、早く知らせた方がいいと思って。喜んでたでしょ?」

「それは…そうだけど…。」


 腑に落ちないのはなぜだろう。

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