朝日ない世界・2
また半月後に交戦するらしい。
半月といっても、この世界は60日が一月なので、30日後だ。
なんだかモヤモヤする気持ちのまま街に戻っていたが、今日は聖堂に行こうと思う。
この前ユーナが言っていた、神様とか宗教的なものがこの世界でどうなっているか気になったからだ。
この世界は、異世界物のラノベなんかでよくあるような、中世っぽい感じの街並みだ。
たどり着いた聖堂は、他の建物と同じようにレンガや石でできているが、壁や柱には模様が彫り込まれていたりして、他と違うことが見て分かった。
中には祈っている人がまばらにいたが、想像と違ったのは、神様の像が無かった。
この世界に来るときに神様に会っているのでその像があるとばかり思っていたが、聖堂の上部、皆が祈りを捧げている先にあったのは、手のひらサイズの時計だった。
全体的に黄緑色で部分的に水色の色が付いていた。
この世界の時間は鐘が音で判断していたので、もしかすると、この時計で時間を判断して鐘を鳴らしているのかもしれない。
ともかく、このままここで立っているのでは目立ってしまう。
周りを見ると、端の方に見覚えのある人物が居た。
異世界人フェリーチェ。赤髪の、あの活躍していた少女だ。
隣に行き、周りと同じポーズで膝をつく。
静かではあるが、開け放ってある扉から外の喧騒も入ってくるし、小声で話す人もいる。
彼女は眼をつぶって熱心に祈っているようだが、せっかくなので声をかけることにした。
「ねぇ君、この前の戦闘で活躍してたよね?」
「……?」
小首を傾げられた。
爆散しつつも前線を退かない様子から、気の強いイメージをしていたが、小動物のように感じられた。
「俺は、リョータ。この前召喚された異世界人。」
「…わたし、フェリーチェ…。」
「忙しかった?ごめんね。何を祈っていたんだ?」
「ううん。…もう辞めたいって思って…。」
「戦争?そうだね。早く終わるといいね。」
「…ごめんなさいって…。」
「ん?なに?」
「…神様にごめんなさいって言ってるの…。」
「え、なんで?」
「…もう死にたくないなんて言わない…。」
「ん?」
「…だから、もう、辞めさせてくださいって…お願いするの…。」
「それは…。」
それは…スキルから考えると、彼女は死にたくないとあの白い部屋で頼んだ。だから、超自己再生特化という、何があっても死なず魔力も含めて常に最良状態に戻るというスキルになったんだと思う。
それを、死にたくないと言わない、辞めたい…ということは、死にたいということか?
「…ごめん。俺、よくわかってないんだけど、やっぱり怪我とか痛いもんな?この前見てたけど、結構大怪我っぽかったよな?」
大怪我どころか、普通に致命傷だったと思う。
全部すぐに治っていたが、全部痛みがあったなら、想像することもできない。
「…痛く、ないよ?…はじめは…痛かったけど、サイトが…。」
「は?サイト?」
「…うん。痛くない方法を、教えてくれたから。」
「…そうだったのか。」
この前の、自分が戦うのは苦ではないから好きに戦えばいいという態度から、関わりたくないと思ったが案外いいやつなのかもしれない。
「…リョータは、気持ち悪くない?」
「何が?」
「…わたし…。死なないから…。」
「は?そんなこと、思うわけないだろ。むしろ、この前の交戦自体が気持ち悪かったけどね。」
「………?」
また、小首を傾げた。小動物っぽくてかわいいな。
声も話し方も、この前の交戦を見ていなければ、あんな戦い方をするなんて信じられない。
いや、契約が”戦争中、国の指示に従うこと”となっているから、それであんな戦い方になっているのか…無理矢理戦わされていると思うと…。
「めちゃくちゃ強い魔族に戦争を仕掛ける人間。その割には、前線に異世界人で後方に人間。しかも、その異世界人はみんな戦争に協力しなければいけない契約になっている。なんか、気持ち悪いだろ?」
「そうなの?」
「そう思わないのか?」
「…だって…国はいつもそう。民は道具なの。…勝っても負けても戦うことも、…ずっとつらいの。…どこの世界も一緒。」
「フェリーチェの元いた世界も、戦争をしていたのか?」
「…そう。みんな死んだの。わたしも死んだの。」
「そうだったのか。」
「でも…リョータは違うでしょ?これ…。」
「ん?」
フェリーチェが目を指さしている。
自分の目元に手を当てると眼鏡に当たった。
「魔道具…持ってるなんて、偉い人…?」
「魔道具!?いや、これは…俺の居た世界では、普通の人でも買える視力矯正具だよ。
もらうスキルを考える時に、つい外見なんかこのままでいいからって言ったら、視力悪いままでこの眼鏡も付いてきた。」
「…そうなの?…不思議。」
「この世界に魔道具なんて、あるのか?」
「…そういえば…見たことない、かも?」
「そうか。」
そうか。魔道具がある世界か。
戦争(しかも勝ち目が全く見えない)に参加させられるということで、嫌になっていたが、世界が違えば常識も違うんだろう。
もしかしたら、彼女の元住んでいた世界の国とこの国の上部も一緒で、安価で使い勝手のよい道具を使うのが戦争の常識なのかもしれない。召喚という異世界から戦争に使える強い道具を…やっぱり、めちゃくちゃムカつく。
利用されている現状もムカつくし、道具扱いもムカつくし、この左手の契約陣がムカつく。
どうしてこんな入れ墨に縛られ無ければいけないんだ。
「君はそれでいいのか。」
「…なにが?」
「ずっと利用されることだよ。」
「…だって、逆らえないから…諦めるしか…。」
「あと、さっきの言い方だと、気持ち悪いってイジメられてるのか?」
「………。」
「…誰が、言っていた?」
「…後ろにいた人。」
「今?」
「戦っている時。…いつも言ってる。」
「は?後ろって、君に守ってもらっているんだろ?」
「…それが、私の仕事だから。」
「いや、いくら契約だって…。君は気持ち悪くないよ。そう言ってる人間がおかしいだけだから。」
「…ほんと?」
「当たり前だろ。守ってもらってて、代理で戦ってもらってて、それでそんなこと言うのは相当バカな奴だと思うよ。」
「…でも、わたしも気持ち悪い…。」
「は?」
「この前も、死んだと思うくらい、バラバラになって…でも、すぐに直る。おかしい。」
確かに、フェリーチェが爆散した瞬間を見たから、治った時はマジか!?ってなったし、人間技じゃないとも思った。俺がそんな風になったら、たとえ痛くなくても、いや痛くなければなおのこと、自分の人間性を疑ってしまうかもしれない。
しかも毎回戦闘のたびにああなっては…特にこんな気弱なフェリーチェでは、思い悩んでしまうかもしれない。
「おかしくないよ。俺のスキルは鑑定なんだ。その人の情報を見れるけど、人間の種族は”人”だけど、異世界人の種族は”異世界人”なんだ。見た目は似てるけど、そもそもの造りが違うんだよ。」
「そうなの…?」
「そうりゃそうさ。神様に会ってスキルをもらっただろう?ただの人が神様から力をもらったりできないだろ。そんな異世界人を契約で縛って、人の括りで利用している人間がおかしいよ。」
「……リョータって、おもしろいね。」
フェリーチェが笑った。
面白いことを言ったつもりはないけど、初めて笑顔を見せてくれたから良しとしよう。
「そうやって、笑ってる方が可愛いよ。俺も同じ異世界人だし、仲良くしてよ。」
「………うん…。」
頬を染めて頷いたフェリーチェは、そのまま立ち上がって去って行ってしまった。
…これは、脈あり?脈なし?どっちだ?
話している間ずっと膝立ちだったから足が少し痺れていて、とっさに追いかけれなかった。残念。
ともかく、やっぱりこの世界の人間は嫌いだなぁ。
どの異世界人の契約も、戦争中という文言が入っているから、戦争を止められたら異世界人を助けることができるだろうか。
でも、そんな主人公みたいなことをできるだろうか。魔族も強く、他にも異世界人がいる。鑑定で見た限り、俺のスキルは強い方かもしれないが、突出して強いわけじゃない。
悩みながら、とりあえず上官と紹介された人間の所に行ってみることにする。魔族の強いステータスを具体的に伝えたから…戦争を諦めたり、しないかな…。
※
上官がいると言われた詰め所にやってきた。
「何の用だ?」
「戦闘中に、魔族のステータスを伝えましたが、今後の戦争はどうなりますか?」
「変わらない。」
「は?明らかに、強さが違いますけど?」
「そうだ。今更あんな情報、何の価値も無かったな。これからは、調べなくていいから補給で働け。この前のように前線に出るのは歓迎するぞ。」
「価値がないだと?あんな勝ち目の無い戦争を続ける意味はあるのか?」
「勝ち目?そんなものは、お前たちがもっと魔族を倒して追い出せばいいだけの話だろう。」
「だから、その魔族達が全員異世界人並みの強さだって言ってるだろ!」
「さっきからなんだその口調は!元々あの場所は人間の土地だ。取り返せないはずがない!お前たちの働きが悪いからじゃないのか!?」
「は?ふざけてるてんのか?人間の土地なら人間だけで戦えばいいだろ。契約があるから従っているだけで、弱いあんたに好きで従ってるわけじゃないんだけど?俺より弱い、上官さん。」
「チッ。これだから、異世界人は…。」
鑑定してもこの男が強いとは思えない。スキルの魔法攻撃力上昇(小)とか、小ってなんだって感じだし、それが使えるスキルで異世界人の上官につけるって言うんだから、人間の強さは高が知れている。
この態度でよくわかった。あのチュートリアルは、異世界人を持ち上げて馬車馬のように働かせたかっただけだ。ほんと、人間って最悪だ。
こいつと話しても無駄なのはよくわかったから、さっさとここを出た。
※
人間側から戦争を止めるのは無理そうだから、止めざるを得ない状況にする…のは、どうすればいいんだろう。戦力を異世界人に頼っているなら、異世界人を居なくするとか?どうやって?
この前の戦闘の時に見たのが、サイトとフェリーチェとユーナ。あと、他5人くらい居たな。確か、魔法特化は5人ともで、治癒魔法が3人くらいで、速さとかなんかいろいろスキルがあった。
その5人は3つくらいずつスキルを持っていたけど、活躍が見られなかったから…その3つを一つに集めたような上位スキルを持つ、サイトとフェリーチェとユーナが目立っていたのはそういうことだろう。
異世界人のスキルは、基本3つ。それをまとめた一つの上位スキルで持っている方が強い。
俺も3つ持っているから…失敗したかも。
「リョータか?今、散歩中か?」
「え?あ、サイトか。まぁそんなところ。どこかに行くのか?」
考えながら歩いていたら、サイトに遭遇したようだ。
フェリーチェが痛くないように方法を教えたというのだから、悪い奴じゃないだろう。第一印象は忘れるようにする。
「うむ。今から魔獣狩りに行こうかと思ってるんだ。一緒にどうだ?」
「一緒に行っていいなら、行こうかな。」
「では、行こうか。」
サイトについて町を出て森に入っていく。魔獣と呼ばれているが、見た目は普通の動物のようなものだし、鑑定しても種族は”獣”になっている。小さいものはウサギや猫、犬みたいなものから、大きいと熊やライオンみたいなものを居た。
ただ、どれも人を見ると襲い掛かってくる。
そういえば、虫やネズミのようなもっと小さいのは見たことないな…。
「何か考え中か?」
「え?あーうん。戦争を止めるのにはどうすればいいかなーって考えてたんだ。」
「ハハハ!戦争は嫌いか!それで、方法は思い浮かんだか?」
「それは…やっぱり、人間を説得するのは無理だと思うんだよな。そうすると、異世界人が戦争に協力しなくなれば諦めると思うんだけど…契約があるし…あ、あと魔族側って人間が諦めたら攻めてくるのか?あそこから出てこないって言ってたけど…うーん。」
悩みながら森を散策する。
森の浅い所ではほとんど魔獣も出てこないし、出てきてもサイトが速攻で狩ってしまう。
ここでは魔獣の肉を食べたり、毛皮を取ったりするから、死体は回収だ。
それは空間魔法で収納できる俺がやっているが…ただの荷物持ちになってるな。
「契約はどうしようもないな。ただ、相手は人が諦めたら出てこないから、人を諦めさせれば戦争は終わるぞ。」
「そうなのか?」
「うむ。攻めてくる人族を嫌ってはいるようだが、出来るだけ殺さないように手加減しているしな。」
「え?どうして?」
「人が入らないようにしているらしいぞ。自分の命は大事だが、あまり殺したくないし、弱い人間はすぐに死ぬから手加減していると言っていた。」
「は?え、そうじゃなくて…誰から聞いたんだ?」
「相手方だぞ。土種族と影種族だな。よくしゃべるんだ。」
「はぁ!?」
意味が分からない!
だって前線で、魔族と戦って、いい勝負したり追い返したりしていたじゃないか!
「驚くことはないだろう?あんな近距離で戦っているんだ。
別に殺したいわけじゃないとか呟いていれば聞こえるし、そう言われればこちらも、殺したくてやってるわけじゃなくて戦いたいだけだと答えるじゃないか。それなら、お互い殺さない程度に手加減しつつ戦おう、となるだろう?
その後は、戦いながら世間話したりもするさ。」
「…。」
そんなことってあるのか?
じゃぁ、あの活躍しているように見えたのは、八百長試合で…っていうか、戦いたいだけ?世間話する?それって…ああ、どこから突っ込めばいいかわからない…!
「そうだな…。異世界人といっても戦力に差があるのは人も気づいているだろう。主要なところがあちら側につけば、人も戦争の続行を躊躇するかもしれないな。」
「あちら側って…契約があるのに、人間側を裏切って魔族側につくことが出来るのか?」
「む?俺は契約した時に、人間側につくとは言ってないからな。他の異世界人に契約を確認した事はないが、そんな不利な契約を結ぶ者が居るのか?」
サイトの契約を鑑定した。内容は、交戦中は交戦地及び魔族領に居ること…つまり、交戦中以外は自由だし、交戦中もその場所にいればどちら側として戦っても戦わないこもと自由…ということか?
契約は覆せないから、人間側として戦争に参戦しないと駄目だと思っていたが、内容によっては自由にできるのか。
自分を鑑定して契約を確認する。内容は、上官の指示がない限り交戦地及び交戦予想地域から出ないこと。…つまり、指示に従って働くことは契約していない。ただ、期間の指定が上官の一存だから、交戦地となっている平野と魔族が出てくる森の周辺から動けなくなるということだ。この上官というのは役職だろうから、今の上官であるあいつが死んでも別の人間が同じ地位を引き継ぐだろう。
失敗した…でも、空間魔法があれば、生活空間には困らないか?
いや、ダメだ。今日会ったフェリーチェの契約は、国の指示に従うことだった。どうあっても彼女は裏切ることができない。それじゃあ駄目なんだ。




