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朝日ない世界・1

少し過去、基本アサ編です。

 わたしは日本という国で生きていた。そして、死んだ。

 闘病の末の死。今後家族に会えないと思うのは残念だが、わたしは神様に異世界に転生させてもらったのだ。


 異世界転生と言えば読んだマンガが思い出される。

 そう、わたしは聖女になりたかった。魔法で怪我も病気も直して、自分だけでなく人の役にも立てるよなそんな聖女にあこがれていた。

 そんなわたしのスキルは、超治癒特化。魔力をほとんど使わず、生きてさえいればどんな怪我でも病気でも治す望み通りの能力。

 転生して召喚された先でスキルを確認され、戦争で戦うように言われたが、戦うためにもらった力じゃない。なんとか伝えて、戦争中は指示された者を最優先に治癒するという契約なった。

 だが、この力は失敗だったのかもしれない。


 その後しばらくして交戦状態になり、戦争で傷ついた人たちを治癒していくことになったが、そこでいろいろな話を聞いた。

 戦っている相手の魔族は非常に強いようだ。とか。

 昔侵攻して森を焼いた結果、獣が流れてきて今も残る人を襲う魔獣となったらしい。とか。

 異世界人の力を持って魔獣を減らし、さらに召喚し続けた異世界人の力をもって今回再び、大規模に魔族領に攻めることになった。とか。

 今回の開戦のきっかけは、わたしの後方支援に特化した力が決め手であったらしい。とか。


 近いうちに交戦を始めたには違いないが、わたしがきっかけでこの戦いが始まってしまったのだと思うと、とても怖かった。

 ずっと怖かった。



 私より前に召喚されていた物理攻撃特化の対単騎とはいえとても強い男性と、私のすぐ後に召喚された自己再生特化の死なない女性の奮闘により、始まった戦いは少しの休止を挟みつつ最終的に約5年にも及んだ。

この長く続く交戦を終えるきっかけとなったのは、元々のわたしと同じ日本人らしい名前と見た目をもった青年だろう。

 戦争そのものは終わらないまでも、長い休止に持ち込まれたことに感謝している。

 それでも、魔族との交戦で失われた命は戻ってこない。

 内心で怯えてばかりいた私は治癒という力を、交戦を長引かせること以外に使うことが出来なかった。




  ※※※ 




 異世界に召喚された。もらったスキルは、鑑定・隠蔽・空間魔法。

 もちろん、召喚されてすぐに自分で鑑定して確認した。

 思っただけでスキルが発動するし、足元魔法陣はいい感じのエフェクトで光っている。思い描いていたラノベの世界と同じようだと思ったが、なんだか雲行きは怪しいようだ。


「聖地を独占する魔族と戦争する我々に協力してほしい。」


 なんていわれても、平和主義者としてはとても協力できない。

 それでも、魔族という響きには悪者感がただようし、アイテムボックスと転移のスキルを願ったのに手に入れた空間魔法のスキルは思った以上に万能そうで、勇者ポジションでもやっていけるかもしれない。

 とは思うものの利用されるのも嫌なので、スキルは鑑定隠蔽と収納と転移の出来る魔法と伝え、直接戦闘をすることをできるだけ防ぐように交渉してみた。

 結果、スキルを活かして密偵というのか相手の戦力を分析したり、物資の補給を主として参戦することに決まった。


「戦争中は、上官からの指示がない限り交戦地および交戦予想地域から出ないこと。」


 了承した時には、足元魔法陣が縮小していき、代わりに左腕が光り、魔法陣が埋め込まれたことに気が付いた。

 慌てて再度鑑定すれば、契約内容が覆せないものだと知り、さらにこの内容だと撤退や逃亡が自分の意志では出来ないと気が付いた。

 気が付くのが遅かった。



 ※



 俺は朝比奈亮太、異世界人である。


 この世界の人間たちには、スキル持ちがほとんど見当たらない。スキルを持っていることが珍しいので、使えるスキルを持っているのは軍や国の上層部の一握りだけだ。

 この世界の人間たちは、ほとんどが魔法を使える。属性念じながら現象をイメージするだけで簡単に魔法が使える仕様になっている。

 鑑定で周りの人を確認すれば、ほとんどの大人たちの魔法干渉力は3~5。前線に出る兵士たちは5~6が主で、それ以上の人物は将官クラスだ。

 魔法などについてレクチャーしてくれたこの国の魔術師団長も9/10のところ、俺は10/10。最初からMAXになっていた。

 この魔法干渉力というのはその名の通りで、同じような魔法を打ち合った時優先されるのは、レベルの高い方だ。こめる力が多いと上のレベルにも通用するが、多少の力の込め具合なんかではこのレベル差を覆すことなんてできないし、そもそも魔力量もこの干渉力のレベルに依存する。

 このMAXレベルの魔法に敵うのは、スキルだけ。

 そのスキルにしても前述の通り、持っていることが少ない。


 鑑定と隠蔽を持っている俺は、危険スキルがあるかを敵対する前に知り、危険ならその敵を避けて行動、最悪空間魔法で転移やバリアを張ったり出来るのだ。

 つまり、俺は当りのスキルを選んだ最強系なステータスの持ち主ということだ。

 魔法師団長たちと魔獣狩りに行ったが、襲い掛かってくる大型の獣に対して俺の力は圧倒的だった。

 同じようにサクッと魔族とやらの頭をやっつけて、戦争が終われば自由にできるようになる。

 国の人間たちに持ち上げられた俺が、俺TUEE!なんてそんな風に天狗になってしまったのもしょうがないだろう。

 まぁ、それもチュートリアルの間だけだった。



 ※



 戦争だった。

 召喚されてチュートリアルが終わった後、停止された交戦が再開され、その戦いに参加した。

 鑑定を持っている俺は愕然とした。

 そもそもの魔族と人間のスペックが違い過ぎる。

 契約した通り、交戦地で物資と回復要員の派遣や、鑑定と隠蔽で調べた内容を上官に伝えたが、鑑定は意味がなかったかもしれない。

 戦地の前線で主に活躍していたのは、2人の異世界人だ。

 黒髪で日本人顔のサイト・ルーン・ショタラー。超物理攻撃特化スキルで、数人の魔族相手に文字通り殴り込み、いい勝負をして時には撃退している。

 もう一人は、赤髪の少女フェリーチェ。魔族の魔法の集中攻撃に何度も被弾して爆散することがあっても、その超自己再生特化により前線を引くことなく、干渉力MAXの魔法を無尽蔵に振るい続けることで前線を維持している。

 他に少数いる異世界人も奮闘するが、スキルが魔法特化で、魔族の各属性特化の種族スキルに負けている。魔法という全体的な特化よりも、魔族の火種族による火属性特化や、風種族による風属性特化の方が上位スキルになるようだ。

 この世界の兵たちは、集団を一塊として魔法攻撃をすることで、異世界人たちのフォローと攪乱になっている。


 直接戦いに参加していないからよくわかったが、魔族側にはまだ余剰戦力がありそうだ。

 それに、魔族側も脅威となる異世界人に戦力を集中しているようで、ほとんどこの世界の人間達には攻撃しない。それなのに、時折振るわれる大規模攻撃や、異世界人に攻撃した魔法攻撃の余波で人間たちはどんどん負傷している。

 誰と誰の戦争なのかよくわからない有様だし、鑑定を持っている俺には異世界人の契約まで見えるわけで、それがすべて戦争を強要する逆らえない契約となっているとすれば、混乱を極めた。


 そんな中で怪我をしそう人を見ては、思わず転移で飛び出し空間魔法の障壁を作って攻撃を防いだりと、うっかり戦地で活躍してしまえば、脅威に思う魔族たちの的になる。

 そして気付いた。魔族たちに殺そうとされていると。

 反撃として、転移と隠蔽で近寄り死角から近距離で攻撃することを考えたが、そこでさらに気付いた。

 魔族というのが魔獣と違い人の形をしていて、そんな相手を殺すための攻撃を自分がしようとしたことを。

 そんな覚悟は決まってなかった。

 空間魔法で身を守るだけで精いっぱいだった。

 その内に、人間側で鐘がなった。撤退の合図だ。

 徐々に撤退していくが、なぜか魔族側の攻撃も減り、追撃もなかった。

 ともかく、殺されなくて済んでほっとした。






 戦争が終わったのかと思ったが、停止しただけらしい。

 後方に戻ると、広範囲に治癒を展開する異世界人が一人目立っていた。


「ユーナ、調子はどうだ?」

「いつも通りです。ずっと範囲治癒をしていますが、この通り負傷者はたくさんいますね。」

「死者はどうだ?」

「今回は早めに停止してくれたので、少ない方だと思います。」

「それは良かったな。」


 彼女は、ユーナ・ツリーチェリー。真っ青なロングのストレートヘアにグリーンの瞳の異世界人風美少女で、超治癒特化スキルを持つ、まさしく聖女だ。

 彼女と話していたのは、先ほど前線で奮闘していた日本人顔のサイトだった。


「ずっと前にいたよな?怪我をしたのか?」

「うむ。多少だから、今治してもらったので問題ない!」

「そうか、良かった。俺は、朝比奈亮太。」

「俺はサイト・ルーン・ショータラー!新しく召喚されたのは、アサヒナというのか。」

「えっと…名前は亮太だけど、サイトって斉藤?日本人?」

「ん?ニホンジン?以前の世界のことだったら、魔法都市で魔法の研究者をしていたが、そういうことか?」

「…ごめん。同郷かと勘違いした。リョータと呼んでくれ。これから、宜しく。あと、あの…。」

「私は、ユーナ。よろしくお願いします。」

「よろしく、ユーナ。」


 日本人かと思ったが、勘違いだった。

 鑑定でいろいろ名前を見たが、漢字は見たことがないし、苗字がある人も名前が先に来るようだ。

 これからは、リョータと名乗ろうと思う。


「俺、鑑定のスキルがあるんだけどさ。魔族のほとんどが魔法干渉力が最大で、必ず種族スキルを持ってるんだ。ちょっと強すぎないか?」

「そうだな。なかなかの強敵だ!」

「…そうでしょうね。魔族が強いのは周知の事実ですよ。」

「そうなのか?撤退の時、追撃してこなかったけど、どういう意図だったんだろう。」

「魔族はあそこからほとんど出て来ません。」

「え?そうなのか?」

「うむ。あの種族はあの土地を守っているだけだからな!」

「じゃぁ、この戦争って何のためにしているんだ。」

「そんなことも知らずに、戦闘に参加したのか?リョータは変わっているな!」


 サイトに笑われてしまった。

 そうだった。魔族という響きが悪者感が漂うから、魔族を倒すための戦争だと思っていた。

 いや…。


「そういえば、魔族が聖地を独占しているとか言っていたか?」

「そうよ。聞いた話ですが、昔は人間もあそこに住んでいたけど、こちらに国を作っている内に戻れなくされたようですね。」

「それって、ここに国を作ったのに、あっちに行く必要あるのか?」

「聖地だからでしょうか。あそこに住む魔族を嫌っているようです。」

「あそこに、神様居ると言っていたな!取り戻すんだと人族は意気込んでいるぞ!」


 そんな理由で…。いや、地球でも宗教戦争というものがあったな。

 バカにしてはいけないのだろうが、そうすると異世界人はどう思っているのだろう。


「二人は、この戦争についてどう思っているんだ?」

「もう人が死んだり傷つくのを見たくないです。魔族に勝つのが無理なら早く諦めて、戦争をやめてほしいと思っています。」

「戦うのは苦ではないからな!お互いの気の済むようにやればいいんじゃないか?」


 ユーナは聖女様だった。

 サイトとは、あまりかかわらない方がいいかもしれないようだった。

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