今日の話ですが、潜入しました
「訓練って、外の開いた場所は少し離れているけど、ここでやるのか?」
「そうですね。実践ではなく、口頭でコツを教えていただければいいです。
昨日指導してもらった感じだと、魔法をもう少し使い慣れてからでないと変わりないと思います。」
「そうか?そこの空いたスペースでもいいが…まず、洗脳に対する対抗策は考えているのだろうか?」
サイトは奥まで歩いていき、対面側に座った。
ここで実践をできないということで逃げたかったが、とりあえず、講義から入ってくれたようだ。
「直感による危機察知での転移撤退を考えています。」
「どこに転移するつもりだ?」
「家か、ここのつもりでしたが。」
「どちらかといえば、ここが正解だ。無生体の場合、所持魔力量に不安がある。他に魔力消費していた場合、遠い距離の転移は発動しない可能性がある。」
「そうだった。転移は、距離に応じて消費が違うんだ。向こうに行ったら、向こう側のよさそうな所で転移個所を作っておいた方がいいよ。」
「わかりました。そうします。」
なるほど。こちら側の転移と目視転移しか使ってないから、気が付かなった。
性別が変わるごとに魔法を使う感覚も違っているから、魔力量みたいなものは感じにくいんだよな。
無性体のままなら短距離転移して、それから性別を変えるか果物で回復させて、もう一度転移すればいいのか。気を付けよう。
「うむ。だがその直感で撤退を判断するといっても、状況的に敵を倒したほうがいい場合はないか?
洗脳に抵抗して、洗脳のスキル持ちに指示を出している相手を倒す。もしかすると、そのスキル持ちと話す時間が出来るかもしれないぞ。」
「それって、危なくないですか?」
「うむ。身体強化に命属性を入れることで耐性を上げることもできるが、さらに一つ奥の手を教えよう。
なんとか魔法とついていないスキルについては、基本的にほとんど魔力消費なしで使えるスキルだ。魔力のことを考えずに発動できるわけだが、あえて、大量に魔力を消費しながらスキルを使うことで、威力を上げることができる。つまり、通常の攻撃無効のスキルで抵抗できなくとも、これで洗脳に抵抗できる可能性がある。」
「それは、すごいです。」
「俺も知らなかった…。」
「うむ。では、実際にどんな感じになるかやって見ようではないか!
少し調べるだけだ。ここの空いたスペースでも大丈夫だろう!」
結局そこに帰結するのかよ!
でも、ほんとにサイトっていろいろ知ってるよな。魔法研究者ってすごい。最後に戦闘に結び付けようとするのが玉に瑕だが。
とにかく、洗脳に対抗できるなら、向こうでの選択肢も広がるのは確かだ。
「…お願いします。」
「よし、やろう!」
ささっと席を立って入口付近のスペースに動くサイトについていく。
このやるって、もしかして一方的に攻撃を受け続けるってことだよな?
なにそれ、コワイ。早まったかもしれない。いや、きっと手加減してくれるか。
とにかく、防御姿勢を取った。
「いくぞ!」
サイトが構えた腕に殴り掛かってきた。
無性体の身体能力では反応することが難しいようだ。連続で殴ってくるサイトを見ていると、ボクシングのサンドバックになった気持ちでになる。
体が軽くなる男性体が恋しい。殴り返したい。
まぁ、攻撃無効のスキルの働きか、痛みが無いどころか、風が当たっているくらいの感じだが。
「威力を上げるぞ。」
は?一度止まったあとのサイトの言葉に、直感がヤバいよと告げている。
反射的にさっき教えてもらった、魔力を意図的に流して攻撃無効をした。
間に合ったようで、さきほどと同じ、風が当たっている感覚だけだ。
でも、思ったよりサイトの威力が上がったわけではないようで、これ、身体強化すれば防げたかもしれない。その方が今の無理にスキルの威力を上げるより燃費がよさそうな気がする。
直感がそう言っているので、光と闇の身体強化に切り替えた。
燃費が良なったが、風だけではなく軽くペシペシ叩かれて感覚になる。これなら痛くないから大丈夫だ。
「うむ。次で最後だ。」
直感がかなりマズいと言った。ありったけ魔力を流して攻撃無効する。
なんとか防げているようだが、魔力が駄々漏れていくのが分かる。
しかし、これ以上魔力消費を下げるとマズいのもわかる。
たった10秒ほどで、魔力が無くなりそうになった。
完全に魔力が無くなる前にサイトが手を引いてくれたので助かった。
「これなら、まぁなんとかなるか。これで耐えられるか撤退かを直感で判断してくれれば、撤退になってもどのレベルのスキルか分かるな。」
「…そうですか。」
これが魔力がほぼ使い切った状態…。めちゃくちゃ体が重くてダルイ。
このまま倒れ込みたい。今から潜入捜査に行ける気がしない。
「では、性別を変えてみろ。それで魔力量が全快するか確認するぞ。」
「はい…。」
無性体以外は、全部魔法特化と同じ魔力量だ。どれでもいい。性別を変えた。
一気に体が軽くなる。身長も高くなった。
さっきの身体を軽くしたいとの思いからか、男性体になっていた。
「全快ではなさそうだが、消費分がそのまま減っているわけでも無さそうだな。
性別を変えることで回復が早まるようだぞ。良かったな!せっかくだし、このままもう一戦どうだ!」
「いいえ!ご指導ありがとうございました!今日はこのまま行くので、失礼させていただきます!」
「そうか…。気をつけてな」
「はい!ありがとうございました!」
残念そうなサイトを振り切り、アサに向かう。
「向こうまで送ってくれるのですよね?」
「そうだけど…。」
「あ、お土産置いていきますね。桃…マキアとメイと一緒に採ったものです。少しですけどどうぞ。」
机に桃を5つ置く。この前のバスケットの果物もあるだろうし、一人ならそれほどの消費も無いだろう。
今は、向こうに行く自分の魔力回復薬としての大事さを認識したので、少な目にした。
「ありがとう。いや、そうじゃなくて…。」
「レイ、無事に帰ってきてね!」
「マキア、待っていてください。無茶しない程度に頑張ってきますから。」
マキアと抱擁する。
これで頑張る気を充電できた。
でも、マキアを連れて行く気はないので、しぶしぶ体を放す。
「羨ましい…じゃなくて、それ連れてくのか?」
アサに頭の上を指さされた。
頭の上?はっ!サリアーノ!忘れてた!
「別に俺の事、忘れててよかったんだぞ?」
「え!?ダメですよ!降りてください。向こうは危ないんですよ。うっかり連れて行ってしまうところでした。」
頭の重みに慣れてすっかり忘れていたが、サイトの防御実践の時も頭の上に居たのか。悪いことをした。
「俺も行くから。」
「え!?何言ってるんですか!?」
「元から、行くつもりだったぞ?すぐに帰るけど、俺も地点登録しておけば、何かあった時に誰かを送り込めるからな。」
「そんな!?」
頭上のサリアーノを捕まえようとした手は空振り、虹色に光る翅で飛んだ彼はアサの肩に乗ってしまった。
「結局、この妖精も連れてくってことでいいのか?」
「いいぞ!」
「そんな…。」
マキアを見ても止める様子が無いから、相談して決めていたのかもしれない。
すぐなら、大丈夫ってことなのか?行く気のようなので、仕方がないだろう。
アサに左手を伸ばす。
「お願いします。」
「そうだ。向こうに着いたら、ユーナ・ツリーチェリーっていう異世界人を探すといいよ。超治癒特化の聖女様だから、洗脳もかかりにくいはずだ。」
「聖女様ですか。」
「そう…なんか、レイに紹介するの不安だな。本気で聖女だから変なことするなよ。」
「わかりました。」
「あと、この契約陣は見えないように隠蔽するか?もし、ステータスも隠蔽したほうが良ければするけど、自分でも収納物とか転移先とか残り時間とか見えなくなるが、どうする?」
「ありがとうございます。ステータスはそのままでいいので、契約陣だけお願いします。」
「了解。」
スキル無効にならないように、攻撃じゃないと念じる。
取った左手の甲から契約陣が見えなくなったことを確認し、頷いたアサが転移した。
※
視界が、白い部屋からどこかの路地裏に変わった。ここが人間側のようだ。
アサを見ると…アサの肩のサリアーノの翅から虹の粉がバサバサと落ちているのに気付いた。これは、地点登録に必要なのか?
『レイ、聞こえるか?』
『はい。聞こえます。』
『このまま繋いでおくから、何かあったら呼んでくれ。』
『そんなことできるんですか?わかりました。』
「じゃ、戻るな?」
「いいぞー!」
「はい。ありがとうございました。」
アサから手を放すと、アサと一緒に虹の粉を降らせ続けるサリアーノも戻っていた。
まき散らされた粉…光は、数拍置いて空気中に溶けるように消えた。
地点登録に必要だとしても、アサにいいと言った後まで出す必要はないだろう。
やっぱり、虹種族を連れてくるのは早まったかもしれない。
あと、サリアーノと繋がったままの念話も転移した後から、かなり繋がりが弱くなった。
距離なのか、土地なのか…電波が弱くなっているのにヘタな連絡をしたら、ブツ切れでうまく伝わらないこともありそうだ。あと、国外通話は、通話料が高かったりするから、魔力消費も多そうだ。
自分から魔力が引かれている気がしないので、たぶんサリアーノが通話料を払っていると思うと心苦しい。連絡も最低限にして、出来るだけ早く戻ろうと思う。
とりあえず、この場所を転移地点登録する。
ずいぶん心配をかけてしまったようだし、潜入調査頑張ろう。
そして、早く帰ろう。




