決めましたが、明日によります
これからの異世界生活を充実させるために、人間側の誤解を解いて、戦争を止める。
そうなれば、こちら側の皆も安心できるし、人間側も無駄な犠牲を出さずに済む。
全方面に向けて、皆が幸せになれるだろう。
「本当に危険だから、ダメよ!」
「ダメー!」
「ダメだからな!」
「…そんなに、危険なのですか?」
いくら異世界人が脅威とは言っても、戦争に使われるように契約されているだけで、魔族に対して攻撃的でも、本来味方陣営側の異世界人が魔族側になってることはバレずらいだろう。
異世界人が動かなければ、聞いた限りでは人間達は弱いみたいだし、危険を感じない。
そもそも、平和的に誤解を解いて戦争が止まったらいいなってつもりなので、人間側が誤解ではなく、他の何らかの事情で戦争を続けているような、話が難しくなったら撤退して相談するつもりだ。
あとは敵側だとバレたり、とにかく超直感がヤバいと告げたら、即撤退するつもりもある。
「危ないよ!」
「上手くいかないかもしれないぞ!無性体には攻撃無効スキルがあるかもしれないが弱そうだし、そうじゃない時に洗脳されるかもしれない!」
「洗脳ですか?」
「そうよ。アサとサイトがこっちに来たから、最近大規模な戦闘は起きてないの。ただ、最近は異世界人だけを送り込んで来るのよ。」
「そうだぞ!アサが確認したら洗脳もされていたんだ。」
「レイも危ないかも!」
洗脳…それは考えていなかった。
自分が契約で縛られていないから自由に動けるつもりでいたが、洗脳されたら撤退できないかもしれないし、たぶん向こうの戦力に組み込まれることになるだろう。
サリアーノから弱そうと言われて軽く傷ついたが、今日ラストかロストにうっかり精神干渉されそうになったから、別の性別だけでなく無性体の攻撃無効のスキルも思いの外役立たずだったことも判明している。
「洗脳も魔法干渉力が高いとかかりにくいから、異世界人を洗脳するということは、スキル持ちがいるはずなのよ。スキル持ちとなると異世界人の可能性が高いけど、アサとサイトが向こうに居る時にそんな異世界人はいなかったみたい。」
「どのレベルのスキルでの洗脳か分からなくて対策も立てられないし、その洗脳を使って契約以上に異世界人を自由に戦力にしてるから危ないんだ!」
「危ないんだよ?」
三人がかりで引き止められる。
想像以上に危ない状況らしい。
でもそれは、ただの警戒中だと思っていた影種族達やこちら側に逃げられないアサが、かなり危険ということじゃないのか?
「やっぱり、人間側に行ってみようと思います。異世界人には特に注意して、とりあえず今の人間側がどんな感じなのか調べたほうがいいと思います。」
「レイが行く必要なんて…。」
「いいえ、私が適任だと思います。
超直感で危険はある程度わかりますし、転移での離脱もできます。幸運のスキルがあるので、運よく洗脳スキルの持ち主に当たらずに調べることもできるかもしれません。
最悪、サイトが私より強いのも判明していますので、何かあってもこちら側の被害は少なそうですよね。」
自分の言葉だが、確かにこれ以上の適任はいない気がする。
サイトが洗脳されて戻ってきたらかなりまずそうだし、たぶんアサは契約で長時間人間側に居られないと思う。
それに、昨日召喚されたばかりで顔がばれていないのも潜入調査向きである。
最悪がサイトに仕留められることになるが、洗脳なのが分かればきっと手加減してくれるだろうから、これ以上の好条件は無いだろう。
なにより、スパイとか潜入工作とかカッコいいと思うんだ。
「私、そんなつもりで言ったんじゃないのに…レイに何かあったら…。」
「どうしても行くの…?」
「行きたいです。少しくらい、こちら側に役立たせてください。」
今にも泣きそうな表情でマキアとメイに見つめられる。
こんなに心配してもらえるとか…かなり嬉しい。
正直、昨日会ったばかりで自分のどこを気に入られた分からないが、こんなに必要とされていることをアピールされたら、こちらも役に立つところを見せたい。
少しくらいカッコつけたっていいだろ?
「レイなんて、サイトに負けてるのにー!」
くっ…それは言わない約束じゃないかぁ…。
サイトに勝てないから、この潜入のリスクが少なくなっているんだ。
あの負け方は…思い出したくもないけど、意味はあったと思うんだ!
「…行く前にアサに状況を聞いてからにしますけどね。」
すでに人間側の裏事情を知っていたら、誤解を解く作戦は無意味かもしれないし、密入国になるわけだからどんな注意点があるかとか…聞きたいことはある。
それにちょっと見てくるつもりが、洗脳される危険があるとか言われたから…心の準備もしないと。
「レイのバカ!」
「…そうね。アサ達から直接話を聞いた方がいいわね…。すぐ行くの?」
「ええと。今なら召喚した私を探す事に戦力を割いているかもしれませんし、もしそうなら捜索を打ち切られる前に…すぐに行った方が安全かもしれません。」
「…そう…。」
「はい。…出来るだけすぐに、遅くてもマキアが任務に出る前には戻って来たいです。」
一緒に暮らすことになるのに、こんな野暮用でメイを一人にするわけには行かないし、情報を持って帰ってくれば、マキアの任務の危険も減るかもしれない。
「すぐって明日?」
「アサにいつ来てもいいと言われたので、とりあえず明日にでもアサの所に行こうかと。」
「…分かったわ。」
しょんぼりしているマキアも、頬を膨らませて怒っているアピールをするメイも可愛い。
マキアを抱きしめつつ、メイの頬をつつく。
機嫌直して欲しいな。
そういえばサリアーノは、と見れば、メイと同じく頬を膨らめていた。カワイイ。
睨まれたので、カッコいいに訂正して、こちらのカッコいい頬もつつく。
しばらくすると、頬から空気を抜いて唇を尖らせたメイが寝室に案内してくれた。
「こっちだよ。ちょっと早いけど、もう寝よ?」
「そうしましょう。」
「それがいい。」
マキアに腕を抱えられてベッドに連れ込まれた。
昨日寝たベッドと似たようなベッドで、大きさはもう少し大きい気がする。
昨日と同じくマキアに抱きつかれた後、反対側の腕はメイに掴まれた。
この状態で寝ることになるらしい。
心配かけてしまったようだけど、心配されるのが嬉しいとか…最低だな。
両サイドから寝息が聞こえてくる。
一緒に暮らせるようになったら、毎日こうやって寝られるのか。やる気出てきた。
明日、頑張ろうと思う。
眠気がやってきたところで額に何かが触った。
目を開けると、サリアーノの顔が…サリアーノに顔を覗き込まれていた。
『俺も行くからな。』
『え…?虹種族が出るのは危ないのでは?』
『危ないのはお前だ。アサの所にも着いていくからな。』
『アサの所って…あそこはこちら側を少し出た所でしたよね?』
『そうだ。それくらいなら別に平気だ。』
『無茶しないでくださいね。』
『お前もな。』
念話が切られた。
サリアーノが本当に大丈夫なのか分からず、自分のために頑張ってくれると思うと少し嬉しいが、かなり心苦しい。
心配してくれている三人も、こんな気持ちなのかもしれない。
行くことにしたら、無茶しないで即撤退できるように気を付けようと思う。
そう思ったことに納得してくれたのか、彼は頷いて飛んで行った。
メイの隣で布団に潜り込んでいる。
それを横目で見ている内に、眠りに落ちていた。
この日見た夢は、全部は思い出せないが、マキアとメイを抱きしめてサリアーノを頭に載せて笑っているものだった。
とてもよく眠れた。




