国語
「さて、皆は"禍福は糾える縄の如し"という言葉を知っているかな。」
国語の授業が終わり、五分ほど時間が余っていたその時。
国語担当の先生が声を上げた。
クラスの皆はふるふる、と首を振ったり、何それ、と周りに聞いたりしていた。
勉強家な一人の女子が、ぽろっと言葉を発す。
「えっと……。
不幸と幸福は隣り合わせ、みたいな意味……? でしたっけ。」
すごい。わかるんだ。
私なんか何もわからなかった。
さすがは勉強家だなぁ。
皆、おおー、とか すごーい、とか感嘆の声を上げる。
先生はこく、と頷き、目を細めながら言った。
「そうだね、大正解です。
不幸だと思っていても、すぐ隣には幸福が座っているかもしれない。
けれど、また逆も同じこと。
これ以上の幸せは無いと思っていると、隣で待ち伏せている不幸が襲ってくるかも。」
クラスが静寂に包まれる。
その通りだと頷く者もいれば、そんな規則的なものかと考える者もいた。
何も考えず寝ている者もいたが。
一人の男子が、先生に問う。
「つまり、どういうことですか?」
先生はただニッコリと笑った。
「つまりはだね。
ポジティブに、そして油断せずに皆には生きてほしいという意味だよ。」
キーンコーン……。
カーンコーン……。
チャイムが校内に響き渡る。
先生はそれでは、と一言。
そして、ドアから去っていった。
先生の言葉は、私の頭の中でこだましていた。