陸
あの3人の世界から帰ってくると、二人ともいた。
「あれ?二人は挑戦しなかったの?」
「やったんだけど、やっぱり駄目だった……」
「心愛もダメだったんだ……。それで、愛はどうなんだ?」
「あ、うん……。まあ、ダメだったよ」
「そりゃ、そうか」
腐れ縁の中司和希が、馬鹿にしたように返してくる。
なんだか、ムカッとしてきた。言いたいけど、面倒になることは間違いない。まず第一に、テュケの事なんかを知られてしまうと、それはそれは大変なことになるだろう。
(―いっちゃん、我慢だよぉ~。いずれ、私たちに都合のいいことが起こるはずだよぉ~)
まあ、それもそうだね。なんてたって―
(―運命の神と、その愛する人だからね)
僕と、愛する神なのだから。そして、その願いなのだから。
「和希ちゃん、そんなこと言っちゃダメだよ」
「心愛は、もうちょっと言ってもいいと思うよ」
「和希は、もうちょっと鹿宮さんを見習った方が良いと思うよ」
「愛、マジうざい」
「まあまあ、和希ちゃん」
ほんと、昔からそうだ。
まあ、確かに和希のおかげで間違いを正せたこともあったけど、いちいちガミガミとうるさいのだ。
そんなのは、親だけで十分だ。僕にはいないけど。
(―いやぁ~、その自虐は重いとお姉ちゃん思うなぁ~)
(―あらあら、テュケは家ではうるさいのね)
(―まあまあ、あまり言ってしまってはテュケが可哀そうですわ」
(―はむはむ、気分が落ち込んだら私が癒してあげる)
やっぱり、家族は多い方がいい。
親はいないけど、僕にはこんなにもいい家族がいるのだから、いつまでも気にすることじゃないだろう。
って、昔の事を思い出したら、結構昔のことまで思い出しちゃったよ。
まあ、みんなのおかげで気持ちは暗くない。
「それじゃあ、戻ろう。そろそろお昼だよ」
「もうそんな時間なんだ。教えてくれてありがとう、鹿宮さん」
「愛も、少しはそういうところ直しなよ」
「和希が、うるさくなくなったらね」
「いーつーむー!」
「神代君も、そんな事言っちゃ駄目だよ」
お昼はいつも通り心愛と、和希だ。
その後の、午後の授業は寝ずに聞きすぎていった。
そして、放課後
「神代君」
「どうしたの?鹿宮さん」
「きょ、今日はこれから暇かな?」
「まあ、夜のバイトまでは……」
「もしよかったら……一緒にケーキ食べに行きたいなって。駄目かな?」
「ん?いいよ、僕もケーキ好きだからね」
「えっ!?好き?神代君が、……私に、好き…って」
「いやいや、言葉を抜かしてるって心愛」
和希が心愛の耳元で何やら話している。
また変なことを吹き込んでいるんじゃないだろうな……。
「はっ!そ、それじゃ、行こっか?」
「うん。それでどこに行くの?」
「最近できた店なんだけどね」
心愛と、愛はこれから行く、ケーキを売っている店のことを話しながら教室を出ていく。
それを見るしかない和希は―
「はぁ、何やってるんだろう……うち」
その日は、二人とも2種類のケーキを頼み、それぞれ相手のケーキを一口ずつ貰った。
その後は、予定通りバイトをして、家に帰った。
翌日
「おはよう、神代君」
「うん、おはよう鹿宮さん」
「昨日のケーキ美味しかったね」
「ああ、特にあのチーズケーキはすごかった」
昨日の話をしながら、教室まで歩く。
教室の扉を開くと、クラスの人も何人か来ていた。
「おはよう」
「ん?あー、うぃ~」
すでに来ていた和希に挨拶すると、適当ながらも返してくる。
無視されないだけいいことだ。
一時期、無反応の時があったのだが、その時はとてもつらかったものだ。
(―あぁ~、あの時はすっごい落ち込んでたよねぇ~)
(―あらあら、昔のことを思い返して懐かしむなんてね)
(―まあまあ、昔のことをぶつくさ言うなんて)
(―はむはむ、老獪のクゾババア)
(―アトロポスちゃん、さすがにそれはひどくないぃ~?)
うーん。仲が悪いわけではないんだけど……。時折、喧嘩することがあるんだよな。
でも―
「今日も、僕はツイている」
そう、朝から校門近くで鹿宮さんに会ったのも、たまたま通学路ですれ違ったお姉さんがお財布を落としたのを拾い渡したら、それが昨日行ったケーキ屋さんの店長で、いつでも割引するって言ってくれたりしたのもだ。