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神の力  作者:
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 三人姉妹のモイライ―クロト、ラケシス、アトロポスと自己紹介を済ませ、一息ついた(いつむ)は、ここに来た目的を思い出した。


 「それで、試練って何やればいいんだ?」

 「あらあら、……何やろうかしら?」

 「まあまあ、適当でいいと思いますよお姉さま」

 「はむはむ、私はしなくてもいい。正直、めんど―」

 「あらあら、それ以上は言ってはいけませんよ」

 「まあまあ、そうですよアトロポス」

 「はむはむ、そんなんだから生き遅れる」

 「あらあら―」


 今まで通りのクロトの雰囲気が一瞬にして、反転する。

 ほんわかしたやわらかい笑みは、見た目は変わっていないが、殺気が伝わってくるようなものに感じた。


 「家族会議が必要かしら」


 その後、俺たちの前から三人姉妹が消えた。


 「試練を受けに来たのに、放置されるとは……」

 「まあぁ~、あの子たちは昔からあんな感じだからねぇ~」






 10分ほど経った頃、やっと三人は帰ってきた。

 3番……1番下のアトロポスの口には布が詰められていた。


 「あらあら、お待たせしてごめんなさい」

 「まあまあ、少しお話していましたの」

 「…………………」


 まあ、そりゃ喋れないか。ましてや、食べるのなんてできないよな。

 それにしても………気になるのはあの口に詰め込まれた布だ。ひらひらしたものが見えるのだ。まるで、そう…レースのような。


 「あらあら、これはアトロポスちゃんのパンツよ」

 「なんでだよ!?」

 「まあまあ、様式美……と言ったものですわ」

 「絶対間違ってるよ?それ!?」

 「………、あらあら、こんなに早く第1の試練を突破されてしまうなんて」

 「まあまあ、そうですわねお姉さま。ですが、まだ第2の試練がありますわ」

 「……………………」

 「あらあら、そうね。私たちは、一人一人がモイラと呼ばれている女神」

 「まあまあ、モイライと言われたなら私たち3人の試練を乗り越えてもらいますわ」

 「……………………」


 いつの間にか、第1の試練をクリアしたみたいだ。

 それにしても、………取ってやれよ。


 「まあまあ、次女である私―ラケシスの試練ですわ。この紐の長さを、目測で測りなさい」

 「………え、いや……1.2メートルだと思うけど」

 「……あらあら、正解ね」

 「まあまあ、驚きましたわ。この難題を乗り越えるとは」

 「いや、だって…………ここに」


 愛がそう言って、指差したのは紐の端の方についているバーコードが書かれたシールだ。

 そのバーコードの上には『ひも(1.2m)』と書かれていた。


 「………あらあら、正解ね」

 「まあまあ、驚きましたわ」


 ああ、今の会話はなかったことにしたいのね。


 「………あら―」

 「いや、もうわかったから」

 「まあまあ、後はアトロポスだけですわ」

 「………………」

 「あらあら、アトロポスちゃんの番よ」

 「いやいやいや、取ってやれよ!?」


 愛は、慌ててアトロポスに駆け寄り口からパン―布を出してやる。

 その際に、唇に触れドキッとしてしまったのは、秘密だ。


 「あらあら、可愛い」

 「まあまあ、そうねお姉さま」

 「そういえばそうだった」


 ここでは、思ったことが相手に伝わっているのだった。

 とても、恥ずかしい。


 「いっちゃ~~~ん!」

 「落ち着け、テュケ」

 「ぶぅ~、ぶぅ~」

 「はぁ、それで大丈夫か?えっと、アトロポスでいいか」

 「………ポッ」


 パ―布を口から取り出し、そう声をかけるとアトロポスは顔を赤くした。


 「………女誑しぃ~」

 「テュケ、今は思ってるだけじゃ伝わらないんだからもう少し大きな声で言ってくれ」

 「もう、いいよぉ~」


 何やら、テュケが拗ねてしまった。


 「あらあら、すべての試練を乗り越えて見せるなんてね」

 「まあまあ、わたくしは覚悟を決めましたわお姉さま」

 「はむはむ、責任を取ってもらう」

 「……えーと、何の話?」

 『私たちモイライは、神代(かみよ)(いつむ)を愛する』


 3人が声をそろえて、誓った(・・・)

 これは、あれだろうか。いや、わかってはいるのだ。………理解が追いついていないだけで。


 「……早く、答えてあげなよぉ~」

 「テュケは……いいの?」

 「大丈夫、お姉さんが一番なのはわかってるから」

 「あらあら、余裕そうねテュケ」

 「まあまあ、年季が入った人は違いますわ」

 「はむはむ、流石の年の功。いいぞ、ショタコンが行き過ぎて拉致までやったロリ巨乳ババア」

 「な、なななぁ~~~!そんなことないもん。あれは、お姉さん悪くないよぉ~。不幸な行き違いなんだからぁ~」

 「ほどほどにしなよ」 


 愛は3人に言う。

 これから、一生の付き合いになるのだ。仲が悪いと困る。


 「僕も誓うよ。クロト、ラケシス、アトロポス……、3人とも愛すると」


 3人と見えないつながりが出来るのを感じる。

 これが、神愛の儀だ。

 神を愛し、神に愛された者が行える契約。

 そして、それによって使えるようになるのが、愛慕(あいぼ)の力―愛力(あいりょく)だ。


 「よろしく頼むよ」

 「あらあら、本当に可愛いわね」

 「まあまあ、テュケの気持ちが理解できるわ」

 「はむはむ、脂肪をぶら下げて何を言っているのだか」

 「クロト、ラケシス……」

 「あらあら、……わかっているわよ」

 「まあまあ、こちらも同様だわ」

 「家族会議を開催するぅ~」「家族会議を開催しましょう」「家族会議を開催するわ」


 抵抗する、アトロポスを連れて4人の女神は消えていった。


 「仲良きことはいいことだな……」


 元の世界、試練の塔に戻ったのは4人が戻ってきた後だった。

 アトロポスの口には、またヒラヒラしたレースの付いた布が入っていた。


 「ん~、ハンカチかなぁー?」


 この、様式美は間違っているだろう。

 この世界で印象に残ったのはそれだった。

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