参
コンビニでくじを引けば1等が当たり、信号は一つも引っ掛からない。
さらに言えば、僕の歩いた後ろでは雨が降っているという状況になっていた。
「今日も、僕はツイている」
(―まあ、これくらいは普通だよぉ~。お姉さん、神だから~)
「ん、凄い凄い」
(―……え?これ馬鹿にされてる?お姉さん馬鹿にされてる?)
そういえば、テュケ。昨日、僕のプリン食べた?楽しみしてたんだけど、今日の朝見たらなかったんだよね?
(―え、いや~……。シラナイカナ。うん、お姉さんは一つ500円する、カラメルに拘った『絡めるプリン』なんて知らないよぉ~)
「そうか、やっぱりテュケが食べてたか……。まあ、泥棒じゃなくてよかったと思うべきだな。うん」
(―あ、あれ?なんでばれてるのぉ~?……じゃなくて、言いがかりだよぉ~)
「あ、神代君。おはよう」
「鹿宮さん、おはよう」
「神代くんは、今日の3講義目はどうするの?」
「えっ?どうするとは……?」
「今日の3講義目は選択授業だよ?自主訓練か、試練の塔に挑戦するかの」
「あー、そんな話しだったね。うん、確かそうだった」
試練の塔か……。僕にはテュケがいるし、もう一人……面倒なのもいる。それに、変に実力を見込まれても後々面倒になりそうだ。
「もう、忘れてたでしょう。神代君、新しい神との契約とかしないの?」
そう、試練の塔というのは、10歳の時に行く神会の逆バージョンと言ったものだ。
神会は、神が人間のことを選びその人間に力を与える。だが、神会は10歳の時に一回だけ行くことが出来る。僕も、いろいろとあったのだ。それが、テュケじゃない神との契約の時だ。
しかし、試練の塔というのは、挑戦したい神を人間が選び、神が試練を与える。そこで、神のお眼鏡にかかれば、契約してもらえるという訳だ。
「ははは、でもこうやって鹿宮さんが教えてくれるから、いつも助かってるよ。ありがとう」
「はわぁ。ど、どどど、どういたしまして」
本当に、鹿宮さんはいい人だ。僕が、変に気をつかわないようにと思って、こんな焦ったり、慌てたりしているんだろう。本当、こんな友人を持てるなんて、ツイてるよ。
(―また、始まったぁ~……はぁ、どうやったら治るのかなぁ~)
なにさ?そんな、人を病人みたいに言って。むしろ、僕はテュケのだらしなさを直してほしいけどね。洗ったパンツは、僕と一緒に干すし。風呂上りは、バスタオルを巻いただけの格好で出てくるし。休みの日は、僕から分捕ったYシャツの下にパンツだけの格好でうろつくし。もっと慎みを持った方が良いよ。
(―…………理不尽だぁ~。なんで気付かない?なんで気付かないのぉ~~~!!!)
うるさい。気付かないって、気付いてるから、こう言ってるんだけど。
(―………治る余地、なし)
「それで、神代君は自習かな?」
「まあ、そうなるね。あんまり、強くもないから、試練なんてやらされちゃったら……」
「やらされたら?」
「三日三晩は寝込む自信があるね!」
「大げさに言いすぎだよ。それに、神代君は弱くないよ」
「そうかな。鹿宮さんに言われると、自信が出るよ」
「はぁ~、やっぱりカッコいいよぉ~」
「鹿宮さん?どうしたの?」
「な、何でもないよ!教室行こっか」
時は流水のごとし。まさに、その通りだ。気付いたらもう2講義目の終わりになっているなんて良くあることだ。
(―いや、よくあっちゃダメだと、お姉さん思うなぁ~。それに、時は金なりだよ)
つまり、貯金も預金も借金も出来ると。やはり、神は言うことが違うな。時の神なんて、時を売りまくって、ウハウハなんだろうな。
(―いっちゃん、神でも時は買えないよぉ~。ましてや、貯金とか預金も出来ないよ。借金はできないこともないかなぁ~。時の神なら時間を引き延ばすのも、少しの間止めるのもお手のものだろうしぃ~)
「何だって!?それ本当!」
「神代君、急にどうしたの?」
「心愛、それはそいつの昔から持病だ」
心愛というのは、鹿宮さんの名前で、僕のことを知っているように言っているこの女は、中司和希。小学校からの腐れ縁で、高校に入って、金髪にしたギャル(笑)だ。
「持病じゃないって、いつも言ってるのに、和希は昔から人の話を聞かなすぎる」
「はあ?愛が聞いても答えないだけだろ。むしろ、病気だと思って優しくしてやってることに感謝してほしいまである」
「くっ、ってそれよりもやることがあったんだ」
そう、僕には時の神と契約する必要があるのだ。
こんなところで潰すような、時間はないのだ。時は金なり、なのだから。
(―いっちゃんが言うと薄っぺらく聞こえるから、不思議だねぇ~)
うるさい。テュケもあんま変わらないだろ。
「へぇー、あのぐうたらの愛がやることがある?何さ、ちょっと言ってみ」
「和希にかまってる暇はないよ。これから、試練をしに行くんだから」
「えっ!?神代君試練の塔行くの?」
「うん」
そういえば、朝聞いた時自習するって言ってたんだった。
(―不倫している、男のように言っていることがコロコロ変わるねぇ~)
いや、テュケ付き合ったことないんだから、わからないでしょ?
(―あ、あるしぃ~。一人、五百人くらい?あるし)
うん。焦り過ぎて喋り方変わってるし。それに人数のところ、一人二人ならわかるけど、一人五百人って、曖昧過ぎでしょ。
(―む、むぅ~……)
「じゃ、じゃあ、私も行こうかな。行きたいとは思ってたし」
「心愛が心配だから、うちもついて行く」
試練の塔、神の塔とも呼ばれる建物。神立の学校の近くには必ず建っている。天まで伸びる長い塔……ではなく。
「いつ見ても、………小さいね」
高さ30mの石の円柱だ。
入口は、どっかの秘密基地かと思うほどで、自動で石が横にずれる、自動ドアだ。