壱
僕は本当に………ツイていなかった。
僕が産まれたと同時に、父の会社は倒産したのが、始まりだった。
その後も、なんだかんだあり、父は自殺、母は過労で死んでしまった。
親戚からも「不幸な子」というレッテルを張られ、一人寂しく生きる。
そう思っていた時に僕は巡りあった、文字通り運命の女神に。
「はぁ~い、そこのボク~。お姉さんの家に来な~い?」
授業の終わりを知らせるチャイムが鳴った。
次は学生が待ち望む、昼休みだ。大食いの男子は購買が売り切れる前に、と駆け出し。弁当勢の女子が、自分のでない席なのに、整然と机を動かし集まりあう。僕の机もその犠牲にあい、今では島の一部となっている。
座っていたはずの椅子も取られ、今はぼんやりとたっている状態だ。
「今日は少しツキが悪い……」
財布と、弁当を忘れてしまい、途方に暮れているのだ。
このままだと、食べるものも、いる場所もなくただただ立って昼休みを過ごすこととなりそうだ。
「神代君どうしたの?」
名前を呼ばれ、そう尋ねてきた女子がいた。
髪が少し茶色っぽく、ウェーブしているのが特徴で、名前を鹿宮心愛という。
席順が五十音順ということもあり、ご近所さんだ。そのため、話す機会も多かった。入学から3か月経った今となっては、女子の中では一番仲のいい友達だ。
「いや~、弁当もお財布も忘れちゃって、途方に暮れてた」
席を取られたことについては愚痴らない。この世は、弱肉強食。取られた方が悪いのだ。
この日本では、強いものがもてはやされ、崇められ、敬われる国だ。
だから、嘆いても始まらない。それに、席を一時に敵にとられることなど、家がなくなることに比べれば、なんてことない事だ。
(―いや、もっと嘆いてもいいと思うよ~)
頭に直接声が響いてくる。それもそのはずで、この声の持ち主は僕が、神愛の儀と言う、まあ結婚式みたいなもんで適当に契約を結んだ神で、その契約を結べば、神は僕が生きている限り、現界し放題となるのだ。
(―適当って……そんな言い方ないと思うなぁ~。お姉さん、傷ついた~)
この自称お姉さんは、僕がある公園で拾った。
(―逆!逆でしょ!?お姉さんが、いっちゃんを拾ったんだよ‼)
「いっちゃん」というのは、僕のことだ。
神代愛というのが僕の名前で、愛と書いていつむと呼ぶ。あまり見ない読み方なので、よく「あい君」や、少し捻って「めぐむ君」と間違われる。
そして、頭に響く声の主―運命の神のテュケには、「いつむ」から、いっちゃんと呼ばれている。
そして、僕はこの神に家に引きこまれた。
つまり、誘拐されたのだ。
(―だーかーらー!違うよ~。お姉さんは、不幸ないっちゃんが心配でお家に招待してあげたんだよぉ)
その後、しっかりと事件になり警察のお世話になった。
(―いやいやいや、いっちゃんが捨てられたことを証明してくれて、事情聴取で終わったから!)
という、流れの仲である。
今は、先ほど言った神愛の儀によって行使できるようになった、愛力の力の源である。つまりパートナーとも言うべき神であり、力の移動式貯蓄庫である。
(―ひどっ!ちょっと、ひどいよ!お姉さん、悲しぃ~)
「神代君?」
「ああ……ごめん。聞いてなかった」
神愛の儀によって、その神は無条件で現界できる。それ以外の時は、神愛の儀で選んだ者の中にいるのだ。
そして、その者の中にいるときの声は、契約者にしか聞こえない。会話も声を出すことなく出来るのだ。
「だから、私の弁当分けてあげる」
「……本当に?でも、それだと鹿宮さんの分が少なくなっちゃうんじゃない?」
「え、あ、えっとね。きょ、今日は少し作り過ぎちゃったの!だ、だから、大丈夫だよ?」
この子は、結構おっちょこちょいなことが多々ある。
この前は、教科書を忘れて隣でなく、わざわざ前の僕のところに来たし、その前にも、映画のチケットを間違って2枚買ってしまったらしく、一緒に見に行った。
(―はぁ~。まあ、お姉さんの立場的にはありがた……くもないなかったわねぇ~)
何が?
(―少し頑張って下着姿を見せたのにぃ~、ちらっと見ただけで後は興味なくなったとばかりに、ソファーで寝るし。他にも………)
ぶつぶつと何やら言い出して、耳障り?(頭から聞こえるのでそう言えるかわからないが)だが、今重要なのは鹿宮さんが、運よく弁当を作り過ぎて、それをこれまた運よく僕に分けてくれるということだ。
(―あぁ……いつも通りだねぇ~)
「今日も、僕はツイている。……おっと、それじゃあ鹿宮さん、ご一緒させてもらっていいかな?」
「わぁ、はい!食堂に行きましょう」
「了解」
(―私の力で幸運になったのは確かだけど……、全てが全て幸運のせいではないんだけどねぇ~)