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『恋人の棲む家』

作者: タコアシ

あの日 僕は息をのみ


ドアノブを見つめて 立ち尽くした


独り暮らしの僕の家で 出掛けに玄関のドアに


鍵を掛けようとしたら 独りでに鍵が掛かったんだ


あれ以来 家には帰っていなかった



僕はその正体を知っている


若い女性だ


でも彼女は生身の人間じゃない


幽霊なんだ



彼女は幽霊で 僕の見る夢の住人で


夢の世界での恋人だった


それがいつしか現実の世界に


現れるようになったのは


きっと彼女の意思によるものだったのだろう



夢の世界で別れ話になり 彼女は別れたくないと号泣し


僕はそんな彼女を置いて 部屋を出て行く夢を見た



すると翌日から毎日のように


夢に現れて別れたくないと


泣きながら訴える日が続いた



そんなある日 今度は現実の世界で


彼女の存在を感じるようになり


彼女の泣き声のようなものを


感じるようになった


すると夢では 彼女が包丁を片手に


鬼の形相で僕を追い駆け回す ようになったんだ


私と結婚してよって叫びながら



夢の世界の住人であるはずの


彼女が幽霊だと気付いたのは


彼女が元々現実世界の昔の友人で


僕が以前交際を断った女性で


その後人づてで自殺したと


聞いていたからだ


彼女が僕の夢に現れ出したのは


ちょうどその頃のことだった



そんな彼女の棲む家に


僕は怖くてずっと帰れないでいた


帰れば悪夢が続き


いつかは殺されてしまう


かも知れないと思ったから



あの時彼女を振った僕が 悪かったのだろうか


彼女の自殺のきっかけを 作ってしまったことを


僕はどう解釈したらいいのか ずっと分からないでいた



あの日以来 悩み続けた日々があり


僕は今 何ヶ月か振りに


玄関のドアの前に 立ち尽くしている


彼女が諦めて去った かも知れないと思って



だけどそれは間違いだった


鍵を開けようとしたら


またも独りでに鍵が開いて


中から彼女の小さな小さな声で


『おかえり』


という声が僕の耳にこだましたんだ



僕の背筋は凍りつき


全身が金縛りにあったまま


ドアノブを見つめていた


今にきっと ドアが開くかも知れないと


恐怖に怯えながら




僕はどうして 帰って来てしまったのだろう


こうなるかも知れないという


予測だって出来ていたというのに


彼女への同情だろうか


それとも彼女の想いに触れて


現実に受けれようと思い始めたからなのか



もう分からない


僕は一体何がどうして


帰って来てしまったのだろう


幽霊の恋人が棲む我が家に


死んでしまった彼女の待つ家に


               <了>


最後まで読んで頂きありがとうございました。

こんなことは現実には起こり得ないことだけれど、

気配を感じることはあるかも知れない。

失恋の悲しみから自殺を選ぶというのは、

双方ともにつらいことだけれど、

それだけ深い想いを寄せていたのだろうと思うと

何だか亡くなった方を責められない気がします。


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