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連奏恋歌〜求愛する贖罪者〜  作者: 川島 晴斗
第四章:休息のオブリガード
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第3話:喧嘩

悲痛な話です。

 話がまとまり、ひと段落クオンは軍議室を後にした。

 ミズヤの気持ちは大方理解したと、自分でわかる。

 すると何故か、澄んだように心がクリアーで、無気力になった。


 わからないというもどかしさがあった。

 だけれど、わかればどうということはない。

 ミズヤの思う気持ちはどんな人間にでもある、当たり前な気持ちなのだから。


 それを悲観的に捉えすぎてしまう、彼の自虐性が元凶と言えるだろう。

 前世の事、家の事、様々な悪因があるのは理解できても、そう。


 彼を前向きにしないと――。


 クオンの考え至った結論はそれであり、目的を達成すべく、まっすぐミズヤの部屋へと足を向けた。

 自分がやる、借りを返すためにも。

 そう自分に言い聞かせて。


「……む?」


 しかし、ミズヤの部屋へ近づけば近づくほど、何かが鳴く音が聞こえてきた。

 さらに歩くと、その正体が声でわかった。


「ニャァーニャーッ!!! ニャーッ!! ニャーッ、ニャーッ!!!」

「……これは、サラの鳴き声?」


 彼女とはあまり仲の良くない金色の猫が必死に鳴いていた。

 その声はかすれ、声を出すのも辛いのがわかる。

 どれほど鳴いているのかわからないが、今もその鳴き声は止まらず、ずっと必死に何かを呼び掛けていた。


「サラ! どこですかサラ!!」


 何か一大事があった筈だ――そう結論を出すのは容易な事で、クオンは廊下を駆けた。

 走れば走るほど鳴き声は大きくなり、そして着いた先はミズヤの部屋だった。


「……カンナ、さん?」


 その部屋の前には、環奈が塞ぐように扉を背にして立っていた。

 環奈がクオンを見つけると、大きな鳴き声と同程度の声量で問い掛ける。


「どしたん? ミズヤになんか用事?」

「はい。でも、これは……?」

「取り込み中みたいだから、後にした方がいいよ。聞いてわかる通り、いろいろヤバいから」


 かすれ果てたサラの鳴き声は未だ止まらない。

 その鳴き声は、大声で泣きわめく子供の声にも似ていた。

 サラがこんなに取り乱す事など、前世から付き合いのある環奈でさえも知らない事であった。


 しかし、その声は不意に止まる。


 途端に静まり返った世界、誰も動くことができなかった。

 だが、何を感じたのか環奈は扉から数歩前に出る。

 その数秒後には小さく扉が開き、頭を垂らしたサラが出てきた。

 傷はない、だが見るからにしょんぼりとしていて、環奈はそっとサラを抱き寄せた。


「よしよし、頑張ったね。大丈夫、ミズヤはこの間違えに気付くから、その時戻って来ればいいよ」


 慈しむようなその言葉と抱き方。

 サラは何も言わずに身を預けている。

 どういう状況かわからず、クオンは尋ねた。


「あの……サラは、どうしたのですか?」

「ちょっとミズヤと喧嘩しただけだよ。大丈夫、また仲直りできるから」

「はぁ……」


 喧嘩……その言葉だけで片付けていいものだったのかと、疑問が残る。

 サラが本気で、声がかすれるほど必死に叫び続けたのが。

 しかし、心配に思いつつもミズヤに直接聞けばいい。

 だから、クオンは扉に手を掛けた。


「――今はやめときな」


 そこに、制止の声が入る。

 声の主は環奈で、彼女は睨みにも似た視線でクオンを見ていた。


「……何故?」

「ミズヤは確実に中で自殺してる。わざわざ死体を見る必要はないよ」

「…………」


 自殺してる――それは中に死体があると言いたかったのだろう。

 どんな死に方をしたかはわからない、ただ間違いないと言い切るような環奈の声調が、クオンの手を扉から離した。


「……ミズヤは生き返りますよね?」

「うん。でも、起きてもまた自殺するだろうね」

「……何故?」

「……わからない?」


 クオンは環奈の顔から胸元に視線を落とす。

 そこにはうずくまったままのサラが居て――。


「……。なんで、サラと仲違いを……」

「瑞揶は今、自分が周りの人を傷つけてしまうと勘違いしてる」

「!!」

「だから、一番大切なサラまで傷つけたくないんだろうよ。それが余計なお世話なんだけど、なんっつえば良いのかなぁ、あのバカには……」


 溜息を吐きながら胸元のサラを撫で回す環奈。

 彼女の予想を聞いて、クオンは驚いていた。


「貴女も、ミズヤの気持ちをわかっていたのですね」

「そりゃあまぁ、ミズヤは単純だし、友達だしね。何考えてるかぐらいわかるって」

「……そうですか」


 クオンはしょんぼりと目を伏せ、壁に背を預けた。

 あからさまに気を落としているが、その理由は明快である。

 他にもミズヤの思いをわかっている人がいた、なのにサラに次いで近くにいた自分がわからなかったのだから。

 自分が情けない、悔しいと、そう思うのも仕方ない。


 そんな彼女の頭に、環奈はポンっと手を置いた。


「……?」

「何もあんさんが気落ちする事ないさね。まだ確か13歳でしょ? 人の事気にするより、自分の事気にしてなって」

「……カンナさんだって、まだ若いじゃないですか」

「これでも、累積80年生きてるんだけど?」

「……は?」


 これには理解が追いつかず、環奈の10代の肌を見て疑問符を浮かべる。

 そんな純朴なクオンを見て環奈は苦笑し、曖昧ながらに答えた。


「第1の人生は60年ぐらい生きたんよ。【ヤプタレア】で生まれ変わって17年、そういうことよ」

「あ、なるほど」

「だから本来、ウチはおばちゃんなのよ。アンタはまだまだ若いんだから、気にしてなくてよろしいって」

「そうはいきません。ミズヤは私の大事な側近であり、仲間ですから」

「……あっそ。ま、ウチはミズヤが死体のうちに、また自殺しないよう(はりつけ)にしとく。そのあとはアンタが好きにしな」

「はい……」


 ぶっきらぼうに機会を与えると共に、環奈の胸に居たサラも、ピョコンとクオンの方へ飛んだ。


「さ、サラ?」

「その子もミズヤと話し合いたいんでしょ。この後に及んで別れるとか考えられんだろうからね。できれば連れてってやりな」

「……ええ、一緒に行きましょう」


 クオンはサラを両手で脇を持って言うと、サラは口を開けて鳴いたように見せた。

 いや、鳴いたのに声が出なかったのだ。

 それほどまでに、声が枯れていたから。


「……サラっ、本当に貴方は、ミズヤが好きでっ……」


 この猫がどれほど彼を想ってるのかを考えると、クオンは思わず涙が出た。

 先ほどまでの怒号にも近い叫び声がどう叫んでいたのか、今なら容易に想像できる。


 離れたくない。


 そばに居たい。


 そう叫んでいたのだと。


「……貴方の純粋で真っ直ぐなその思い、ミズヤにわからせてやりましょう」


 人を不幸にしようが構わない。

 自分が不幸だろうと、どうなってもいい、それぐらいに貴方を思う家族がここにいる。

 その事を伝えるためにも、クオンはミズヤの目覚めを待つのだった。

鳴いている=泣いている。

これで叫んでいるのだから、サラの気持ちは……。


次回、和解できるのか……。

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