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連奏恋歌〜求愛する贖罪者〜  作者: 川島 晴斗
第零章:シュテルロード
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第8話:シュテルロード領

 ミズヤは空を駆け抜けた。

 目下には無人の草原と道が広がっており、地平の先には高い塀が見えた。


(あそこが街かぁ……。あれ? お金持ってないけど……行って帰ってこれればいいか)


 変な不安を払い、彼は暗い空の下を飛んだ。


 かれこれ5kmぐらいだっただろうか、飛行の練習もあまりしていないミズヤでも25分弱で漸く街の全貌が見えるようになる。


(――え?)


 彼が見た街は荒廃しきっていた。

 古ぼけた木造や石造の建物に人が寄りかかり、時には倒れ、ゴミもあたりに散らばっている。

 歩いている者はナイフのような凶器を持ち、女子供の姿は何一つ見れなかった。


 風が吹けば埃が舞い、風で倒れる人もいる。

 ボロ布を着たもやしのようなおじさんだった。


(そんな……どうなってるんだここは!?)


 ミズヤは驚愕に染まった顔のまま急降下する。

 街の建物の上に降り立ち、様子を見た。


 人々の頬は(くぼ)みがあり、食べ物も満足に食べていない様子だった。

 ボロボロで汚れた布を身にまとった人ばかりが目につく。

 ただ、女性と子供が居ないのも彼には異様に思えた。


(……どうしよう。どうすればいいんだろう……)


 ミズヤは困った。

 あまりにも自分の想像していた街と違ったのだから。

 誰かに声を掛けようにも、何をされるかわからず怖かった。


「――おっ?」


 その時、誰かが声を発した。

 慌ててミズヤは目下の人々を再び眺める。


「――――」


 視線が合った。

 絶望の目をした細い男と。


 ――ドクン


 ミズヤの心臓は動悸が激しくなり、呼吸が少し荒くなる。

 男はミズヤを見つめても何も言わない。

 無言こそが恐怖を誘い、ミズヤは目を見開いて男を見つめた。


 男は無言のまま、肉のない腕でミズヤを指差した。

 上に位置する方を指差す途端、道を行き交う人々もミズヤを見つけて視線を向ける。


「……な、なに?」


 たじろぎ、後ろに下がるミズヤ。

 異様な光景を前に、動揺と不安が彼を襲う。


 やがて、男達はブツブツと何かを呟き始めた。

 細々とした声、震える男達。

 死霊達のようにも見えた彼らの声を、ミズヤははっきりと耳にした。


「殺す――」

「ッ――!?」


 息を詰まらせる前に、男達が魔法弾を放った。

 10発ほどの連弾はミズヤが後ろに飛ぶことで全て空に飛ぶか建物にぶつかる。


(ここは危険だ……逃げないと!)


 ミズヤはそのまま空へ飛び立つ。

 魔法の力で上空に行き、再び空から街を見て安全な場所を探した。


 人のいる所は死人が歩いてるような場所、または乱闘している場所、後は倒れた人が山になってる場所などがあった。

 死体の山――とミズヤは思ったが、そうではなく、かすかに動いている。

 空で立ち止まるほど、その光景は不思議だった。

 小さな山は幾つもの鉄の(おり)に囲まれ、檻の1つには金色の鎧を着た兵のような者が乗っている。


「……おやつどきだな。開け!」


 金色の兵が剣を掲げた。

 魔法を使ったのか、檻の網が上にスライドする。


 そこから出てきたのは、黒く、狼のような犬であった。

 軽快に飛び出す犬達――彼らは即座に人の山に向かい、その体を――


 ――グチュルルルッ!


 貪った。

 血肉の裂ける音が木霊(こだま)する。

 犬達はハイエナのように生きた人々を食らっていった。

 狼とも似つかぬ犬のような化け物――それはミズヤには悪魔に映る。

 グチュルグチュルと租借されるヒトだったものを見て吐き気すら覚えた。


 なんでこんな事が――なんでこんなにも住民達が死と絶望を味わっているのか――。


「父上……」


 知らずと呟かれた。

 ミズヤの父が治める領に来たはずだった。

 なのに、こんな惨状があって、誰も反応をしていない。

 おかしい――ふざけるな――。

 そんな葛藤が、ミズヤの頭を熱くさせる。


 さらに、ミズヤは他の地を回った。

 ここまでくればやっと女子供が歩いていない理由もわかった。

 歩いていれば何があるかわからないからだろう。

 ときたま、金色の兵が歩いている。

 そして、住民に靴磨きをさせていたり、暴力を振るっていたりする。


 ミズヤは空にいるだけで何もできなかった。

 ここは地獄、どうして降りたいと思うことがあるだろう。


 しかし――


(事情を知らなくちゃいけない……シュテルロード家の長男として、絶対にこんなのは変えなくちゃいけない!)


 その思いを胸に抱き、ミズヤは再び領内に降下するのであった。

 また建物の上に降り立つ。

 布一枚を着た住民は襲って来るのが目に見えたため、金色の鎧を着た兵を探した。


「いたっ」


 辺りを見渡すと、金色の兵が2人、そして女性が1人居た。

 鎧の男達は女性から布を奪い、裸にしようとしていた。


「抵抗すんじゃねーよ! 俺たちを誰だと思ってんだ!」

「やめてください! たす、助けてっ!」

「俺たちは役人なんだよ。お前らには何したっていいんだ。オラッ!」

「キャッ!?」


 女性が張り倒される。

 役人という言葉にミズヤは思うところがあったが、これから暴行が起こるのかと思うと何も考えずに建物から降りる。


「やめろ!!」


 そして叫んだ。

 子供の力いっぱいの叫びは閑静な街に響き、人々の視線を集めた。

 当然、金色の兵からも。


「……なんだぁ、ガキ? ボコボコにされてぇのか?」

「黙りなよ。君たちは何をしているんだ……。こんな悪い事をするなんて、許されると思ってるの!?」

「許される? 当たり前だろ? ここはそういうところなんだからなぁ」


 男達の話に、ミズヤはこの領地の異常性をイメージとして固着させる。

 ここは絶望の地、権利を持つ者が暴れて住民は絶望している荒涼の町であると。


「……そう。なら僕が許さない。この領地を将来治める者として、君たちを咎める!」


 ミズヤは黒魔法を発動する。

 影や物質を操る魔法で影より実践用の刀を手に取った。


「刀……? どこにそんな資源が……」

「おい待て。今の発言、カイサル様のご子息では……?」

「なんだと?」


 それに対し、金の兵はそんなやりとりを交わす。

 その隙を見て囚われた女性は逃げ出し、ミズヤもひとまず安息を吐いた。

 視線を兵たちに戻すと、彼らは品定めするようにミズヤを見つめ返す。


「……名前を伺っても?」


 そのうちの1人が小さな少年に名を尋ねる。

 ミズヤは素早く答えた。


「ミズヤ・シュテルロード。この領地の次期当主になる者です」

「やはり……。御身の地位もわからずに行ってしまった無作法な振る舞い、どうかお許しください」

「お許しください」

「……え?」


 すると、兵2人は膝を屈し、ミズヤにこうべを垂れる。

 対して、ミズヤは訳も分からずに刀を下げるのだった。


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