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連奏恋歌〜求愛する贖罪者〜  作者: 川島 晴斗
第四章:休息のオブリガード
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第2話:ミズヤの気持ち

彼ほど感受性の高い主人公は、なかなか居ないのではないでしょうか。

 みんなそうだった。

 霧代は僕が居たから死んだ。

 サラは僕に会うためにこの世界にやって来てずっと頑張ってきた。

 この世界での両親も、シュテルロードの家も滅んだ。

 瑛彦さんや環奈さん、キトリューさんは僕が居るからこの世界に居る。


 ずっとずっと、いっぱい、たくさん、償えきれないほどの迷惑を掛けていた。


 そして、メイラも死んだ。

 最期の笑み――その意味は理解できても、まだ別の道があったのを僕は知っている。

 僕も君も罪人なんだ、一緒に罪を償って歩んでいくことだってできた。


 僕だって何度も自殺した。

 生き返るたびに地面を殴りつける日々も、過去にはあった。


 君はそんな事も叶わず、もう2度と悲しみも苦しみも、喜びも表せない。

 君は生き返らないから。


 死なない僕に何かしらの力が宿ってるのは、サラと話してなんとなく感じた。

 でも、この力で誰かを幸せに出来たことはなかった。


 僕と近くにいるとみんな不幸になる。

 僕にある力は、他人を不幸にする力だったんだ――。


「ねぇ、サラ……?」


 薄暗い自室で、僕は手探りにサラの感触を掴み、その猫を抱え上げた。

 血の付いた手だったからか、いつもと触り心地が悪かった。


「……にゃー」


 無気力な声が返ってくる。

 とても悲しくも聞こえた。


「……サラ。僕はね、君を不幸にしたくないんだ……」

「にゃーっ……」

「だって、サラは僕のことが本当に好きだもんね。わかるよ、ずっと一緒だったから。だから、僕も大好きなんだよ?」

「…………」


 サラは無言で僕の手を優しく叩く。

 戯れのつもりなんだろう。

 僕の言葉を嬉しく思ってるのが伝わってきた。


 だから、そう。

 僕を好きでいたら、ずっと一緒に居て、不幸にしてしまう。

 だから、


「サラ……」


 ――僕と、別れよう。





 ◇




 軍議室には2つの影があり、外の扉には使用中の立て掛けがあった。

 使用している2人は、本来の目的での利用ではなく、1人の少年について話していた。

 小さな少女から一方的に話を聞き終え、向かいに座る女性は頷きながら言葉を返す。


「それは複雑な心境でしょうね……。前世の記憶があるとしても、ミズヤくんのあの性格では、事の重荷に耐えられないのは明白です」


 フードを脱ぎ、メガネを外した皇后は嘆きの言霊を口から出した。

 全てを見透かしたような澄んだ瞳は、正面に座るクオンを捉えている。


「……母上、私はミズヤに何ができるでしょう?」


 おそるおそるクオンは母に尋ねる。

 母であるサトリはしばし沈黙したのち、こう答えた。


「クオン。貴方はミズヤくんにどうなって欲しいのですか?」

「そんなの、元気になって欲しいに決まってます」

「うんうん、そうですよね……。ミズヤくんは、今は呪いが掛かっている。呪いとは厄介なもので、魔法の言葉じゃないと解除できないのです」

「…………?」


 クオンが首を傾げると、サトリはクスクスと笑った。


「単なる比喩ですよ。呪いとはミズヤくんの今ある負の感情の事。これを解く魔法の言葉を、貴方自身で見つけなさい。それが貴方の成長にもなるのですから」

「…………」


 ダンッと、クオンは机を叩いた。

 いつも冷静な娘が怒る仕草に、サトリは驚いて口を開ける。

 沈黙が流れたのち、クオンは再度口を開く。


「母上……そんな遊びをしている場合ではないんですよ。もし私の言葉でミズヤがこの城を攻めたら、どうなるかわかるでしょう! それほどミズヤは精神が不安定なんですよ!!」


 クオンの怒号が響き渡る。

 小さな体なのに、その言葉は真っ当で力があった。

 実の娘に怒鳴られ、サトリの方は


「……フフッ」


 可笑しそうに笑った。


「……何が可笑しいんですか」


 クオンは訝しみながら尋ねた。

 サトリはクスクスと笑いながら、娘の問いに答える。


「いや、その……フフッ。娘に言い返されるなんて、私はダメだなぁと思ったんですよ」

「…………」


 愉快そうな母の様子に、クオンは顔をしぼませる。

 こっちが困ってるというのに――そう思ってた矢先、サトリがクオンに問い返す。


「クオン、貴方はミズヤくんのことが好きなんですか?」

「……は?」


 間抜けな声が室内に響く。

 突拍子もなく問われ、わけがわからないと言いたい声だった。


「だって、貴方が必死な様子で相談を持ちかけて来て、今も私の言葉に本気で怒っている。貴方はよほど、彼を気に入ってるのですね」

「……。気に入ってるというのは否定しません。私は、彼に命を救われてから変わった気がするんです」

「どう変わってる、と?」


 重ねられる問いに、クオンは堂々と答えた。


「いままで、私は国のことと自分の身の事ばかりを案じていました。ですが彼と共にいて、友人や家族、隣人……国という大きなものよりも個人に目を向けるようになりました。私は彼から多くを学んでいるんです。命まで救われたのに、借りばかり増える。だからこの借りを返したい、それだけです」


 キッパリと言い放つその声はどこまでも真摯で、サトリはにこやかに笑顔を浮かべて聞いていた。

 国よりも個人へ――大陸を統一する皇族の姫として、それはとても大切なもの。


(これを機に成長を、と思いましたが……親がしなくても勝手に成長しているものですね……)


 少し悔しげにそう思い、サトリはため息まじりにこう言った。


「貴方の気持ち、分かりました。ミズヤくんの事について、私が考えられる限りを教えましょう。そして、これからの事も……」

「! はいっ、お願いします!」


 高々と声を張り上げ、クオンは改めて座り直す。

 そしてじっくりと話を聞き、対策を練るのだった。

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