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連奏恋歌〜求愛する贖罪者〜  作者: 川島 晴斗
第三章:魔物達の輪舞曲
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第22話:終幕

 暗く澱んだ空はまるで、そこに浮かぶ死人達が作ったように思えた。

 人骸鬼の群れ、そして魔王。

 レジスタンスに襲われた直後なのに、そのインパクトは絶大で、西軍に絶望を齎すのだった。


『私は……』


 魔王の低い呟きが、随分と大きく響き渡る。

 その一言で全ての者が顔を上げるのだった。


『――勧告したはずだ。この国に私は干渉する、出て行けと』


 おそらく、多くの者にはわからぬ言葉だっただろう。

 なにせ、勧告を受けた者は1人しかいないのだから。


「……僕は友達のために力を尽くします。贖罪は終わり、これは他でもない僕の意志です。僕には、ここを変えるだけの力があるのですから」


 ミズヤは力を込めてそう言葉を返した。

 彼にとって、クオンは主君ではない。

 1人の人間として、クオンはミズヤを励まし、前を向かせた。

 ミズヤもクオンを励ました事があった。

 お互い様、そんな関係を持つ“友人”としてクオンを見ているのだ。


 フォルシーナはその言葉を聞いて、そっと目を伏した。

 もはや語らうことはないと言わんばかりに。


 そこに、環奈が口を挟む。


「おい、フォルシーナ。アンタ何してくれてんの? 魔物が普通に居るから何かあったとは思ってたけど、アンタが主犯? ブチ殺すぞオマエ」

『ノール……いや。今はカンナだったか。貴女が居たのは140年も前の事だ。今の情勢もわからぬ其方にとやかく言われる筋合いはない』

「そっか、じゃあ殺すわ」

『ここから生き延びる事ができたなら、やってみるがいいさ』


 魔王の挑発に呼応するように、人骸鬼達は咆哮を上げた。

 そしてその手に黒き武器の生成を始める。


「……絶望的な状況っすねー」

「まったく、嫌になるわ……」


 傷の殆どを修復したマナーズがヤーシャの肩を借りて立ち上がる。

 空に見えるのは絶望、戦力は1人でも多く欲しいところ。


 ただ、此処でそれは不要なのかもしれない。


 ドシュン――。


 風のように過ぎる衝撃波が、人骸鬼を撃ち抜いた。

 ジャージを着た無傷の兵の1人が、ドライブイグソーブで放ったのだ。


 人骸鬼はその構造が見た目通りの骨格標本であり、力に対してとても脆い。

 遠距離で岩をも砕くイグソーブ武器を用いれば、彼らは単なる的に過ぎない。


「人間相手と違ってぶっ壊せるからな! 本気でやらしてもらうぞ!」

「【黒天の血魔法(サーキュレイアルカ)】を撃たせるな! こっちの方が数は多い、撃ち墜とせ!!」


 兵士達は呼びかけあい、空に向けて攻撃を放っていく。

 人骸鬼の幾つかはそのまま破壊され、殆どは黒い障壁を張って防いでいた。

 持っている魔力量、威力が違うのだから防がれるのは仕方ない。

 ただ、それでも――


「遅過ぎるんだよな」


 空でドライブ・イグソーブを射出させながら、マナーズは骸骨の1つを片手で遊ばせて人骸鬼の真ん前に立っていた。

 顔と顔の距離は20cmあるかないか、その距離にして彼は平然として遊んでいた。

 人骸鬼が手を挙げる、これ以上格好の獲物は無いのだから。


「……あれ。遅いって言ったのに、やっぱり言葉通じないからダメか」


 ただ、その手が降りるよりも早く、マナーズはその人骸鬼を過ぎ去っていた。

 片方の手に持っていた骸骨を、新しいものに変えて。


『だが、矢張り足りないか』


 戦況を見ながらフォルシーナは呟く。

 彼女は手を出さず、一体の人骸鬼が大剣を下へ落とすのを見守った。

 その件が有する【悪苑の剣戟(グジャロード)】の力はこの基地を砕くには十分で、その1撃を見た途端に全ての攻撃が緩んだ。


「【悪苑の砲爆(ハウルングロード)】!」

「【七千穹矢】!!」


 しかし、地上からの黒い光線と無数の赤い矢が空へ馳せ、相殺――否、【悪苑の剣戟(グジャロード)】を突き破り、天辺まで登って行った。


「地上は僕達が守るよ」

「アンタらは手ェ止めずにやっつけなって!」


 頼もしい少年少女の声を聞き、兵達は笑みを浮かべた。

 遠慮も配慮も不要、脆い敵を倒せば良いだけなのだから。


「アタシも忘れられたら困るのだけど……」


 地上から新たな攻撃が飛ぶ。

 氷の槍が群れを成し、飛散して行った。

 この戦闘において、活躍が少ないヤーシャとしては、マナーズよりも人骸鬼を減らしてメンツを保ちたいところだった。


「あー、この槍おっせー」

「ちょっ、人の攻撃を足場にしてんじゃないわよ!!」


 しかし、結局はマナーズが氷を足場にしてさらに早く人骸鬼を減らすのだった。

 100体いた。人骸鬼は瞬く間に数を減らしていく。


 だが、最後の一体を倒し終える頃には、魔王も、そしてレジスタンスも、完全に姿を消しているのだった。




 ◇




 今回の戦闘で、死者が3人でた。

 レジスタンスとの最初の攻防で、イグソーブ武器にやられたのだった。

 負傷者は大量に出るも、ミズヤの【四千精創】で傷は癒えた。

 ただ、死者は生き返らない。


 捕らえたレジスタンスは437名、これはミズヤの成果が大きかった。

 教会で捕らえた人数があまりにも大きかったのだから。


 教会で留守番していたサラは、メイラを見て難色を示すも、主人が悲しむのであまり追い詰めようと思わなかった。


 戦いの被害は少なく、クオンも無事、ナルーも特に問題ない。

 なのに、遠征に来た人物達の気持ちは、穏やかではなかった。


「……休めって言われて、休めるわけないじゃんね」


 食堂の片隅に固まった遠征組の中で、テーブルに足を引っ掛け、ダラリとした環奈が言葉を零す。

 誰も彼女の悪態を咎める者は居なかった、果たしてどのようにして休めば良いのか、胸に一物ある気持ち悪さをどうすれば良いかわからなかったから。


「……ねぇ、キトリュー。今から西大陸行かない?」

「フォルシーナとやらは魔物を自由に操れるのだろう? やめておけ、今度は人骸鬼100体では済まんぞ」

「つってもさー……あーもう、キトリューのばか。もうウチ寝るから、また後でね」

「…………」


 そそくさと立ち上がり、環奈は頭を掻きながら出て行った。

 キトリューはやれやれと肩を落としながらも、その顔色は良くない。


 140数年前、彼らは魔物の魔物を管理する立場にあった。

 魔物は地上に出さず、地下のみで管理していた。

 それを今では、魔物は自由に解放され、魔王なる存在が操っている。

 それが許せず、歯噛みをしたくなっていた。


 だが、それ以上にやつれているのは、ミズヤだった。

 今もテーブルの上に顔を伏せ、その帽子の上にはサラが乗っている。


「……ミズヤ。いつまでも拗ねてないで、顔を上げてくださいよ」


 クオンが疲れた声で促すも、ミズヤは顔を上げなかった。

 というか、サラが乗っているから無理なのだが。

 そんな彼でも、声は出すことができる。


「ねこさんはもうダメですにゃ」

「貴方は人間ですから、もう少し頑張ってください」

「もう手伝いたくないですにゃ」

「……体を動かしてた方が、嫌な事も忘れていられますよ」

「…………」


 嫌な事と聞いて、ミズヤは口を(つぐ)んだ。

 メイラはまだ起きないが、一命を取り留めている。

 時期に目を覚ました時、ミズヤは再び彼女と会話をするだろう。

 何を話すべきなのか、どうしたら良いのか、彼にはわからない。


 霧代の事は払拭された。

 しかし、それも含めてシュテルロード家という過去は家と共に崩壊し、今では何の接点もないただの少年少女。

 何を話すべきか、そして彼女はミズヤを許したのか。

 ハッキリしていないのが嫌だから、話すのが怖い。

 ……いや、


「ハッキリさせなきゃ、ダメなんだよね……」


 頭上のサラを両手で掴み、ミズヤは顔を上げた。

 抱えたサラを胸に抱き、口元に指を持っていくと甘噛みしてきて、ミズヤは自然と笑みをこぼす。


「ニャーッ!」

「痛っ!!?」


 そして間もなくサラのビンタを喰らい、倒れ伏してしまう。

 この理不尽な暴力にミズヤは何も言わず、胸に乗っかるサラの頭を撫でる。


「サラ……励まそうとしてるんでしょ? ありがとう、僕は……」


 君に背中を押してもらえれば、頑張れる。


 それはつい呟いた言葉だった。

 ミズヤは自分でキョトンとするも、サラは満足気に頷くのだった。

愛惜のレクイエムで、霧代との再会を後押ししたのも彼女でした。


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