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連奏恋歌〜求愛する贖罪者〜  作者: 川島 晴斗
第三章:魔物達の輪舞曲
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第20話:4つ目の瞳

 空を駆ける黒い流星。

 環奈の放った【一千衝華】は空を煌めき、そして一瞬の輝きはすぐに消え去った。


 落ちてくる人影が1つ、その体は鎧の至る所が壊れ、血が至る所から噴出していた。

 落下する体に向け、環奈は【無色魔法】を発動する。


「【無色魔法(カラークリア)】、【重力低下(グラビティ・ディクライン)】」


 重力加速度の終端速度を極端に下げ、ゆっくりと降下させた。

 彼女の落下地点まで環奈はのんびりと歩いて行き、着地しそうなその刹那、刀を振るう。


「【羽衣正義】」


 先ほど外した一撃を、今度は確実に当ててみせるのだった。

 斬ることによる外傷はなし、だが


 メイラの六翼からは、黒い光が飛び出した。

 滝が逆流するような大量の悪魔力が世界を駆け巡る。


 悪意と善意の変換、世界の善悪量が平等のこの世界では、悪意を吐き出して善意を取り込むことが交換となる。

 一通りの黒い魔力が吐き出されると、次の瞬間には白い光の塊が、少女の翼へと飛び込んでいく。


 次こそは滝が落ちるように、その凄まじい風圧に環奈は気圧されることもなく、少女を見守る。

 白い光もやがて収まり、爆風が吹き荒れるとメイラの体からは黒い鎧が昇華し、桜色の地に倒れ伏した。


 衣服のない彼女に向け、環奈はジャージのジッパーを下ろして少女にバサリと掛けた。


「……ふぅ」


 一仕事終えたかのように息を吐き出し、彼女は【二千桜壁】を解除した。

 花びらの群れに隠されたバスレノス兵達も顔を覗かせ、戦いが終わったのかとざわつき始める。


 マナーズはミズヤの回復魔法も途中で、命に別状はないが未だ起きず、ヤーシャはすでに戦闘体勢に入っていた。


 対して、レジスタンス軍は特に焦りもなく、ダメだったか――程度の認識で、トメスタスは目下を見下していた。


(マナーズは戦闘不能……これは重畳だが、ここで大将クラスの戦力が“神楽器”を持って参戦か。ギターを回収して撤退するのが得策だが――)


 敵戦力で残る強者は環奈とキトリュー、そしてヤーシャのみ。

 キトリューが不参戦とすれば、たった2人。

 そしてレジスタンスの主戦力も、ミュベスとトメスタスの両名なのだ。


「――ここで西軍を潰しておくか」


 環奈は不明だが、ヤーシャならば勝てない相手ではないと踏み、その判断を下すのだった。


「“ブラッドストーンの瞳”」


 トメスタスの右目が黒と赤の禍々しい色に変化する。

 その宝石の瞳は強固の石言葉を持つ瞳で、彼は再び基地を包み込む大結界を張るのだった。

 そして次に、左目が輝く。


「“モルダバイトの瞳”」


 褐色の瞳を輝かせ、彼は空を仰いだ。

 (チェーン)、ブラッドストーン、サファイア、そしてモルダバイト。

 4つ目の瞳、その目の色を見たミュベスは不敵に笑った。


「終わりですわ、何もかも……」


 哀れむような言霊は、誰にも聞かれることなく消え去り、次の瞬間には空が瞬いた――。




 ◇




「まったくさぁ……」


 疲れを見せる環奈の声、それは空を見てのことだった。


 結界にフィットするほどの大きな岩――直径300mはあるだろう。

 緑褐色に光るその岩はまるで隕石のように、ゆっくりと落下しているのだった。


 あんな物が落ちてくれば全員が死に、基地も真っ平らになることは想像に難くない。

 幸いなのは隕石の降下がゆっくりであること。

 空から降ってくるソレが着弾するまで2分はかかるだろう。

 だから、彼女は飛んだ。


 一瞬にしてヤーシャの前に立つ環奈はすぐさま羽衣とヴァイオリンをヤーシャに押し付ける。


「アンタ強いっしょ!? 【羽衣天技】頼んだよ! ウチは【悪苑の殲撃(シュグロード)】とか【悪苑の剣戟(グジャロード)】とかで、アレぶっ壊すよ!」

「! えっ、ええっ! やるっきゃないわね!」


 絶望にしか見えない岩の塊、ぶっ壊すためには貫く貫通力がいる。

【羽衣天技】と【黒天の血魔法(サーキュレイアルカ)】の同時発動ならば――


「【黒天の血魔法(サーキュレイアルカ)】――」

「【羽衣天技】――」


 ヤーシャは刀を振り被り、環奈は両手に槍を構える。

 お互いに黒い魔力を放ち、2人の武器は漆黒に染まった。

 そして、放つ!


「【悪苑の殲撃(シュグロード)】!!!」

「【一千衝華】!!!」


 黒い槍が先行し、周りを回転しながら黒い魔力の塊が渦を巻いて進んでいく。

 一瞬のうちに衝突を起こし、爆音と爆風が世界を満たすのだった。


「やった……かな?」


 この世で最も強いと思われる2つの魔法を合わせた、それでも疑問に残り、環奈は何者にでもなく問う。

 やがて煙が晴れると、そこには――未だ降下し続ける、隕石が映るのだった。


「――イケそうじゃん」


 だが、その表面には深いクレーターができており、パラパラと石の破片が落下している。

 もう一撃で終わり、その筈なのだ。


「でもウチ……もう、撃てないや……」

「!!? カンナさん!?」


 一歩、二歩と歩き、環奈は前のめりに倒れた。

 どしゃりと地面に倒れる体、それを颯爽と現れたキトリューが拾い上げる。


「まったく、馬鹿な女だ。自分の魔力限界はわかってただろうに」

「……神楽器、あったし…………あの、ギターを…………」

「今のお前が40倍の魔力になっても付け焼き刃にしかならん、休んでろ」

「ッ……ウゥッ…………」


 環奈は目を閉じ、キトリューの胸の中で喋らなくなった。

 意識を失ったと知ると、キトリューはヤーシャに告げる。


「ヤーシャ殿、アレを壊してくれ。落ちる破片は俺が避けさせる。頼むぞ」

「……まったく、こちとら初めて使う武器だってのに……」


 文句を言いつつも他に手はなく、ヤーシャは再度刀を振りかぶった。


「【羽衣天技】――」


 そして再び、黒い魔力が刀に集い始める。

 大きな渦を巻いて集まり続ける黒い風は全て吸収を終えると、空に向けて刀を突きつける――。


「【一千衝華】!!!」


 黒い魔力の塊は流星の如くスピードで、隕石に衝突に――再び爆音を轟かせた。

 破壊を確認するまでもなく、粉砕された岩が散弾となって地上に迫る。


「【時間調節(タイム・コントロール)】!」


 しかし、全ての落石は時間がスローモーションとなった。

 だが時間が遅くなるからとはいえ、その威力が衰えるわけではない。

 だから、彼はまた魔法を使う。


「【無色魔法(カラークリア)】、【圧力減少(フォース・ディクライン)】」


 魔法名を唱えた刹那、隕石よりも下の空間に、幾重にも重なる薄緑の障壁が展開された。

 ゆっくりと落ちる岩の群れは障壁に侵入すると方向を変えつつ、さらにまた1枚と入るごとに力を小さく、方向を大きく変換させていくのだった。


「【時間調節(タイム・コントロール)】、【解除(リリース)】」


 広い空間でずっと時間を延滞させるのは魔力の消耗が激しく、彼は魔法を解いた。

 刹那、戻った時が落石を始めさせるも、その落下スピードはあまりにも遅かった。

 ズドン、ズドンと落ちる岩は当たることなく、結界の端に積み重なって行く。


「フーッ……やってくれるな……」


 汗を一粒垂らし、キトリューはその場に座り込む。

 魔力の消耗は皆激しく、バスレノス軍はイグソーブ武器を使う兵達の戦力が残されているものの、それだけではまだ――


 ゴォォォォオォ――


 二発目の隕石は、防げそうにない――。

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