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連奏恋歌〜求愛する贖罪者〜  作者: 川島 晴斗
第零章:シュテルロード
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第7話:外へ

 ミズヤとメイラはどんどん疎遠になっていった。

 メイラはミズヤの側に居ることがなくなり、お互いに孤独を味わう事となる。

 無論、ミズヤに関してはサラが居るのだが……。


 2人に距離が開いたものの、時は刻々と過ぎて行く。

 既に10日が経った頃、ミズヤは父に書斎へ呼び出された。


「父上、何用でしょうか?」

「……うむ」


 カイサルは重厚な椅子に腰掛け、両手とも机に肘ついて頬杖を作りながらミズヤを見た。

 見られた少年はにこやかに笑ってカイサルの正面に立っている。

 いつもの黄緑色の法被(.はっぴ)に白いぶかぶかズボンのような軽杉を履いていた。


「……ミズヤ、私達に招待状が届いた」

「招待状……? どこからですか?」

「南の方にあるアルトリーユからだ。親睦会みたいなものだが、特にシュテルロードのご子息は必ずお連れしろと書いてある。……7色使える奴は伝説のような存在だから、海外でも興味があるようだな」

「は、はぁ……」


 国外でも話題らしく、ミズヤは照れ臭そうにそっぽを向いた。

 贖罪を考えつつもこういう仕草をしてしまうのは彼の純粋さ故である。


「それで、お前を連れて行くのはそうなのだが……その前に、お前に見てもらいたい場所がある」

「はい……それは、どこでしょう?」

「この家の外だ」


 その子も場を聞くと、ミズヤは毛が逆立つような錯覚を覚える。

 身震いとも言えたかもしれない。

 10年間閉じ込められた彼は、漸く外に出れるのだから。


「父上、ということは……」

「ああ、好きに行ってこい」

「や、やったーっ!」


 わーいわーいと両手を挙げてミズヤは喜ぶ。

 その反面、カイサルの顔つきは険しかった。


 外の事はミズヤの耳に入っていない。

 だからこそ外を見たときに驚くだろうし、優しく純真なミズヤは酷く悲しむ(・・・)のが目に見えていたのだ。


「……ただし、今日1人で街に行って、日が沈むまでに帰って来なさい。いいな?」

「はいっ! えへへ、楽しみ〜っ♪」


 1人で踊るミズヤは心からの笑顔を見せていて、カイサルの胸が痛む。

 しかしシュテルロード家の当主として、次の当主に現状を理解させなければならなかった。


「では行きなさい」

「はいっ、失礼します!」


 大きくお辞儀をしてミズヤは退室して行った。

 書斎に残されたカイサルは1人で嘆息を吐く。


(……そういえば、メイラはミズヤに絡まなくなっていたな)


 ふと彼は思いついた疑問を考える。

 使用人の分際でミズヤに寄り付いている悪い虫、そう考えていたカイサルにとっては好都合であったが、2人の間に何があったのかは知らないのだ。


(今の内に聞いてみるか……)


 カイサルも席を立ち、メイラに事情を聴くべく書斎を後にするのだった。




 ◇




「お兄様ずるいーっ! 私も連れてってーっ!」

「リヤは10歳になったらねーっ」


 5歳の妹がミズヤに抱きついて離さず、その頬はぷくぷくと膨らませていた。

 外がどうなっているのかはリヤも知らないのである。

 廊下でバッタリ遭遇して話をしてしまい、ミズヤは動けずにいた。

 リヤと一緒に歩いていたサラもミズヤの靴元に丸くなっている。


「リヤは魔法のお勉強を頑張ってね〜っ」

「えぇ〜……。お勉強したくない〜っ」


 ぶーぶーと不満を口にしながら彼女はミズヤをポコボコと叩く。

 4色の魔法を使えるリヤも将来有望なのだが、ミズヤよりもやる気がないのが現状である。


「じゃあサラと遊んでてっ。お土産買ってくるから……ね?」

「……わかったよぅ。お兄様のケチ! サラ、行くよーっ!」

「にゃー!」


 そうしてリヤとサラは行ってしまい、ミズヤは玄関を目指す。

 その際に誰か親しい人とは会わなかった。


 ガチャンと大きな扉を開いて大皿の広がる外に出ると、あまりいい天気とは言えなかった。

 雲が並び、青い空を隙間なく埋め尽くしている。

 雨が降るかもしれない……そう予測しながらも、折角得た機会をミズヤは無駄にするわけもなく、玄関から出た。


「ミズヤ」


 そこに声がかかる。

 ミズヤはくるりと振り返ると、その目先には母のフィーンが立っていた。

 白い髪揺らして歩き、ミズヤに近づいて来る。


「母上……僕、父上に外を見てきていいって言われて――」

「聞いていますよ。だからお見送りに来たんです」

「そ、そうでしたか……えへへ」


 止めるわけではないようで、ミズヤは安心して微笑む。

 しかし、その笑顔がフィーンには悲しかった。


「……ミズヤ、手を出して」

「は、はい」


 フィーンに言われて手を出すと、ミズヤの小さい手に赤と黄色の鈴が収まった。


「……これは?」

「お守りよ。1人で外に出るなら、気を付けなさい」

「ぼ、僕はもう10歳ですよーっ! 子供じゃないんだからーっ」

「ふふっ……そうかしら?」


 よしよしとフィーンはミズヤの頭を撫でる。

 まだまだ身長差があるのを示すようにされ、ミズヤは頭を振って手を振り払った。


「うぶぶぶっ、あと2年もしたら母上より身長高くなりますから! 覚えててよーっ!」

「うふふ、いってらっしゃい」


 そのままミズヤは外へと飛び出し、庭を駆ける。


「【無色魔法(カラークリア)】!!」


 空間を操る無色の魔法を使い、少年は家の塀を越えて飛んで行った。

 その先にある、家の外の世界を見るために――。

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