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連奏恋歌〜求愛する贖罪者〜  作者: 川島 晴斗
第三章:魔物達の輪舞曲
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第8話:マナーズvsキトリュー・前編

 クオン達は食堂を出てすぐに外へ向かい、訓練場へと向かう。

 外を出て右を見れば、そこでは既に訓練が行われていた。


 ドライブ・イグソーブ、ラージ・イグソーブによる砲撃、刀の武器による斬撃が飛び交い、30名にも及ぶ人間が空を駆け地を蹴り、無差別に攻撃をし合っていた。


「……これは?」

「無差別戦です。この時間には1番強いグループが外で全員揃って模擬戦をするんですよ。午前中は中で基礎訓練を、今はその基礎訓練を第二グループがやってます」


 クオンの言葉にヤーシャが答え、その後に聞こえた轟音に皆は戦いを見る。

 イグソーブ武具による攻撃の応酬、結界や通常魔法によるガード、まるで決着がつかず、誰も倒れることはなかった。


「……静かだ」


 ポツリとケイクが呟く。

 静かだと言われれば、衝撃波や金属のぶつかる音がうるさいのだが、そうでは無い。

 誰も声を出さず、目を開いて周りを見ながら戦っているのだ。

 イグソーブ武器は使うのに魔法名を言う必要がなく、そして何より、全員が戦いに集中し、ピリピリとした空気が包み込んでいる。


 しかし――ミズヤや環奈、キトリューは別段何かを感じることもなく、表情を変えることはなかった。

 それはミズヤ達が戦いの質を見抜けないからでは無い、これを普通だと思ったからだ。

 ミズヤは10歳からの12歳までに死線を潜ることも多々あり、環奈達も150年前の【サウドラシア】で戦争を経験している。


 弱いとは言わない――しかし普通だとしか言えないのだった。


「おいおい、おめーら全然決着つかねーじゃん。舐めてんのかー、やる気出せー」


 不意に聞こえた人の声に、クオン達はそちらを見た。

 気怠げでやる気の無い声を出したのは、傭兵をやっているというマナーズであった。

 彼は芝生の上に寝転がりながら、のんびりと戦いを見届けていた。


「彼には一応、この場で監督をさせてるんですよ……。あんななりですけど、手練れですので」


 控えめな様子でヤーシャが説明をすると、同時にマナーズが見学者に気付く。


「おいお前らー。一旦やめ」


 マナーズの指揮で戦闘はピタリと止み、30人近くのジャージを着た戦士が重機を下ろし、汗で濡れた顔をミズヤ達に向けるのだった。

 そんな折、マナーズは立ち上がってのそりのそりとヤーシャの所まで歩いた。


「これはどーも、ヤーシャさん……なんすか?」

「ちょっとみんなに見学してもらおうと思ってね。折角滞在してもらうわけだし」

「あー……まぁ、2時間に1回停電するこの施設に居るよりは、外の方が良いっすよね。ふぁぁあ……」


 ヤーシャの回答に対し文句と、オマケに欠伸をして相槌を打つマナーズの腹に、ヤーシャの蹴りが飛ぶ。

 照明についてはまだまだ試運転であり、何度も停電が起こるのは事実で、彼らも昨日からその洗礼を受けていた。

 だからと言って基地の侮辱は許されないのだが。


「いってぇ……。ったく、なんだよ……。模擬戦するなら相手になるぞ?」

「そう? ちょうど良いわね。皆さんの中から誰か戦ってみない? 勿論、イグソーブ武器だけでね」


 好都合と言わんばかりにヤーシャが提案するが、イグソーブ武器だけと言われれば戦える者は限られる。

 武器の扱い方さえ知らないミズヤ達【ヤプタレア】勢は論外として、皇女が大怪我を負うのはいけないからクオンも外れる。

 ヘリリアとケイクが残るが、この2人も普段からイグソーブ武器を使う者ではなく、戦いは渋ってしまう。


「……めんどいから素手で良い?」


 誰も挙手しない中、環奈がぶっきら棒に呟いた。

 素手で――舐め腐ったように聞こえたそれは、マナーズを唸らせた。


「ほーぅ……俺は構わないんスけどね。ボコっても」

「攻撃系と結界系以外の魔法は使っても良いっしょ? 殺さんからさ」

「……おい待て環奈」


 戦いに提案を重ねる環奈の頭をキトリューが右手で掴む。

 その手には徐々に力がこもり、環奈が短く悲鳴を上げる。


「痛い痛い痛いっ。死ぬ、死ぬから……!」

「お前はどうしてそう喧嘩っ早いんだ。やれやれ……面倒なら俺に任せろ」

「んっ、じゃあ頼んだ」

「……まったく」


 やるせ無い感じでキトリューは環奈の前に出る。

 戦いの前であるというのに、対戦者の顔を見ても眉一つ動かさないキトリューに、マナーズはこう言った。


「……無愛想だなー、お前ら。どっちでもいいんで、相手んなるからこっち来な」

「…………」


 マナーズが訓練していた方へ足を進めると、キトリューもそれに倣ってついて行く。

 訓練をしていた兵達は全員芝生の上に降り立ち、邪魔にならないよう無言で四方に散って行く。


 開いた空白の間に、2人は一定の距離を保って立った。


「……いいんですにゃ?」


 ミズヤはそうクオンに尋ねた。

 元Sクラスの実力者というのは、世界最高峰の力を持つ証であり、たとえイグソーブ武器だけで戦ったとしても戦闘のセンスはズバ抜けているのがわかっている。

 イグソーブ武器の攻撃は外相を与えないとはいえ、一撃受ければ吹っ飛ぶのは間違いないのだ。


 しかし、模擬戦を見たクオンにはわかるのだ。

 キトリュー・デメレオス――彼は素手(・・)でも戦えるということを。

 だからこそ彼女はミズヤに頷いてみせるのだった。


「今がどうかは知らないが――王族貴族は何色も魔法が使えるため、戦闘の際は最前線で戦っていた。昔の話だがな」


 パキパキと指の関節を鳴らしながら、キトリューは呟く。

 マナーズはその言葉を拾いつつ、自身の影から2丁のドライブ・イグソーブを取り出した。


「へぇ……。ま、俺はそんなん興味無いんすけど、ラナさんやトメスタスさんが戦ってるし、そうなんじゃないッスかね」

「お陰で無駄な技術が身についたものだ」

「……よく知らないッスけど、武器使わないならハンデあげますよ。【赤魔法】で身体強化して良いです。あと……魔法で防ぐのはお互いにありで」

「心得た」


 お互いにルールを決め、マナーズが左手のドライブ・イグソーブを構える。


「先行はあげます。どうぞ、かかってきてください……」

「では、遠慮なく行かせてもらうか」


 キトリューはありがたいと言わんばかりに笑い、芝生を踏みしめた。

 彼が笑う――それは不思議なもので、クオン達は召喚魔法の時から一度も見たことが無い。

 だからその笑みには何か意味があるように思えた――しかし、素手で戦うと宣言した以上、前言撤回の余地もなく、キトリューは前に向かって全力で走り出す。


(速い――!)


 マナーズは瞬時にバックステップを踏み、左手のドライブ・イグソーブを後方に向けて煙を噴射させる。

 ひとりでに飛ぼうとするドライブ・イグソーブに掴まって勢いのまま空中に飛ぶと、次の瞬間にはキトリューがその場所を手で薙ぎ払っていた。


 キトリューが足を地に食い込ませて薙ぐと、進むスピードは一時低下する。

 そしてマナーズは敢えて、ここで右手のドライブ・イグソーブから衝撃波を打ち出した。

 縦長でウェーブ状の見えない斬撃、カチンカチン! と打ち出されたその数は4。

 1つならば避けるのも容易な縦長の攻撃、しかし4つほぼ同時の攻撃は避ける事が叶わない。

 だから


「【無色魔法(カラークリア)】、【力の壁(フォース・ウォール)】」


 空気の壁を作り出し、キトリューは自分の身を守る。1撃、2撃とぶつかる度に爆風が吹き荒れるも、壁はまるで壊れる様子が無い。

 岩をも砕くドライブ・イグソーブの攻撃がまるで効かないと、彼は無表情で防ぎきる。


「背中いただき」


 だが、防いだ直後には既にマナーズがキトリューの背後を取っていた。

 足を止めて防ぐ、それだけの時間でマナーズは移動したのだ。

 これはドライブ・イグソーブを使ったから?

 否、これはただ“音を立てずに走っただけ”である。


 マナーズとて、ドライブ・イグソーブのみで戦うとは言っていない。

 自身への補助として【赤魔法】による肉体強化を行い、目にも留まらぬ速さで走っただけなのだ――。


「取り敢えず1回死亡な――」


 ドライブ・イグソーブにある第3のボタンを押し、鉄の塊より青い剣先が生み出される。

 肉体強化を加味した一撃が、キトリューへと振り下ろされた。


 刹那、時間がスローモーションのようにゆっくりと動き出す。

 まだ刃は空を向き、振り下ろされる前であって――そんな中、キトリューは自分だけが時間に囚われていないかのように、くるりと振り向いた。


 コツンと刃の側面を押し、斬る対象を自分から何も無い所へと変換される。

 そして時が正常通り動き出し――刀は空振りを決めた。


「フッ――!」

「ぐうっ!?」


 そしてキトリューは、空振りでバランスを崩したマナーズの腹部に拳を叩き込んだ。

 人間離れしたパワーにマナーズは歯を噛み締め、くの字に曲がって吹っ飛んでいく。


「チィッ……!」


 しかし、そのまま倒れることは無く、空中で体勢を立て直し、後ずさりながらも着地する。


(……ヤバいなぁ、あのパワー。他のガキと比べて少し筋肉ある奴だと思ったけど、イグソーブ武器の攻撃食らったみたいだわ……)


 後追いをしないキトリューを他所(よそ)に、マナーズはすかさず考察する。

【赤魔法】による筋力の増強、それにしては強すぎるパワーと、時間が急にゆっくりになった感覚。


 敵が何故素手で良いと言ったのかがわかる一撃であった。

 もしドライブ・イグソーブという鉄の塊で殴られていれば、死ぬ可能性もあっただろう。

 スピード、パワー、これについては一級品と認める他なかったのだ。


「……んで、さっきの何?」

「……?」

「時間が長く感じた。一瞬で振り下ろすはずが、3秒程度に感じたあの時間ッスよ」

「あぁ、なんら難しいことではない」


 キトリューは殴った右手を何度もグーパーを繰り返しながら、こう答えた。


「【無色魔法】で、時間を拡張しただけさ――」

原初読んだ人にわかる、ちょっとしたネタ。

天国のサァ王「いけぇ弟よ!! そんな奴けちょんけちょんにしてしまえ!!」

ルガーダス「誰だお前」


こんなん【無色魔法】が無双過ぎるけど、サァ王もそうですが秘術です。同じ【魔法入力板(マジシャン・ボード)】の魔法系アルゴリズムは同世界に存在しません。

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