表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
連奏恋歌〜求愛する贖罪者〜  作者: 川島 晴斗
第三章:魔物達の輪舞曲
68/147

第5話:サラの話・中編

「ニャーゥ」

「サウドラシアについての話はここまで、だそうです」


 会話も一区切り、全員の緊張も解ける。

 サウドラシアについて、という事は、次にあるのはミズヤの前世関連である。

 その事が理解できると、クオンは口を開いた。


「私達は、いない方がいいですか?」

「ニャーッ」

「勿論、とのことです」

「……ではケイク、ヘリリア。先に裏で待っていましょう。サラ、ありがとうございました」


 礼儀正しくお辞儀をして、クオンは再び薄暗い道へ戻っていった。

 その後をケイクとヘリリアが、遅れながら退室した。

 残ったのは、【ヤプタレア】の世界でも生きていたサラ、ミズヤ、環奈、キトリュー、そして翻訳者であるナルーと住人の夫婦。

 残った者を特に気にする様子もなく、サラは今一度ミズヤの腕から抜け出してナルーの上に立つ。


「あっ!? ナルー様!」

「ホッホ、構いませんよ」


 慌ててメリクが身を乗り出すが、ナルーは笑顔でこれを制する。

 猫1匹乗るぐらい、訳ないのだ。


「ニャゥーッ」

「どっちかといえば、ここからが本題だそうです」


 翻訳された言葉を聞いて、再びミズヤは息を飲む。

【ヤプタレア】での話――それを聞けば、ミズヤは自身のことを、正体を知れるのだ。


「ニャーッ、ミャ〜ッ」

「と思ったけど、環奈が居るんだから環奈に聞いて、と仰ってます」

「……あれ?」

「え、ウチ?」


 ご指名を受けた環奈は驚いて自分を指差すも、サラはコクリと頷いた。

 ミズヤは驚きつつも、環奈が自分をどれだけ知ってるのかもわからず、これでいいのかとも思っている。

 しかし、


「【束縛(リストレイント)】」


 環奈の放った黒き鎖がミズヤを縛り上げる。

 急に魔法を受けた彼は鎖の重みから倒れた。


「にゃーっ!?」


 可愛い子供の叫びが教会に響き渡る。

 ジタバタ足を動かすミズヤだが、全く抜け出すことはできなかった。


「ごめんね〜、ミズヤ。アンタ話聞いて逃げるかもしれんから、とりあえず拘束したわ」

「逃げませんよぅ、逃げませんよぅ……」

「いやそんなことないんじゃん? 話してみないとわからんし」

「ひぃーっ!」


 ジタバタが止まらないミズヤの体をキトリューは持ち上げ、椅子に座らせる。

 ぷくぷくとほっぺたを膨らませているが、ミズヤも(ようや)くおとなしくなった。


「……で、何話せばいいん? ミズヤも【ヤプタレア】の記憶が無いなら、前世の恋人……“霧代”だっけか、その子の事で色々聞きたいんじゃん?」

「ッ……!」


 霧代――その名前を出され、ミズヤは下唇を噛み締める。

 みんなが知っている、霧代という名前。

【ヤプタレア】での自分はそんなに言いふらしたのか――そんなに薄情な自分が別世界に居たのかと、嫌悪感を剥き出しにするように……。


 だが環奈はミズヤの反応を、興味があると判断する。


「やっぱり気になるんでしょ。まぁウチよりもサラの方が詳しく知ってるんだろうけど、翻訳で会話じゃあ、ね〜?」

「……。それは、気にはなるけど……」

「でしょ? じゃあ訊きなよ。知ってる限りは話してあげるから」

「…………」


 ミズヤは無言になり、顔を下に向けた。

 今ならなんとなく、彼も拘束された理由がわかる。

 この話題を問いかけることは自分の胃に穴を開けるようなものだから。


 しかし、あらかじめ絶たれた退路を進むことはできない。

 ミズヤは沈黙を続けることができず、環奈に尋ねる。


「どうして……環奈さんは、霧代のことを知ってるの?」

「簡単な話、アンタもウチも転生者だったからだね。ウチは【サウドラシア】から【ヤプタレア】に、アンタは【地球】から【ヤプタレア】に転生した。それでお互い、過去のことを話したのさ」

「でも、瑛彦だって……」

「瑛彦はアンタと沙羅が付き合いだしてから、アンタが教えたんよ。瑛彦も瑞揶の幼馴染だし、ずっと瑞揶が恋愛しない理由を知りたがってたようだから」

「…………」


 ずっと恋愛をしていなかった、その言葉にミズヤは少し救われた。

 恋愛を疎ましく思っていたなら、今の自分も大差ないのだ。

 しかし――


「なんで、僕は……沙羅って人と、付き合ったの?」


 この理由はまるで不明瞭であった。

 霧代の事があるのなら、絶対に他の人と付き合うことはない。

 なのに響川沙羅という人間と恋仲になっていたというのは、矛盾が生じるのだ。

 この質問にも環奈は淡々と答える。


「瑞揶は、霧代と再会したんよ。霧代と瑞揶はずっと会えずに居た。でも本当は、瑞揶の守護霊として、瑞揶の事をずっと見ていた。これは【ヤプタレア】でのアンタから聞いた話だから、ウチはよく知らないけど、アンタが笑う所も、泣く所も、自傷する所も、なんでも見ていたんじゃないかな。それで霧代も、アンタに幸せになって欲しいと願ってたんだよ」

「――――っ」


 ミズヤは言葉が出なかった。

 響川瑞揶の自分で無くとも、ミズヤ・シュテルロードとしての自分も、少なくとも幸せな人生を送っていなかったから。

 今の姿を霧代が見たらどう思うだろうか――。

 家族を亡くし、贖罪を目指し、迷い、自傷をし――そんな自分に幸せを願ってくれる人が見たら、どう思うだろうか。

 そう、だから……


「僕は、ずっと間違えてたのか……」


 辿り着いたその答えに、否と言う声はない。

 その答えを捉えるのはミズヤ自身であり、そして今では霧代が居なくとも、目に見える形で、サラという1匹の猫が、5歳のときからずっと彼を見守っている。


 ミズヤは涙を零した。

 顔が熱いからか、その涙は冷たく、溢れた涙は教会の床に染み込む。

 時々漏れる嗚咽(おえつ)は儚く響き、哀れな背中を天に向けた。


 もはやミズヤに逃げる気力は無く、静かに環奈は【束縛(リストレイント)】を解除した。

 ミズヤの体は重力のままに崩れ落ちるが、腕で体を支え、四つん這いになる。

 背を向けるミズヤへ向けて、環奈は言葉を続けた。


「霧代は転生したんよ。もともと幽霊だったし、何年もアンタと会えていなかったから、瑞揶も新しい恋を探してって。だからこそ、瑞揶は沙羅と恋人になった。これが真実だよ」


 にべもなく滔々と言葉を紡ぎ、環奈は閉口する。

 ミズヤは涙を流し、聞ける状況ではなかったのだから。


 静かな時が流れる。

 松明の炎が照らす聖堂では、啜りなく声だけが響き続けた――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ