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連奏恋歌〜求愛する贖罪者〜  作者: 川島 晴斗
第三章:魔物達の輪舞曲
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第4話:サラの話・前編

今話からの沙羅とサラ、瑞揶とミズヤは誤字ではありません。

 クオン一行は聖堂の方へと戻っていった。

 すでに日が暮れたためか、ステンドグラスから入る光はなく、壁に点く炎のみが聖堂を照らしていた。

 聖堂の奥、教壇の上には1匹の牛が立っている。

 紅を基調に金の刺繍を施されたマントを被り、銀色の冠を頭に付けた、白い6本足の牛であった――。


「……これはこれは、ようこそ皆様」


 牛は目を閉じたままその大きな口を開き、人の言葉を話す。

 だが、口の動きは人のように早く動かされず、ただの1回口を開いて閉じるだけで、言葉を発したのだ。

 そこにはなんらかの作用が働いている――かつ、この牛が善幻種たる証明である。


「おーっ、なんか派手な格好になってるねー」


 しわがれた初老のような声に反応したのは環奈だった。

 みんなよりも前に出てナルーへと手を振る。

 するとナルーも気が付いたのか、再度口を開いた。


「おやおや……貴方は確か、ノール様ですね? お久しゅうございます」

「おひさぁー。100何年ぶり? まぁウチにとっちゃあ10数年ぶりだけど」

「ホッホッホ。不思議なことをおっしゃる。今は北大陸に居るので?」

「そーなるんかな? まぁいいや、この猫の話聞いてあげてくんない? 暇だったらでいいんだけど〜」

「結構ですよ。こちらへおいでなさってください」


 ナルーに促され、サラはちょろちょろ動きながらナルーの側へ寄った。

 サラが行くまでの間に、クオンは環奈へ声を掛ける。


「カンナ……貴女の話、本当だったんですね」

「何? 半信半疑だったん?」

「当然です……」


 クオンは引きつった笑みを見せ、環奈はカラカラと笑う。

 転生をし、召喚されて元の世界に帰ってきた。

 そんな御伽噺(おとぎばなし)でもないかぎりありえない話が、実現していたのだから。


 話の全容を知らないメリク達もナルーと親しげな環奈に唖然としている。

 だがそれも(つか)の間、いよいよナルーとサラは話し始め、ニャーニャーモーモーと鳴き合った。


「……なるほど。では私はサラさんの言った事をそのまま口に出しましょう」

「ニャーッ(よろしくー)」

「皆さん、もっと前に来てください」


 ナルーが動作もなく促すと、クオン一行はサラの側まで駆け寄った。

 ついに話し合いが始まる、その緊張感にミズヤは生唾を飲み込む――。


「ニャー、ニャニャ、ニャーン」

「始めに言っておきますが、この猫の体は使い魔のようなもの。本体はアルトリーユ王国で王女をやっている、と申してます」

「え?」

「王女……ですか?」

「ひゃーっ」


 本体が王女と聞いて、皆一様に驚いた。

 24時間動ける猫、その中身が王女などと思いもしないだろう。


「ミャオーッ、ニャーッ!!!」

「だからミズヤは、早急にアルトリーユまで来なさい! と申してます」

「……ひゃーっ」


 ご指名を受けたミズヤは驚きっぱなしで口が開いている。

 だが、安易に南大陸まで来いと言われても困り、何より困るクオンが口を挟む。


「ちょっと待ってください。今すぐと言いますが、ミズヤは私の側近です。そう簡単には……」

「ニャーッ! ニャンニャンニャーッ!」

「黙りなさい。ミズヤは私のものだから口挟むんじゃないわよ、と」

「……なんなんですか」


 あまりの暴論にクオンは呆れ果てる。

 かつて2人が恋人であったと知る環奈は吹き出していた。


「ニャーニャー、ミャーッ。ミャーォッ、ニャニャー」

「私は環奈達が居た世界、【ヤプタレア】でミズヤと恋人だった。でも、私達はすぐに殺された。ミズヤは死神に虐められ、記憶を無くして転生した。私はその失った記憶と能力を持って、ミズヤに返すためにこの世界に生まれた――そう申されてます」

「……能力ですにゃ?」

「はぁーん」


 ミズヤはボケーっとした顔で聞き返し、環奈は納得するように感嘆する。

 他のみんなもキトリュー以外わからず、口を開くに開けなかった。


「ニャーニャ。ニャーン」

「ミズヤは本来超能力を持っていて、その力はなんでもできると仰っています」

「えーっ、なんでもできちゃうの〜?」

「ニャーッ」


 ミズヤが聞き返すとサラはコクリと頷いた。

 他の面々はあまりの現実味のなさ、そして既知である2人は特に何も語らない。


「じゃあどうしよっか? 僕、アルトリーユに行った方が良いのかな?」


 振り返り、バスレノスの面々に尋ねるミズヤ。

 しかし誰も返事を返さずに居た。

 それは、クオン達バスレノスの人間からすれば、ミズヤという戦力がなくなるかもしれないからである。

 ミズヤが南大陸まで行って帰ってこなければ、バスレノスは大損害なのだ。


 環奈達からすれば――これはどっちでもよかった。

 久しぶりの土地について、主に魔物が日常的に存在するこの世界を不思議に思い、まだ留まっててもいいという気持ちがあった。

 すぐ帰れればそれでも良い、程度の問題である。


「……あれ?」


 沈黙を食らったミズヤは、引きつった笑みをするしかなかった。

 どうして返事がないのかわからず、顔を右往左往させてサラやみんなを見る。

 その様子に愛想を尽かしたサラはため息を吐き、にゃーにゃー言う。


「……ニャーッ、ミャ〜〜オッ」

「もう待つのも慣れたし、内戦を終わらせるまで待つわ、と申されてます」

「えーっ。ごめんね、サラ?」

「ミャーッ」


 ミズヤはサラを抱え上げて、そっと抱き寄せる。

 するとサラも嬉しそうに鳴き、ナルーはニコリと笑った。


「ニャッ……ニャーッ」

「それと、カンナ達は私のところに来れば、いつでも帰してあげられる、と申されてます」

「ん? そうなんか。暇な時に会いに行こうと思ってたけど、どうしようかね?」

「帰らないでくださいよ……」


 帰せる――という事を聞いては環奈も悩む。

 クオンは愕然とするが、ここでキトリューが重い口を開いた。


「乗りかかった船だ、投げ出したりはしない。それに、今回はミズヤが居るからな。何でもできる力を取り戻せば、俺達が死んでも生き返らせれるだろう?」

「ニャーッ」

「その通り、と」


 ナルーが短く訳すと、全員が目を丸くした。

 死人が生き返る――そんな事が可能であるなら、誰が死んでも、この戦争は良い結果に終われるのだから。


「ニャッ? ニャオ〜ッ、ニャ〜ン」

「少々お待ちください。……生き返らせる対象は、この世界に召喚された者に限る。世界は神の管轄にあるため、この世界で本来の死者蘇生は禁止よ、と仰ってます」


 サラの付け足した言葉が、照らし出した希望を打ち砕いた。

 世界はそんなに甘くない、という事である。

 だがそんな事とは関係なく、環奈が口を挟む。


「……その短い鳴き声に、本当にそれだけの意味があるん?」

「人間にとっては同じ鳴き声でしょうが、私にとっては微妙な発音の違いがわかるのですよ」

「へーっ、ミズヤなんて絶対音感なのに全然わからんじゃんね? 役立たずだわ」

「僕にそんな事言われましても……」


 ニヤニヤして罵倒する環奈に、ミズヤはただただ苦笑した。

 動物の鳴き声にある違いを分別する耳は、流石に持ち合わせていない。


「ニャニャーッ」

「兎も角、他世界の力で戦争を終わらせようというのは、召喚魔法などの理由がなければダメよ、とのことです」

「……つまり、ミズヤがその超能力を取り戻しても、バスレノスが得する事はないのですね」

「ニャァッ」

「その通り、とのことです」


 クオンの質問にもサラは端的に答えた。

 ミズヤが一度アルトリーユに行っても、バスレノスに何一つメリットがないなら、南大陸へ行かせるのはよろしくなかった。

 サラやキトリューも、今すぐとは言わない辺り、ここはクオンもその意向を通す。


「でしたらミズヤ、今後ともバスレノスをよろしくお願いします」

「ニャー!」

「媚び売ってんじゃないわよ! と申してます」

「……そんなつもりで言ったのではないのですが」


 真意を全然汲み取ってくれないサラに、クオンはガックリと項垂れるのだった。

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