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連奏恋歌〜求愛する贖罪者〜  作者: 川島 晴斗
第三章:魔物達の輪舞曲
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第3話:教会

「あはは……そうですか。まぁ仕事は書類関係が多いので、明日にでもサインと印鑑手伝ってもらえれば助かりますし……」


 再び一行は司令室に戻り、今日はナルーの所へ行く旨を伝えた。

 ヤーシャも仕事が楽になると喜んでおり、クオン達の要望を拒絶しなかった。


「それではアタシは寝させていただきますね? 2徹明けなので……」

「……バスレノスに戻ったら、何人か文官を寄越しますよ」

「ありがとうございます……。では、おやすみなさい……」


 そのままヤーシャは部屋のソファーに眠ってしまい、一行は静かに退室したのであった。


 再び外に出て、一行は貧困街の方へと向かった。

 クオン、ケイクはナルーの居場所を知っているため、貧困街大通りを闊歩するのであった。


 時折見える町の人々は、貧困街と言うほど痩せ細ってるわけでもなく、太っているわけでもない。

 着ている服は所々縫ってあるが、穴もなく、衣食については問題なさそうに見える。

 何よりも、兵士が通るのに、民は誰も避ける事もせず、寧ろ「お疲れ様です」と声をかけられる事があって、ミズヤと環奈は驚いていた。


 ミズヤとしては、シュテルロード領での事を気に掛けていたから。

 環奈としては、昔のサウドラシアと比べても、貧しくても治安が良かったから。


「平和じゃん。これで貧困街なの?」

「貧困街ですよ? この区画は北大陸全体の未納税者が集められ、みんな等しく同じ生活をさせられています。畑仕事だったり魔法で物を作ったり……。物品を作ればそれを町の中で使用したり、バスレノスに献上したり、ですね。1日の行動はほぼ自由ですが、陽が沈んでから4時間前後で完全消灯するよう決まりがあります」

「決められた事をしっかりやってるんね。だから治安いいんか」


 クオンの話を聞き、納得して環奈はまた周りを見渡す。

 子連れの女、井戸端会議、荷物を持った男、様々な者が歩くが、平和なのは違いなかった。


「この先を抜けたら教会がある。そこにナルー様がいるが、呉々(くれぐれ)も失礼のないようにな」

『はーい』


 ケイクの言葉に一部が返事を返し、教会に向かってミズヤが走る。


「ふっふっふー、サラにゃーとお話なのです〜っ」

「にゃーっ(やっと会話できるのね……)」


 今日の事を1番楽しみにしていた2人が先に教会に到着する。

 サラはミズヤに乗っていただけであるが。


 柱の何本か立つ階段を登って着いた教会は、高さが10mほどもあり、三角屋根で白い建物だった。

 ゆっくりと歩いてクオン達も到着し、ケイクが扉を開く。


 教会の中はミズヤも想像していたような、焦げ茶色の横長の椅子が2段になって並び、教壇には十字架と燭台が飾られ、屋根の周りはステンドグラスで囲われていた。

 とても広く松明(たいまつ)の明かりが行き届いている。

 その教会の中心にて、1匹の白い牛が眠っていた。

 足を曲げ、頭を垂らして目を閉じている。


「……おお〜、マジでナルーじゃん」


 その牛の姿を見て、真っ先に歩き出したのは環奈だった。

 古い友人に再会した様に気楽な態度でナルーに近付いていく。


 ヒュン――


 そこに、閃光の様な、1本の光が走る。

 環奈はバッと手を伸ばして、飛んできたものを掴んだ。

 握られた物は、1本の矢であった――。


「無礼者め。ナルー様に対してその態度はなんだ」


 闇から響く男の声に、環奈はどーでもよさそうに耳をほじった。

 彼女を見てクオンは呆れ、一歩前に出る。


「非礼はお詫びします。私はクオン・カライサール・バスレノス。司祭殿、話は伺っておいででしょうか?」

「! クオン様でしたか!」


 声と共に足音が聞こえ、男はクオン達の横から姿を現した。

 まだ若い、薄オレンジ色の髪をした、優しげな男。

 体つきはジャージで見受けられないが、細身で弓矢を携えており、ジャージの上から鉄でできた銀色の腹巻をしていた。


「これは失礼。話は伺っておりますが、ナルー様はご覧の様にお昼寝をなさっておりますゆえ、今しばらく中でお寛ぎくださいませ」

「わかりました。みんな、行きますよ」


 クオンの言葉に従い、一行は司祭の若い男に案内されるがままに裏の通路へと入っていった。

 薄暗い通路はレンガ造りで、松明の火が燃える以外に光はない。

 進んで行った先には、扉のない部屋があった。

 天井にはステンドグラスが張られ、ベッドが2つとテーブルセットが1つあり、中には修道服を着た緑髪の女がベッドに座っていた。


「グレリア、客を連れてきた」

「ええ、声が聞こえましたよ。お帰りなさいメリク。それといらっしゃいませ、クオン皇女」


 男に呼ばれて修道女――グレリアは立ち上がり、綺麗に一礼した。

 その動作にクオンも頭を下げ、挨拶と共に用件を述べる。


「お久しぶりです、グレリア女史。今回足を運んだのは、ナルー様に猫の通訳を頼みたいのです」

「……猫?」


 グレリアが呟くと、彼女の足元からもひょっこり黒猫が顔を覗かせた。

 新たな猫さんの発見にミズヤはパァッと顔を輝かせる。


「えぇ……この帽子を被った少年の猫なのですが、どうやら知性があるらしいのですが、言葉が通じませんので、言ってることを理解したいのですよ」

「……そうでしたか。ナルー様はもうじき起きられますから、それまではごゆるりとお過ごしくださいね」


 そこで一度グレリアは口を噤み、クオン達の前に立つ。

 その横にはメリクも並んだ。


「改めましてみなさん。私はグレリア、彼は夫のメリクです。よろしくお願いしますね」

「ご丁寧にどうも〜」

「にゃーです〜っ」


 また頭を下げるグレリアに対し、環奈はボケーっと、ミズヤは両手を挙げて返した。

 グレリアがまた頭を上げると振り返り、パンパンと手を叩いた。


 その瞬間、部屋の至る所から猫が現れる。


「えっ!!?」


 これにはミズヤが目を光らせて驚いた。

 ベッドや家具、天井などからも猫が集まってグレリアの前に並ぶ。


「みんな、猫が1匹いるそうだから歓迎してあげて」


 一言言いつけると、集まった猫達はニャーと鳴いて返事をする。

 よく躾けられているが、それ以上に数が凄かった。

 10や20ではない、およそ70匹はいるのだから。


「こ、ここが天国……」

「ミズヤ!!?」


 急に倒れるミズヤにクオンが慌てるが、環奈がミズヤの顔を見てこう判断する。


「気絶してるねー。行き過ぎる癒しは時に牙となる……」

「何を言ってますか……。仕方ありません。司祭殿、ミズヤを寝かせても?」

「……ハハッ。えぇ、構いませんよ。私もここに勤めて長いですが、ここが天国、とか言って気絶するのは初めて見ました」

「……この子はそういう性格なんです」


 クオンは項垂れながらミズヤを抱え、ベッドまで運んだ。

 挨拶も終わったため、クオン達も休憩と共に猫と戯れるのであった。




 ◇




「ひゃーっ」


 復活したミズヤは猫に囲まれ、嬉しそうに1匹の黒猫を撫でていた。

 他の仲間も大抵は撫でていたり猫じゃらしで遊んでいたり。


「ニャニャーッ(お前鮭フレーク食べてるのかー、いいなー)」

「ミャーッ、ミャッ、ニャー(ここも海から離れてるし、魚たべれないの?)」

「ニャ〜〜ン(魚はナルー様が出せるんだけど、あまり料理してくれないので……)」

「ニャァ(そう……)」


 サラも猫達と会話を交わし、楽しい時間を過ごした。

 そこに、聖堂へ行っていたメリクが戻る。


「皆さん、ナルー様が起きましたよ。お話を伺うとのことです」


 こうして漸く、2人の会話が実現する。

 サラは一体、ミズヤに何を語るのか――。

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