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連奏恋歌〜求愛する贖罪者〜  作者: 川島 晴斗
第二章:異世界からの来訪者
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第18話:善幻種とは?

ナルーや環奈の前世ことノールは、番外編の連奏恋歌〜歌われぬ原初のバラード〜にて登場します。詳しく知りたい方は是非そちらに。

「クオン……」


扉を開いてきた少女の名を、ミズヤは反射的に口にしてしまう。

もう空は真っ黒で廊下も音1つしない時間である。

にもかかわらず開いてきた扉からは、眠気を感じぬクオンの顔があった。


「……どちら様?」


が、その顔を見ても誰だかわからない環奈は首を傾げ、彼女にはキトリューが耳打ちする。

銀髪の少女の素性を聞いた環奈は「マジ?」と聞き返すが、キトリューはコクリと頷く。

そんな様子にクオンはフッと笑い、胸に手を当てて自己紹介した。


「話を止めてしまって申し訳ありません。私はクオン・カライサール・バスレノス、バスレノス帝国の第二皇女、末子です」

『…………』


それを聞いて環奈とキトリューは膝を屈しようと立ち上がろうとしたが、クオンは両手でそれを制する。


「そういうのはいいんです。どうか(くつろ)いでください。私の周りにはそういう事をする人は少ないですから。ね、ミズヤ?」

「え? いやぁ、ははぁ……」


遠回しに揶揄されたことでミズヤは苦笑を浮かべて誤魔化した。

そんな彼の隣に腰を下ろし、クオンは全員を一度見渡してから再度口を開く。


「ここから遠い西方に、カラノールという町があります。一部貧民街があるのですが、そこには人語を喋る、6本足の牛が居るのです」

「ナルーじゃんそれ」


馴れ馴れしい口調の環奈の頭を、キトリューはバシッと叩いた。

しかしクオンにとってはそれよりも、牛の名前を言い当てた事に驚いた。


「カンナ……さん、よくご存知ですね。あなたは何年頃に生きていたのですか?」

「さん付けじゃなくていいよ。ウチも普通に話すし。宴の時に話聞いてたんだけど、だいたい150年前ぐらいかな?」

「……俺は環奈より50年前に死んだから、200年近くです。いろいろと時間軸がおかしいようですね」


環奈の後にキトリューは言葉を続け、クオンはうんうんと頷くようにし、詳細に語った。


「ナルー様もおよそ160年生きておられます。食べ物ならなんでも生み出せる能力により、貧民街ではとても役立っておられますよ」

「あの牛に様付けって……(まつ)ってんの?」

「類見ない“善幻種”ですからね」

「善幻種?」


2人の会話にミズヤが割り込んだ。

善幻種……そんな単語は聞いたことがなかったのだ。

ここでまたクオンが詳しく説明する。


「ミズヤ、知っての通り、私達の魔力は善意と悪意で成り立ちます。生物は性質上、その一方に偏ります。善意と悪意を同時に同量持つことはありませんから。そして、一方があまりにも大きな量になると、姿が変わります。善意に傾けば“善幻種”、悪意に傾けば“悪幻種”というわけです」

「……そうなんだ。難しいね?」

「そんなに難しくないと思いますが……」


はてなを浮かべるミズヤに、クオンは苦笑した。

数字で考えれば、どちらかの魔力が0〜ある値までは人間だが、ある値を超えると別の生き物にシフトアップするという事。

それが頭でわからず、ミズヤはサラに向かって小首をかしげていた。


「話が難しいね〜っ、ねこさんわかる?」

「ニャーッ(わかるわよ)」

「えーっ、なんでなのーっ……」


サラが縦に頷くと、ミズヤは寝転がってしまう。

そのまま寝ないよう、サラはペシペシとミズヤの顔を叩いた。


「それでつまり、あのよくわからん牛にサラと話させようってわけ?」

「そうです。サラは貴方達の事、何か知ってるんでしょう?」


クオンの問いに、これまたサラは頷いた。

サラはある程度の事は知っているのだ。

この頷きは環奈とキトリューにとっては重く、考えさせられるのであった。


「言葉通じないとめんどくさいねー。ほれサラ、西のほう行くのめんどいからここで話しな」

「ニャーニャ、ニャニャー、ミャー」

「うん、全然わからん。やっぱナルーんとこ行こうか」

「ニャー……」


残念そうなサラであったが、環奈はサラと話せて満足そうであった。


今後の方針がまとまると、詳細は明日考えようという事でクオンと環奈、キトリューは部屋に戻っていくのだった。







また新たな1日が幕をあける。

しかし、午前中ミズヤは仮眠をとり、熟睡すると陽は真上に登っていた。

つまりは正午である。


「……ねむねむねこさんだよぉ〜」

「ニャーッ……ニャーッ……」

「んむー……」


うつ伏せでベッドに寝転がるミズヤの上には、まっすぐ伸びたサラも乗っかっていた。

1日徹夜というのはまだ12歳の体には厳しく、猫にはもっと厳しい。

いや、厳密には猫でもないのだが。


「……おやすみねこさんですにゃー」

「ニャーッ」


そんなわけで、もう3時間熟睡したそうな。

午後3時――地球で言えばおやつの時間に当たるその時にミズヤは気持ちよく起きて伸びをし、サラを抱えて部屋を出た。


「あーっ、そういえば今日、模擬戦があったんだっけ? ……まぁいっか、僕きょーみないし」


今日は環奈とキトリューが模擬戦をすることになっていたため、廊下に往来する人は少なかった。

ミズヤは戦いにあまり関心はなく、遅過ぎる朝食を食べに行く。

食堂にはシェフが居てくれて、ミズヤは牛ステーキの定食、サラにはマグロ肉のフレークを注文するのだった。


「ふっふっふーっ。朝ごはん〜っ♪ お肉〜♪」

「ミャーッ♪」


ニコニコと笑いながらプレートを持ち、すっからかんになっている食堂の端に座る。

サラはテーブルの上に乗って、サラに盛られたマグロ肉をがっついた。

ミズヤもミズヤでステーキを切り分け、口に入れる。


「……幸せですにゃ〜」

「ニャ〜ッ」


今日は朗らかにサラと共にご飯を食べるのだった。


彼が食べ終わる頃、新たな人影が2つ現れる。


「……んー?」


ミズヤはその2人組みを見て、体ごと首を傾げた。

その2人はどこかで見た覚えがある……けれど覚えてない、というような人なのだ。

そういう事も人の多く住む城では多々あるのだが、ミズヤはその2人組みをジッと見ていた。

暇だったから。


注文をしているのは男女のペアである。

1人はさっぱりとした黒髪を持つ、長身で軽い装備をした男。

もう1人は栗色の髪を持つロングヘアで、身長はミズヤの頭1つ分大きい160センチといったところ。

女性も軽装備をしているが、2人のどちらも内側にはジャージを着ている。


「ふむーっ」


ちゅーちゅーとストローでジュースを飲みながらミズヤは2人を見つめるも、名前が思い出せない。

そんなミズヤの手をちょんちょんとサラが叩く。

ミズヤがサラの方を向くと、また猫パンチを食らった。


「にゃは〜っ」


パタリとミズヤは倒れ伏し、その上にサラがピョコンと乗る。

いつもの事であるが、倒れた物音に2つの足音が近づいて来る。


「大丈夫か……?」

「なにこの子ぉ〜、可愛ぃ〜♪」


男はミズヤへと手を伸ばし、女の方はサラの両脇を掴んで抱え上げる。

ミズヤは男の手を取って立ち上がるが、無言だった。


(……ギャルですにゃ〜っ)


内心はこんな感じだった。


「お前、クオン様の側近になったミズヤ・シュテルロードだろ?」

「あ、はい。そうですけど……」

「ねぇねぇ〜、この生き物なんて言うの〜? アタシ見たことないんだけドォ〜?」

「…………」


馴れ馴れしい女の口調に、ミズヤは言葉が出なかった。

ゆるほわな性格ではギャルに対抗できない……と言っても、この世界でギャルという言葉はないのどが。


「こらプロン、ミズヤが困っているだろう。そんなに図々しくするな」

「はいはーいっ、わっかりました〜っ」


男に諌められると、プロンと呼ばれた女性はサラを離し、サラはピョンと飛んでミズヤの胸に収まる。


「えーっと……あなた達は……?」

「ああ、初めましてだったか? 俺はジャガル・クシュリュ・レティスタ。コイツは妹のプロン・ファイサール・レティスタだ。俺はトメスの、コイツはラナ様の側近をやっている」

「え? あ、あ〜っ」


ストンと腑に落ちるような気持ちだった。

ミズヤはラナ、トメスタスの近くにこの2人が居るのを見たことがあるのだ。


「ミズヤくん。お互い側近同士、仲良くしような」

「よろしくね〜っ」


それだけ告げると、2人は頼んだ料理を取りに戻って行った。

ミズヤは口を閉じるが、サラをじーっと見つめてこんなことを尋ねる。


「……サラはギャルだった?」


ふるふると首を横に振り、ミズヤはホッとするのだった。

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