閑話②:写真
微笑ましい……?
とりあえず、おまけはここまでで。キュールの方も書こうと思いましたが、2章に持ち越しです。
ミズヤは基本的に部屋に居た。
クオンの側近候補であっても、今は候補ということで自室に居たり、帝都に出掛けたりと自由に過ごしていた。
「むふふ〜っ、肉球プニプニ〜」
「ミャーォ……」
「サラは何回触っても飽きないなぁ〜っ。えへへ、よしよし〜っ」
ベッドの上で猫と戯れる少年。
傍目から見れば微笑ましい様子だが、その中身が累計40年以上生きた人間だと知れば引くだろう。
しかし、その秘密を知る人物は今現在サウドラシアにはサラしかいない。
ゴロゴロしながらまったり過ごす、そんなミズヤを見つめる者が1人……。
「ははっ……君を見ていると、和んでしまうよ」
「え?」
突然の声に、ミズヤはガバッと起き上がる。
部屋の入り口には、赤い服で身を包んだ郵便屋ことアラルが立っていた。
「あっ、アラルさん。何か用事ですか?」
「君に手紙を預かってね。はいっ」
白い便箋を手渡され、ミズヤは疑いもせず封を開ける。
およそ1年に一度、この手紙はミズヤの元に来ていたから。
〈例の如く、挨拶の文は省く。元気にしているようだな。アラルに聞いたぞ、今はバスレノスに居るのだろう? 皇女に出会うとは災難だったな。少なくとも、貴様に不幸が訪れないことを願っている。
ついでに言えば、バスレノスには我も一枚噛んでいる。できれば出て行ってくれ。東大陸にお前が居なくなったせいで、向こうは魔物討伐に一苦労しているし、頼むぞ。
魔王 フォルシーナより〉
文面はそれだけで、なんとも簡素な手紙であった。
「魔物討伐が大変って……魔物作ってるのフォルシーナさんじゃないか……」
わがままだなぁと思いながら手紙を置くと、既にアラルの姿はなかった。
雑談するでもなく、単に手紙を渡しに来ただけなのだ。
「……返事、何て書こうかなぁ」
定期連絡のお返しを考えると、またミズヤはベッドに身を落とすのだった。
◇
西大陸の中心部、その地下――“界星資料”という星の心臓と、魔力を使って生命を生み出す危機がある大広間。
そこに魔王は魔法の自動入力により、魔物の生産を行っていた。
彼女の後ろにはふいっと、郵便屋が姿を覗かせる。
「母さん、手紙持ってきたよ」
『母さんはやめろと何度も……まぁいい、さっさと渡せ』
フォルシーナが嫌そうな顔をするも、アラルはニコニコ笑って手紙を渡す。
魔王に拾われた子供であるアラルはフォルシーナを母として慕っていたのだった。
『……なんだ、ミズヤからか』
「そうそう。母さんも気になるなら、たまには会ってあげたら?」
『私は忙しいんですよ。明日は南大陸の公爵と対談ですし、明後日は1層に保管してる魔物の定期点検……』
「母さん、素が出てるよ」
『おっと……』
普段の口調になってしまい、慌てて口元を抑える魔王。
彼女はなりたくて魔王をやっているわけでもなく、魔王らしく振舞っているに過ぎない。
もとはただの少女であるため、口調もついつい乱れてしまう。
『では開けるか……』
気を取り直し、フォルシーナはミズヤからの手紙を開いた。
4つ折りにされていた紙にはミズヤらしい丸っこい文字が書かれている。
〈お久しぶりです。おかげさまで僕は無事暮らしていますよ。サラも元気です。御察しの通り、僕たちは今、バスレノスに居ます。最近雪が溶けて晴れが続いていて、城の上からの景色も綺麗ですよっ。
お姫様の側近に任命されそうなので、東大陸に戻るつもりはありません。ごめんねっ。
ではでは、また〜っ〉
手紙を読み終えると、フォルシーナは折り目に沿って手紙を4つ折りにし、封筒にしまった。
と、まだ封筒に紙が入っているのを見つける。
取り出してみると、そこには城を背景にしたミズヤとサラ、銀髪に黄緑のドレスを着た少女が映っていた。
手紙の内容から推察するに、彼女がクオンである。
『……写真、か。我も贈れば良かったな』
「贈るような写真なんて、ここにはないでしょ?」
『うるさい。こうなれば西大陸の絶景をアルバム1冊分撮って……』
「結構暇じゃないか……」
アラルのツッコミを無視し、フォルシーナは計画を練るのだった。
話も聞かぬ義母の姿に、アラルはやれやれと肩を竦める。
「シュテルロード家の人だからって、息子のように可愛がらない方がいいんじゃない? ミズヤが父親のカイサルみたいな、ゴツい人になったら目も当てられないよ?」
『あの子がムキムキになったら……世も末だな』
「その点については僕も同意だよ……」
いつもニコニコ微笑む少年の姿を思い浮かべ、2人は苦笑を浮かべるのだった。
(……それよりも、写真か。私も送ってあげよう)
◇
ミズヤが手紙を送った次の日――
「アラルさん、どうしたの?」
「……これ、見たら燃やしてくれ」
「??」
ミズヤの下には新たに封筒が届くのだった。
アラルは封筒を渡すとミズヤの部屋から即座に消え、入れ替わるようにクオンがやってくる。
「こんにちは……あれ? 今郵便屋が居ませんでしたか?」
「居たよ〜っ。僕にコレ届けてくれたの」
「ほぉ……ミズヤに郵便物をですか」
身寄りのないミズヤの郵便物と聞き、クオンも興味を持って彼の隣に座る。
その際にサラが喚いたが、ミズヤが口元に指を当てると黙った。
「クオン。一回僕が見るから、見せられるものだったらクオンにも見せるね」
「……まぁそうですね。イヤらしいものだったら目も当てられませんから」
「……そんな物送ってくる人じゃないんだけどね」
ミズヤは指で隠した差出人の文字を見ながら呟く。
ミズヤはクオンに背を向け、コソコソとするように封筒を開いた。
(……アルバム?)
中から出てきたのは一冊のアルバムだった。
同封の手紙を先に開く。
〈ミズヤ、貴様が写真を送ってきたからには余も送り返さねばならない。この世界サウドラシアの名所を集めたものだ、存分に堪能してくれ〉
「……別に良いのに。でも、嬉しいなっ」
フフッと微笑み、ミズヤは笑顔でアルバムを開いた。
1ページ目は衝撃的だった。
1枚目には巨大な青い山を背景に、フォルシーナがピースをし、目線をこちらにウインクをしている。
写真の隅には赤や黄色で文字が書かれ、チャラい印象を受けた。
2枚目は火山が噴火しているところで、山頂部にフォルシーナが、両腕でガッツポーズを取って立っていた。
何かの魔法でマグマを受けないようにしているが、その姿があまりにも痛々しい。
他の写真もそんな様子で、ミズヤはアルバムをパタンと閉じた。
「……【赤魔法】」
「えっ?」
ミズヤは静かにアルバムを燃やすと、その様子をクオンに気付かれる。
「……よろしかったんです? 燃やしちゃって」
「うん。あれはこの世にない方がいいから。魔王の尊厳的に」
「???」
よくわからないと首を傾げるクオンなのだった。




