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連奏恋歌〜求愛する贖罪者〜  作者: 川島 晴斗
第一章:バスレノス帝国へ
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第13話:決断

今回で一区切り、ってところですかね。

更新滞ってて申し訳ありません。

 ミズヤはクオンの気持ちを理解できた。

 背負うものの重さを。

 それはクオン本人が起こしたものではなく、人に背負わされた荷物かもしれない。

 そのためにミズヤを利用したい――という気持ちまでは、彼は理解できていた。


(でも、国を救うため、1つにまとめるためなら――それはきっと、“良い事”だよね)


 クオンの気持ちとは別に、ミズヤはここにいる意味を見出していた。


「……それなら、僕は頑張るよ。クオンのため、バスレノスのために……力になる」


 心は決まり、クオンに告げると、パッと少女は顔を上げた。


「本当ですか!?」

「うん……。僕なんかでよければ、だけど……」

「十分過ぎます! ありがとうございます……!」

「…………」


 両手を掴みとられ、頭を下げるクオンに困惑するミズヤ。

 だけど、素直な感謝の言葉だとわかって、ミズヤは笑顔になった。


「あはは……どうぞ、こき使ってください」

「……フフフ、働きによって考慮しますよっ」

「うん……」


 クオンが顔を上げると視線が合い、2人は微笑みあった。

 その空気にサラは睨み――


「……フッ」


 天井裏から覗く男が1人、不敵に笑うのであった――。




 ◇





 ミズヤは傭兵として城に雇われ、クオンの側近として今後仕える事が決定するのは審査が通ってからという事になる。

 審査――模擬戦闘訓練、並びに暗殺対応等であるが、それは2日後に開かれる事となる。

 それまでは非正規の傭兵としてクオンの側にいる事を、この日の昼に皇后のサトリへ提案に向かった。


 絵画の飾られ、燭台が4本灯った第2会議室。

 ソファーに腰を下ろすクオンとミズヤ、その向かいには白いローブを被ったサトリがいた。


「……話はわかりました。クオンは冷静で判断力のある子。貴方が勧めるなら、その少年を近くに置くことを許可します」

「サラも一緒なんですよ〜っ」

「にゃーっ」


 ミズヤがサラを差し出すと、サトリは静かに猫を受け取った。


「え……お母様?」

「? なんですか、クオン?」

「いや、その……猫を触るんですか? 引っ掻いたりでもしたら……」

「大丈夫ですよ。この子の目を見れば、私を襲ったりしない事ぐらいわかります。こんなに赤く、純真な目をしてるのですから」


 優しい口調で、慈しむようにサラを撫でながらサトリはクオンを諭した。

 ミズヤも、サラが女性相手に威嚇しなくて微笑んでいる。


「……ですが、ミズヤさん。クオンの側近というのは辛いですよ?」

「えへへ。僕は強いから大丈夫ですよっ。なんでも倒せますっ」

「……それは側近になる審査を見て考えます。ひとまずは今後、クオンと仲良くしてあげてください。クオンには同世代の友人が少ないですから」

「友人の数など、気にしたことないのですが……」


 項垂れるクオンに、2人は微笑んだ。

 サラは欠伸をしていたが、びょこんと跳ねてミズヤの膝の上へと戻る。


「……では、私は会議がありますので失礼します。ミズヤくん、クオンと遊んであげてください。よければトメス……トメスタス皇子とも遊んであげてください。彼もクオンを取られたら寂しがりますので」

「はーいっ」

「行ってらっしゃませ」


 ミズヤは元気に返事をし、クオンは立ち上がって母に一礼する。

 その子供達を一瞥して、サトリは侍女を従えながら退室した。


「……さて。これでほぼ、貴方は私の側近になるでしょう。今後ともよろしくお願いします」

「うん、こちらこそよろしくね〜っ」


 ぺこりぺこりとお辞儀をしあい、2人とも顔を上げる。


「それで……これからどうしますか? 私は特にすることもありませんが、よければ私と組手でもして頂ければ……」

「えーっ? 遊んでって言われたからあそぼーよーっ! 魔法のおもちゃならいっぱいあるからさぁ〜っ」

「……興味はありますが、ダメです。さぁ、外に出ましょう」

「えーっ……もう、こんなのばっかりぃ〜……」


 むすーっと頬を膨らませながらも、クオンと共にミズヤは外へ出るのだった。




 ◇




 本日もほどもよく快晴。

 しかし雪解けの日はまだ遠く、城外は踏みつけられて滑りやすい雪が敷き詰めている。


 その上には白い靴下の上に草履を履いたミズヤと、全身をジャージに包み、ブーツを履いたクオンが竹刀を持って立っていた。


「もー……ほんとにやるの?」

「やりますよ。お目付役まで連れてきたんですから」

「…………」


 クオンの後方には黒いドレスの上に白いエプロンを付けたメイドが2人立っている。

 ミズヤはまだ信用されていないため、念のためにクオンは城のメイドを連れてきたのだった。


「さぁ、構えてください!」

「……むぅーっ。怪我しても知らないからね?」


 面倒そうに、ミズヤも片手で竹刀を上げた。

 それを見るとクオンは顔を引き締め、竹刀を両手で握りしめる。


「承知の上です。……いきます!」

「むぅー……」


 クオンが銀髪をなびかせ、氷面を踏み出した。


(! 速い!)


 クオンの動きは子供とは思えぬほどで、距離は一瞬で詰められる。

 振り上げられた竹刀を、ミズヤは瞬時に竹刀で受け止めた。


「ッ――!?」


 ビリビリと腕が痺れるほどの衝撃に、ミズヤの顔が苦悶に歪む。

 それに対し、すぐさま竹刀を引いて新しい斬撃を繰り出そうというクオン。


(この速度、【赤魔法】か――!)


 ミズヤも全身に【赤魔法】による身体強化を施し、竹刀同士をぶつけあわせた。

 今度は威力が相殺され、互いに竹刀を押し合い――


「フッ!」


 ミズヤは竹刀を押し付けたまま、身をかがめてクオンの懐に入った。

 背中をクオンの腹部にぶつけ、膝を伸ばして吹っ飛ばす。


「ガッ……!」


 氷上で受け身を取りながらクオンは倒れるも、その直後に竹刀を首に突きつけられる。


「はいっ、僕の勝ち」

「…………」


 自身の勝利を告げ、ミズヤは竹刀を戻して肩に担ぐ。

 彼の様子を見て、クオンは頬を膨らませた。

 こうもあっさり負けた事が、悔しかったから。


「……もう1回です」

「えー……もうねこさんだよ〜……」

「いいから! やりますよ?」

「わかったよぅ……」


 クオンの熱気に侵されミズヤはクオンを引っ張り立たせようと手を伸ばす。

 クオンがその手を引いて立とうとした、その時――


 ツルン


「あっ」

「えっ?」


 ミズヤが氷に滑ってクオンに覆い被さる。

 手が繋がれているため避けることは叶わず、2人は氷の上に倒れた。


「……いたた。ごめんねクオン、僕も長靴履いた方が……」


 頭を凍結した地面に打つも、ミズヤはすぐに起き上がる。

 そして確認した。

 自分が手をついている先を。


 ミズヤの左手は白い地面に着いている。

 しかし右手は、クオンの左胸に着いていて――


「……あー、そのー……」


 どうしようにも、ミズヤは言い訳が思いつかなかった。

 下を見れば、顔を真っ赤にしてあわあわと口を震わすクオンが居て――


「手を……」

「……え?」

「……手を、どけてくださいっ!!」

「にゃーっ!?」


 バシンとミズヤは突き飛ばされ、凍結面を転がる。

 彼が起きると、そのすぐ前には既にクオンが立っていて――綺麗な2つ結びの銀髪が妖しく揺れていた。


「フフ、フフフフ……」

「ク、クオン? 今のは故意にやったわけじゃ……」

「……いいでしょう、そんなに私と戦いたいなら――付き合って差し上げましょう!!!」

「ひぃーー!?」


 クオンは竹刀を振り回し、ミズヤは脱兎のごとく逃げ出す。

 なにやら騒がしい城下を見る役人貴族は多かったそうな。

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