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連奏恋歌〜求愛する贖罪者〜  作者: 川島 晴斗
第一章:バスレノス帝国へ
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第10話:先行きを案じる

「ふにゃぁぁあああっ」


 とてもまぬけな声が、冷たい空に木霊する。

 それはミズヤの欠伸であり、雪の上に立ちながら出たものだった。

 時は昼頃、場所は城の庭、ミズヤは相対するトメスタスに刀を向けていた。


「ええと、武器と魔法はあり、神楽器はなしですよね?」

「ああ。手加減はなし、死んだらその時はその時だ」

「……貴方が死んだら、僕はこの国からも大罪人扱いされるんですけど」

「気にするな」

「いやいや……」


 それは無理があるが、ミズヤも殺すつもりは毛頭ないのでツッコむのをやめにした。

 話も終わり、トメスタスは刀を振り上げる。


「行くぞぉお!!」

「はぁ……」


 トメスタスが雪を蹴り飛ばして突進し、気の進まないミズヤはただ悠然と刀を構える。


「そらぁ!!」

「【無色魔法(カラークリア)】」


 トメスタスが先制して刀を振り下ろす。

 だがしかし、振り下ろされた斬撃は空気の壁によって阻まれた。


「ほっ」


 両手の開いたトメスタスの首に向けてミズヤが刀を突き出す――が、トメスタスが自ら右に倒れることでこれを回避した。

 倒れながらに刀を持ち変え、ミズヤの体へ横薙ぎの一閃を行う。


「わっ、と……」


 慌てながらミズヤは上空に飛び、斬撃を回避する。

 しかし、続けざまに斬りかかってきた。

 上空であるのに――。

 彼は神楽器と羽衣を扱う男、飛ぶことなど容易である。


 ギィイン!


「くっ……」

「この程度ではないよなぁ!?」


 刀を弾き、ミズヤは後退した。

 だがトメスタスが刀を下ろし、敵へ向けて手をかざす。


「【赤魔法(カラーレッド)】、【火の玉(ファイアボール)】!!」


 手のひらから放たれたのは真紅の炎、その気配を読み取ったミズヤは空気の壁を再度貼る。


 塊同士のぶつかり合い、しかし銃弾がレンガを砕くような音がした。

 ボコッボコッと壁に穴が開き始め、ミズヤは別の魔法へと移し替える。


「【力の四角形(フォース・スクエア)】!」


 ミズヤの目の前に薄オレンジの正方形のパネルが出現し、そのパネルより圧縮された空気が飛び出す――!

 トメスタスの生み出した小弾を(ことごと)く飲み込み、一直線に駆け抜ける。


 だがトメスタスは軽々とこれを避け、空中に留まった。


「おかしいなぁ? 俺は“手加減はなし”と言ったはずだが?」

「手加減してるのは貴方も同じでしょうが……」

「……いやはや、お前の技量を知りたかっただけなんだ。これではちっとも勝負にならん。やめにしよう」

「ですね……」


 戦いの有用性を感じず、2人は揃って雪の上へと降りた。

 着地してそれぞれ武器をしまうと、トメスタスがミズヤへ近づいて行く。


「それで、だ。これだけの腕があるならバスレノスの中将でもやってみないか?」

「将軍ですか? いきなり中将って……どうなんでしょう?」

「そこは心配せずとも、俺から進言するぞ。俺と引き分けたと言えばなんとかなるさ」

「…………」


 手を抜いた手合わせで引き分け、それでもトメスタスと引き分けた事はこの国では凄いことなのだとミズヤは飲み込んだ。

 だが、ミズヤは彼から目を目線を上に逸らし、内心慌てながらやんわりと断る。


「僕はそういう柄じゃないので……」

「まぁそうだろうな。しかし、お前がいれば一騎当千だろう。報酬はなんでも出すぞ?」

「何もいりませんよ、……現状に満足してますから」

「謙虚な奴だ……。そのためにバスレノスに来たんじゃないのか?」

「クオンに連れられてきたんです……」

「は?」


 拍子抜けしたような、気の抜けた声がトメスタスから発せられる。

 あのお堅い妹が年の近い男を連れて帰ったということが驚きだったのだ。


「……うーむ、クオンはどうしたのだ?」

「僕に言われましても……」

「そうだな、直接聞いてくる。邪魔したな少年」

「いえいえ〜」


 トメスタスはそそくさと1人で城の中に戻っていき、1人残されたミズヤは平たく敷き詰められた雪を見て、暇つぶしの方法を考えた。


「かまくらつくろ〜っと」


 なんとも呑気な声で彼は言い、せっせとかまくらを作りだすのだった。




 ◇




 他方、城内第1会議室には5人の人物が集まっていた。

 そのうち3人は皇族関係者であり、緑のドレスに着替えたクオン、青のドレスを着たラナ、そして白いローブをかぶり、緑の髪を持ったメガネの女性。

 手には金の杖を持つ彼女は、バスレノス帝国の皇后であった。


 残る2人はこの国の将軍であり、ガッチリとした体格を持ちながらも軍用ジャージに身を包み、服には大将の称号であるバッジや肩章をつけている。

 彼らのうち、白髪のものは炎のように上へと登る髪をし、ニヤリと笑っていた。

 一方、眼帯をつけた黒髪の男は顔に感情を出さず、ただ静かに腕を組んでいた。


「ですからサトリ様ぁ、さっさとレジスタンスを一網打尽にすりゃあいいんスよ。これ以上被害を出されてもかなわねぇし、クオン様だって死にかけたんスよ?」


 白髪の者が陽気にローブの女性――サトリに語りかける。

 しかしサトリはため息を吐き、その男の頭をとんっ、と小突いた。


「ヘイラ……この諍いは何があっても敵を蹂躙することがあってはなりません。彼らは私達の国民、同胞です。今は国の病気かもしれないですが、きっと良くなるかもしれません。そう信じ抜く事が、我々のすべき事です」

「つってもさぁ、それでみんな死んだらわけねぇっスよ。毎晩被害が出てる。もう何人も死んでる」

「それでも、被害は減少の一途を辿っています。彼らも王族貴族、誇りはありますから。武勲を立てたいのは結構ですが、間違えを起こさないように」


 サトリが説得するも、ヘイラは退屈な目をし、踵を返す。


「……ハッ。今日は出撃しねーぜ、俺はよぅ」

「……えぇ。任せますよ」


 ヘイラはそれだけ残し、扉を蹴り開けて退室した。

 するとクオンがゆっくりと扉を閉め、ラナが嘆息を吐き出す。


「まったく、バカのくせに使いづらい男だ。ヴァムテル、貴様はああなるなよ」

「……心得ている。我は神に仕えるマータンの歯車。この身の全てを神と民のために捧げる恒久の剣――ラナ皇女、是非我が教団の偶像に……」

「あぁ、何度も言うが、宗教など微塵も興味ない。他をあたれ」

「グッ……」


 もう1人の大将、ヴァムテルは悔しそうに拳を握りしめ、それから机に手をついた。

 ラナはなんでもないように空を見上げ、クオンだけは――


(上層部にもっとマシな人が居てくれればいないのでしょうか……)


 自国の身を案じていたのだった。

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