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連奏恋歌〜求愛する贖罪者〜  作者: 川島 晴斗
第一章:バスレノス帝国へ
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第6話:郵便屋

 ミズヤの名はレネイドも知っており、やはり彼の身の上を話すことになった。

 それはクオンの口添えもあってレネイドもミズヤに手出しすることはないと断言する。


「……と、いろいろ話をしてしまいましたな。といってもやる事は明日に飛龍を出すだけです。お2人には客室を用意させますから、お休みくださいませ」

「はい。何から何までありがとうございます」

「ありがとうございますっ」


 クオンが謝辞をすると、ミズヤもほわほわした声で感謝を告げる。

 2人の子供に感謝され、レネイドは微笑みながら手で指示を出した。


「あ、ちょっと待ってね」


 と、そこに1人の男が止めに入る。

 レネイドとは違う男で、いつの間にやらこの部屋にいた者だった。

 しかし、彼を見て誰も身構えるものは居ない。

 何故なら――


「“郵便屋”……来たのか」


 レネイドが彼に問いかける。

 赤髪に先のとんがった帽子を被り、首元まで閉じた赤いコートを着たその男はミズヤのように優しい目つきでニコリと笑う。


「はいっ。ほら、これはレネイドさんに。それと、僕が必要そうな人が居たので」

「…………」


 両肩からクロスするように掛けたショルダーバックから、彼は1つ手紙を出してレネイドに渡す。

 それからクオンの事を見ると、少女も笑って返した。


「……郵便屋殿、ご配慮ありがとうございます」

「いいんだ。君がまだ帰ってないから、バスレノスの上層部は落ち着きがないようでね。とりあえず、君から言葉の郵便でもと思ってさ」

「高くつきそうですね」

「……そこの少年が脱いでくれたら、まけてあげるけど?」

「え……」


 郵便屋と呼ばれる男の言葉に、またミズヤの肩が跳ね上がる。

 しかし冷や汗をかくこともなく、苦笑を返した。


「もう……アラルさん、変な事言わないでくださいよ」

「でも冗談だってわかるだろう? ……久しぶりだね、ミズヤ」

「えぇ、アラルさん」


 アラル――そう郵便屋が呼ばれるのに対し、全員の視線がミズヤに集中する。

 唯一、クオンだけはミズヤに問いかけることができた。


「ミズヤ……郵便屋とはどんな関係で?」

「ん? お友達だよ?」

「……それがどれほど凄いことが、わかってるんですか?」

「え? ……え?」


 ミズヤは疑問を浮かべるばかりで、助けを求めるようにアラルを見た。

 彼もやれやれと肩を竦めて状況を説明する。


「ミズヤ、僕は信用できる人と身内にしか名前を教えないんだ。それに、僕は知り合いは星の数ほど居ても、友達は少ないからね」

「そうなんだ……。唯一瞬間移動が使える配達屋ですもんね。忙しい?」

「受ける依頼は選んでるから、その点は大丈夫だけどね……。ま、それはまた今度ね。さてクオン姫、皇帝にはなんて言えばいい?」

「あぁ……はい。私は無事で、明日には帰国しますので、レネイド辺境伯に報酬を与えるように、と伝えてください」

「はいはい、承知しました。料金は着払いにするから、またね」


 それだけ言うと、男は一瞬にしてその身を消してしまう。

 まさに魔法を見た彼らだが、驚くこともなく、レネイドの指示でクオンとミズヤは客室へと向かって行った。




 ◇




「部屋の明かりをつけてください……」


 クオンのこの言葉により、燭台の代わりにミズヤの【白魔法】による光の玉が部屋を照らす。

 蝋燭とは比較にならない多量の光が部屋一面を照らし、クオンとミズヤはベッドに隣り合って座っていた。


「……疲れました。何日もこう気を張っていると、ダメですね」

「そーお? でもクオンはカッコいいよ〜? ねぇサラ?」

「…………」


 ミズヤの問い掛けにサラは反応しない。

 無反応にムッとして、ミズヤがサラの首を撫でると、可愛くにゃ〜と鳴いた。


「はぁ〜……可愛い〜っ」

「本当、サラとは仲が良いのですね。私もペットが欲しくなりますよ」

「えへへへ、サラと僕は家族だもん。ねぇ〜っ?」


 甘える声で尋ねるも、猫が返事を返すわけでもなく、ミズヤの膝の上でゴロゴロするばかりだった。


「……いいですね。こうやって甘えるのは」

「……ん?」


 ポツリとクオンが言葉を漏らすと、ミズヤは首を傾げた。

 するとクオンは少し渋った様子ながらも語り始める。


「私は皇族ですから、親も厳しくて……他の兄弟も(たくま)しく、特に長女のラナ姉様は厳しく、甘えることなど許してくれません。だから……少しはこう、甘えられたらいいなと……」

「…………」

「……フフッ、取るに足らない独り言です。ミズヤ、今のは忘れてください」


 自嘲するように笑みをこぼし、クオンは2人から目を背けた。

 だかしかし、ミズヤは一度サラを床に置き、クオンの肩を叩く。


「クオン、クオンッ」

「……なんですか?」

「僕にぎゅ〜ってして」

「……はい?」


 クオンが再びミズヤの顔を見る。

 彼の目はキラキラとして光っていた。


「僕にならいくらでも甘えていいから、おいで〜っ、おいで〜っ?」

「……私がそのような痴態を晒すわけにはいきませんよ。皇族ですから」

「そうやっていろいろ我慢し過ぎると、休めるものも休まらないよ?」

「…………」


 確かに、と思う部分もあった。

 クオンがミズヤの顔を見ると、彼はいつものように優しく笑っている。


「…………」


 その笑顔に惹かれるように、クオンはそっと、彼の胸に顔を埋めた。


(……暖かい)


 思いのほか(たくま)しいミズヤの体だったが、命を感じる暖かさがあった。

 ミズヤもクオンの背中と頭に手を回して優しく撫でる。

 その愛撫に誘われるように、クオンの意識は落ちていった――。




 ◇




 眩い陽光に目を覚ます。

 (まぶた)を開けば白い天井が目につき、ゆっくり体を起こすと自分がベッドに寝ていたことがわかる。


(……あれ? 私は……)


 昨日いつ寝たのかわからずに首を傾ける。

 なぜでしょうか、どうも寝起きなのにスッキリしてるし、疲れも取れてるのに思い出せずに居た。


(とりあえず、ミズヤに会いに行きますか。彼ならもう起きてる頃……ん?)


 ミズヤの事を考えて思い出す。

 昨日は彼の笑顔に魅入られ、彼に抱きついてそのまま――


(……!!!?)


 一瞬で顔が真っ赤になった。

 人に抱きついて寝るなど、幼少時代に母親に抱きついた事しかないクオンにとって、外部の男……しかも出会って1日2日の奴に、恥もなく行うのは屈辱だった。


「クッ! ……ま、まさか、私の体に何かしてたりしませんよね?」


 どこかおかしいところはないかと、頭から足まで触るも服装の乱れもなかった。

 というか、ミズヤのようにいつもにこにこしている奴がそんなあくどいマネをするかと考え至り、ため息を吐く。


「……はぁ。まぁいいでしょう。これもまた貸しですね」


 貸しばかり増えて返せなくならなければいいのですが――そんな風に思いながら、私はミズヤの部屋へと向かった。

 今日に出発すれば帰国できる……バスレノスに、やっと……。

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