第2話:契約
もう投稿20回目ですか。早いものです。
クオンは少年と2人になるも、此処は危ないかもしれないと言われて少年と外に出た。
月明かりだけを頼りに、近くにあった森の入り口に入っていく。
そこまではずっと、2人は無言であった。
「……あの」
しかし、このままではいけないとクオンが声を掛ける。
少年はすかさず振り返った。
「ん……?」
「先程は、ありがとうございました」
「……ああ、良いんだよ。この辺はフラクリスラルよりマシとはいえ、治安が悪いからね」
「……フラクリスラル?」
「そう。僕の出身なんだ」
寂しそうに話す少年の話に、クオンは首をかしげる。
フラクリスラルの管理体制は大国の耳にも入っており、当然クオンも知っていた。
非人道的な行為を行い、悪意を増やしていると。
(あの国から脱走を……?)
クオンは思う、それならばあの男共を一瞬で殺せた実力も裏付け出来ると。
見たこともない強力な魔法を使い、その技術はどこで――
「……というか、僕の家の方に連れて来ちゃったけど、君の家はさっきの街にあったかな?」
「いえ……。というか、私はバスレノス皇女ですから。ご存じないですか?」
「えっ……」
クオンの言葉に、今度は少年がビクリとする。
それから少年は頬をかき、帽子を取ってから膝を屈して頭を下げた。
「えと、数々の非礼を失礼しました……。馴れ馴れしい口調は事情を知らなかった事と、どうかお許しください」
「い、いえ……。貴方に丁寧に話されると、かえって萎縮します。普通に話してください」
「そ、そうですか? じゃあ……はぁ」
少年は立ち上がり、帽子を被って一息吐く。
「……泊まるところは決まってる?」
「ええ。夜襲にあって潰されましたけどね」
「……あぁ。心中お察しします……」
どういった経緯で少女が襲われていたのか理解し、少年は苦笑を浮かべた。
「じゃあ、家に入れるね」
「……どこに家があるんですか?」
クオンは周りを見るも、木や草ばかりで家らしきものはない。
「あはは……まぁ見ててよ。……【緑魔法】」
少年がポツリと言うと、地面が動き出す。
少年の目の前には地下への階段が出来上がり、クオンはそこから下を覗くと、人が暮らすには十分広い空間があった。
「入って〜っ。あ、靴はあそこの靴箱に入れてね? 土足はダメだよっ」
「は、はぁ……」
「ふんふ〜ん♪」
さっきまでの冷めた空気は何処へやら、少年は意気揚々と階段を下っていった。
クオンもそれに続いて降りて靴を脱ぎ、履いていたヒールの高い靴を仕舞った。
改めて中を見ると、天井には白い光球があって部屋全体を照らしており、一面白い壁や床は少し冷たくも頑丈で硬い。
部屋の真ん中には水色のカーペットが敷かれていて、その上には座椅子と木のテーブルが1つずつある。
それ以外にはクローゼットのようなものが1つと、いろいろなものが入った大きい箱が1つあった。
部屋はここだけではなく、いくつか扉もある。
「えと、お腹すいてる? すいてたら何か作るけど……あまり良いものは出せないよ?」
「……いえ。まだ貴方が何者かも知りませんし、毒物を食べさせられるかもしれませんから」
「……ここまで付いてきたのに、そういうのはしっかりしてるんだね。じゃあお風呂沸かすから、それまでゆっくりしてて〜っ」
「はぁ……」
少年は別の部屋に入っていき、1人残されたクオンはとりあえず座椅子に腰をおろし、どうしたものかとテーブルに頬杖をついた。
(なんとなく付いてきてしまいましたが、あの少年だってレジスタンスの可能性もあります……。仲間を殺すなんて変な話ですが、可能性は捨てきれない。どうしたものですかね……)
「お風呂湧いたよ〜?」
「えっ!? あっ、はぁ……。頂きます……」
「着替えは僕の服しかないけど、置いとくからね〜っ」
それだけ言って、少年はまた別の部屋に入っていった。
今になってクオンも自分の今のボロボロになった服を恥ずかしく思い、着替えも含めてお風呂に入ることにした。
◇
「……この家はどうなってるんですか」
「えっ……? お風呂熱かった!?」
「いえ、心地良すぎて複雑でした……」
はぁ……とため息を吐いてクオンはテーブルに着く。
少年はその真正面に座っており、鼻歌を楽しんでいた。
「魔法ってさ、システムを組めばどうとでもなるからね。お風呂も同じ温度で保てるからさ……。普通、やってない?」
「魔法にシステムを組むなんて初聞きですよ……。フラクリスラルはすごい技術を持ってるんですね」
「えっ……? あ、いや、これは企業秘密です。えへへへ……」
照れて少年が笑うと、クオンは意外そうに目を見開いた。
怖い様子など今はどこにもなく、むしろ可愛いと思えたから。
これなら信用しても良さそうだと、クオンは笑う。
「フフッ……私はクオン・カライサール・バスレノス。バスレノス帝国の第二皇女です。貴方のお名前をお聞きしても?」
「えっ? あー……どうしよ?」
「……言えない理由でも?」
「……まぁ、少し」
「そうですか……」
クオンは残念そうに目をそらす。
しゅんとした少女の顔に、少年も申し訳なさそうな顔をした。
「それで……私は貴方の身の上に興味はありますが、それはひとまず置いとくとして……私を助けてくださいませんか?」
「……ん?」
もう助けてるよね、という目で少年は見る。
クオンは説明不足に気付き、こう続けた。
「私は帝国の城に帰りたいのですが、今の所帰る手立てがありません。ここはバスレノス領内……とは言っても、先程のようにレジスタンスがどこからやってくるかわかりません。飛龍を使って帰りたいところですが、バスレノス領内の貴族は遠くにいる……。ですから、そこまで護衛を頼みたいのですが……」
「うん、いいよ」
「危険なのは重々承知ですが、できれば数日だけでも……え?」
「いいよ〜?」
「…………」
にこやかに笑って返す少年に、クオンは寧ろ不信感を抱いた。
本当にこんな子供が自分を守れるのか、と。
「……あの、そんな簡単に受けてもらえる依頼ではないと思うのですが」
「だって、守ればいいんでしょ? 僕は死なないし、絶対にクオンを守るよ」
「…………」
はっきりと断言して笑う少年に、クオンは押し黙った。
悪気のない笑み、そんなものを見せられれば信用する他ない。
「じゃあ、よろしくお願いします……」
「うんっ!」
少年はパァッと笑って返事をし、クオンもまんざらでもなく笑うのであった。