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連奏恋歌〜求愛する贖罪者〜  作者: 川島 晴斗
最終章:衰亡のレクイエム
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第20話:隠されたこと・前編

 控室で待たされ15分。

 バスレノス勢は、王の御前に案内された。

 緊張感はない、クオンが前を歩けばそれだけで安心できたから。


 クオン達が案内されたのは大広間であり、国の大名、将軍などのきらびやかな服を着た者が集まっていた。

 その中央にいる人物――それこそ今日の大目玉、トメスタス大王だった。


「――よく来たな、クオン元皇女よ。ここに来たということは、我が配下に下ると見てよいのだな?」


 トメスタスはクオンを見下しながら問いかける。この言葉に対しクオンは――


(……ミュベスとフィサが居ませんね。やはり警戒されていますか)


 冷静に状況を分析していた。

 この話が破談になれば、力づくで拘束するつもりなのだろう。

 考えることは、どちらも同じ――。


(フィサ殿は、私たちの味方と見て間違いないでしょう。問題はミュベスですか。まぁ、私たちが先にトメスタスを封じてしまえば良いでしょう)


 その思考に至るまでに時間はかからなかった。

 クオンはゆっくりと顔を上げてトメスタスを見る。


(初めから"断る"なんて言えませんからね。まずは……)

「答えを言う前に、貴公に尋ねたいことがあります」


 クオンが答えを遅らせると、トメスタスは舌打ちをする。

 不遜な態度にクオンは目を細めるも、トメスタスは無視して歯噛みをしながら対話に応じる。


「なんだ? 申してみろ」

「……。貴公は既に、北大陸全体を治め、大王という身分に預かっている。権威が失墜するならそれは内部から刺されることですが、御身はキュールの英雄。失墜することなどありますまい。――なのに、何故貴方は戦争など引き起こそうとするのですか。3年前、それがどれほどの痛みを残したのか、貴公ならわかるはずであろう!」

「…………」


 トメスタスは黙り、ただクオンを見下していた。

 必死に訴えるその目を踏みにじるように。

 トメスタスは視線をそらし、簡潔に答える。


「――前にも話したはずだ。求心力のためだと」

「貴公には求心力がある!! 悲しみを増やしてまで行う必要などない!!!」

「黙れ!!!」

「!」


 トメスタスの怒声はビリビリと伝わり、クオンは気圧されてしまう。

 トメスタスも必死なのだ――それが伝わる怒りだった。


「国が一丸となってかつての大国と争う。そして勝利したあかつきには政府の求心力も高まりより結束力の高い国になる! それのどこが悪いと言う!?」

「それでまた反乱の目を作ることこそ無駄だと言うのです。レジスタンスとして活動していた貴公ならわかることでしょう……!?」

「それが真に平和へと繋がるならな――!」

「!? 貴方は、何を言って……」


 クオンには、理解できなかった。

 戦争をし、悲しみを生むことで平和になると言いたいトメスタスの考えが。

 求心力、平和――戦争からそんなものが生み出されるほど、旧バスレノスの民は外道じゃない。


 しかしそこで、1人の少年がクオンより前に出た。

 彼女の忠臣にして友である、ミズヤだった。

 悲しみと憐憫の籠ったその瞳で、ミズヤはトメスタスに言う。


「……大王さん。貴方は知った(・・・)んですね。この世界の在り方を……」

「…………」


 トメスタスは、何も言わなかった。

 無言を肯定と受け取り、ミズヤは顔を伏せる。


「……魔王フォルシーナ。彼女と会ったと聞きました。その時、何をお話になられたのかお察しします……」

「……貴公も存じてるのだな。その女に言わぬということは、思いは同じか」


 同情を誘うトメスタスの声に、ミズヤは首を横に振った。


「違う、違いますよ……。でも、貴方にフォルシーナさんが来たということは……どういうことか、わかります……」

「…………」


 ミズヤの声に、トメスタスは何も言わなかった。

 ミズヤのその瞳が、憐みの瞳だったからである。

 トメスタスは視線を緑の少年からクオンへと戻す。


「――今日の所は、退()くがよい。その少年に話を聞け。そうすれば、また話を聞いてやる」

「…………」


 クオンはその進言に、どれほどの意味があるのかわからなかった。

 しかし、トメスタスの気持ちの重さは手に取るように理解できた。

 だからこそ、ここは判断を急いで突撃するのではなく、撤退することを決断するのだった。




 ◇




 その撤退は大きな影響を及ぼした。

 まず第一に、兵を待機させる時間が長引くということ。

 これは彼らの生活費なども増加することであり、5000人という人数の経費が出るのは資金源のほぼほぼないバスレノスにとって手痛い事象であり、悩んだ挙句、戦力になるであろう人間以外は帰還を命じた。

 選ばれたのは100人前後であり、もともと決死の覚悟で5000人が来ていたと考えれば、馬鹿な話である。


 しかし、トメスタスを説得できる活路が見えた。

 犠牲なしに戦争が止められるのならそれが最良であり、ミズヤの話を聞いてから、全力で説得する覚悟であった。

 多くの足労した兵の帰還を見届け、最高司令官4人とクオン一行のみで客室に戻っていた。


「……にゃー」


 円を描くように座り、視線を集めるミズヤは目を丸くして飼い猫のサラを抱きしめる。

 この少年は魔王と関与していると、西軍基地でレジスタンスに襲われた際、クオンは察していたが、今の今まで深くは言及しなかった。


 そのために、今ここで問わなければならない。

 ミズヤの知る知識を。


「……にゃーじゃありませんよ。折角みんな揃ってるんですから、話してください」


 キョトンとするミズヤに、クオンは優しく語りかける。

 するとミズヤも我を取り戻し、頭をプルプルと振るってからひとりでに話し出す。


「えっとねー、とりあえずは魔王フォルシーナさんについてのお話……をします」


 呑気な声調で、彼は思い出すように空を見ながら話す。


「フォルシーナさんは魔王って呼ばれてるけど、その理由はよく言われてる通り、魔物を生み出し、自在に操れるから……だと思う。実際、【完全制御(コンプリート・マネージ)】の魔法が使えるのはフォルシーナさんだけ。……とは言っても、自在に操ることはできない。封印状態にするか、解き放つかの、2つに1つ」

「ま、魔物の様子を見てるとそんな感じよねぇ〜。見境なく暴れてるし、暴走状態ってやつぅ?」


 ミズヤの言葉をドークが拾い、聞き返す。

 他のみんなの心境も、それに近かった。

 魔物は、人の足に従って動いたりはしない。

 それが常識であり、この先に魔物操作の魔法ができたとしても変わらないだろう。

 その理由とは――


「――魔物はね、"悪意"から作られている。凶悪な魔物ほど強い悪意を持っていて、悪いことをしようとする……。フォルシーナさんの手で、ある程度能力や魔力を封印して抑えることはできてるけど……それでも、人骸鬼でどれほどかは、みんなわかるよね?」

『…………』


 人骸鬼の性能――それは一撃で村1つ壊滅させるほどの攻撃【黒天の血魔法(サーキュレイアルカ)】を想像すればわかりやすい。

 生み出した武器が爆弾になり、クレーターさえできる。

 そんな異常な魔力を内包した存在。

 物理攻撃に弱いとはいえ、 今まで倒してきた人骸鬼は一部能力を制限させられていた――などと知ると、一同は血の気が引いた。

 大将に引けを取らない最高司令官達、彼らにとっても封印を解いた人骸鬼は脅威になりかねないのだ。


「……でも、フォルシーナさんだって人を殺したくて魔物を放ってるんじゃない。もしもフォルシーナさんが残虐で冷酷な人間なら、もっと強い魔物を作り出して世界を支配してるはずだからね。……魔物を放たないといけない理由があったの」


 ポツポツと語りながら、ミズヤはサラを強く抱き寄せる。

 その話は辛く寂しいものだから。

 ミズヤがこの世界に転生し、齢10にして教えられたこの世界の真実。

 それは――


「――この世界の善意と悪意が、平等だから」

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