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連奏恋歌〜求愛する贖罪者〜  作者: 川島 晴斗
最終章:衰亡のレクイエム
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第14話:方向性

 小さなライブハウスほどの広いリビングには、2人の人物が魔法で作り出した台所にそれぞれ立ち、少し離れた所に2個人の人物が座っていた。

 ついでに猫が一匹ゴロゴロと床を転がっていたが、些細なことである。


 台所に立つ一方――緑の服はそのまま、上から水色のエプロンを付けたミズヤが腰に手を当ててドヤ顔を決めながら立っている。

 相対するは、左に髪をくくったサイドテールの少女。髪の色は鮮やかな紅色で、大きい瞳でミズヤの事を見ている。

 軍服のジャージの上から赤いエプロンが体をきつく縛り、豊満な体躯は砂時計のように中心だけ細く、上と下は肉感が映えて見えた。

 女性の武器を顕著に示したその少女は、ミズヤにこう宣戦布告する。


「ミズヤ、今日は私が勝つからね!」

「どっちでもいいけど、美味しいものつくろーね〜っ」

「クックック、先週のチョコレートケーキはただの練習……今日のティラミスこそが本命よっ!」


 調子よくミズヤに威勢を張るも、ミズヤは相変わらずボケた顔をしていた。

 彼にとって、少女との料理勝負などどうでも良いのだ。


「私が勝ったら、専属のシェフになってもらうんだからね!」

「まだまだ負ける気はしないから、いいでーすよーっ」

「ふんっ。減らず口が叩けるのも今だけなんだから!」


 威嚇するだけ威嚇して、サイドテールの少女は勝手に調理を開始した。

 少女が卵を手に取ると、ミズヤも笑って調理を始める。


 2人の様子をずっと見ているのは、サイドテール少女の父であるブロックと、今調理場で立つ少女の妹であった。


「お姉様、よくも飽きずに勝負を挑みますわよね……。ワタクシなら1回で諦めますのに」

「フクシアはプリムラと違って、なんでも頑張るからな」

「お父様……それ、どういう意味ですの?」

「ハハッ。別に、悪い意味で言ってるんじゃない。お前はお前でいい所があるしな」


 言いながらブロックは、調理場に立つフクシアの妹でもう1人の娘を撫でた。

 プリムラは少し嫌そうだったが、ため息を吐いてそっと【魔法入力板(マジシャン・ボード)】を起動する。


「ま、デザートが食べれるから良いですの。暇潰しに魔法式でも組んでますわ」

「俺は甘い物に興味は無いし、部下と話してくるとするよ。お前も、今のうちにゆっくりしておけ」

「ええ、十分ゆっくりしてますわ、っと」


 ブロックは娘の頭から手を離し、静かに退室して行った。

 後の残された3人と一匹は皆静かで、時間だけが長閑に過ぎるのであった。




 ◇




「ナモン殿……この書簡の量は……」

「本日クオン殿に拝見して頂きたく、(したた)めて参りました。量は多いですが、民のため故、御理解を」

「…………」


 クオンは両手に持ちきれないぐらいの巻物と本冊子を持たされ、浮かない顔をしていた。

 戦争を阻止するために頑張ろう、そう言い始めた彼女ではあるが、明らかに3日で読める量ではなく、げんなりとしている。


「……重要点を、まとめてくれませんか? さすがにこれを読むのは……」

「む。ではこれとこれとこれは下げまして……」

「……お話で済ませられないのでしょうかね? 明日、各司令官に集まってもらって軍議を……」

「そんな悠長なことを言ってる場合ではありません! 失敗すれば内戦は免れないのですよ!?」

「……うう、わかりましたよ」


 数冊抜かれても、10はある書簡を抱え、クオンはため息を吐く。

 今日は眠れないなと嘆きたかったが、そんな余暇はないのであった。


「それでは、私はこれにて失礼します! 明日の軍議、楽しみにしておりますぞ!」

「え、えぇ……。楽しみに、してます……」


 ナモンは素早く一礼をし、カッカッと靴音を鳴らしながら部屋を出て行った。

 後に残るクオンと側近の2人はその背を見送り、ずっと黙っていたケイクがボソッと呟く。


「ナモン殿の居る東軍は、彼が真面目過ぎるが故に、目の届かない所で怠けてしまう輩が多いそうです。クオン様も、そんなに読まなくてはいいのではありませんか?」

「……いえ。配下の者がここまで国を考えてくれているのに、上に立つ者が何もしなくてどうするんですか。面倒ではありますけれど、国を守りたいのは私とて同じ。頑張りましょう」

「…………」


 僅かに笑顔を作り、2人に向けるクオン。

 上に立つ者の頑張る姿に、臣下の2人は胸が熱くなった。

 しかし、クオンは一度ほくそ笑み――ケイクの腕に、本の山を落とした。


「わっ!?」


 半分ほど崩れるも、その全てを拾い集めるケイク。

 6冊と1巻の書簡が彼の手に渡ってしまった――。


「……クオン様、危ないですよ」

「…………」

「……クオン様?」


 ケイクの声に、クオンは反応しなかった。

 ただただケイクにニコニコといい笑顔で微笑みかけている。

 そして彼女は――


「ケイク……」

「はい……?」

「ケイクなら、手伝ってくれますよね……?」


 彼も一緒に、地獄に引きずり下ろした。

 手に持つ書物の重さに、ケイクの顔はサーッと青ざめていく。

 しかし、彼はクオンに付き従う従者の如き存在、断れるはずもなく、ガックリと項垂れて答えるのだった。




 ◇




「ミズヤさんの方が美味しいですわね」

「ぎゃーっ!! まーたーまーけーたーっ!!!」

「にゃはっ☆」


 一方北側のとある邸宅では勝負があり、ミズヤに軍配が上がった。

 審査員であるプリムラは平気な顔でミズヤの作ったマドレーヌを食べ、姉のフクシアは騒ぎながらジタバタしている。


「ねこさんは最強なのです……」

「むぅうう……。認めないもん! 私の作った方が美味しいし!」

「……まぁまぁ、お姉様。このマドレーヌをお食べください」


 ミズヤに向かって歯ぎしりをしながら威嚇するフクシアに、プリムラは黄色くほのかにレモンの香りのするマドレーヌを手にとって、姉に渡した。

 フクシアはじーっと綻びのない柔らかなマドレーヌを睨み、一口だけ口に含んだ。


「……超美味しい」


 悔しそうに眉間にしわを寄せながら、逆らえない感覚を渋々口から吐き出した。

 美味しいと感じたら、それは否定できないのだ。


「フクシアのガトーショコラも美味しいよ〜っ。あ、でもこれ甘くないや」

「審査するのプリムラだもの。甘さ控えめに決まってるし、ミズヤのだってコレ甘くないじゃん」

「うん。いやー、紅茶に合いますにゃ〜……」


 ほんわかしながらお菓子を食べて紅茶を飲むミズヤ。

 しかし、その紅茶にもガムシロップが2つ入ってるので結局は甘いのである。


「うー……悔しいよぉ。なんでそんなに料理できるんだよぅ……」

「ねこさんはなんでもできるんだよ?」

「じゃあ私もねこさんになる! サラちゃん! おいで!」

「……ニャー?」


 フクシアはマドレーヌを一気に頬張り、もぐもぐとほっぺたを膨らませながらサラを呼び込んだ。

 暇だったために本体の方に集中していたがフクシアの方へとのそのそ歩いていく。

 近付いてきたねこさんを抱きしめ、フクシアもほわほわとした雰囲気を出し始めた。


 そんな姉の姿を見ながら、プリムラはポツリと零す。


「北軍の【懐刀】があのようでは、北の兵士としてガッカリですわ……」

「フクシアは兵士である前に、女の子だよーっ。プリムラも、そんなに堅くしてないであそぼ〜ね〜っ」

「……結構ですわ。【懐刀】の鞘であるワタクシまでフニャフニャになるのは困りますもの」

「そっか〜……。残念ですにゃー」


 しょんぼりとしながらミズヤは別件でマシュマロを作りに調理場へと戻る。

 マシュマロはクオンのおやつなのだ。


 残されたプリムラは呑気な2人と一匹を見ながら考える。

 彼女の姉、フクシア・クシャール・カルフォルは北軍の最高戦力とされている【懐刀】である。

【懐刀】――それは4つの軍の最高戦力を指し、西のマナーズなんかも【懐刀】にあたる。

 最高司令官に近い最高戦力、だからこそ【懐刀】。


 北に至っては【懐刀】と最高司令官はブロックが兼任していたが、彼の娘が15歳になったのを機に娘へと【懐刀】の称号を譲ったのだ。

 無論、その実力を伴ってはいるのだが――


(内戦が起こるかもしれないという時に、【懐刀】がこれでは……。しかも、【七色の魔法使い】まであんなに呑気で……この国は大丈夫なのかしら?)


 3年前にも不安にクオンも思ったことを、プリムラは憂うのであった。

ティラミスは犠牲になったのだ……ガトーショコラのな……。


嘘です。この話はダラダラ書いてて内容適当のまま投稿しただけです。お許しください。

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