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連奏恋歌〜求愛する贖罪者〜  作者: 川島 晴斗
第零章:シュテルロード
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第12話:対決

 シュテルロード家は代々、【無色魔法】の適性が多く、“透明魔法の権化”と称されるほどの実力を持っている。

 それはカイサルもミズヤも同じことであり、空気、音、結界といった空間を操る力が強いのだ。

 その事はカイサル自身が一番よくわかっていた。


(……あの頃の私も、反抗したものだ)


 ふと彼は思い出す。

 ミズヤの敵意を込めた瞳は、かつての自分と重ねて見えていた。


 この領地の事はカイサルも10の時に知り、政治がおかしいと反論した。

 グレたり部屋に引きこもったりいろいろしたが、結論として彼はシュテルロード家の領主となっている。


(ただ……私でもこんな無謀な真似はしなかったな)


 対峙するミズヤを見て彼は笑う。

 カイサルは自分の親に反抗こそすれど、争うことはなかった。

 “世界のため”という大義を盾に、彼はこの領地の出来事を受け入れたのだ。

 しかし、悪い事は悪いって、本当は知っている。


 だから、彼は――


(我が子ながら……少しだけ、羨ましいな――)


 格好つけたミズヤの事が、少しだけ羨ましかった――。




 ◇




「【赤魔法(カラーレッド)】――【質朴増力(インスタント・ストレング)】」


 ミズヤがポツリ呟いて唱えたのは、一時的な魔法による肉体強化魔法だった。

 少年の体を柔らかな赤い光が包み込み、夜の中でほのかな明かりが灯る。


「【緑魔法(カラーグリーン)】、【蔓の御木(ヴァイン・ツリー)】」


 その言葉が呟かれた直後、ミズヤの背後より1本の太い木が立ち上る。

 その木は細い(つる)が絡まってできた木であり、言うなれば触手の塊だった。


「……いくよ、父上」

「さっきも言った筈だ。殺す気でこい!」

「…………」


 ミズヤは沈黙し、目を閉じた。

 好戦的な自分の父に、もはや遠慮する気も失せたのだ。

 いや、もとより遠慮などする気もなかったが――。


(もういいや――死のうが気にせずに戦おう)


 殺してもいいというトリガーが、彼の中で働いた。


 刀を横一線に振るうと、一斉に木から触手が飛び出し、カイサルに襲いかかる。


「【無色魔法(カラークリア)】、【無色防衛(カラーレス・プロテクト)】!!」


 しかしカイサルは透明な結界を張り、全ての攻撃を一斉に防いだ。

 蔓は結界に刺さることなく折れ曲がり、結界の周りを取り巻いていく。


(視界を遮ろうということか? どちらにせよ、私とミズヤでは魔力量が違う。結界を破る事など不可能だ)


 結界の中でカイサルは考える。

 こんな事は時間稼ぎに過ぎないし、その上彼ならばいつでも抜け出すことができると。

 油断ではなく、本気でそう信じていた。

 しかし――


「ぬっ――?」


 靴に違和感を感じ、彼は下を見つめる。

 すると靴には、蔓が縛りつくように巻かれていた。


「……動きを封じる、か? それで大技を?」


 焦るような言動でありなから、カイサルは内心笑っていた。

 子供にしてはよく考えた作戦だ。

 自分の息子の成長に歓喜しているのだ。

 しかし――この程度ではいけない。


 カイサルは右手に刀を持ち、左手を空に掲げる。

 そしてそのまま円を描くようにぐるりと回した。

 すると――結界の面が全て、薄いオレンジ色に変色する――。


「【無色魔法(カラークリア)】――【力の四角形(フォース・スクエア)】!!」


 言葉が放たれると同時に、彼の作った結界は四方にある全ての蔓を吹き飛ばす。

【無色魔法】独特の圧力による衝撃波は、一瞬にして視界を晴らした。


「【無色魔法(カラークリア)】――」


 しかし、カイサルが目にしたのは自分のように結界を張り、その中で大きな四角い薄オレンジのパネルを両手に出したミズヤで――


「【二重(デュアル)/力の四角形(フォース・スクエア)】!!!」


 ミズヤによる2つの攻撃は、いともたやすく結界を打ち破った――。

 無色透明な空気の塊が激突し、地面が爆発する。


「…………」


 噴煙でカイサルの姿が見えなくなり、ミズヤは無言で【無色魔法】を発動し、後方に飛んだ。


(……終わり、じゃないよね)


 ミズヤはキュッと口を結んで煙を見上げた。

 あれだけ威勢を放っていた父が、簡単に負けることはないと思っている。

 そして、それは当然であった。


「――ふぅっ!!」


 男の声と共に風が吹き荒れる。

 ミズヤはそれに動じることもなく、再び木の前に着地した。


「……やるな、ミズヤ」


 噴煙は吹き飛び、中からはカイサルが現れる。

 彼の足元の土はごっそりとなくなり、それが噴煙の起きた理由だった。

 なんらかの魔法により、彼はミズヤの魔法を防いで立っている。

 そして……足の拘束は、斬られていた。


「……今度はこちらの番だ。いくぞ!」

「…………」


 ザッと踏み鳴らし、カイサルは突っ込む。

 それに応戦するように蔓の触手が伸びていくが、カイサルの刀を前に(ことごと)く斬り捨てられていった。


「ミズヤァ!!」

「…………」


 カイサルが右手を伸ばし、水のレーザーを放つ。

 蔓をも容易く貫通する光線をミズヤは避け、2色目が出たことに少なからず驚く。

 最低でも3色は使える人材であることは承知していたが、無色以外にこれが2つ目だ。


 蔓を斬り、レーザーで断ちながらミズヤへと迫る。

 だが、ミズヤはあえて後方に逃げた。


「囲え――」

「ぬ!?」


 迫るカイサルは木の根元に迫り、その周囲の蔓が一斉に彼を囲う。

 一部をレーザーで切断しても、すぐに次の蔓が伸びてぐるぐる巻きにした。


「【火の玉(ファイヤーボール)】」


 そしてミズヤが後ろから火の玉を放ち――



 ドゴォォォオオオオオン!!!


 蔓の塊は業火をもって爆発した――。

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