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連奏恋歌〜求愛する贖罪者〜  作者: 川島 晴斗
最終章:衰亡のレクイエム
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第6話:わからない

 4人は予定通り、各拠点を巡って意見の賛同を得る事に努めた。

 今では地図上で北大陸全土がキュールと扱われど、軍事拠点はバスレノスの意志を継いでいる。

 人を守護するために武器を手にする事、それについては他国の人間であろうと関係ないのだから。

 東大陸に攻め入るのを阻止する、クオンが交渉すれば容易に賛成を得ることができた。


 移動はミズヤが龍の形をした物体を生み出し、【無色魔法】で飛ばす。

 4拠点を回るには、時間が余り過ぎた。


 全体の招集は2週間後、それまでは猶予があった。


「戦闘長期化に備えた食料はナルー様が居ればどうにかなりますし、宿泊地もミズヤが楽器を持って魔法を使えばいくらでも宿屋はできる……何もすることが無いですね」

「ずっと休みもなかったし、暫くまったりしてるのもいいかもね〜」

「それには賛成です。クオン様も疲れておいででしょう」

「私は疲れてなどいませんが……珍しいですね、ケイクが休みを勧めるなど」

「私はクオン様の為とあらば、休むことも厭わず、良き事とします」


 龍の模型に乗っての移動中の会話はそのようなものだった。

 行くあてもなく、風の向くまま気の向くままに空を飛んで、4人はボーッとしていた。


「久し振りに魔物でも倒します? 一応は【魔破連合】所属ですし」


 クオンが提案すると、すぐにケイクが口を出した。


「やめておきましょう。今の俺たちでは肩慣らしにもなりません」


 ケイクはあくまで冷静に判断を下すのだった。

 この3年、4人は強くなった。

 元から強かったミズヤは新たな魔法をいくつも生み出し、クオンは戦闘に慣れ、今ではラナに劣らぬ力を持っている。

 ケイクは父ほど強力とはいかないが、体が発光するレベルの炎を生み出し、ヘリリアはヘルリアのコントロールを得て戦闘・防御の両方に特化したオールラウンダーになった。


 今の4人は、【魔破連合】の定めるAクラスの魔物相手に余裕で単独勝利できる存在だ。

 今更魔物を倒したところで僅かな資金を得るのみである。


「でも、体は慣らしといた方がいいよね〜」

「ええ。どこかトレーニングのできる場所に根城を持って過ごしたいです。当日は混戦化する可能性もありますから、鍛錬を怠りたくはない」


 ミズヤの言葉をクオンが理路整然と肯定し、場所について考える。

 どこかの軍事拠点に居座る事は容易で、模擬戦の相手は幾らでも居るが、戦いの話を持ち掛けた身としては居心地もいいとは言えない。


 今回の事が上手くいけば、バスレノスを取り戻せるかもしれない。

 そう考える人も多い。

 しかし、クオンが目指したいのは"皆の満足"であり、国の統治者が再び入れ替わることを、国民がどう受け止めるのかわからなかった。


 どんな形であれ、調査を行なってから結果を出したい。

 それがクオンの想いだが、バスレノスの軍事拠点では矢張りクオンを支持する者が多いので、そうなると戦いで白黒つけようと言い出す者も居る。

 軍事拠点のため、腕に自信のある者ばかりで、万一戦闘になったとしても勝利は揺るがないが、そういう話はしたくなかった。


 話は逸れたが、そういうわけでクオンは軍事拠点に居たくない様だった。

 そこから町に移動して、受け入れる人も受け入れない人も居る。

 死んだ兄達の為に戦わないクオンを、腑抜けと指差す人もいた。

 それにも耐えて今までバスレノスの意志を伝え回ったわけだが、1つの事をやり遂げる前は心を落ち着かせたい。


 だったら、4人で静かに過ごせる場所を――。


「また地下ですかにゃー?」

「それが一番ですかね」


 結局、地下にスペースを作る事が最善となるのだった。

 そうと決まれば、彼等は城下町近くまで行って、草道の途中に地下を作るのだった。




 ◇




 アリの巣状に張られた巣は4つの部屋が地上に近く、そこから細い道を通って下に行くと食堂、風呂場等、さらに下が大広間となって居る。

 物質生成の黒魔法と色変更の白魔法でフローリングや寝具、クローゼット、とにかくなんでも作り、神楽器を使ったミズヤの魔法で明かりも自由に点けたり消したりできる。

 こんなに便利な建物はバスレノスの文化に未だ無い。


 最早使い慣れた4人はアリの巣のようになった家に何も思う事はなく、各自部屋に向かって行った。


「サラにゃーはこちらでーすっ」

「ニャー」


 ミズヤに両脇を持たれ、同室に強制連行されるサラ。

 6畳1部屋の小部屋にはベッドと机、クローゼットの家具と、クッションや縫いぐるみがいくつか置いてある。

 ミズヤはサラの足を簡単に拭いて、ベッドの上に乗せた。

 サラも結構歳を取ってしまい、ベッドとへのジャンプすら億劫な状況である。


「サラにゃーは年寄りねこさんだね〜。もしねこさんが死んじゃったら、また新しいねこさんが来るのかなぁ?」

〈居場所がわかってれば向かわせるらしいわ。寧ろ、この体使うのめんどくさいし、早く殺して欲しいんだけど〉

「それは嫌だよぅ……。僕が幼い頃から一緒に過ごしたのは、その体のサラだもん。ねーっ?」

「ニャーッ」


 甘く鳴くサラを見て、ミズヤはクスリと笑う。

 唯一無二の家族に死んで欲しくないと思う、当たり前の心だった。


「よぼよぼでも、ねこさんは可愛いよっ」

「…………」


 ペチペチとサラはミズヤの頬を打つ。

 肉球に叩かれ、ミズヤは幸せそうにベッドに倒れ伏した。


〈ミズヤはいつまでクオンを支えるの?〉

「……うーん」


 唐突にサラが質問すると、ミズヤは寝返りを打って顔を伏した。

 いつまで居るのかはわからない、しかしサラのと元に向かいたいとは思っている。

 最愛にして最後の家族、その本物の少女と出会い、記憶を取り戻す事はそれはミズヤの幸せになる事だろう。

 だって、サラはミズヤのことが好きなのだから。

 ミズヤの不利益になるような事を、する筈がない。


〈目の前の問題が大切だっていうことも、クオンのことが心配なのもわかるわ〉


 板の文字を切り替える。

 しかし、ミズヤは布団に突っ伏して文字を読まなかった。


 サラがガツガツと頭に板をぶつけて、ミズヤが漸く読む。

 そして、また文字が変わる。


〈でも、もうそろそろ来て欲しいわ。この騒動が終わったら、お願いよ〉

「でも……国を取り戻した後、クオンは狙われる可能性だって……」

〈ケイクやヘリリアも居る。クオン自身も強くなった。大丈夫よ〉

「……うん」

〈それとも、貴方――



 クオンが好きなの?〉




 その問いかけに対して、ミズヤは答えられなかった。

 好きとか嫌いとか、簡単に言えることではなかったから。


 かつてミズヤが"瑞揶"として生まれた地球、そこで恋人になった川本霧代と同様の気持ちを、クオンには抱いていない。

 だからって、好きか嫌いか今ここではっきり宣言するのは、酷な話だった。


 だから、ただ呆然と、


「わかんない……」


 悲しみを含んだその声とともに、ミズヤは再度ベッドに埋もれるのであった。

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