第2話:戦争
別棟にある大広間には多くの国内貴族が集まり、整然と並んで座っていた。
クオンは広間の中に入ることができたが、残り3人の側近は別室の控え室で他の近衛達と待つことになる。
大広間の中で1人座るクオンは、ただ静かにそこに座し、瞳を閉じている。
すると聴こえてくるのだ。
彼女をせせら嗤う声が。
「クオン"元"皇女だ……まったく、ここに並んで恥ずかしくないのか……」
「敗残者が我らと同列だなんて……」
「…………」
小言を言うのは、かつてバスレノスで貴族をしていた奴等でその中でも品位もなく、貴族の小倅がそのまま貴族になったような無知連中である。
若しくはバスレノスが支配する前の国の貴族や大名と呼ばれる人種が、今となっては地図に国名もないバスレノスの民を卑下するのだ。
クオンも、既にキュールの市民権は得ているというのに。
まだまだ確執はあるし、変えなければいけないものはある。
それを今回、クオンはトメスタスに話す機会を設けたかった。
貴族が大方集まると、城の者が前に出る。
紋付袴をアレンジしたような、黄色いデザインの服装の老人だった。
「皆様。本日はお忙しい中ご足労頂き、誠に有難う御座います。それではこれより、我がキュール大国の大王であるトメスタス大王にお言葉を頂戴致します故、暫しお待ちくださいますよう、お願い申し上げます」
軽い挨拶を残し、老翁は退室して行った。
その代わりに、煌びやかな宝石を身に纏う紫色の着物を着た男が現れる。
頭の後ろで髪を括ったその姿は、雅やかで、背格好も体格も昔から大して変わらない。
細い目で整然と座る貴族達を眺めるこの男こそ、トメスタス大王であった。
彼が前に立つと、全ての者が頭を垂れる。
「面を上げよ」
凛とした一言。
この場を支配するのが誰なのかわかる一言だった。
クオンは頭を上げ、改めてこの国の長を見る。
「皆の者、今日はよくぞ集まってくれた。明日は追悼式であり、皆にもキュールの民として、過去の戦士達の慰霊に協力して頂く。しかしながら、この追悼式は皆が集まる大切な機会でもある。ゆっくりし、親睦を深めるのもいいだろう。各々が思うように過ごして欲しい」
王らしい挨拶の言葉で、この国は大丈夫だろうなとクオンは安堵させられた。
トメスタスの民への思いやりや、国の安寧を注意する振る舞いは皇族であるクオンにとって喜ばしい。
「それともう1つ、皆にはお願いがある」
ここで話を区切り、トメスタスはある別の話を始める。
それは、クオンにとって衝撃的なものだった――
「今冬12月、我々キュール大国は東大陸に進軍し、国力増強を目指す! 皆の力を貸して欲しい!」
◇
『…………』
悪い話を側近達に持ち帰ると、クオン達の客室はどんよりとした空気でいっぱいになった。
キュール、即ち北大陸は他のどの大陸よりも大きい。
とはいえ、上に行くほど寒いので上の方の人口は程々であるが、それでも1つの国としては最大級の大きさである。
東大陸は中・小国がいくつもある土地で、1国ずつ攻めるのはキュールにとって容易いことが想像できる。
さらに言えば、もしこれにクオン達が力を貸せば、神楽器は3つであり、負ける事など有り得ない。
侵略するのは容易だと、目に見えてわかっている。
キュールも近年、四方のバスレノス軍事拠点とは別に、2つの軍事拠点を増設している。
クオンや四方のバスレノス軍事拠点が協力しなくとも戦争をするだけの力はある。
「ですが我々は……誰にも傷ついて欲しくなくて、この北大陸を巡ってきました……。この戦いは我々の正義に反します。だからこの戦には不参加とし、トメスタス大王と対話して阻止する為に動きます」
クオンの言葉を否定する者は、仲間の中に居なかった。
かつて自分達が誓ったのは戦いなき世界と平和な国。
トメスタスが行おうとしているのは、その昔バスレノスがキュールを侵略した事と変わらない。
悲しみの螺旋を断ち切る――そこに何の戸惑いがあるだろう。
全員の意見は決まっており、為すべきはトメスタスの野望を阻止する事。
具体的な方策はまだないが、やることだけは決まった。
「――話もまとまった事ですし、食事に行きましょう。今日は食べ放題ですよ」
「ごはんー!」
「お腹空いたね〜」
「……今日はまだ何も口にしてなかったな」
クオンが話を振ると、上からミズヤ、ヘリリア、ケイクと順に反応を返して行く。
彼等は旅の時、魔物を倒す事で生計を立てていたが、軍事拠点の人々の行動範囲が広い事もあり、魔物は殆ど駆逐されているので魔物自体の存在はかなり珍しい。
だから何かのお手伝いやパフォーマンスを披露して日銭を稼ぐことが多かった。
高級料理なんて手が届かぬ代物だったのである。
しかし
「正直なところ、城の料理なんかよりミズヤの料理の方が好ましいですけどね」
『うん』
「えへへー♪」
ミズヤが照れて頭を掻く。
調味料は魔法で再現、野菜類は緑魔法で生み出せたため、食材には困らないし、ミズヤは魔法でキッチンぐらい簡単に作り出してしまう。
ちゃんとした料理を食べるのには困らなかったし、ミズヤは元から1人で生きてきたときに料理もしているので腕も良かった。
「本物のサラも追悼式に来れれば良かったのにねーっ」
〈アンタらの国の追悼式に外国の私達が現地まで行って死を悼むのって、迷惑がられるのよね。せっかく行事があるのに行けないのは怠いわ〉
サラは首に掛けたボードに文字を写し、嘆息をして気持ちを露わにする。
3年間、サラも自国でのいざこざがあって外には出られなかった。
具体的には他国との戦争なのだが、すぐに勝利を収めたものの、得た土地や国のあり方や方針を決めるのに時間を掛けていた。
ミズヤと会う日はまだまだ遠い。
そうして食事を摂り、入浴を済まして前日が終わる、
明日はバスレノスが無くなった四回忌、再び鎮魂曲を捧げる日――。
外国から追悼に参加するのは政治絡みになりそうだから、手紙辺りでっていう概念で話しています。




