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連奏恋歌〜求愛する贖罪者〜  作者: 川島 晴斗
第零章:シュテルロード
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第11話:力

 西大陸中心部にある、とある城の地下9階――ゴウンゴウンとファンが動き、ピピピピッと自動でキーホードが押されていく。

 それこそ魔王フォルシーナによる魔法のもので、自動で魔物を精製しているのだ。

 下級の魔物であるならば魔法で作っては地上のどこかに転移させ、作っては転移させの繰り返し。

 だが強い魔物は簡単に野に放つことはできない。

 多く放てば、それだけ死者が増えるから――。


『はぁ……』


 機械に寄りかかる少女が1人いる。

 下を向いてため息を吐き出し、二重に聞こえる野太い声は魔王のものだった。

 魔王――とはいえ、それも彼女が勝手に称しているだけだが、肩から手首まで骨になった彼女は魔王と言って差し支えないだろう。


『……あと250体ですか。まったく、なんでこんな事を……』


魔法入力板(マジシャン・ボード)】に書かれた文字を見て、魔王フォルシーナは項垂(うなだ)れる。

 自動であるからいいとはいえ、止めるのは自動ではないので待たなくてはならなかった。

 部屋の隅にある半透明などでかいケースに魔物が作られ、勝手に転送されるのを見ているだけ。

 なんとも退屈なことである。


『……そういえば、昨日は“郵便屋”が来ましたね』


 ふと思い出したことを口にする。

 この地下最下層に入れるのはどごぞの国の上層部や王族、そして“郵便屋”だけだ。


 郵便屋とは、フォルシーナがたまたま地上で拾った少年で、地上ではもう彼女しか使えない瞬間移動を教え、その能力を使って少年は郵便屋として働いている。

 届けるものは伝言や荷物が殆どが、フォルシーナには昨日、伝言が届いた。


『シュテルロード家の嫡男が領地を見る、ですか……。まったく、シュテルロード家だからってなんだと言うんです。もうヤラランに家柄は関係ないんですよ。ねぇ?』


 そう言いながら、彼女は少年の縛られる十字架を小突いた、

 そこに囚われている少年も、シュテルロードの性を持つのだった。


『まぁ……見に行きましょうか。これが終わったら人骸鬼を3体ぐらい作って……うん、それで良いですね』


 はぁ〜っとまたため息を吐いて彼女は座り込み、あと200体近くの犬のような黒い獣ができるのを待つのだった。




 ◇




 雨はまだ降らぬ中、ミズヤ、フィーン、カイサルの3人と、1匹の猫が外に出た。

 ミズヤの母であり、カイサルの妻であるフィーンはこの件に関してあまり触れず、2人を見つめている。


 彼女はもともと、他国の王女であった。

 しかし地位があるでもなく、フラクリスラルという小国の侯爵家に嫁いだのだ。

 横から割り込んできた彼女からすれば、この親子喧嘩は蚊帳の外である。

 しかし、寧ろ――何もできないからこそ辛いのであった。


「ミズヤ、剣を構えろ」

「…………」

「殺す気でかかって来なさい」


 カイサルは自らの子へ刀を向けた。

 その声は冷酷であり、手加減をする気は無いと感じ取れる。

 対して、ミズヤはゆらりと刀を構え、小さく息を吐き出して呼吸を整える。


「……。できれば……」


 ミズヤが口を開き、しかし言い淀んだ。


「? なんだ、今のうちに言え」

「……できれば、親子喧嘩はこれが、最初で最後にしたい……です」

「……そうだな」


 風が吹く。

 刀を構える男が2人、長い袖を揺らしていた。

 傍観する女性と1匹は静かに佇んで見据えるのみ。


「……私からも1つ言っておこう、ミズヤ」

「……。なんでしょう?」


 ミズヤが弱い声で聞き返す。

 するとカイサルは不敵に笑い、こう言い放った。


「メイラの事だが、彼女はお前をよく慕っているようだな」

「!? メイラ……が、何か?」

「使用人として持ってはならぬ感情を彼女は持った。だから屋敷を追放して、領地で暮らしてもらうことにしたんだ」

「――――ッ」


 ミズヤは歯噛みをし、地を踏みしめた。

 メイラの事も、彼との気まずい空気から父にバレたのは想像に難くない。


 領地で暮らしてもらう――その意味はミズヤももうよくわかる事だ。

 どうやって暮らしていくというのか、まったくわからないあの土地で、15歳の少女が1人で生きていく。

 そんな事は不可能と言っても過言じゃないのだ。


「そんな事、させません」

「ほぅ……お前もメイラに気があったのか?」

「違います。友人として、助けたいだけです」


 即答だった。

 ミズヤにとってはメイラは友人以上の存在にはならない。

 しかし、幼い頃から一緒に居た、大切な友人なのは確かだった。


「だがなミズヤ、既に手遅れだ」

「……何故、ですか?」

「メイラはもう屋敷にいない。お前が出て行ってすぐに叩き出したからな。この辺りは森か領地しか行く場所もない。今頃どうしてるだろうなぁ?」

「――!!」


 ミズヤはギュゥっと刀を握りしめた。

 嘲笑混じりの父の発言には怒りを持たずにいられない。

 10年以上も同じ屋敷で暮らした家族のような存在なのに、2人ではメイラへの思いが違い過ぎた。


「父上ぇ!!!」


 怒りのままに少年は駆けた。

 頭の中はとっくに真っ白で、力任せに、殺す勢いで躊躇いもなく刀を振り下ろす。


 鉄と鉄がぶつかり合う。

 直進的なミズヤの切り込みは防がれ、カイサルも刀で応戦した。

 大人であるカイサルの方が圧倒的に力が強く、ミズヤは刀を引いてさらに斬りかかる。

 しかし、繰り出す斬撃はすべて防がれた。

 力も剣の技量も、ミズヤが完全に不利だった。


「ハッ!」


 笑い飛ばしながら、カイサルは横薙ぎにミズヤの刀を弾く。

 続けざまに刀で突きを繰り出した。


「クッ! 【無色魔法(カラークリア)】!!」


 刀での防御は間に合わないと察し、ミズヤは即座に魔法で空気の壁を作った。

 見えない何かがカイサルの刀を遮り、ミズヤは同様に【無色魔法】で後方へ飛んだ。


「……ほう。上手いものだな。空気の使い方をよくわかっている」


 我が子の成長ぶりに、関心するようにカイサルは呟いた。

 戦いの最中だというのに無駄口を叩くその余裕は自分の技量に自信があるからに他ならない。

 しかし――


(……なんだ。帰りは歩いたからか……思ったより、魔力が残ってるや)


 刀の実力は、魔法となるともはや関係ない。

 ミズヤは自分に沸き満ちる魔力を感じ、ふぅっと、息吹のように呼吸をした。


(……僕が怒ってるから、魔力が溢れるように感じるのかな?)


 ミズヤは不思議そうに刀を持たぬ左手を見た。

 善意と悪意が魔力となるこの世界――人を助けようとする気持ちは大きな魔力となる。


(……よし)


 これならなんとか勝てそうだ――


 心の中でそう呟き、ミズヤは一歩前へと踏み出すのだった。

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