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連奏恋歌〜求愛する贖罪者〜  作者: 川島 晴斗
第五章:螺旋
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第15話:フォース・コンタクト⑦

フォースコンタクトも終盤ですか……。

「ハァ、ハァ……ハァ……!」


 小さな体躯が炎広がる廊下を駆ける。

 銀色のついんてーを揺らし、クオンは分け目もふらずに前を見つめて疾走する。

 彼女が探しているのは、ラナだった。

 クーデターを起こしたのが自分の姉だと聞いて、居ても立っても居られなかったのだ。


「クオン様、お待ちください!!」

「クオン様!!」


 ケイクとヘリリアも慌てて追うも、クオンは止まらない。

 その後ろからはさらに、サラが後を追っていた。


(動き回られると面倒ね〜……)


 バスレノスなど関係ないサラからすると、落ち着かない皇女が厄介なもので、内心溜息を吐いている。

 一方、そのラナは――




 ◇




「見つけたぞ」


 3階から降りる4人組に対し、ラナはそう言った。

 酷く睨みつけながら、どこのものかも知らぬ剣を向けて。

 それに対してトメスタスは全く動じず、ただ尋ねる。


「ラナ、お前の目的はなんだ? 何故こんな災厄を引き起こす? おかげで皇帝も皇后も死んだ、バスレノスの向後は真っ暗闇だ」

「もとよりこの国を治めることは両親の力量を超えていた。時間の問題だった事を終わらせてやったに過ぎん」

「それで? 人が大勢死んで、これはよかったのか?」

「最善は尽くした。あとはお前を殺すだけだ」

「……なるほど、本当に狂ってしまったようだな、ラナ」

「…………」


 ラナは肯定も否定もしなかった。

 認めるか否か判断できるほど、今の自分を分析できなかったから。

 しかし、ここまで進んでしまった事に後悔はない。

 これで最後、全てを終わらせる。


「来い。お前と戦うには、ここは狭過ぎる」

「良いだろう。全身全霊を掛け、正々堂々お前をぶっ殺してやる」


 殺意は共に同じ、彼等は決戦を迎えるべく中庭へと移るのだった――。




 ◇




「クオンはっけーんっ」

「えっ……ミズヤ?」


 一方、ミズヤは城を走り回るクオンと遭遇していた。

 彼女の足はミズヤの無色魔法により浮かされ、ぶらぶら前後に振るだけになって止める。

 後からケイクとヘリリアもやってきて、サラはミズヤに飛びついた。


「ふにゃっ!!? あーっ、サラねこさん。クオンの事見ててくれたかにゃ?」

「ニャー」

「それはそれはねこさんですねぇ〜っ♪」


 理解不能。


「……ミズヤ、その背負ってる人って」

「ん? プロンさんだよ。疲れて寝ちゃったけど」


 ミズヤの背負う人物に気付いたケイクが尋ねると、すんなりと答えた。

 先ほどまで満身創痍だった女性だ、疲労までは消せずに眠っている。


「とりあえず、確保したという事だな。親父が1人殺してたから、これでラナ様の側近は片付いたな」

「ケイクくんのお父さん? 大将なんだっけ?」

「ああ、今は外で暴れてる。暫くの間、レジスタンスは城に入ってこれないだろう」

「なんか手薄だと思ったら、そういう事なんですにゃあ……」


 あまり人と会わないなぁと思っていたミズヤは、その疑問が解消されてうんうんと頷く。

 しかし、そんな事は今どうでもいい。


「ミズヤ、お姉様を見ませんでしたか!?」

「あー、僕も探してるところなんだよね〜……。お城の中は大体探したんだけど、居ないから外かなぁ……」

「こちらも同じ状況です。ミズヤ、神楽器は返しますから【無色魔法】で私達を外に連れ出してください!」

「あ、うん。別にいいけど……神楽器はまだ持ってていいよ?」


 クオンの提案を半分断るも、クオンは首を横に振った。


「次に敵対するなら、お姉様です。止められる戦力はトメス兄様、ヘイラ、貴方の3人でしょう。さらにレジスタンスも妨害する筈、貴方には全力で戦って欲しいんです」

「……そういう事なら、返してもらうね」


 ミズヤはプロンを降ろすと、クオンからヴァイオリンケースを受け取った。

 真っ黒なケースを背負うと、みんなで移動するためにミズヤは魔法を使う。

 【黒魔法】の物質創造、作り出すのは黒一色の絨毯だった。


「よいしょっ」


 ミズヤが何気なく呟くと、クオン達は全員浮かされて絨毯に乗せられた。

 気絶したプロンも絨毯に乗せられると、最後にミズヤがサラを抱えながら飛び乗る。


「わーっ、これ魔法使いっぽいよね〜っ♪」

「ニャアッ」

「では、しゅっぱーつ!」


 殺伐とする戦禍の中、和気藹々とした1人と一匹を合図に絨毯は飛んだ。

 風を切る音がするほどの高速、阻む炎は迫る前にミズヤが吹き飛ばす。

 進む先に壁など無いように、ミズヤは障害物を消し飛ばして進んだ。


 突き当たりの壁も崩壊させて、久しぶりに星空を見ることとなった。

 地上40mはあるその場所で絨毯は停滞し、クオン達は一斉に辺りを見渡して居た。

 そして、よく訓練を行う中庭で、ついに目標を見つける。


 ラナは単独で、トメスタス一行の前に仁王立ちで構えていた。

 バスレノスを統括する血族、その姉弟が相対する様は緊迫に包まれて、誰も声を出せなくなる。


「……さて、それでは全力でやらせてもらおうか」


 スッとトメスタスは刀を抜いた。

 彼の背には小太鼓が背負われている、羽衣も纏っており、臨戦態勢だ。

 一方のラナは武器も構えず、ただ立ち尽くすのみ。


「……今まで、ここで何度も模擬戦をしたな」


 ポツリとラナの口から思い出が一粒溢れる。

 トメスタスはそれを鼻で笑って一蹴する。


「フンッ。あんなもの、真面目にやるものか。お前は本気だったやもしれんが、俺は全く本気を出してはいない。今日は勝たせてもらうぞ」

「……そうか。残念だったな」

「……?」


 何が残念なのか――聞き返す前に、トメスタスはラナの姿を見た。

 姉がただならぬオーラを放っているのはいつもの事、しかし今日は違う。ただ立っているだけで気押されるような恐怖を身に纏っていた。


「私も――模擬戦で本気を出した事は、ない」

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