第13話:フォース・コンタクト⑤
毎日更新という懐かしさ……。
バスレノスがまだ小国であった時のこと、御国は近隣の国との戦争が勃発し、疲弊しきっていた。
敵対国との力は均衡し、泥沼試合で金と命だけが無駄になって行く。
そんなある日のこと、魔王を名乗る異形の女が現れた。
魔王はバスレノスの戦争に協力すると、伝説の神楽器、小太鼓を託し、魔王は静かに去っていった。
魔力を40倍に引き上げ、1撃で街1つ破壊しかねない【羽衣天技】を使用可能とする神楽器、これを誰に託すかが鍵となっていた。
各大将はそれぞれがすでに強大な力を持つため必要は無く、かといって中将に託すのは示しがつかない。
ならば皇族内で持つ者を決めようと結論付いた。
当時――これを持つに値するのはラナとトメスタスだった。
皇帝はイグソーブ武器の原型となる兵器開発を行なっており、皇后はこの戦火中の内政で国民からの支持を集めるのに奔走していたから。
ラナとトメスタス、2人の子息は正反対の性格だった。
長女のラナは努力家で、まだ小さい身ながら「魔法の才能がある自分が戦わないといけない」と日々修練に励み、朝から晩まで汗を流し続けた。
一方、長男のトメスタスは怠け者で、戦争なんて勝手にやってろといったスタンスであった。
日々を適当に過ごし、戦争で今日死ぬ明日死ぬなどということはまるで考えていなかった。
そんな2人だからこそ、どちらが神楽器を賜るかは明白だった。
ラナは小太鼓の練習をした。
この【サウドラシア】という世界では古来より音楽文化があり、楽器を弾けることは1つの優秀な技能だったから。
そして、神楽器は演奏が上手いほど上手く扱えるという噂もあったため、ラナは修行に励みつつ楽器に向かい合う時間を増やした。
その頃もトメスタスは毎日城の中をフラフラ歩き、たまに仕事をする女官にちょっかいをだすような、悠々自適な生活を送っていた。
お互いそれぞれ違う時間を過ごし、そして神楽器信託の日が訪れた。
結果として――神楽器を受け取ったのはトメスタスだった。
当然ながら、ラナはこれに反発した。
しかし彼女の両親は
「トメスタスは男だから、武将として相応しい」
「貴方はお姉さんなんだから、我慢しなさい」
こう言いつけてラナを遠ざけるばかりだった。
そんなものは正当な理由じゃない、自分の方が上手くやれるという自信がラナにはあって、それでもこの決定は覆らなかった。
ラナが激昂したのは、神楽器が欲しかったわけではない。
努力した自分が認められない理由が、どうしようもない事が気に入らなかったのだ。
それでも――
「この楽器は凄いなぁ。本当に街1つ消してしまったよ。ハハハッ」
訓練も何もしていないトメスタスが戦争を勝利に導いて、価値観が狂ったのだった。
強大な力があれば、地道な訓練など何の価値もないと。
それからラナは、多くの事に疑問を持つようになった。
何故戦争をする?
何故私は鍛錬する?
この先に多くの笑顔はあるのか?
人々は幸せになるのか?
――そして大陸を統一してから、こう考えるようになった。
――本当にこれで良かったのか?
結果として反抗勢力を生み、多くの国から集めた国民はまとめきるには多過ぎて、みんな満足しているのだろうか?
その疑問は解決されず、国を疑いながらも鍛錬を積んだ。
人のためになることをしたい、そんな根本的な欲求を満たすためにあるはずの国家を、ラナはずっと見てきた。
鍛え上げた肉体と魔法は大将と肩を並べられる程になり、そしてレジスタンスと戦った。
結局、疑問は解決されなかった。
自分は皇族として何をすればいいのか、何が正しいことなのか。
気付けば誰もが望む"ラナ"の形があり、戦いに自ずと打ち込む姿勢を強いられることとなる。
ラナはそのあり方を受け入れ続けた。
けれど――今は、自分の感情のために動くことを知った。
自分のやりたいことをしよう、そう思った結果が――クーデターだった――。
◇
アークが放った魔法は一見、不発に思えた。
何も起こらず、何も変わらず、ヘイラは突進を決め込む。
「打つ手なしか!? じゃあこれで終わりだなぁ!!!」
ラージ・イグソーブを振りかぶり、ヘイラは外へ脱出したアークへと迫る。
しかし――
ガンッ!!
「うおっ!!?」
見えない何かに衝突し、ヘイラは驚嘆する。
手のひらで探ると、それは壁だった。
透明な壁、つまりは結界――。
「剣士は元来、地に足をつけて戦う。最初の床のうねりで危機を感じたのは、そのためだった」
滔々とアークは語る。
その冷めた声で、諭すように。
「だが僕は【無色魔法】を使える……。浮いてしまえば足場なんて関係ないんだが……こうするとどうしても魔法戦になってしまうから、手加減できないんだ」
刹那、メキョッという何かが凹む音が聞こえた。
ヘイラの持っているラージイグソーブの先端が、萎んでいたのだ。
鋼鉄の端が紙屑みたいにクシャッとなる姿に、ヘイラは目を疑う。
「その結界は、内部の空気密度を高める。そして、結界自身が高密度の壁だ。どんどん中心に向かって侵食していくよ――」
「チィッ――めんどくせぇことしやがる!」
ヘイラは即座に部屋の中心に飛んだ。
わざわざ説明してくれた内容によると、結界から高密度にするエネルギーを出しているため、真ん中が一番安全。
とはいえど、そんなものは時間の問題だ。
「【赤魔法】――」
しかし、そこで諦めるのは大将のすることではない。
このような脅威、戦時中はいくつも跳ね除けてきた。
「――【黒衣の炎】」
魔法を発動すると、ヘイラの体は漆黒の鎧に包まれる。
鎧の節々からは赤々しい焔が飛び出し、周囲を発光させる――。
「何――?」
アークにとって、それは衝撃だった。
炎が燃えて光って見えるのではない、空気が発光している、
バチバチと音を鳴らしながら輝く巨漢に、アークは自然と後ずさる。
だがその程度の距離では逃れることはできない。
自身の魔法により高密度化した気体はヘイラの生み出した熱により膨張し、結界をパンパンに膨らませ、爆発させたのだ。
空気の爆弾はアークを数十メートル吹き飛ばし、落下した――。
瞬間最大速度、約850km/s――空気抵抗に打たれ、全身の骨と血管が砕け、即死だった。
「おいおい、死んでんなよ。まだこれからだってのに」
会議室から飛び出し、アークの死体までやってくるヘイラ。
漆黒の騎士は退屈そうにその鎧を炎に変え、元の姿に戻る。
彼の出した光の正体、それはプラズマだった。
熱加熱により空気中の電子を分離させ、発生したプラズマが発光していた。
周囲全体を照らす程のプラズマ、彼の発生させた温度は――およそ3万度になる。
しかし、そんな原理も知らないヘイラは動かぬアークを見ると、くるっと踵を返した。
「さーてとっ、外も騒がしくなってらぁ。なかなか楽しめそうじゃねぇか」
まだ獲物を狩らんと、熱狂する広場の方へと歩いて行った――。
秒速850kmと書いた方が良いのか、投稿直前に悩みましたがこのままにしました。
車とかは時速なので、そういえば秒速850kmがどんだけヤバいか……。




