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連奏恋歌〜求愛する贖罪者〜  作者: 川島 晴斗
第五章:螺旋
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第4話:決断

 クオンとその近衛3人は、東方の貴族邸に邪魔していた。

 赤い絨毯が一面に敷かれ、黄金に輝くシャンデリアの吊るされた室内にて、一行はソファーに座って貴族を待っていた。


「ニャッ!」

〈だから、私も大変なのよ。そろそろ婚約しろって、お母様が煩くて敵わないわ〉

「サラも大変なんだねぇ〜っ」


 その中でミズヤはボードを両手で持ち、腰に猫を座らせて会話を楽しんでいた。

 昨日はトメスタスやラナの恋愛事情を聴いたせいか、周りの人の恋模様を気にするミズヤであった。


「ケイクくんは……いいや。ヘリリアさんは好きな人とか居るの〜?」

「えっ……。わっ、私は……いっ、いないですよっっっ!!!」

「そうなのにゃー? 恋ってあんまりしないんたねーっ」

「…………」


 1人納得するミズヤを、クオンがうるさわしそうに見ていた。

 ヘリリアも思い人は居るが、本当のことを言わないあたり、クオンは歯がゆい気持ちになっている。


「サラは僕が好きだもんねーっ♪ 僕もサラだーい好き♪」

「にゃぁぁぁあっ……」


 ミズヤがサラをぎゅっと抱きしめると、ふにゃふにゃになった鳴き声が出た。

 さすがは12年間好きなだけあり、未だサラはミズヤにゾッコンなのだ。

 顔から湯気の出たサラを抱えながら、ミズヤは貴族を待つクオンにも尋ねる。


「クオンは好きな人居る〜?」

「私はみんなが好きですよ」

「あら〜っ、クオンはいいねこさんだねーっ♪」

「…………」


 ほわほわしたミズヤに、「何だコイツ」的な目を向けるクオンなのであった。




 ◇




 クオン達が出張に出てから、また私は考えた。

 私は、こんななりでも長女だった。

 ワガママも言えず、国のために奉仕するための命。

 自分自身を人柱にする事でしか存在価値を見出せない。


 でも、クオンは違うのだ。

 親愛なる妹は国に仕えることを喜び、他人の幸せを望んで動いている。

 私とは違った。

 自分の欲望を考える私とは。


 みんな、欲にまみれている。

 私の親が戦争など起こさなければバスレノスは平和だった。

 キュールは国を取り戻そうとしなければ、これまで多くの者が死ぬことはなかった。

 私が神楽器を求めなければ――


 …………。

 ……魔王よ、お前の望みはわからない。

 人を殺す魔物を生み出し続けるその意味も、人々に神楽器を与える意味も知らん。

 ただ、私に接触した目的ぐらいはわかる。


 ……バスレノス、か。


「……そうだな」


 私は自室でポツリと呟いた。

 その言葉は虚空に飲まれ、誰にも聞かれることなく消えていった――。




 ◇




「わーい! 温泉温泉〜っ! ざぶざぶざぶざぶ〜っ!」

「おい、煩いぞ。静かに入れ」


 一方、ミズヤ達は貴族邸にて温泉に浸かっていた。

 両手で水面を叩いて遊ぶミズヤに、ケイクは鬱陶しそうに眉間へシワを寄せる。

 ちなみに、サラはクオンに連れられて女湯に向かっていた。


「僕、温泉入るの初めてかも……。いやー、月が綺麗ですにゃーっ」

「貴族で屋敷に温泉があるのは、ここだけなのは確かだ。俺もそんなに入ったことはないし、はしゃぐ気持ちはわかる。しかしな……」

「ほっこりしますにゃーっ……」

「…………」


 暴れていたミズヤも段々温泉の色気に飲まれ、大人しくなっていった。

 頬を赤くし、真っ暗な夜空を少年2人で眺めている。


「……なぁ、ミズヤ」

「んー? どうしたのー?」


 湯煎に浸かりながら、ケイクはミズヤに聞く。

 しかし、ミズヤが反応してから少しの間、ケイクは黙ってしまった。

 ミズヤが首をかしげる頃、漸くケイクが問う。


「俺はな、神楽器が無ければお前なんて雑魚だと、最初は思っていたんだ。でも違った。俺はお前に歯が立たん。同い年で、俺よりも訓練を受けた日の少ないお前に、俺は勝てない」

「僕は魔物で実践積んでたからねぇ……。僕の戦い方は型がないし、ケイクくんは僕とやりにくいかもねぇ〜っ」

「魔法も、お前の方が強い。実力ってのは、7色使えるとか使えないとかじゃないんだな……」

「フォッフォッフォ、ケイクねこさんは僕に勝ちたいようですにゃーっ」

「……そのうち負かしてやるからな、覚えてろ」

「うむうむ、ねこさんはいつでも挑戦を待ってるのです」


 頬を緩めながらミズヤは強気にそう言うと、それから2人は無言で温泉を堪能するのだった。

 少しは 親睦を深める少年兵達であった。




 ◇




 その隣にある女湯では、すぐに逆上(のぼ)せたヘリリアが消え、クオンとサラが2人で湯煎に浸かっていた。

 サラのボードが白いお湯に浮き、文字が書かれている。


〈ミズヤと入りたかったわ……〉

「貴女は仮にも女性なのですから、安易に混浴などと考えない方がよろしいのでは……?」

〈ミズヤが5歳の頃から一緒に入ってるわ。アソコの長さだって知ってるのよ?〉

「あそこ……?」


 急にボードの文字が消え、クオンははてなを浮かべるのだった。

 サラは急に話題を変え、ペチペチと肉球でクオンの腕を叩く。


〈クオンは素直で良い子よね。ミズヤには劣るけど〉

「ミズヤは素直過ぎて逆に面倒があるじゃないですか。よく泣きますし」

〈でも、人一倍優しいわ。ふふん、欲しいって言われてもあげないから〉

「……まぁ、欲しくはありますね。主に戦闘面で」


 クオンが素直な感想を言うと、サラはバシャバシャと水面を叩いて暴れた。

 急に怒り出したサラに、クオンは少し距離を取る。


「ニァァーッ!! ニャニャーッ!!!! フシャァァア一!!!!」

「なっ、なんですか……」


 意思疎通の手段であるボードに目をやると、クオンは理由を察する。


〈ミズヤは戦いなんて望んでない!! レジスタンスを駆逐したらさっさとこっちに返してもらうわ!!!〉

「……。そうですよね……」


 クオンはサラの言葉に、改めて諭された。

 争いなんて誰も望んでいない。

 ましてやミズヤなんて、中身はてんで子供で、戦場に立たせたいなんて誰が思うものか。


「早く終わらせて、みんなで平和に暮らしたいですね……」

「ニャッ!」


 お湯をかき分けて泳ぎ、サラはクオンの胸元へ飛び込むのだった。

 すると、またボードの文字が変わる。


〈……アンタ、胸デカくない?〉

「普通ですけど……」

〈そう……〉

「……?」


 なぜか落ち込んだ様子のサラを見ながら、クオンはその小さな毛むくじゃらの体を抱きしめる。

 女湯では小さな女の子が2人、夜空を見上げるのだった。

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