ずんむりペンギン 戦う
今回は少し短いかもしれません。
雄叫びを上げる奴を見ながらバッグの中を探った。
ジャック・ペンから貰ったこの帽子と鞄には特殊な力がある。身につけるだけでどんな環境でも活動可能になる帽子。これで冒険ペンギンは何処でも行くことが出来る。そしてもう一つ、それがどんな物でも無数に入るバッグだ。そして去り際にジャックは冒険で使う最低限の物は入れておいたと言っていた。事前に何が入っているかは確認済みなので中身は解っている。そして目的の物を見つけバッグから取り出した。
それは鈍く光る危ない物。ジャックがいうにはナイフという物らしく、人が物を切る為に使う物らしい。綺麗に光っている刃を触れると物が切れ、生き物を切るとそこから血が出るらしい。だが、これで戦おうとは思っていない。持ちにくいし、そもそも無理に戦う必要はないからだ。なんとか隙を作って逃げ出す。それがいま僕に出来る事だ。
相手も僕がナイフを取り出すのを見て、鼻を鳴らした。なんか凄く馬鹿にしている様子だった。おそらくなめているのだろう。だがそれでいい、そうやって油断してくれれば僕の作戦は成功しやすい。
しばらくしてしびれを切らしたのか奴は僕に突進を仕掛けてきた。安定で横に躱し木に巻き付いた植物を切った。僕は切った植物の片方を掴むと奴を見据えた。奴は威嚇するように立ち上がり両腕を構えた。
「好機!」
僕はすかさず奴の後ろ足に手に持った植物でがむしゃらに巻き付け括り付ける。ジャックも猛獣に襲われた際にこうやって相手の動きを止めたらしい。すると、奴はバランスがとれないらしくズンッと倒れ込んだ。このまま逃げてもいいが、どうせなら気絶させた方がいいと判断し、奴に向かって突貫する。喰らうがいい、これがジャックに教わった奥義。
「ペンギンストリーム!」
凄い勢いで奴の土手っ腹に激突した。
「グ……ォ…ォォォ……」
かなりダメージが入ったらしく、そのまま白目を剥いて沈んだ。体がすこしピクッと動いている事からまだ生きている。凄まじい生命力だ。ペンギンストリームは通常の3倍の速度で相手に突撃する奥義、ただしこれを使うと自身にも反動が来るため滅多に使わない物である。現に体が動くたびに痛みが走っている。幸い奴は気を失っているためなんとか逃げきれるだろう。マスはここから離れないといけない。僕はなるべく早くこの場から退散した。
ずんむりペンギンが去ってしばらくして、森の主は目を覚ました。起き上がろうとした瞬間に横腹に痛みが走り上手くたてなかった。そして思い出す。
自分はあの小さきモノに敗北したのだと、そのことに体が震えた。怒りでもない、悲しみでもない、ただ相手をなめてかかって敗北した事による情けなさで体が震えたのだ。
しかも相手は己を殺さず去っていった。それがとても惨めに見えたのだ。故に誓う、もう慢心は抱かない、嘗めもしない。どんな敵でも全力で戦う事を、その為にはまず己を鍛えなければならない。
肉体だけでなく精神もだ。どうせ、やることもなくだらだらと退屈な日々を暮らしていた身だ、時間はたっぷりとある。
そして十分に鍛えたらあの小さきモノに再戦を申し込む。負けっぱなしは主義ではないからだ。これから先の事を考えると思わず笑いが出てしまう。しかし、とりあえずはまだ痛みが走る傷を癒さなければならない。鍛錬はそれからだ。そう思い森の主は森の奥深くへと歩き出した。
これが後に世界を騒がせるタイラントベアー誕生の瞬間であった。