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1.事件

これは作者がネガティブな心になった時に度々更新します♪不定期ですので、ご了承ください。

 「母さん?」

漆黒の美しい艶やかな髪を、腰に届くか位に伸ばしていた信田沙里シノダサリは、一つの家の前で、ただ立っていた。いや、足が動かなかったのかもしれない。目の前にある、あまり大きいとはいえないこの一軒家は、沙里の自宅である。

 十四歳である彼女は、中学校から帰って、いつものように本屋へ行って本を買った後、自宅へ帰ってくるとこのザマだ。

 沙里は学校から帰るといつも、財布だけを握り締めて本屋へ行く。

 その理由は、両親にあった。現在沙里は、母親の元で暮らしている。父親とは別居中。毎日喧嘩、そして暴力の繰り返しだ。そしてやっと一ヵ月前に別居したのだ。

 もっと早く離れれば良かったのに、と沙里は思ってならない。それに特別、離れている父とも、会いたいとも思わない。というか、会いたくない気持ちの方がだいぶと強いのだ。

だが、今でも母親の暴力は続いている。それを甘んじて受ける必要などはないし、家の中にいると色々とやっかいなことが多い。だから、外に出て少しでも家の中にいることを少なくしようと思っているのだ。


 そして今起きている事が、沙里の頭の中で整理できていない。事件があった時特有の空気と、そしていつも事件などで見られる黄色いテープが、自分の家中に張り巡らされているのだ。呆然とその景色を見ていると、若い、まだ二十歳後半の男性だろうか。少し栗色の頭の警官が、沙里に喋りかけてきた。

 「お嬢ちゃん、ここの関係者かな」

関係ないなら傍に来ないでと忠告しに来たつもりなのか。にこりと微笑んだ警官は、自分をどこかにやろうとしているのだと分かる。

 「関係者です」

はっきりそう答えると、警官は少し驚いた顔をし、問いだす。

「お名前は」

「信田沙里。ここの家の一人娘ですけど・・・何があったんですか」

淡々とした表情で喋っている少女に、警官はさぞ驚いただろう。少し困った顔をする。

だがこれでも中学生だ。こういうあからさまな態度が苛々を募らせる。

「さっさと答えてください。疑ってるんなら検査でもしたらどうですか」

「えっとね、ちょっと落ち着いてね」

「落ち着いてますけど・・あなたの方がよっぽどオロオロしてますからね」

 沙里が少し強い口調で言ったことで、警官は口を濁しながらも少しだけ喋りだす。

「事件だよ。殺人事件だ」

『殺人』。人を殺すと書く。沙里はぽんやりと死という文字を頭に浮かべた。

 「じゃあ、家に居た、母は死んだんですね」

家にいたのは母親一人だ。警官は顔を歪め、はっきりと喋るこの目の前の子供が信じられないんだろうか。だが警察だって死人を見ても別になんとも思っていないだろうと沙里は考える。

 「ああ」

だがそう答えたこの若い警官は、沙里よりよっぽど悲しそうに見える。自分でもなぜ『悲しんでいないのだろう』と思ってしまう。

 だって、悲しくないから。そりゃあ親だし、一応「ああ残念」とは思っているがただそれだけ。他に思うことなんて何も無い。

 それに、今でさえ、生きている実感などないのだ。もしかしたらすべてが夢で、自分は生きてさえいないのかもしれないという幻想まで描いている。

 「大丈夫かい」

警官が低くつぶやくと、沙里はうん、と答えそうになった。親が死んだのに、うんという子供はいないだろう。変わっているとは思われたくない。

 沙里は黙って地面に立っている、自分の足と靴を見つめた。その姿を見ると、なぜか警官は安心したように頭をなでてきた。

「あの、あんまり触らないで下さい」

 ぴしゃりと命令口調でいうと警官は怯んだように手を離した。



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