いっこめ
――――付喪神って言えば日本人なら大体の人が知っているだろうと思う。
さまざまな「モノ」が、長い時間を経て「神」になる。
たとえば、それは古い茶碗であったり
たとえば、楽器や傘なんかであったり
そういったモノが、長い永い時間と経験を重ねて、やがて人のように肉体を得る。
――――そう、それは御伽噺の中のこと
――――そう、それは現実ではありえないこと
で、あるはずなのに
『――――今、世界各地で「モノ」が「人」になるという現象が多発しています――――』
俺、桐川正俊は、ついに自分の耳がおかしくなったんだと思った。
いつもヘッドホンで爆音でゲームしてるのが悪かったのか。
それでなければ頭か。
普段やらないのに戦略ゲーとかやったせいなのか。
まだ21年しか生きてないのに、もうガタがきちゃったりするのか。
寝起きの、いかにもまだ起きたくなかったんですよと言うような目でテレビを睨みつける。
『――――信じられません。この現象をどう説明したらよいのでしょうか――――』
いや、んなこと言われても困るんですけど。つかマジなのかよ。
テレビの中ではリポーターがクソ真面目な顔で事の次第を語っていた。
なんでも、世界各地で色々なもの――それこそ耳かきのような小物から戦車や船なんかに至るまで――が、一夜にして人型になるという現象が多数寄せられたらしい。
始めは単なるいたずらであると思われていたのだが、街中の監視カメラや実際に目の前で変化するのを撮影した映像が動画サイトなどに投稿されると、その話はネットで瞬く間に広がった。
そしてこれが事実であると裏付ける決定的な証拠が今朝提出されたらしい。
一人の女性がスタジオに入ってくる。
一見すると普通の、どこにでもいるような女性。
『――――彼女は元々鋏であったと自称しているのですが――――』
『――――ご覧ください――――』
『――――このように、人間で言う心臓の部分に別の物質があるのが見えます――――』
――――それは上半身を写したレントゲン画像
心臓の部分には――――鋏がひとつ。
おそらく、合成ではない。鋏を体内に埋めたって事も無いのだろう。第一そんなことしてなんになる。
「マジかよ・・・」
ポツリと呟いた彼の手は、無意識にテーブルの上にあるタバコへと伸びていた。
おそらく彼なりに落ち着こうとしたのだろう。
――――正直、彼はこの瞬間まではまだこの現象について半信半疑だったはずだ。
タバコを一本、口にくわえる。
そして、彼の手がタバコの隣にあるはずのライターに伸びる――――
――――その前に、
「ほらよ」
横合いからさし出された火
「あぁ、スマン」
タバコに火をつけ
ふう、と一息
「俺が言うのもなんだが、タバコは体によくねぇぞ」
ふと、隣を見て
「・・・・・・・」
――――赤髪の、ドレッドヘアーの男が、横に居た
ゆっくり投稿していければいいなと思います。