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7.幼馴染と悪役令嬢

今回いつもよりちょびっと長めです




ゆっくりと目を開くと、いつもの見慣れた天井だった。

ぼんやりとした意識が徐々にはっきりとしてきた時、目の前に泣きそうな、自分と同じ顔が現れた。


「シルヴィー! 大丈夫……? 」


震えた声でデリックが顔を覗き込み、その横ではグレンが呆れたような表情で弟を見つめている。

ゆっくりと体を起こしたシルヴィアの身体を支えるようにデリックが手を添えた。

その手には手袋がされていて、自分に気を使ってくれている弟の心遣いが嬉しかった。


「デリック……、グレン……。私―― 」

「お前はデリックと接触したの久々だったろ? 魔力の吸収に身体が驚いて倒れたんだ 」


そう、だった。

デリックを慰めたくて少し無理をしたんだっけ。身体は少しだるいが後悔は全くしていない。


「デリックは……、大丈夫? 」


シルヴィアの言葉に口を戦慄かせたデリックは顔を背けめ目を閉じた。


「僕は……、僕は、大丈夫だよ―― 」

「こいつは大丈夫だ。むしろ、お前のほうが心配だったが―――― 」

「私は、大丈夫。良かった……。デリックに何も無くて 」


シルヴィアはデリックの顔を見つめると安心させるように微笑む。


「シルヴィーっ…… 」

「ほら、そんな顔しないで……、ね? 」


シルヴィアの優しい声にデリックは声を詰まらせて頷いた。

そんな二人の様子に安心したように息をついたグレンが口を開く。


「よし、シルヴィーもデリックも落ち着いたようだし、今後の話をしようか 」


グレンの声に姉弟は口を引き結んで頷いた。


「じゃあまず、アールを呼ぶぞ 」

「ア、アールを? でも、私アールに避けられて―― 」

「そこはさっきも言ったように、アールなら大丈夫だ。それにデリックと俺が呼んでるって言えば、直ぐに来るだろう。そこにお前がたまたま居合わせたとしても、問題はないよな? 」


ニヤリとわらったグレンに苦笑しながらシルヴィアは気づかれないように嘆息し、もう一人の幼馴染であるアールを思い出す。

アール・フレミングはフレミング伯爵の世嗣で、貴族としてはアリストン公爵家のほうが序列は上だが父親同士が親友で付き合いが深い為、子供同士も自ずと仲が良くなった。

小さい頃などはアールが年が一つ上という事もありグレンを筆頭によく四人で遊んでいたのだが、”以前”のシルヴィアの時には既に疎遠になっている。

疎遠――というよりも、避けられているというのが正しいのだが、その理由はさっぱりだ。

それにしても、ゲームのアールルートはどうなっていたのか不意に気になった。

避けられてたというのは覚えているのだが、それが最後どうして竜の里に流刑になるのかさっぱり思い出せない。

確かヒロインとアールの出会いは街の中で、ヒロインが侍女の仕事が休みの日に街に出かけた時、アールとぶつかったのがきっかけだったはず。

その時のアールは竜の力の情報を得る為に街中を歩き回っている頃で、休みの度に会うヒロインが気になりだすんだっけ。

そして、ある日。あまりにも情報が集まらなくて気落ちしているアールに、その事情を聞いたヒロインが、以前助けた人から聞いた話を思い出しアールに教える。

自分の求めていた情報を持っていたヒロインを最初は疑うんだけど、彼女の素直さと優しさを知って、惹かれていくという感じのはずだ。

それをたまたま街にお忍びで来ていたシルヴィアが二人を見て、自分は幼馴染に避けられているのにどうしてヒロインには優しく話しかけているのかと、これまた身勝手な嫉妬でヒロインをいじめるようになったんだよね。

それにしても、アールの出会いを潰すのは心苦しいのだが、グレン達は気にするなと言うし……。


「シルヴィー? どうした? 」


不意にグレンに声をかけられ、慌てて首を振る。


「なんでもないよ 」

「……とにかく、明日にでもアールを呼ぶからな 」


そう言ってデリックとシルヴィアの頭に手を置きぐりぐりと撫でたグレンは、デリックを引っ張って部屋を出て行く。


「ゆっくり休んでねシルヴィー 」


弟の言葉に頷いたシルヴィアに安心したのか、デリックとグレンは扉を閉じた。

シルヴィアは大きく嘆息すると再びベッドに潜り込み、アールのことを考える。

実は先ほどグレンに声をかけられた時、気づいたことがあった。

乙女ゲームの中でアールのルートは『竜の里』への流刑エンドである。そしてアールが探しているはずの情報は『竜の里』へと繋がっている。

そこで思い至った。アールと『竜の里』は何かしらの理由で結びついていることに。

どうしてゲームのシルヴィアを竜の里に流刑したのか。どうして竜の里へと続く情報を探していたのか。

とにかくこの二つが分かればアールの気持ちが分かるような気がした。

竜の里はシルヴィアとデリックの為に行かなくてはならない場所。そこにアールも関係してる。

未だ遠い竜の里に思いを馳せ、シルヴィアは瞳を閉じた。




――――――――




アリストン公爵家の応接室は、その日 ピリピリした雰囲気に包まれていた。

といっても、応接室にいる四名のうちのたった一人がその空気を出しているのだから、その怒りは大きいのだろうと推測できる。

その空気を物ともしていない護衛騎士と弟が、のんびりとお茶を飲みながらくつろいでいるので余計に腹が立つのだろう。

残りの一名である自分はというと、その三人の雰囲気について行けず、ただきょろきょろと彼らの顔を見比べるしか出来ない。

そして、いまこの応接室の空気は一人の怒りによって最高潮にひんやりしていた。

周りの空気がひんやり――というか、本当に温度が下がって寒いのだ。

原因は、目の前に座っている幼馴染であることに間違いなく、その幼馴染が怒りのあまり彼の属性である氷の冷気を自ら放っているのだが、本人は気づいていない。

今日は日差しも暖かだったので、シルヴィアは薄い素材のドレスを選んだのだがそれが仇になったようだ。

寒さで腕を擦っていると、それに気づいたデリックがすぐにマントを外して肩にかけてくれた。

弟の気遣いに笑顔を見せると、デリックも微笑を返してくれる。

優しい弟の行動に、今まで事情があったとはいえお互い避けていたなんて本当に時間を無駄にしていたとしかいいようがない。

そんな風に思っていると、その様子を見ていた幼馴染は驚いた表情をしている。

そして弟の行動を見てようやく自分から冷気が発せられていることに気づいた幼馴染が、大きくため息をつくと程なく冷気は収まっていった。

シルヴィアは冷気が止まって部屋の温度が戻っていくことにホッとして、久々に近くにいる幼馴染に目を向けたが、銀色の髪をかき上げ灰色の瞳でグレンとデリックを睨み付けているアールと目が合った途端、逸らされたことにシルヴィアはショックを隠せない。


「アール……、いくらなんでもそれはひどいよ。シルヴィーがかわいそうだ 」


デリックの言葉で、更に驚きを隠せない様子のまま、弟を凝視しているアールにばれない様今度はこっそりと見つめる。

またすぐに視線を逸らされたりしたらやっぱりショックだもんね。


「俺は、今日ここにシルヴィアが居るって聞いてない。それにデリック、シルヴィーって…… 」

「まぁ、そんなに睨むな。ここに居るのは”昔”仲良く遊んでた四人なんだ 」


意味ありげに”昔”を強調したグレンの言葉に、アールがこちらを見た。

先程自分から目を逸らしたのを忘れたのか、シルヴィアを食い入るように見つめる。


「ま、さか。嘘だ…… 」


声が震えている幼馴染に、グレンは首を横に振って答えた。


「本当に、シルヴィー……なのか? じゃあ、俺達が昔―――― 」

「いや、そこまではまだ思い出してない。だが、木から落ちる前のシルヴィーと同じっていうことだけは確かだ 」


幼馴染達の会話に入り込めないままシルヴィアはアールとグレン達のやり取りを静かに見守っている。


「そうか。じゃあ…………、あの約束は覚えてないんだね 」


アールはシルヴィアを見ると大きくため息をついた。


「……アール。私、あなたと何か約束をしてた? 」


ポツリと呟いたシルヴィアの声に部屋の音が一瞬消える。

眉を顰めたアールはその質問にシルヴィアを暫く見つめた後、小さく頷いたが、それがどんな約束だったかは答えてくれなかった。


「そのことは、とりあえず置いとこう 」


グレンは空気を変えるように明るい声で三人を見回すとそのまま続けた。


「さて、アール。お前に来てもらったのは、見ての通りシルヴィーに前世の記憶が戻ったからだ 」

「ああ…… 」

「シルヴィーはね、僕達双子の才能の解決法を、前世の記憶が戻ったことで思いついたんだ 」

「本当かいっ!? 」


デリックの言葉に、アールが勢いよく立ち上がったせいで椅子が後ろに倒れる。

アールは慌てて椅子を元に戻すと、自分を落ち着けるように小さく息を吐き、下を向いて座り直した。

グレンはアールに落ち着くように促し、先日話した内容をアールに説明し始めた。


「とにかくこいつらの問題を解決するには、竜の里へ行ってシルヴィーを竜化してもらわなきゃならないんだが―― 」


グレンの言葉にますます眉を顰めたアールはシルヴィアを視線を合わせる。


「シルヴィーは……、その竜化とやらについては納得しているの? 」


先程の説明で竜化するとどうなるかを聞いているアールの、思い外やさしい声にシルヴィアは大きく頷いた。


「もちろん。それと、アールも知ってるんでしょう? 私の前世と…………、乙女ゲームの世界のこと 」

「……ああ。それがシルヴィーの口癖だったからね。色々話は聞いてたよ 」

「そっか。それじゃあ私が最期にどうなるかも知ってるよね? だから、それを回避する為なら、私は何でもする 」


シルヴィアの真剣な声にアールは頷くと「わかっているよ 」と優しい瞳で答えてくれた。

その瞳をどこかで見たことあるような気がするのは何故だろうか。

でも何度思い出そうと頭の中で考えてみたものの、思い出せないのはきっとそれが皆の言うところの”昔”の記憶だからなのかもしれない。

シルヴィアはじっとアールの灰色の瞳を見つめた。

見つめあう二人をよそにグレンはにやりと笑い、デリックはというと面白くなさそうに口を噤んでいる。


「そりゃもちろん、わかってるよな~? だってアールはシルヴィーの為に解決法を探してたんだもんな~ 」


グレンの言葉に、身体をビクリと揺らしたアールはすぐさまグレンに詰め寄って襟を掴むと、そのまま壁際へと追いやっていった。

二人がなにやらボソボソと話しているが、相変わらずグレンはニヤニヤしているし、アールは顔を赤くして文句を言っているようだ。


「えと、あの。それってどういう、こと? 」


どうしてアールが自分の為に解決法である竜の力を探してくれていたのだろうか。

さっきの昔の約束ってやつが関係あるとか?

あれ、でもそれだとどうして自分を避けてたのか。

シルヴィアの為に探してくれているのに、シルヴィアを避けてるって意味が分からない。

頭の中でぐるぐると考えを巡らせてみたものの、さっぱり分からない。

というか前世の記憶が戻ってから、沢山の知識を得たにもかかわらず分からないことだらけだ。


壁際からこちらを見たアールの顔は相変わらず赤くて、目を合わすと逸らしたもののすぐにまた視線を合わせてくる。

その途端、グレンのお腹に一発拳を入れたのには驚いたが、幼馴染は赤い顔のままシルヴィアの前にやってくると嘆息した。


「えーと、アール? グレンは大丈夫かしら? 」


幼馴染の肩越しにグレンをみると、しゃがみ込んでお腹を押さえたまま手をひらひらと振っているので多分大丈夫なのだろう。


「あいつはほっといていい 」

「ひどいねー。俺のほうがアールより年上なのに、なあデリック? 」

「うん、でも自業自得だから黙っときなよ 」


弟はそれは満面の笑みで護衛騎士をバッサリやったようだ。


「うう……。シルヴィー、こいつらがひどいー 」


可愛くもない声で甘えたことを言うグレンに「うん。いいから黙っといて 」と切り捨てると、グレンは顔を抑えて「俺が一番年上なのに 」とブツブツ言っていたが放置だ。


「それで、アール。教えてくれる? どうして竜の力を探してたか。それと、私の社交界デビューの頃から急に避け始めた訳も聞かせてもらえるとありがたいんだけど 」


そういえば、デリックも才能のせいで私を避けてたんだっけ?

じゃあアールも私の才能のせいで避けてたのかな。


「もしかして、私達の才能のせい、とか? あれ、でも、アールは知らないんじゃ? 」


思いついたことを口に出してみると、アールは再び嘆息して顔を背け頷いた。


「君の才能の事を知ってるのは国王と宰相、それから数人の大臣とアリストン公爵、公爵夫人。それとデリックとグレンだろ。で、そのうちの数人の大臣の一人が俺の父親で、俺は父親から『仲が良いなら気をつけてあげろ』って言われたから知ってるんだ 」


なるほど、確かにフレミング侯爵は大臣職だし、父上と宰相と仲が良かったっけ?

フレミングのおじ様に感謝しなきゃいけないわね。


「それから、君の才能……。特別な双子の力をどうにかする為に、俺はその解決法を探してた。でもそれが竜の力だとは君達に教えられるまで、俺は知らなかったけどね 」


そうか、そうだった。

ゲームの中で竜の里へと繋がる情報を探してたことには間違いないが、それが竜の力だったっていうのは自分がゲームを攻略してるから知っていることだ。

その途中までは「あらゆる物を変える力」って表記されてたんだっけ。

あらゆる物、つまり身体を作り変えることで特別な双子の力を無くすことが出来るから、だからアールは探してくれてたんだ。

その理由がデリックとシルヴィアの為だとはゲームでは一切触れられてはいない。

ただ、アールがその力を探していたという事実だけが知らされていて、理由は一切語られていなかった。

そうなると、ヒロインとアールがくっついた後で、シルヴィアをわざわざ竜の里に流刑にしたのには、意味があるってこと?


シルヴィアは自分の考えを早く確かめたくてアールの両手を掴むと、胸の前でがっちりとホールドした。

何故かアールは焦っているようだがそんなことはどうでもいいから、早く聞かなくちゃ。


「あの、アール。乙女ゲームの世界であなたのルートの最期、あなたも勿論知ってるんだよね? 」


シルヴィアも焦っていた為、先程もそれを確認したことをすっかり忘れていた。

上擦った声で尋ねたシルヴィアに、顔の赤かったアールは目を見開くと急に真剣な目をしてシルヴィアを見つめた。


「ああ、君に散々聞かされていたからね……。この俺が! 君を……、シルヴィーを、竜の里に流刑するって 」


ふう、と息をついたアールは目を伏せた。


「シルヴィーが記憶を失って、昔のシルヴィーじゃなくなってから……俺は君が言っていた、その『ゲームの世界』ってやつを考えるようになった。それに君はどんどん……、君が言っていたゲームの世界の『悪役令嬢シルヴィア・アリストン』に近づいていくしね 」

「アール…… 」

「さっきの、昔の約束ってやつ。あれは、俺達三人と君の約束だ。俺達三人と君は、父上達が親友ってことですぐに仲良くなった。君はいつも『私は悪役令嬢で、ここは乙女ゲームの世界なの』って言ってたよ 」


懐かしむように、愛おしむように、アールは昔を教えてくれる。


「しょっちゅう倒れたりしてた君だけど、たまに元気でね。その時は一緒に君が教えてくれた乙女ゲームごっこなんかしたりして 」


乙女ゲームごっこって……、やっぱり人から自分の知らない過去を聞かされるのは居た堪れないっ!

顔を赤くしているシルヴィアをよそに、アールは話を続ける。


「さっきも言ったけど、元々俺は君達の才能のために「あらゆる物を変える力」を以前から探してた。そうしていたら、ここ最近の君の言動が目を覆いたくなる程になっていってね 」

「うん…… 」

「正直、君の行動は王や大臣にはかなり不評だ。最近では腹に据えかねた貴族達――つまり数人の大臣達が、君の才能が有ることを差し引いても国に害をもたらす人間として、君を廃そうという動きになってる 」


アールは息をつくと瞳を伏せた。


「昔、君から飽きるほどゲームの世界の話を聞いてた俺達は、もし将来”そう”なった時に、絶対君を助けるって。それが君との約束だった 」

「私を、助ける――? 」

「ああ、”君”を助けるっていう約束。だから、俺達は君が『悪役令嬢シルヴィア・アリストン』になっていっても、その約束を守ろうと動いてた。その力を使えば君が”昔”のシルヴィーに戻るんじゃないかって、そう思ってね 」


話を聞く限り”以前”のシルヴィアは、まさに『悪役令嬢』キャラにふさわしい道を歩いて、人にもそう思われるほど疎まれていたと理解する。

シルヴィアは大きくため息をつく。


「正直、”以前”の私を思い出してみても、遅かれ早かれそうなるだろうって思う。ヒロインが現れるまでおよそ一年……。ゲームが始まる時、私は十七歳だったから間違いない。この一年の間で、挽回できるように頑張るわ 」

「ああ、”今”の君ならきっと大丈夫だと思うよ。でも、その前に君とデリックの才能の問題点――、特別な双子の力を何とかしよう 」


力強い声でシルヴィアを励ましてくれるアールに、シルヴィアは嬉しくて微笑んだ。

避けられていた幼馴染が自分達の為に色々考えてくれていたのが本当に嬉しかった―――、ってあれ? 避けられてた……理由はなんだっけ?


「ねぇ、アール? 」

「なに、シルヴィー 」

「避けてた理由……聞いてないけど? 」


その言葉にびくりと身体を揺らしたアールが気になったが、それよりも理由だ理由。


「で、理由は? 」


にっこりと微笑んだシルヴィアからの、無言の要求にアールの口がひくついた。


「り、理由……? 理由ね、理由――、ええと 」

「そう――、理由よ? うふふ 」

「り、理由は……あれだよ。君の……君達の為に色々探してただけで、避けてなんか…… 」

「うふふ。やだな、アール。私の顔を見て、踵を返して去っていったこと……忘れてなんかなくってよ 」


語尾を貴族の令嬢らしい言葉遣いにすることで、シルヴィアは「誤魔化されないぞ」とその意思を明確に表す。


「お前の負けだろアール 」


相変わらずニヤニヤした顔でグレンが横から入ってきた。


「グレン! うるさいっ 」


むっとした表情のままグレンを睨みつけるアールを他所に、グレンはそのまま話を続けた。


「アールはな、お前が社交界デビューしたその日に『麗しのヒューバート王子様』に恋しちゃって、王子王子って王子のことばっかり話すお前が煩いからお前を避けてただけだ 」


うん? どういうことだろうか。

確かに”以前”のシルヴィアはヒューバート王子を追い掛け回していたが、それがアールに何の関係あるのだろうか。

ああ!? そうか……、わかった!


「アール……。私、あなたの気持ちわかったわ…… 」

「えっ? シ、シルヴィー……、わかったって、どういう……? 」


アールは頬を赤くしながらシルヴィアの手を強く掴んだ。


「うん、今まで王子の話ばかり聞かせてごめんね。私、やっとわかったの 」

「うん……。そ、それで? 」

「あなたの、気持ちにやっと気づいた 」


シルヴィアは目を伏せて一旦視線を外すと、再びアールと視線を合わせた。

幼馴染の目元は、薄っすら朱に染まっている。


「シルヴィー、俺は――――っ 」

「ごめんね、アール。私、気づかなかったの。王子の話なんてアールは興味なかったよね。それなのに私ったら、王子王子煩かったよね。前世の記憶が戻って、王子には一切興味がなくなったから安心して! もう煩く言わないからね 」


にっこりと微笑んだシルヴィアの言葉に、アールは目を見開いたまま動きを止める。

いつの間にかシルヴィアから手を離していることにも気づいていないようだ。


ああ、それにしても記憶が戻って本当に良かった。

アールにしてみれば、王子のことばかり話す自分が煩わしくなるのも当たり前だ。

だって、興味の無い話を永遠とされてもおもしろくもなんともないもんね。

こんなとこで幼馴染との『友情』にヒビが入るなんて嫌だし。

それに、悪役令嬢まっしぐらに向ってた”以前”のシルヴィアを今から修正も出来るし、本当に記憶が戻って良かったなあ。


「……、アール。強く生きろよ 」

「ごめんね。アール、あれがシルヴィーさ 」


二人の幼馴染に慰められたアールは噛み付くように「うるさいっ! 」と言い放つと大きくため息をついてがっくりと肩を落とした後、疲れたように椅子に座った。

そのまま机に突っ伏してしまったアールに首を傾げながらシルヴィアはグレンに目線で訴える。

それに気づいたグレンは、首を横に振ると「今はそっとしておいてあげてっ」と両手で顔を覆ったが、その身体は小刻みに震えている。笑いを堪えているのは一目瞭然だった。


「三人とも、一体何を言っているの? ねぇ。そんなことより、竜の里のことについて話さないの? 」


シルヴィアはどこまでいってもシルヴィアだった。




シルヴィアはどこまでいってもシルヴィアです。

アールが不憫でなりません。

そろそろ、例の消えろ発言の彼をだしたいんですがっ、まだ出てきません。

すみません。



今回も大変お待たせしてすみません。

ブクマと評価が増えていくことに、嬉しくてドキドキしちゃってます^^

毎回書いているのですが更新について。

仕事との兼ね合いがあるのでなかなか定期的に更新できません。

今後も不定期更新になりますが、気長にお待ちいただけると嬉しいです。

これからもよろしくお願いいたします。


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