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6.姉の秘密と解決法


「えーと……シルヴィー。…………人間じゃなくなるって、どういう――― 」


姉の(怖い)笑顔と、先ほど聞いた言葉の意味に、戸惑いを隠せない表情のデリックがシルヴィアを見つめる。


「ああ、ごめんなさい。言い方が間違ってたわ。正確には人間じゃなくなる、じゃなくて”たぶん”人間じゃなくなる、だった 」

「……あまり変わらない気がするけど 」

「デリック、お前が気にしたところでどうしようもないぞ。あいつの性格はすっかり昔のシルヴィーだからな 」


二人は今日何度目かのため息をすると、シルヴィアを見る。


「で、多分人間じゃなくなるかもしれない方法って? 」


グレンがシルヴィアとデリックを交互に見ると先を促す。


「うん。でも、それを説明する前に、あなた達に言わなきゃいけないことがある 」


シルヴィアの緊張した面持ちに、二人共は怪訝な眼差しを向けた。

自分の持っているカード。それは前世の記憶だ。

それが所謂ところの”知識チート”ってやつなのだが、折角あるのだから出し惜しみする気はない。

だが、急にそんなことを言ったとしても、それはどこから得た情報なのかまず間違いなく聞かれる。

それくらい特殊な方法なのだ。でも、それを説明するためには、前世の記憶と乙女ゲームのことを話すしか方法はない。


意を決してシルヴィアは声を出した。


「私……、実は前世の記憶があるの! 」


そう叫んだ後、シルヴィアは瞳を閉じた。


前世の記憶があるなど、頭のおかしい子だと思われても仕方ない。

それに乙女ゲームの世界などと言ったところで、普通は絶対に信じてもらえない。

しかしこれを説明しないことには、二人が普通の姉弟みたいに一緒にいられることさえ出来なくなるのだ。


シルヴィアは恐る恐る瞳を開きデリックとグレンをそっと伺うと、そんな二人はきょとんとした顔でシルヴィアを見つめているだけで、特に反応していなかった。


「えーと、あの。私今、前世の記憶があるって言ったんだけど……。それについて何か言いたいことは……? 」


あまりにも反応が薄い二人に再び前世の記憶があるといってみたものの、相変わらずの二人にシルヴィアは首を傾げた。

その様子をみていたデリックが、少し困ったような顔をして一歩シルヴィアに近づく。


「あのー……シルヴィー? 僕達……、君が前世の記憶を持ってるって知ってるよ? 」

「へっ? 」


デリックの言い難そうに放った一言に、シルヴィアは目を見開いた。


「あのなー、だからな? 貴族の令嬢がどんな言葉遣いしてんだって、さっきから言ってるだろ? 少しは気をつけろよ。嫁の貰い手なくなるぞ 」

「そこ関係ないから!! そんなことより、前世の記憶って、どうして二人が知ってるの? 」


驚きを隠せないまま、シルヴィアがグレンに詰め寄ると今度はグレンが驚いた顔をしている。


「ええと、お前。昔の記憶が戻ったんじゃないのか? 」

「だからっ! 前世の記憶が戻ったのはついさっきなのよっ! 」

「いや、そこじゃなくて。小さい頃の記憶のほうだよ 」

「へっ? 何それ? 」


二人の話がどうやら食い違っていることに気づいたシルヴィアはグレンを見た後、デリックにも目を向けた。


「そっか、シルヴィーは小さい時の記憶が戻ったわけじゃないんだね? 」

「――――どういうこと? そういえば、さっきから二人が前の私に戻ったとか何とか言ってたのって、そのことなの? 」

「そうだよ。てっきり小さい頃の君に戻ったと思ったけど、そうじゃないんだね。でも、昔と同じ事言ってるから、そのうち小さい頃の記憶も思い出すよ 」


弟の可愛らしい笑顔に少し見惚れていると、不意にグレンに頭を軽く小突かれた。


「……何するのよ。地味に痛いじゃない…… 」


実はそんなに痛くは無かったのだが、とりあえず文句を言ってみる。

しかしグレンは気にした様子も無くベッドに腰をおろすと、シルヴィアを見た。


「そこは気にするな。さて、お前はどうやら小さい頃の記憶が戻ったわけじゃないけど、前世のことを思い出したんだな? そこまではいいか? 」


双子は顔を見合わせると縦に首を振る。


「よし、じゃあ話をすり合わせていくぞ。まず、シルヴィー。お前は小さい頃――といっても十歳くらいの時に一度木から落ちて記憶を失ってる。それは覚えているか? 」

「いいえ。そんなことあった? っていうくらいすっかり忘れてる。私、木から落ちたことなんてあったのね……って、ちょっと待って! 私病弱だったって言ってなかった? 」

「ん? 病弱だったぞ。デリックが側にいる時は特に。でも少し離れて休むとすぐに元気になってた。で、その元気がある時は嘘みたいにお転婆だった。木から落ちたのはその時だ。ついでに言っとくが、木から落ちる前のお前はの口癖は『私は前世の記憶があって、ここは乙女ゲームの世界なんだから』だったぞ 」

「――――はっ? 今なんて…… 」


グレンの爆弾発言に目を見開き、眉を顰めるシルヴィアを他所に、二人は小さい頃のシルヴィアの話をしてくれた。

どうやら昔の自分にも前世の記憶があり、口癖のように「ここは乙女ゲームの世界だ」と言い張っていたらしい。

周りから見ると相当に残念かつ、イタイ子だったようだ。両親には妄想癖がある子だと諦められていたとか。

人から昔の様子を聞くと、正直居たたまれないが昔の自分は変えようが無いので仕方ない。

グレンとデリック曰く、十歳までは病弱でお転婆で気さくだったそうだが、記憶を失ってからは両親がここぞとばかりに甘やかし、貴族の令嬢らしく我侭に育ってしまったとのこと。

”以前”のシルヴィアはこうして我侭で傲慢な貴族の令嬢へとなっていったんだなぁ。

それにしても、昔の自分は良くやってたと褒めてあげたい。

これで前世の記憶と乙女ゲームの話を二人にしても、信じてもらえないと言うことはないだろう。


「じゃあ、私の立ち位置がどんなものか二人は知ってるのね? 」

「あー……。あれだろ、お前がヒロインをいじめる悪役令嬢で、デリックとか王子とか、えーと『攻略者』だっけ? そいつらにやられちゃうってやつだろ 」


グレンの言葉にシルヴィアは大きく頷いた。小さい頃の私はそこまでしっかり話していたのか。えらいぞ私。


「なら話は早いわね。ここは乙女ゲームの世界なのっ! そこで私は悪役令嬢。攻略者とヒロインの邪魔をしちゃって、投獄されたり殺されたりしちゃう運命にあります 」

「近頃の君を見てると、王子や近衛騎士団のエアハート副団長にかなり避けられてるから、昔言ってたことは嘘じゃなかったんだなって思ってた。そうなると……信じられないけど、僕も君を追い出したりしちゃうのかな…… 」


寂しそうに呟く弟にシルヴィアは息をのんだ。


「わ、私は……デリックが私を追い出すなんて信じられないよ。私達に才能っていうものがある限り、国がそれを認めないと思う。でも、今のままじゃデリックに追い出されるのは間違いないの 」

「うん。分かった。だから、僕が君を追い出すことが無いように、君の言う解決法ってやつを教えてくれる? 」


弟の言葉に大きく頷くとシルヴィアは自分の机の上から紙を持ち上げるとそのままデリックに渡す。


「これは? 」

「それは私の前世の記憶の内容。忘れないように記してみたんだけど…… 」

「俺にも見せてくれ 」


デリックとグレンは『攻略者データ』を記した紙をじっくりと読んでいるようだ。


「おい、この隠しキャラってなんだ? 」

「あー……それは、わからないのよね。前世の私も知らない内容だったみたいで 」

「ふーん。まぁいいや。とりあえず、これを見る限りお前が平穏な生活を手に入れるには色々と根回しが必要なようだな。しっかし、このデリックのルート?だっけ? 最後盗賊にやられるのかよ……ひどいな 」

「でしょう! のんびりしている場合じゃないのよ 」


二人が一通り内容を把握したところでシルヴィアは二人の前に立つ。


「さて、ここからが私達双子が一緒に居る為の解決法になります! 二人には協力してもらうからよろしくね 」


シルヴィアの言葉に二人とも強く頷いたのを確認すると二人に解決法に繋がるイベントのことを説明する。

そのイベントの内容は、ヒロインが王宮に侍女として上がる前――、ゲームを始めて数分経つ頃に人を助けるという、ある意味ゲームのやり方を覚える為の練習用イベントと言われている。

たまたま助けた人から話を聞き、それが攻略者とのルートへと繋がるのだが、ここで助けた人から提示される選択肢によって話の内容が少しだけ変わってくるのは、乙女ゲームにありがちな設定だ。

その選択肢とは、助けたお礼を選ぶもので『花』『お金』『何も貰わない』の三つのうちのどれかなのだが、『花』を貰うと攻略者の妹へと繋がるルートになる。

助けた人からお礼にお花を貰い、そのお花をお忍びで街へ来ていた少女にあげることで攻略者の妹との接点が持て、後に攻略者へと繋がるというわけだ。

実は『お金』を受け取っても、そのお金で花を買うので攻略者の妹へと繋がるルートに入れる。

ここで問題なのは『何も貰わない』なのだが、ここで『何も貰わない』を選ぶと、再び『花』『お金』『何も貰わない』を選ぶことになる。

と言うのも、助けた人間が御礼をしなければ申し訳ないと、ヒロインを引き止めるので結局何かを貰わないと永遠にこのイベントが終わらないのでは……と思うほどに繰り返されるのだ。

ここで何かを選ばないと終わらないのか……と勘違いしたり、途中で飽きてしまうと隠しルートへと繋がらない。

十回以上『何も貰わない』を選び続けることでその隠しルートに行けるのだから、何も知らない人は「あの埋まらないスチルをゲットするにはどうすればいいのか」と頭を悩ませる羽目になる。

しかも悪質なのが、十回以上というところだ。十回の場合もあれば百回ほど繰り返さなければ隠しルートが現れない、発生率がランダムな隠しルートに何人が泣いたことか。

かく言う自分も同じような目に合い、ネット掲示板様の助けを借りてようやくスチルをゲットしたクチです。

さて、実はこの隠しルートは『花』『お金』を選んだ時と違う攻略者へと繋がっているわけなのだが、これをしちゃうとその攻略者とヒロインのルートが一つ潰れちゃうかもしれないのだ。


「うん、別にいいと思うけど。僕か、王子か、副団長のどちらか、あとはアール、この内の誰かなんでしょ? 」

「えーと……妹ルートは確か竜騎士団の副団長ナイトリー様だったと思う。隠しルートのほうは、アールかな……? いや、アールで間違いないよ 」

「あ、じゃあ大丈夫だ。アールなら問題ないよ。そのルート潰しても大丈夫 」

「い、いいのかな? アールとヒロインの邪魔しちゃっても大丈夫なのか――― 」

「大丈夫大丈夫。あいつは大丈夫だから気にするな。それは俺らが保障するから 」


シルヴィアの声を遮りグレンがきっぱりと言い切るが、本当に大丈夫なのだろうか。


「もし気になるんだったらアールに後で説明すればいいよ。彼も小さい頃の君を知ってるから前世の話も信じてくれると思うよ 」

「そう、なのかな? でもアールは最近、というかかなり前から私のこと避けてるよね……」

「うん? でも、シルヴィーがお願いって言えば大抵はいけるよ 」

「う、うん。分かった 」


そうか、アール・フレミングは攻略者だけど自分達の幼馴染でもある。

幼馴染なんだから、小さい頃の「前世の記憶があって、ここは乙女ゲームの世界」発言をきっと知っているのだろう。

どちらにしろ、グレンとデリックから良いと言われたのだから気にするのはやめよう。


「じゃ、じゃあ。説明するね。とにかく、ヒロイン・アールのルートは置いとくとして、ヒロインがそこで得た情報っていうのはどうもアールがずっと探していたことで 」

「アールが探してるって言えば……、あれか。でも、もう解決してるような…… 」

「いや、でもグレン。やっぱり小さい頃のがまだだし―――― 」


二人がなにやらブツブツと言い合っているようだが気にせず説明を続ける。


「まぁとにかく、そのアールの探し物が今回の解決法になるの。その解決法がある場所が竜の里っていうところで、竜の里の里長に会って竜の力を分けてもらうことで解決するの。といっても簡単には里長に力を分けてもらうことは出来ないと思うけど。ヒロインじゃないしね…… 」

「えっと、ごめんねシルヴィー。その、竜の力っていうのがどういう意味かいまいち理解出来ないんだけど 」


困った顔をしたデリックを見て話を端折り過ぎていたことに気づく。


「ご、ごめんなさい。あのね、竜の里長には不思議な力があって、その力を人間に分け与えるとその人間が半分竜化しちゃうのよ 」

「うん? どうして半分竜化すると解決法になるんだ?」


グレンは首を傾げるとシルヴィアに詳しく説明しろとせっつく。


「いい? 私達は同じ顔で、それぞれに才能がある双子よね。その双子のうちの片割れが竜化する事によって、完全な双子じゃなくなるのよ 」

「ああ、そういうことか。お前達は特別な双子だ。それを一人が竜化することでお互いの完全性を無くして、普通の双子みたいに影響を受けないように出来るって、そういうわけか? 」

「流石グレン。私の言いたいことを簡潔に説明してくれてありがとう 」

「まぁ、お前の兄貴で、幼馴染で、護衛騎士だからな。これくらい当然! 」


フフンと偉そうな顔をしたが無視しておくことにする。


「ねぇ、シルヴィー。半分でも竜化しちゃうとどうなるの? 」


不安げに目を伏せるデリックが可愛くて悶えそうになるがそこは我慢する。


「えっと、竜化するとその時の姿のままで生きるらしいのよね。寿命もちょっと延びるみたい。だから”たぶん”人間じゃなくなる、なんだけどね。でもデリックは心配しないで 」

「シルヴィー? 」

「デリックはこのアリストン公爵家の世嗣よ。後継なの! デリックが竜化しちゃうと家を継ぐ人がいなくなるから、竜化は私がするわ 」

「な、何言ってるの? シルヴィーにさせるくらいなら僕が―――― 」

「いや、ここはシルヴィーで正解だと思うぞ 」

「グレン!? 」


グレンの言葉にデリックが声を荒げる。


「お前が公爵家の世嗣なのはどうしようもない事実だし、シルヴィーはこいつが言うところの死ぬか投獄かの悪役令嬢だ。もしここで竜化して力を手に入れることが出来るなら、こいつが死ぬのも少しは防げるんじゃないか? 」


な、なるほど。グレン! なんて頭がいいんだろうか。

自分の考えでは、身体を竜化で作り変えられることによって、完全な双子じゃなくなるからデリックと一緒にいられる、とまでしか考えてなかった。

グレンの言う通り、竜化と同時に竜の力も少し手に入るのだから、その分、誰かに殺される確率が減るってことだ。

だって、竜の力は人間の何千倍だもんね。


「じゃあ私が竜化するってことで問題ないよね? 」


そう言ったシルヴィアを恨めしそうにデリックが睨んでいるところをみると、どうやら納得はしていないようだ。

シルヴィアは大きくため息をつくと、デリックの頭を撫でる。


「あまり接触するとお前が倒れるぞ 」


グレンの言葉に頷き、デリックの頭を撫で続けた。


「デリック。あのね、私あなたに嫌われてるって思い込んでて。でも、今はそうじゃないって分かったから嬉しいの 」

「シルヴィー………… 」

「前世の記憶を取り戻して、デリックとこうやってまた喋れることが嬉しい。でも、それだけじゃ足りないの。デリックは私の大切な弟で、好きな時に抱き締めたいし、好きな時に撫で回したい! 」


デリックは顔を真っ赤にし、瞳は潤んでいた。

少しだけ頭痛がする気がしたが、今は気にしない。


「だからね、私が竜化すればこれからは普通の姉弟みたいに暮らせるの。だからお願い。反対しないで 」


シルヴィアの言葉を黙って聞いていたデリックは、少し考えた素振りをしてそれから大きく頷いた。

その様子にホッとしたシルヴィアは、気が抜けたのか、そのまま意識を失った。




「シルヴィーー!! 」

「離れろデリック。お前が離れればシルヴィアはすぐに良くなる。久々に吸い取られて身体が驚いたんだろう 」

「でも、グレン! 僕は―――― 」

「シルヴィーが竜化すると、こういうことも無くなる。お前もシルヴィーも無事に過ごせるようになるんだ。だから協力してやろう 」


グレンの真剣な声にデリックは言葉を詰まらせたまま、瞳を閉じて先程のように大きく頷いた。






姉は小さい頃はイタイ子だったようです。

そんな姉を慕っているデリックはいい子です。

さて次はいよいよアール君が登場予定です。



ブクマ、評価共にありがとうございます

大変励みになっております^^

しかしながらまた仕事が忙しくなり、なかなかUPが出来ません。

飽きずにお待ちいただければと思います。

よろしくお願いいたします。

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