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5.弟の才能と姉の怒り



新たな決意を胸にデリックを見つめると、そんなシルヴィアに見られていることに気づいたデリックは笑みを返してくれた。


「……まぁ才能っていうのはわかったけど。それにしても私の才能を壊すって、どういうこと? こんな魔力を溜め込むだけの才能のせいで、私デリックに避けられてたの? 」

「ああ、そうだったね……。本当は今だってシルヴィーの側には居ちゃいけないんだ…… 」


思い出したようにシルヴィアの手を離したデリックはシルヴィアから距離をとる。

明確な答えを弟から貰えないまま、離れていくデリックにシルヴィアは不満気に眉を顰めた。

そんなデリックを見かねたのかグレンはデリックの頭を撫でると自分の髪をくしゃりとかきあげる。


「あー……。デリックはな、お前と違った才能があるんだ 」

「違う……って? 」

「まぁ簡単に言えば、お前は人の魔力を人の好意で受け取れるんだが、こいつの場合は自らの意思で、許可無く人の魔力を吸い取れるんだ。因みにお前みたいに魔力を一定以上溜め込むことはできないけどな 」


なるほど。どうやらデリックは双子だけど自分とは違う力を持っているらしい。

それだってすごい才能だと思うが、自らの意思で吸い取るってことは、吸い取らないと思えば出来るってことじゃないか。

それが何故、自分の側にいてはいけないことになるのだ。

シルヴィアはむっとしてグレンに食ってかかった。


「それがどうして私と離れなきゃいけないことになるわけ? 自分の意思でどうにでもなるんでしょう? 」

「こらこら、俺に文句言われても困るし。まぁ、ちょっと落ち着けって。どうしてお前だけ駄目なのか。その理由は、どうやらお前達が”特別”な双子だかららしいんだよな 」

「はっ? 双子だから駄目? ばっかじゃないの 」


吐き捨てた言葉にデリックとグレンは顔を見合わせた後、片方は大きく嘆息し、もう片方は嬉しそうだ。


「お、おまえなぁ。仮にも貴族の令嬢がその言葉遣いやめろ。それにしても、本当に前のシルヴィーに戻ったみたいだな 」

「だよね。やっぱりこれって前のシルヴィーに戻ってるよね? 」


訳の分からない二人のやり取りに、シルヴィアは腰に手を当てる。

”以前”のシルヴィアの言葉遣いはこの際どうでも良かった。

今は早く原因を知りたい。そして改善できるならさっさとしておきたいのだ。


「そんなことはどーーーーーでもいいのよっ。で、どうして双子だと駄目なの? しかも”特別”ってどういう意味 」


双子という変えようの無い事実に文句を言われてもどうしようもない。

というか、双子なんだから駄目だなんて馬鹿げている。

シルヴィアの怒りに、何故かデリックは嬉しそうだ。

そんな二人を横目に、呆れたような目線を送ってくるグレンは再び残念な子を見るような眼差しを向けると、口を開いた。


「この国は今でこそ双子で生まれた者が普通に存在しているが、前々王の時代までは双子は忌み嫌われていたらしい。それまでは双子だったら一人は手元に残し、後の片方は良くて里子、悪くて墓の下だった 」

「墓の下って……嘘でしょう 」


目を見開いて口を噤んだシルヴィアにグレンは先を続ける。


「まぁ、迷信かなんだかわからないらしいが、とにかく双子は不吉だなんていわれてた。けど前王の時代、王家に双子が生まれてな。元々あやふやな迷信ってことで、それ以降双子は生まれた家で育てられるようになったんだ 」


そこまでの話はわかったが、それがどうして双子の才能云々になるのかまだはっきりしない。

目を細めて先を促したシルヴィアにグレンは嫌そうな顔をして口を開く。


「その顔はやめろ。で、結局双子を揃って育てて気づいた事なんだが、双子で生まれた者には何かしらの才能が必ずあるんだと。今まで双子じゃなく才能があった者もいたが、調べてみるとその才能持ちのほとんどが実は双子だったらしい 」

「ふうん。双子だったら才能持ちなんだ…… 」

「ああ。まぁもちろん才能を持ってるやつは双子以外にもいるけどな 」

「それで、”特別”だとどう違うの? 」


息をつく暇も無く質問を浴びせるシルヴィーを恨めしそうに見つめるグレンを無視して急かす。


「はぁ……。”特別”っていのはお前達――、っていうかお前だけ双子なのに何も才能が無いと思われてたんだ。最初、お前の才能が魔力を溜め込む才能ってだれも気づかなくてな、デリックにだけ才能が現れたんだと思われてたんだ 」


そういうことか。

確かに”魔力を溜めておける”力なんて、普通はありえないから誰も思いつかなかっただろうし。むしろ、溜めるだけなら誰にも気づかれないか。

そう考えると、それに気づいたあの老齢の魔術師はすごい人なんだろう。ただし、厳しくて怖い人だったけど。

それにしても、才能に気づかれなかったことが”特別”なのだろうか?


「ねぇ、グレン。才能が最初ないと思われてたから”特別”なの? 」

「いいや、そうじゃない。お前の”特別”はここからだ。普通、双子で生まれた時の才能ってやつはお互いの影響を受けないんだ 」

「どういうこと? 」

「つまりだな、双子に生まれた者はそれぞれが才能を保有して、お互いの力に影響はない。ただ、お前達の場合片方ずつだど問題なく発揮できる才能が、お互いが側にいることで駄目になる。詳しく言えば、デリックはお前にだけ魔力を吸い取る力が暴走して、お前に至っては魔力がデリックに逆流する 」


苦々しげに声を発したグレンに目を向ける。


「……ある程度の肌の接触だけで魔力をデリックに持っていかれちまう。だからお前達は”特別”なんだよ 」

「そんなのっ! ……そんなの、別にいいじゃない。大体デリックに吸い取られたからって、もう一度溜めればいいだけの話でしょう? 」


ついかっとなってグレンに八つ当たりのような言葉を吐いてしまったことをすぐに後悔した。

しかしそんなことを気にした様子を見せないグレンは真面目な顔で口を開いた。


「お前は気づいてないからもう一度言うが、デリックの力でお前の魔力は吸い取られ、逆にお前の魔力はデリックに逆流する。この意味がわかるか? 」


グレンの質問の意味をシルヴィアはゆっくりと考える。

一言一言をゆっくり脳裏に刻み込み、噛み砕き、そしてようやく理解した。

デリックに魔力が吸い取られると言うことは、魔力切れを起こすと言うこと。

デリックに自分の魔力が逆流すると言うことは、デリックは魔力を溜めることができないから魔力暴走が起こると言うこと。

つまり魔力切れと魔力暴走でどちらも死んじゃうかも知れないってことだ。

そこまで説明されるまで理解できなかった自分を殴りたいくらい腹が立つ。


「お前が昔病弱と思われていたのも、デリックに魔力を持っていかれてたかららしいぞ。まぁ小さいころはお前の魔力量も少なくてデリックにはあまり影響なかったことは幸いだったが 」

「だから……。だからデリックは私を避けてたんだね 」

「シルヴィー……、僕のことはどうでもいいんだ。でも、僕はシルヴィーに生きてて欲しかった。だから…… 」


悲しげな弟にシルヴィアは窓の側に向って歩くと雲ひとつ無い空を仰ぎ見た。


「……ねぇグレン。デリックと私が一緒にいたとして、魔力を吸い取られる条件ってなにかしら? 普通の人はデリックの意思で調整してるから、死ぬようなことはないんでしょ? 」


唐突な質問を気にした様子も無く、肩をすくめると顎に手をおいたグレンは縦に首を振った。


「ああ。普通はデリックが吸い取る量を調整できるから問題ない。お前の場合はデリックが調整できないが、基本的に肌は触れ合ってなければ大丈夫らしい 」

「じゃあ、手袋とかしてたら大丈夫ってことなの? 」

「一応はそうなるか……。だが、以前のお前が病弱で、下手すりゃ死んでたのを知ってる国のお偉いさん方は、何かあってからでは遅いからって双子を近づけるなと言ってるがな。だからデリックはお前にあまり近づかなく――いや、近づけなくなったんだ 」


その言葉にシルヴィアの眉を上げて口を引き結んだ。


「……近づけるなですって? 」


静かな声で怒りを表すと、グレンは小さく嘆息しそのまま優しくシルヴィアの頭を小突いた。


「馬鹿。落ち着け。お前がここで怒っても仕方ないだろう 」

「……うん 」


幼馴染で、血はつながっていないが姉弟の兄のようなグレンの優しい声に少しずつ落ち着きを取り戻していく。

確かにグレンの言う通り、ここで怒ったところでなにも変わらない。


「分かってる。私だけが我慢してたわけじゃないって、今はもう知ってるもの。それに、もうデリックと一緒に過ごせないなんて、私がさせないわ 」

「僕も、シルヴィーと一緒にいたいよ。でも、僕らが一緒にいるには色々クリアしなきゃいけないことがある…… 」


目を伏せ、下を向いてしまったデリックの肩をグレンが慰めるように叩いた。

振り返り弟を見ると、瞳が潤んだデリックと目が合う。

やっぱりデリックとは昔みたいな関係に戻りたい……、そう心から思った。

だって折角、弟との誤解が解けたのだ。死亡エンド回避とか、そういうためじゃなく、ただ前のように仲良く一緒にいたいって思うのは悪いことじゃないよね。

じゃあ、ここで自分の持ってるカードを出し惜しみする気はない。


「……何、そんなに悲観的な顔をしているの? 」

「だって、シルヴィー……。僕だって君との関係を元に戻そうと色々調べて、国一番の魔術師に相談だってしたけど……でも。それでも、解決法はないって言われたんだ 」

「そこまで調べてくれてたんだ……ありがとう。でも、大丈夫よ、デリック 」


デリックと合わせた瞳を閉じ、一呼吸置いたところで再び目を開いた。


「私、解決法を知ってると思う。ただし、かなり難しいと思うけど 」


その言葉にグレンとデリックが驚いた顔をしたのが少しおかしかった。


「で、でもシルヴィー、そんな方法は―― 」

「あるのよ、デリック。ただ…… 」

「ただ――なんだ? 」


先を急かすようにグレンが尋ねるとシルヴィーは頷いた。


「ただ、私かデリックか。どちらかが人間じゃなくなるけど。いいよね? 」


そう言ってニヤリと笑ったシルヴィアの顔は悪役令嬢そのものだった、と後でグレンに言われたので制裁を加えておいたのは言うまでもないけど。





姉はお怒りモードです。

双子のグレンに対する扱いが雑なのは気のせいです。

愛で溢れちゃってます。



いつも読んでいただいてありがとうございます。

ブックマークや評価でいつの間にやらポイントも1000を超えており

びっくりしていると共に嬉しくも思っています


亀投稿でお待たせしていると思いますが、お許しください。

これからもよろしくお願いいたします。

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