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4.姉の才能


「もう一度聞きます。あなたは誰です? 」


デリックの質問にどう答えて良いものか悩んでしまう。

ここで、自分はシルヴィアであると主張しても良いのだが、既に弟には”以前”の自分ではないと気づかれている。

流石は双子と言ったところだろうか。あ、幼馴染の護衛騎士も気づいてたっけ?

どうしてばれたんだろう……。見た目は一切変わってないのに?

そんなに貴族の令嬢らしくないことしたかしら?

あー……。それにしてもなんて答えて良いものか。

考えても考えてもうまく返せる自信がこれっぽちも無い。


「……何を考えているのです。そろそろ私の質問に答えて頂きたいのですが…… 」


深い藍色の瞳に見つめられ、金色の髪をかき上げる仕草をした弟は憎たらしいくらいイケメンだ。

あーデリックは本当に格好いいわね。流石、私の弟だけあるわ。


「な、な――――!? 」


不意に聞こて来た声の主に目を向けると顔を真っ赤にし、これでもかと目を見開いたデリックがシルヴィアから慌てて目を逸らす。

疑問符だらけでデリックを見つめるが、一向に目を合わせてくれない弟を諦め、自分の隣に正座したグレンに目を向ける。

そんなグレンはというと、呆れたような顔をしてシルヴィアを見ている。


「……何よ、その残念そうな子を見る眼差しはっ! 」

「いや、実際残念な子になってるぞ。というか、元に戻ったというべきか? 」


訳の分からないグレンの言葉に首を傾げるとグレンは大きくため息をついた。


「あのなー、お前さっきの”うちの弟格好良い。流石、私の弟”発言だが、駄々漏れだったぞ 」

「へっ? 」

「へっ?じゃねーよ。だから、さっき、お前は言葉を口に出してたっていってるんだ。あ、それから。貴族の令嬢が”へっ?”なんて言ってんじゃねえぞー 」


グレン曰く、先程のデリックを見つめていた時の言葉は心の声ではなく、口に出ていた声らしい。

うん、仕方ないよね。実際そう思ってるんだし。恋人だったら御免だが、弟なら別に良い。


「まぁ、いいじゃない。実際そうなんだから。ね? デリック 」


そう言って笑顔でデリックを見ると相変わらず顔は赤いままだったが、なんともいえない表情でこちらをじっと見つめていた。

そしてみるみるうちに瞳から涙が溢れ、頬を伝ってぽろぽろと零れ落ちていく。

こう言ってはなんだが、男がぽろぽろと泣くのは正直抵抗がある。

だが弟に関しては可愛いとしか思えないのは何故だろうか。やっぱり血のつながりのなせる業なのだろうか。

そんなことを考えていると、デリックが珍しくぐっと近づいてきて、そのままシルヴィアを抱きしめた。


「えっ? ちょっ――、な、なに? デリック? 」

「シルヴィー……、シルヴィー……。シルヴィーだよね……グレン、これはシルヴィーだよね? 」


いつもの冷静でクールな弟とは全く違うデリックにシルヴィアは驚きを隠せずに目を丸くして弟を見つめている。

十二歳以来あまり近寄らなくなった弟が、シルヴィアを抱きしめているのが不思議でならない。

こうしてみると弟は随分大きくなったんだなぁと、何故か感慨深くなってしまう。

あの頃は何をするにも一緒で、体格や性格も似ていたはず。

それが、いつのまにか背も高くなって自分を見下ろしているのだから変な感じだ。

シルヴィアは泣いている弟の頭を撫でると小さく嘆息した。


「ねえ、デリック? どうして……? どうして今まで私を避けてたの? 」


”以前”のシルヴィアの知りたかったこと。そして、今の自分が知りたいこと。

その答えを知ることが弟との仲を改善できる唯一だと、”私”は知っているのだ。


「ねぇ、答えて。デリック……、どうしてあの日から私を避けてたの? もしかして、……嫌いになった? 」


思ったより語尾が震えてしまった。

自分で思っているより、シルヴィアにとって弟に嫌われているかもしれないということは心のしこりになっていたのか。


「ち、違うっ! 嫌ってなんか…… 」


顔を上げるとデリックは焦ったようにすぐさま否定した。

そしてシルヴィアからの質問を心の中で反芻してるのだろうとわかるのは双子だからだろう。

クスリと笑うと再び弟の頭を撫でた。


「……それで、理由を聞かせてくれるよね? 」

「ちょっと、まってシルヴィー。僕は君を嫌ってなんかない! 」

「じゃあ、どうして? どうしてあの日から私と離れちゃったの 」


瞳を伏せてデリックから視線を外したシルヴィアにデリックはぎゅっとシルヴィアを抱きすくめる。


「僕だってずっと一緒にいたかったよ。今だってシルヴィーとは一緒に遊びたいし、お茶だって、勉強だってしたい。でも… 」


いつもは自分のことを”私”と言うデリックが、昔のように”僕”に戻っていることにどうやら本人は気づいてないらしい。


「でも、そうするとシルヴィーの才能が壊れちゃうんだ…… 」


デリックの言葉にシルヴィアは再び頭の中で疑問符を飛ばし始める。


「才能……って、なに? 」

「……えっ? シルヴィーは知らないの……? そうか、だから僕が近寄れないこと…… 」


二人共目を丸くしてお互いを見つめているが、そのまま二人は幼馴染であるグレンに目を同時にやった。


「双子なんだから一緒にこっち見ちゃうの分かるけど、お前らの顔で見つめられたら普通だったら怖すぎるぞ 」


グレンの言葉はいつもどこか失礼なのだが、今はそんなことはどうでもいい。


「で、才能ってなに? 私聞いてないんだけどっ 」

「えー。だってー、旦那様がぁー、シルヴィーにはー、いうなーってー、仰ってたんですぅー 」


どこかのメイドを真似したようなグレンのふざけた口調に、冷たい視線を双子は投げかける。


「気持ち悪いからやめろよ 」

「気持ち悪いからやめてよ。っていうか殴りたくなるのは私だけ? 」

「いや、僕もそう思った 」

「な、なんか今、ひどい言葉か聞こえたぞ! 双子の人でなしっ 」


同時に同じ内容をいう双子の奇跡?に少し感動しながら、目線でグレンに先を続けるように訴えるとグレンは頭をかいて腕を組む。


「本当はシルヴィーが結婚するまで内緒だったんだが、まぁ。本人が万が一にも気づいたら言ってもいいって言われてるからいっか 」


グレンは大きくため息をつくとデリックとシルヴィアの顔を交互に見た。


「……まずは、シルヴィー。お前の才能ってやつからだな 」


何故か真面目な顔でこちらを見つめるグレンに大きく頷くと先を促した。


「お前はな”器”だ 」

「うつわ……ってなに? 」

「まぁ、聞け。”器”っていうのはな、魔力を自分の中に溜めておけるすごい力のことだ 」


魔力を溜められると言ったグレンの言葉がいまいち理解できない。

一般的に魔力は魔道具などで一時的にそれに留めておくことができるが、人間にそんなことは出来ない。

もし、無理に魔法を体に溜めてしまうと体のほうが持たない。自分の容量以上溜め込むと、その魔力が暴走して死んでしまうからだ。


「そんなの無理だって魔法の授業で最初に習うことでしょ? ひとつ、魔力切れを起こすべからず。ひとつ、魔力を溜め暴走するべからず。どっちにしろその場合は死んじゃうって小さい子供でも知ってるわ 」

「ばーか。だからお前のは才能なんだろ。むしろ奇跡に近いかもな 」

「才能……、奇跡? 」


やっぱりいまいち理解できない。

仮に魔力を溜め込めるとして、一体何の役に立つのだ。その才能がどうしてすごいのか全く分からない。


「シルヴィー、今まったく理解できてないでしょう? 」


優しい瞳で苦笑するデリックに大きく頷く。

流石双子だ。分かってくれている。


「あのね、シルヴィーみたいに魔力を溜め込んでおける人間は少ない。むしろ稀なんだ。そんな稀な人間を国が放っておくわけが無い。あの日、いつもの先生じゃない人が来てたでしょう? あの人、先生の師匠なんだって。それでシルヴィーの才能に気づいちゃったんだ 」


悲しそうに目を伏せたデリックにシルヴィーは弟の手を取るとギュッと握り締める。

そんなシルヴィーの行動にデリックは微笑むと握り返してくれた。


「それに、その才能のすごいところは、自分の分だけじゃなくて人の魔力も溜めておけるところでね。人に魔力を注いでもらうことで、より沢山の魔力を溜め込んでおけるようになってるらしいんだ。だからね、シルヴィーの才能って、この国にとってはとても役立つことらしいんだ。有事の時にとかに限るんだけど……ね 」


有事の時というのは戦争ということだろう。

シルヴィアは大きくため息をついた。


「そういうことなのね……。つまり、私みたいに人の魔力を沢山溜め込める人間が一人いたら、膨大な魔力を使う魔法兵器とか簡単に使えちゃって、魔力の尽きた人間にも与えられちゃうとかってことでしょ? 」


投げやりな言葉にデリックが頷くとグレンが続けた。


「そういうことだ。お前のことは国王と宰相、それから数人の大臣と旦那様、奥様。それからデリックと俺しか知らない。下手に漏らすとお前の命が狙われちまうし、浚われかねないしな 」


なるほど。だからか。

”以前”のシルヴィアが王宮や貴族の屋敷でやらかした無礼の数々は、こういった理由で許されていたのだ。

それにしても……、今はもう大丈夫そうだがゲームの中のシルヴィアに同じ才能があったとして、やっぱり弟に追い出されるのはおかしな話だ。

いくらシルヴィアがヒロインをいじめたからといって追い出すのは国にとってマイナスにしかならないのに。

賢い弟なら分かっていそうだが、何故追い出したのだろうか。

それに弟が避けていた理由がまだはっきりしていないのも気になるところだ。

まだまだシルヴィアの知らないことが沢山出てきそうで不安が過ぎる。

ここはきっちり、はっきりとさせておくのが、私の死亡エンド回避の為の近道だ。


決意も新たに拳を握り締めるシルヴィアに護衛騎士と弟は顔を見合わせるとため息をついた。

その中の一名が、残念な子をみるような視線をこちらに送っているような気がするが、きっと気のせいだ。うん。





双子の姉には才能があったらしいです。

”以前”のシルヴィアの我侭はこういった理由で許されてたんですねー。

身分だけじゃなかったらしいです。

ついでに姉は残念な子みたいです。



いつも読んでいただいてありがとうございます。

ブックマーク、評価共に励みになっております。

今後もよろしくお願いいたします^^

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