ギャルゲの攻略対象に転生したので、百合ハーレムを目指そうと思った
あらすじにも書きましたが、一部に性的な描写や、グロテスクと思われる表現があります。
苦手な方はご注意下さい。
いよいよ明日から私の高校生活が始まる。
憧れだった聖乙女百合女学園の制服である薄桃色のセーラー襟のワンピースを体に当てて、姿見に映した私――いや、俺はとんでもない事実に気付いてしまった。
「何じゃこりゃああああああ!?」
☆ ☆ ☆
「私」の名前は紺原鈴蘭。聖乙女百合女学園高等部の新入生……と言うのは表向き。ぶっちゃけると、男性向け恋愛シミュレーションゲーム――いわゆる「ギャルゲ」と言う奴だ――「俺が女子校生で、君がマドンナ☆」の登場人物、と言うか攻略対象の一人である。
そして俺は、そんな彼女に転生してしまった、同ゲームの熱烈なファンである……いや、「だった」になるのか?
一週間完徹してハーレムルートを含む全ての画像を完全攻略した俺は、ふらつきながら降りようとした階段でサマーソルト・キックを決めてしまい、そのまま後頭部で階下まで滑り落ちた。
痛いと感じる間も無く昇天したのが唯一の救いだったと思う。
因みにこのゲームは、双子の姉の身代わりで女子校に通う事になった引き篭もりの主人公――勿論、男――が下宿先の生徒達と仲良く……要は十八歳未満禁止な行為に及ぶと言う内容である。
「クソッ! まさか、こんな世界に転生してしまうとは……!」
俺は床に叩き付けた、明日から着なければならないセーラー服の上に崩れ落ちた。よりによってギャルゲの攻略対象に転生である。このままでは、あの優柔不断で陰気な、可愛い女顔だけが取り柄の主人公に犯されてしまう。それだけは絶対に嫌だ。
――って言うか、男と致すくらいなら豆腐の角に頭を月面宙返りでぶつけて死んでやる。
どうすれば、そんな事態から逃れられるか……切羽詰った俺は、これ以上は無い名案を思い付く事に成功した。
「主人公が来る前に、他の全員を攻略してしまえば良いんだ!」
そうすればヤツがどんなに主人公チートで迫ろうとも後の祭りである。
それに、最愛の嫁である豹紋沙希ちゃんや、二年生の泰藩黛香先輩、大家の穴開雀さん等など、全員を攻略すれば俺だけの百合ハーレムが作れるじゃないか!
全キャラの性格や裏設定等は、百パーセントクリアを達成しているので全て把握済みである。
そう。
俺ならばヤツより先に、ヤツがやろうとした手口で、全ヒロインを攻略出来る。
「ふっふっふ……首を洗ってから来いよ、馬虎子蕗也! 貴様の居場所は既に無い!」
俺は仁王立ちになり、未だ見ぬ――ゲーム画面越しには見飽きている――主人公に向けて宣戦を布告した。
「――あ、やだ! 制服踏んじゃってる! 皺になっちゃうじゃない!」
……気を付けないと女子校生の素が出ちまうぜ。
☆ ☆ ☆
踏み付けてしまったセーラー服を綺麗に整えてハンガーに掛けた俺は、これからの予定を考えた。
主人公である蕗也が姉である緋色に押し付けられてこの下宿へ来るのは、入学式の翌日である。つまり、俺には今日と明日しか猶予が無い。
下宿に住んでいるヒロインは「私」も含めて六人。この全員を攻略すると緋色ルートを選択出来る様になり、それをクリアして初めてハーレムルートが現れる仕様だ。
「二日で五人か……
面白い。やってやるぜ!」
勢い込んだ俺は、最初の攻略対象として一番のお気に入りだった沙希ちゃんを選んだ。
沙希ちゃんは、ファンの間では「第一チョロイン」と呼ばれる存在である。
家庭の事情で遠くの県から進学して来た彼女は引っ込み思案で押しに弱く、寂しさに付け込んでちょっと強引に迫れば直ぐに落とせる。
ゲームのチュートリアルを兼ねたヒロインなのだ。
俺は「私」の中の記憶を引っ張り出してみた。
それによると、「私」は昨日、沙希ちゃんは今日、この下宿に引っ越して来たらしい。今、彼女は自室で荷物の整理に追われている筈である。
因みに本来のゲームでは、沙希ちゃんの荷物は手違いで明日――入学式当日の夜に到着する。翌日、午前で終了した新入生向けオリエンテーリングの後、急いで下宿に戻った彼女が荷解きをしているところに主人公がやって来るのだ。
ゲームと現実の違いに少し戸惑ったが、俺は沙希ちゃんの部屋へと向かった。折角お手伝いイベントのチャンスが巡って来たのだ。利用しない手は無い。
部屋の中から物音が聞こえる事を確認して、扉を叩く。
「はぁい」
片付けで忙しい時に訪問したにも拘らず、沙希ちゃんは愛想良く俺を部屋に入れてくれた。
「初めまして。私、二〇三号室の紺原鈴蘭と言います。何かお手伝い出来る事があれば言って下さい」
沙希ちゃんに警戒心を抱かせない為、出来るだけ女の子っぽい喋り方で接する。
ゲームでも、ここは主人公が男だと疑われないように、女の子の喋り方をしようと苦労する場面だ。慣れてなくて怪し過ぎる話し方になっていたけど。
「今日越して来た豹紋沙希です。よろしく。
でも、紺原さんも忙しいんでしょ?
私の事で時間を取らせちゃったら――」
「大丈夫よ。私は昨日越して来たから荷物は片付いてるの。だから気にしないで手伝わせて」
「でも――」
「良いのよ。私が手伝いたいんだから。さ、これは何処に片付けるの?」
「え、ええと……その箱の中の本は、あっちの棚にお願いします」
俺は「参考書」と書かれたダンボールを持ち上げて、沙希ちゃんが示した棚に中身を並べ始めた。
☆ ☆ ☆
「あら?
これは、沙希ちゃんのご家族?」
無理やり手伝っている内に、俺と彼女は「沙希ちゃん」「鈴ちゃん」と呼び合う仲になっていた。と言うか、そうなる様に話を持っていった。
そこまで話を進めてから、俺は本棚の上に置いてある写真立てに気付いて質問した。勿論、態とである。
沙希ちゃんは十年前に母親を亡くしている。それからは父親が一人で彼女を育ててきたのだが、去年の秋に再婚した。写真立てには沙希ちゃんと再婚した両親、そしてお姉さんの四人で撮った写真が入っている。
高校受験で神経質になっていた事もあり、彼女は新しい母親とその連れ子である一つ年上のお姉さんと打ち解けられなかった。悩んだ彼女は、家を出て一人暮らしをする為に志望校のランクを上げて受験し、聖乙女百合女学園に見事合格したのだ。
「うん……半年前に出来たばかりの、家族……」
「半年前?」
歯切れの悪い、掠れた声で答える沙希ちゃんに、俺は白々しく驚いてみせる。これで一つ、フラグが立った。
後は一旦彼女と別れて買い物に行き、近所の本屋で「偶然」出会う事で次のシーンに進む筈だ。
「私ね、新しいお母さんと――お姉ちゃんとも、仲良くしたかったの。
でも勇気がなくて、受験勉強を言い訳にして仲良くしなかった。
それどころが、私は、お姉ちゃんの事を――」
あれ?
何でこの台詞?
これって、本屋でのイベントをクリアして、下宿の皆が始めて揃う晩ご飯のシーンの後の台詞じゃなかったっけ?
本来よりも二日早くストーリーが進行しているせい?
それとも主人公以外がストーリーを進めているから?
俺の混乱に気付かず、沙希ちゃんは家族の――いや、新しく出来た「お姉ちゃん」への思いを語り続けている。
「――そんな事ばかりしてるから、私、きっとお姉ちゃんに嫌われてしまったの。
本当は好きなのに……でも、あのまま家にいたら、私、間違いなくお姉ちゃんを傷つけてた」
「!? ――そ、そんな事無いよ。
沙希ちゃんは良い子だもの。
お姉ちゃんも解ってくれてるよ。心配しなくても大丈夫だよ」
混乱している間に、彼女とのエッチシーンへ繋がるキーワードが出現していた。危うく聞き逃すところだったが、何とかギリギリのタイミングで次のフラグを立てる台詞を口に出来た。
ゲームでは、ここで選択肢が表示されるのだが、ゲームの世界とは言え流石現実。「入力待ち」等と言う便利な状態は存在していない様だ。
「……本当?
お姉ちゃん、私の事を嫌いにならない?」
「うん。勿論だよ。
沙希ちゃんが勇気を出して話し掛ければ、お姉ちゃんも仲良くしてくれるよ」
少々年齢退行を起こしている沙希ちゃんの肩を抱いて、優しくあやしてあげる。
ゲームをやっていた時は「主人公って、ヒキオタニートの癖に何でこんなに上手く口説けるんだよ?」とか愚痴ったものだが、今となっては有り難い話だ。ご都合主義万歳である。
「あ――」
沙希ちゃんの額に、俺の唇が触れる。柔らかい女の子の肌に驚いて顔を離すと、同じ様にびっくりした沙希ちゃんの瞳が見えた。
暫らく見つめ合って、今度は唇同士を深く長く重ね合わせる。
流石の急展開。「第一チョロイン」の名は伊達ではない。
これで一歩、百合ハーレムの野望に近付いた。
俺は勝利を確信しながら、沙希の柔らかな体を押し倒し――
――たところで、俺の快進撃は終了した。
何故なら、沙希の股間には今の俺に無いモノが猛っていたからである。
「え?
ちょ……何、これ?」
「あのね、私、体だけ男の子なの。あのまま家に居たら、お姉ちゃんを押し倒してしまいそうだったから、家から離れたこの学校を選んだの。
ここで静かに、女の子としてひっそり暮らそうと思ってたのに……
全部、鈴が悪いのよ?」
いや待て勝手に決めるな。
俺は男に犯されたくないから百合ハーレムを作る事にしたんだぞなのに何でそんなモノをいきり立たせてやめておねがいそん、な ッア――
こうして俺の百合ハーレム計画は無残にも砕け散ったのだった。
☆ ☆ ☆
結局、俺達はそのまま夕方まで愛し合い続けた。
一度最後までやられちゃうと、もう駄目だった。あの気持ち良さと幸福感はやば過ぎる。
部屋の中が夕焼けに染まり始めた頃、箍の外れたよがり声に気付いた三年生の布座里舞子先輩が沙希の部屋を覘きに来て、俺達の痴態を目撃してしまった。
「おいおい、同性でも異性でも連れ込むのは良いけど、もう少し静か、に……」
繋がったままの俺達を見下ろした舞子先輩は、生唾を飲み込んでこう続けた。
「ええと、豹紋さん――だっけ?
君もか」
え?
君「も」?
頭の回転が強制終了している俺を置いてけぼりにして、舞子先輩は着ていたワンピースを脱ぎ始めた。ささやかなおっぱいと括れた腰の下に――下にあったのは――
「アタシも参加して良いかな?」
疑問形なのは口だけだった。
☆ ☆ ☆
明けて、入学式当日。
使える穴の全てを開発されてしまった俺は、股間の異物感に苛まれながら式次第を耐えていた。
昨日の夕食後からは、沙希と舞子先輩に加えて黛香先輩にまでも俺の体を堪能されてしまったのだ。三人とも前世の俺よりもご立派なモノをお持ちだったのは、色々とショックだった。
入学式を何とか乗り切り、これから一年お世話になる教室に移動した俺を待っていたのは、沙希の笑顔だった。
「一緒のクラスだね、鈴。これから一年、よろしくね」
ああ……こりゃもう、逃げられないな……
全てを悟りきった俺は、沙希に微笑み掛けながら答えるしかなかった。
「こちらこそ……よろしく」
だが、この時の俺は、まだ何も知らなかった。
同じ一年生である、六人目のヒロインも男の娘である事を。
大家の雀さんは両性具有で、どっちもイケちゃうと言う事を。
勿論、主人公である蕗也にも押し倒されてしまう事を。
百合ハーレムを作り損ねた俺は、これからの三年間を逆ハーレムで満喫すると言う未来を。
「いや、これって逆ハーじゃなくて、肉便器エンドじゃん。
でも……
悔しいけど気持ち良過ぎちゃって、もう戻れない!」
ビクン! ビクン!
☆ ☆ ☆
月日は過ぎ去り、私は無事に卒業を迎えた。
この下宿とも今日でお別れである。
荷物を全て運び出して部屋を片付け、雀さんに挨拶を済ませて、私は下宿の門を出た。振り向けば、木造二階建ての古びた建物が、数々の思い出を伴って佇んでいる。
――肌色成分ばかりの思い出だけど。更に私の場合、下宿の中で服を着ていた時間よりも、玩具を咥え込んでいた時間の方が長かった様な気がするし。
ともあれ、胸一杯に膨らんだ想いを撫でながら、もう一度三年間だけの我が家を見上げる。
心の中で「ありがとう」呟いて、頭を下げ――
「え?」
――そこで初めて、この下宿の看板に気付いた。
『聖乙女百合女学園高等部 男子寮』
ちょっと、待て。
今更だけど、何じゃそりゃ!
愕然とした私に、後の祭りの様な記憶が蘇る。
「これは……まさか……そんな……」
開発スタッフが冗談半分で作り上げたという、あの伝説のファンディスク……
「ああ……ここは、『俺が女子校生で、君がマドンナ☆』の世界じゃなくて……」
腹の底からこみ上げる思いを乗せて、私は咆哮した。
「『君だけマドンナで、俺達は女子校生☆』の世界だったのかYO!」
どっとはらい
2015年1月19日
蛇足ながら、オチを追加しました。