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時を継ぐ者  作者: ダブル
6/6

戦いの序幕

「さて・・・。どうするものかな。」

旗艦の格納庫であろう場所に降り立ったライクは呟いた。

敵船の中だと言うのに不思議なくらいに人がいない・・・。

ただ外は激戦の雄叫びや機銃の音が鳴り響いている。


「待たれい!!待たれい!!キュート卿!!」


ライクが潜入してきたデッキから一人の竜騎士の姿が見えた。


「深追いは禁物であります!ここは旗艦内!あなたにもしもの事があれば私がアベル様に叱られます!!」


筋肉隆々の髭を蓄えた大男は以前の戦いでも会った事がある。

アベルの竜騎士隊「コエンザイム」の副隊長「バベル」通り名を「筋骨の竜騎士」よく言えば義理堅く主君の命令に命を賭ける男であり、悪く言えば扱いにくい暑苦しい中年である。

ライクはどちらかと言うと彼の印象は後者である。

広いデッキを操舵室を探しながら進もうとするライクにバベルが大声を上げる。

「聞こえているのか、キュート卿!ここは敵船内!敵に見つかります!軽はずみな行動は慎み下さい!!」


ライクは解っていた・・・。

そんな大きな声で注意喚起すれば、見つかりたくもない敵に簡単に見つかる事も。

銃を構えた一隊がライクの前に立ちはだかる。

「貴様!うつぞ!!」

兵士が叫ぶ声より大きな声でバベルが叫ぶ。

「言った通りだ!軽はずみな行動は慎んでもらいたい!キュート卿!!」

「なに!なんだこの大男!!」

兵士たちは筋骨の竜騎士のあまりに早い動きについてこれなかった。

当然ライクの剣技にも。

「バベルさん、心配してくれるのはありがたいが、そんな大きな声じゃ敵に居場所を教えてしまう。もう少し静かに喋ってほしいよ。」

ライクは剣を鞘に納めながらバベルを見た。

すでにライクの目の前には五人の兵士が横たわっている。

「ガハハっ!!申し訳ない!!声の大きさと力の強さはまだ誰にも負けた事が無いもので。」

バベルもすでに三人の兵士を倒していた。

ライクはバベルと会うのはこれで二回目である。

すでに勝手知ったる筋肉の塊のような大男は、我先にと船内を進みだした。

「がはは!ライク殿!敵兵が現れました!!我の力をその眼に焼き付けてくだされ!!」

言葉を言い終える頃にはバベルの剛拳が相手の顔面に減り込んでいた。

ライクとバベルが操舵室へと足を進めるのにたいして時間はかからなかった。


バベルの大きな体が操舵室への扉を強引にこじ開ける・・・。


途端にライクは空気が変わるのを感じた。

何か背筋に寒気が走る感覚・・・。

そう・・・。この感覚は以前に知っていた。


「クロウか?」


ライクは操舵室の中央に座る男に視線を落とした。


「なるほど・・・。どうやらお前とは戦う運命にあるらしい」

クロウは不敵な笑みを浮かべながら被っていたフードを取り払った。

クロウは両腕から鉤爪を取り出し既に戦闘態勢を取っていた。

「ガンナーって野暮な野郎から、この世界の事は聞いた。そして今がどんな時なのかも。ライク・キュートって言うんだな?お前・・・。」

クロウはクククと不敵な笑い声を上げた。

「歴史ある家系なんだろ?始祖の家柄って奴なんだろ?」

クロウは両腕を大きく振りかぶりライク目がけて駆け出した。

同時にクロウの体に衝撃が走った。

バベルの拳がクロウの横腹を捕えていた。

しかしクロウはそんな事もお構いなしにライクへ突進する。

ライクの剣とクロウの鉤爪がぶつかり合い火花を散らした。


「面白い世界に飛んできたもんだ!ミージュの野郎に感謝しないとな!」


クロウが笑う。


「ミージュ?一体彼は何者なんだ?」

剣を交えながらライクが叫ぶ。


「ククク・・・。知ってどうする?お前たちには関係の無い事だ。」


「ミージュ・エンジラード・・・。時空の番人。ミージュ様の事か?」


不意に話に入っていたのはバベルだった。


「へ~。ミージュの事を知っている奴がいるのか?この世界にもミージュの野郎がいるのか?どうやら・・・。俺たちは負けたんだな・・・。だが、俺はまだ終わらん!!」


クロウのオーラが一層強くなる。


振り下ろした鍵爪がバベルの腕を切り裂く。鮮血が床を汚す。


たじろぐバベルの巨体に尚も凶器を振り下ろす。


「死ね!死ね!死ね!!!俺はまだ終われん!!!!」


クロウは狂喜していた。

振り下ろす鉤爪が真紅に染まっていく。


バベルの巨体から滝のように血しぶきが噴き出ていた。


「ふん!!」


しかし、バベルは尚も拳を繰り出す。


クロウとバベルが競り合っている隙にライクは剣を構え直した。


不意にチスイが語る・・・。


「なあ?あいつ何者だ?始祖なのか?どこか・・・。懐かしい気がする・・・。」


「懐かしい??お前はあいつを知っているのか?」


ライクの問いかけにチスイは黙ったままだった。


舌打ちしてライクは再びクロウへ向かって剣を振り下ろした。


クロウは不敵な笑みを浮かべながら、ライクとバベルをあしらっていた。


バベルの剛拳もライクの剣もその長い鉤爪で受け流していた。


その度に上腕の筋肉が激しく盛り上がり、荒い息を吐き興奮状態であるかのようだった。


戦う事・・・。それだけを求めていた。より・・・。強い者を・・・。


それは、ライクも同じだった。父を・・・。殺害した、あの日から・・・。ただ強く・・・。


それだけを想って剣を振り続けてきた。


クロウの鉤爪がバベルの体を引き裂く、バベルの巨体が大きく揺らいだ。


「うおおおおおおおおおおお!!!!!!!」


クロウの雄叫びを搔き消すほど大きな声でライクが叫ぶ。


「まだだ!!もっと強く!!もっとだっ!!!」


バベルを吹き飛ばしたクロウにライクの剣が襲う。


クロウはその剣を受けきれない。


「くそっっが!!」


クロウの鉤爪が大きく宙を舞う。

迸る鮮血がライクの頬を染める。

「こいつ!!なんだ?」

クロウがライクと距離をとるように大きく後ずさりした。

右腕から流れる血を舌で味わうように舐めている。

そしてその鋭い眼光はライクに注がれていた。

「強くなっている?」

クロウが呟いた。

そう、初めてライクと対峙したあの時より確実にそして格段に技量が上がっていた。

「始祖の力って奴か?ライク・キュート・・・。ん?・・・・キュート・・・??」

戦いの間の油断は禁物である。

そんな事はクロウは十分承知していた。

しかし・・・。キュートと言う名門の名が彼を困惑させるのには十分過ぎた。

次の瞬間・・・。彼は迫りくる剣に気づいたが遅かった。

「キュート・・・。キュート・・。求・・・・人・・・・。」


「ライク殿!無事でございますか?」

バベルの大声がライクの心臓に響く・・・。

無事とはこれだけ鮮血を浴びている人間に対して問う事なのかと思うとライクは苦笑いを抑えられなかった。

何も言わずにバベルの方を向いて少し奇妙な表情で頷いた。

「おお!ライク殿!!良かった!しかし・・・。」

バベルが不確かな言葉を発しようとした次の瞬間にブリッジの扉が再び開いた。

「ライク!バベル!無事だったか!早く出るぞ!この船は直ぐに落ちる!」

そこにはアベルが立っていた。

ライクはアベルの差し出した手を掴みブリッジを後にした。

「なあ・・。あいつ・・・。とどめを刺さなくていいのか?」

チスイが言う。

ライクはクロウに危険な香りを感じずにはいられなかった。

そして彼がこの世界の秘密を知っているような気がした。

それはあくまでもライク自身の推測・・。勘である・・・。

そう言ったチスイとライクを心配そうにアベルが見つめる。

「ああ、いいんだ。これが運命ならまたあいつとは会える気がする。」

そう言ってライクは火トンボに乗り込んだ。

戦いの序幕が・・・。


開こうとしていた・・・。













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