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時を継ぐ者  作者: ダブル
3/6

魔法王国アーレフ

ライクは夢を見ていた。


素敵な花園がただ続いている。


その香りは清々しく心に響く。


ライクはこの香りが好きだった。


なぜ?過去形なのか?ライクはふと考えた。


そう・・・。三年前まで・・・。母の香りと言っても良いのだろう・・・。


ライクはこの香りに母を思い浮かべていた。その笑顔と美しい凛とした姿を。


なぜ・・・。苦手なのだ・・・。


訳は三年前にさかのぼる。

魔法王国「アーレフ」

この大陸「ノア」の五王国の一つである。

この国は千年前の時の大戦から古の魔法使い「ミストリアン・エンジラード」を始祖に持つ大国である。

そうは言ってもこの国に国王はいない。古の魔法使い「ミストリアン・エンジラード」には謎が多く、この国を建国して直ぐに姿を消してしまったのだ。

残されたアーレフの民は国民から代表者を選出し、議会を創立させ国を発展させてきた。

ただ。建国の父ミストリアンに敬意を払い、彼をこの国唯一の永遠国王として奉っているのである。

魔法王国の名の通りこの国の「E」の紋章は「インテリ」と呼ばれる知恵の力を持っている。

その「インテリ」の力を継承している者・・・。

それがこの国の護衛団を統べる「アベル・チェン」である。

アベルは細い眉、切れ長の瞳。肩まで伸ばした赤毛。その全てから気品が溢れている。

魔法使いとは言ってもその体つきは筋肉質でがっしりしておりイケメンの細マッチョといった風貌である。

ライクとそう歳は変わらないであろう彼とライクが出会ったのが三年前。

グラジオラスの危機、黒薔薇の反乱の時である。

アーレフの議会を頼りにこの国を訪れた時だった。

そこでライクは初めての体験をした。

にわかに信じがたい・・・。忘れたい経験である。ライクは彼から告白された。

「綺麗だ・・・。共に人生を歩んでほしい!」


ライクの中では「アーレフの悪夢」と名つけられている。人生における汚点である。


そのアーレフには周辺国には無い変わった習慣がある。

その一つが議会制でありその議会を行う場所である。

豪華で大きな広間に置かれているのは議員達の席では無く、大きなベッドである。

そしてその大きなベットで裸になった議員達で国の経営であったり、外交であったりを検討し会議を行っている。

その会議室の香りがライクの母が好きだった。「薔薇の香り」だった。


「まさか・・・。こんな形で初夜を迎えるとは・・・。」

アベル・・・?の声が聞こえる。

ライクは体を撫でる暖かい人の体温を感じた。

体はまだ自由に動く程、回復はしていない。

ライクの能力である「ホーリー」それは身体における回復力の強化である。

体の傷をたちまちの内に癒す奇跡の力。

それが「ホーリー」である。しかしそれには制約が多く切り刻まれた体などを回復する為には多くのエネルギーいわゆる食物などから採取される栄養が必要である。

しかし人の体には栄養を蓄えるにも限界がある為、戦いで負傷すればするほど体力が無くなり外部からのエネルギーを体が吸収する。その場合の効率は悪く(状況によっては良い場合もあるが・・・。)回復にかなりの時間を要することになる・・・。


当然・・・。インテリの末裔であるアベルはそんなライクの体の事など熟知している。


「ふふ・・・。まだ動けないだろう?いくら回復力が高いと言っても、こんな寝室では吸収できる栄養分などほんの少しだからな・・・。」

「顔が・・・・。近い・・・・。」

ライクは大きく目を見開いたアベルに辛うじて言った。

「相変わらず・・・。美しい・・・。」

瞳を閉じたアベルはゆっくりとライクに顔を近づけた。

「う・・ごほん!!」

大きな咳払いが聞こえた。

アベルの顔が青ざめる・・・。

「違う!違うんだっ!カイン!」

慌てるアベルをよそにカインと呼ばれた男がライクへと視線を落とした。

「久しぶりだね、ライク。兄さんが迷惑をかけてしまったようだ。申し訳ない。」

爽やかなその笑顔はアベルと瓜二つだった。

しかしその体つきはアベルとは違い華奢な細いラインを出していた。

ここはアーレフの会議室・・・。

当然彼も全裸である。


「助かった・・・・」


ライクは安堵した。


アーレフのアベルとカインは兄弟である。

兄のアベルはインテリの能力を、そして弟のカインは別の能力を持っている。

かつてこのアーレフを築いたミストリアン・エンジラート彼は千年前の時の大戦を戦った英雄である。

ただ・・・。

彼は英雄であるとしかこの国・・・。いやこの大陸には伝わっていない。

千年前の時の大戦とはどのような大戦なのか?

詳しい事は全く解らない。なぜならこの大陸「ノア」には千年以上前の歴史が無い。

全ては時の大戦から始まり、10部族として別れた能力を持った人間が今現在この大陸に五つの王国を築きお互いにしのぎ合っている。

それがこの大陸の歴史である。


「ミージュ。確かにそう言ったのかい?」

真剣な目で問い詰めるカインの目をライクは真っ直ぐに見て頷いた。

「おいおい・・。冗談だろ?ミージュってミストリアンの愛称じゃないか・・・。」

「そうだね、兄さん。でも彼は禁断の時の魔法を使えたのなら・・・。ライクの言ってる事もよくわかる。」

アベルとカインが真剣な目で語り合う。

でも・・・。全裸・・・・。

ライクはこの空間には馴染めないでいる。

「一体なんなんだ?そのミージュってのは?」

ライクは二人に問いただした。

「おいおい・・・。Eの紋章の継承者なら知っているべきだろ?」

アベルが少し怪訝そうな顔で言った。

カインが困惑しているライクに気を使ったのか軽く咳払いをして続けた。

「時の大戦は知ってるよね?この大陸ノアには千年前の歴史が無い。いわば突然千年前に我々の祖先が現れこの大陸の礎を築いた・・・。それが。千年前の時の大戦。ミージュ・エンジラートとその姉マリ・エンジラートの戦い・・・。そして始まりの国キクは五つの国に別れた。そのミージュに君は出会った・・・。僕がリーディングの能力を持っていなければ君はただの嘘つきだったよ。」

リーディング。それがカインの能力である。

人の心、その人の能力や力が見える能力。彼の前では全てが真実である。

誤魔化しや言い訳が通用しない・・・。

その能力故に彼が見てきた世界は自分が見てきた世界とはかなり違いがあるようにライクは感じる。

またそんな彼を想いまさに全知全能をかけて彼を守ろうとするアベル。

そんな二人がいたからこそライクは三年前の戦いを乗り越える事が出来た。

そして今・・・。再び彼達の前に姿を現した。

カインがそんなライクの重い表情を察知したのか、ライクを促すように合図を送った。

「さあ久しぶりの再会だ、話はここ(会議室)より食事をしながらにしよう、ライクの体も回復するだろう?」

アベルが頷きライクと共に食事の間へと進んだ。


豪華な食事がライクの目の前に広がる。

疲れはてていたライクの目が輝く。

次々と運ばれてくる食事をライクはひたすら口に運んだ。そしてそれは全てライクの血となり肉となる。

ライクの体が回復してゆく、それは信じられないスピードで。

そしてひたすら・・・。食べる。彼の体のどこに入っているのかわからないがライクは食事の手を休めない。

「そして・・・。君はこれからどうするんだい?」

アベルがライクに問いかける。

「実は・・・。ついてきて欲しいんだ。」

「どこに?」

カインはきっと全てを悟っているのであろう。

そんなカインを見つめてライクは言った。


「偽りの国、フィサリス」


「フィサリス??なんの為にだ??」

アベルはそう言って肉を口に運んだ。

「あそこは廃墟と化しているのではないのか?」

カインも怪訝な顔でライクを見つめる。

「ああ・・・。フィサリスには少数部族のみが生活しているに過ぎない・・・。でもノアの10部族には違いない・・・。彼らの力も必要なんだと思う・・・。」

「親父さんの言ってた事を本気にしているのか?」

アベルが重い口をあけた。

三年前・・・。

ライクの父「アナベルの反乱」その目的は10部族を滅ぼし一つの部族としてこの大陸を支配する事であった。

その為に始祖であるグレイス王を殺害し反乱を起こした。

ノアの10部族を決められた1部族とする為に・・・。

アナベルはその使命感に全てをを奪われていた。

それ以外に自分がなすべき事など皆目見当もつかずに・・・。

ひたすら部族の統一を目指した。軍を南下させアーレフへ侵攻したのも征服と言うよりアベルとカインを殺害する事が目的であった。


「王には俺たちを殺すって言ったんだろ?」

カインが皮肉を言う。

「王様もわかっていると思う。僕は父さんの考えが間違っているとは思わない。でも父さんのやり方は間違っていると思う。それはアベルとカインが教えてくれた事でもあるんだ。」

ライクは、三年前の弱弱しい彼では無かった。


「僕は10部族の力でこの大陸を変える。全始祖の力を集結させる。そして新しい未来を築きたいんだ。」


アベルはそう言い切るライクを見て笑った。


「やっぱり変わっていないな・・・。お気楽だ・・・。君はバカじゃないのか?この大陸には10の部族が住んでいる。それぞれ五王国に別れているが・・・。しかし全ての部族が解っているわけでは無いしましてや始祖はその部族に一人・・・。必ず協力してくれるとは限らない・・・。こちらは君の持つホーリーの能力、そして僕のインテリ、カインのリーディング。後一つは君ですら解らない・・・。キュート家の始祖的能力だろ?もしかして・・・。すでに4部族を仲間にしている自信でもあるのかい?ほんとは僕が始祖では無い可能性もあるのだよ?」


アベルの言う通りだった。


この大陸に住む10部族にはそれぞれ能力がある。


始祖と呼ばれる者が一番その能力をフルに使えるのであるが、1000年の歴史の中でその能力は薄らいでいき、次第に平凡な人間たちで溢れかえっているのが今の大陸の実情である。


そしてライクもアベルもカインも・・・。始祖であると言う保証はどこにもない・・・。

ただ人より血筋が確かであったりその能力が優れているだけに過ぎない…。

自分達が始祖である理由・・・。

それを見分ける術はライクの知る所一つしかない。


「お気楽なものだ・・・。」


アベルがため息をついた・・・・。


「そうでも無いよ。兄さん。僕はその人の心や身体能力が見える・・・。集中して見てもライクと兄さんには普通の人とは違うオーラが見えるよ。そしてそれはライクの父君にも見えたし皇国の女王にも間違いなく見えたよ。それを始祖の証と言うならライクの見立てはあながち間違いじゃない。」

カインが言うとライクは嬉しそうに言った。

「ほら!カインもそう言っている!!」

ライクの知るEの紋章を持つ者を知る方法(始祖を見分ける方法)それがカインの能力だった。

「バカじゃないのか?」

はしゃぐライクをアベルが呆れた顔で見る。

「もう一度繰り返すよ。この国に危機がおきようとしている。その危機を回避するためには10部族が一つにならないといけない。だから10部族の始祖達よ僕に力を貸してくれないか?そう言いたいんだろう?」

頷くライクを遮ったのはアベルでもカインでも無かった。


「そんな根も葉もない世迷い事に、我が国の中枢を担う2人を渡す訳にはいかんよ!」

白髪の老人達よが数人、食事をしている部屋に入ってきた。

「この国は議会制で成り立っておる、我々の賛同なしに二人を連れ出そうとされては困りますな・・。」

老人達が代わるがわる口を挿む。

「特にアベルとカインは先の黒騎士の反乱時に君から悪い影響を受けた・・・。今は君とチェン兄弟には友情と言う絆が産まれているかも知れないが・・・。元々グラジオラスとアーレフは同盟国では無い!」

老人の一人が怒るのも無理はない・・・。

始まりの国キクは1000年前の時の大戦でその力を維持する事が出来なくなり、キクを護衛する国グラジオラス、この大陸の覇権をキクから奪取しようとするアーレフとフィサリスに分かれた。長き戦いの歴史からグラジオラスはフィサリスの勢力を孤島に閉じ込める事に成功したがアーレフにその隙を突かれグラジオラスからフィサリスへと通じる南がわの国土をアーレフに奪われてしまった。

そのまま勢力を伸ばそうとしたアーレフであったがその政治に不満があった西方の別部族が新たにアキレギアと言う国を作りアーレフに反旗を翻した。

今は停戦状態となっているがそれも仮の平和であり元々この大陸の五王国はお互いに交戦している状態である。

いつ再び戦いが始まるかと思うと竜騎士隊の隊長であるアベルと参謀隊長であるカインを簡単に国外には出せないのである。


「そう言う事だ・・・。それぞれ人には事情がある。自分の正義だけがこの世界の正義ではない・・・。」


アベルが力なくそう言った.


ライクはそれが少し悲しそうに見えた。


「それも解っている・・・。だから僕は国を捨てた・・・。」


その場に居た全員の視線がライクに突き刺さる。


「この大陸に産まれて、父を殺して・・・。僕は生きる意味を求めた。父の言う通りこの大陸には大きな秘密が隠されていて、その秘密を解き明かすには僕たち始祖の力が必要だと言う事・・・。その秘密がどんな事なのかは僕にもよくわからない・・・。でも僕はこの世界に何かが起きようとしている事を見過ごす訳にはいかないと思っている!それは国民としてでは無く・・・。一人の人間として!」


「国よりも・・・・。人が大事と言う事か?」


アベルの問にライクが大きく頷く。


「バカなっ!アーレフがこの大陸を治めれば戦争の無い、貧困も無い国が創れる!大陸の秘密などこの国には関係ない話だっ!」


「どこの国もそう言って力の無い者を戦場に送り、自分達は平和を謳歌している・・・。」


カインが呟く。


「我々を侮辱しているのか??」


老人の一人が声を荒げた。


「その昔、この国に国境は無かった。本当に必要なのか?どこからどこまでが自分の国であるって?悪いけど僕には必要ない!この世界の全てが僕の寝床でありこの世界の全ての食物が僕の栄養だ、そしてそれらは当然アベルにもカインにも同等に与えられる物だと思っている!それが三年かけた・・・。僕の答えだ!」


ライクは叫んだ。


心の叫びだった。


そこへ一人の兵士が傾れこんできた!


「大変です!!アキレギアが!!攻めてきました!!西方の町「コキア」にて現地部隊が交戦中!至急応援部隊をっ!!」


大量の血を流す兵士にライクが駆け寄り傷口に手を当てる。


不思議な事に兵士の傷が癒える。これもライクの持つホーリーの能力である。


「コキアへ!竜騎士出撃!!」


アベルの声は宮殿中を駆け巡る。


「ライク、その話は少し後で・・・。今はこの戦いが終わってからだ」


カインが目配せを送る。


ライクは解ったと言い「コキア」へ連れて行ってくれとアベルに頼んだ。


アベルは竜の背中にライクを誘う。


「アキレギアの連中は懲りない者が多い・・・。ライク始祖を仲間にするなら気をつけるといい。アキレギアの始祖はプロテインとマーシナリー。科学と言う名のもとにこの大陸を汚染する事を厭わない馬鹿者共だ。」


こんな時だというのにライクの胸は躍っていた。見知らぬ土地新たな冒険・・・。


「アキレギア・・・。西方の強国・・・。」


ライクの視線は遥か遠く・・・。理想を求めるように遥か遠くを見つめていた。


「全軍!出撃!!」


アベルの鼓舞が飛ぶ!アーレフの軍が西へと飛び立って行く。


不安と期待と・・・・。この大陸の未来を乗せて・・・・。


















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