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時を継ぐ者  作者: ダブル
2/6

新しい影

ライクはひたすら南へ向かっていた。


ひたすら続く草原を一人南へ向かう。国境は次の丘を越えるともうすぐ見えるはずだった。

自分が歩いてきた道を振り返り汗を拭う。

そして運命を刻む。


この大陸・・・。「ノア」には5つの国がある。


この大陸の5王国。

「薔薇騎士の国・・・グラジオラス」

「古の魔法王国・・・アレーフ」

「偽りの国・・・フィサリス」

「始まりの皇国・・・キク」

「機械王国・・・アキレギア」

最も歴史のある国が始まりの国「キク」。

かつてはこの大陸全土を支配していた大国であり、千年前の時の大戦の舞台であり、偉大なる魔法使いミストリアン・エンジラートの生まれ育った国である。

キクから始まった大戦は長き時を経て新たな国を産みグラジオラス、アレーフ、フィサリスにそれぞれ別れ、最も歴史の浅い国アキレギアは先進の機械を持って貿易大国として繁栄している。

ライクの産まれた国「グラジオラス」はミストリアン・エンジラードと共に戦った騎士「アンジェスター」と後の王「フレイグ」が建国した国であり、始まりの皇国「キク」を守護する様に建国されている。

その重要な要の王国グラジオラスの反乱は当時各国に大きな衝撃を与えた。

由緒ある王国の大きなスキャンダルは大陸を西へ東へ駆け巡り、アレーフの力を借りて当時の反乱を食い止める事が出来たのである。

フレイグ王と馬を走らせひたすら南へ向かっていた当時の自分をライクは懐かしんでいた。

まだ・・・。

3年しかたっていないんだ・・・。

あの頃を思い出し不意に歩いてきた道を振り返った。


あの頃と同じで地平線の向こうまで続く草原を振り返っていた。


そう・・・。あの頃と同じであるはずだった。


次の瞬間、ライクの目に空から落ちてくる人の姿が目に入った。


「うそだろ??」


ただ四方を見渡しても広がる草原、青い空、夢でも見ているのか?とライクは目を見開いた。

確かに人だった。

ライクはその人の落ちた場所へと駆け寄った。

確かに人がいた・・・。

ライクは静かにその男を抱き上げる。

「大丈夫か??」

「おいおい。そんな訳のわからん男にかまってる暇なんてあるのか?」

チスイが言う。

「また置いて行かれたいのか?」

そう言うとチスイは黙ってしまった。

落ちてきた男は少し唸ったりしていたが、外傷もなくただ寝ているだけのようであった。

ライクはその男を安全な場所に移して、目を覚ますのを待った。

時折その男の寝言が聞こえる・・・。

「姉さん・・・。どうして・・・。」


しばらくするとその男が目を覚ました。

「ここは・・・」

「グラジオラスの南の草原だ。」

キョロキョロと辺りを見回す男にライクはそう言った。

「グラジオ・・ス・・・??」

男は首を傾げた。

「聞いた事の無い名前だ・・・」

「頭を打ったのか?」

ライクはその男に問いかけた。

その男は少し鼻にかかるように微笑みながら

「大丈夫ですよ。お嬢さん。こう見えて体は丈夫なんです。」

とライクを見つめて言ってきた。

「どうやら・・・。大丈夫なようだな。」

ライクは大事に抱えていたその男の肩から手を離し、ため息をつきながら立ち上がった。

「どうやら助けられたようですね!お恥ずかしい姿を見せてしまいました。」

その男はさわやかな笑みを浮かべていた。

逆にその姿がライクの勘に触った。

「断っておくが、私は男だ!ライク・キュート!元薔薇騎士だっ!」

そう言ったライクの顔を見つめながらその男はほくそ笑んだ。

「うそだろ・・・?女性以上に美しいんじゃないのか??」

しばらくの沈黙を破るようにライクはため息をついた。

幼い頃から何度このやり取りを繰り返した事だろう・・・。

「もう、元気そうだな・・・」

そう言ってライクはその場を立ち去ろうとした。

次の瞬間、ライクの目に黒い衣装に身を包んだ長身の男が深く被った帽子の下から白い歯をチラつかせて立っていた。

「見~つけた!」


「ライク!!逃げろ!!」

空から落ちてきた男はそう叫び立ち上がった!!

「逃がさないよ!ミージュ!!」

黒い衣装の男は素早い動きでミージュと呼んだ男の前に回り込んだ。

黒い衣装の男の両手には鉤爪がついており、ミージュ目がけて振り下ろされた。

咄嗟にライクは剣を手にその男の前に出た!

ライクの手に剣伝いに男の力が伝わる。

「こいつ・・・。強い・・・。」

ライクの騎士としての直感である。

ライクの剣を振り払った黒い衣装の男は、「チッ」と舌打ちし二人と少し距離を置いた。

ため息交じりにその男が言う。

「へ~見たところ剣士のようだね。君は誰だい?」

「人の名を聞く時は自分から名乗りを上げるのが礼儀だろう!」

その男の強烈なプレッシャーに語気を荒げざるを得なかった。

「私の名はクロウ。そちらのミージュに用事があるのだ。君は関係ないのだよ。」

クロウと名乗ったその男は、ため息をついた

「関係ない?今しがた助けたこの男を殺そうとしている者がいる・・・。それをほっておく訳にいかない!騎士の名にかけて!」

クロウはライクの言葉を聞いてククッと笑い出した。

「騎士?そんな風には見えないな・・。どちらかと言うと武士って感じ??金髪の武士か・・・。こう言うの傾奇者って言うんだよね?」

クロウは右手を大きく振って見せた。

「そう言うのは好きだよ。好感が持てる。でも時と場合による!!」

一瞬真剣になったその眼差しに全身に緊張が走るのを感じた。

ライクの構える剣に力が入る。

「よせ!そいつは不死身だっ!!」

ミージュが叫ぶより早く二人は臨戦態勢に入っていた。

クロウの鉤爪とライクの剣が火花を散らす。

「刀・・・?妙だな?」

クロウはライクの刀に目を向ける。

その隙をついたライクの刀がクロウの右腕を切り落とす。

ゴトっと重い音を立ててクロウの右腕が地に落ちた。

「ここまでするつもりは無かったが、すまない。貴公が強く手加減が出来・・・。」

言葉の途中だった・・・。

ライクの目に入ってきたのは再生していくクロウの右腕・・・。切り落とした右腕は確かに地面に落ちている。それなのにクロウの右肩から新しい腕が再生されてゆく。その右腕には鍵爪が付いている。

そしてその鍵爪は何事も無かったかのようにライクを襲ってきた。

「油断・・・。大敵だよ・・・。」

クロウは無邪気に笑った。

「想定内だ・・。始祖か・・・?」

次の瞬間・・・。確かにクロウが青ざめた・・・。

クロウの振り下ろした鍵爪の傷がつくと同時に回復していくライクの体。

驚くクロウにライクは手を緩める事はしなかった。

三年前の闘いの教訓をライクは忘れていなかった。

亡き父との戦い。始祖と呼ばれる、特殊な能力を持った同士の戦いである。

ライクの右手は自然とチスイに吸いよせられた。

「チスイ・・・。力を・・・。」

ライクの力が。プレッシャーが。変化する。

チッ!クロウが二度目の舌打ちをした。

「お前・・・。何者だ・・・?」

咄嗟にライクと距離を置いた。

クロウが歴戦の猛者である事は解っていた。この行動もライクにとっては想定内の出来事であった。

「まさかアメノオハバリ?・・・。」

不意に呟いたミージュの言葉にクロウは動揺した。

その言葉に動揺したのはクロウだけでは無かった。

「ここは・・・。箱舟?」

何かを悟ったかのようにクロウは笑い声を上げた。

そして冷酷な目をライクに向ける。

「ミージュの言う通りなら、貴様は俺の子孫か?それとも別の血を受けた・・・。」

全てを語るまでも無くクロウはライク目がけて爪を繰り出す。

ライクの体を刻む爪痕から直ぐに回復してゆく体・・・。

ライクは苦痛に顔を歪めながらも、チスイを持つ手に力を込める!

クロウの繰り出す鉤爪をかわしながらライクが振り下ろした剣は再びクロウの腕を切り裂いた。

またクロウの右腕が地面に落ちる。

「奴は再生する!不死身なんだ!」

ミージュの声が聞こえた。しかしそれもかき消すかのようにクロウが叫ぶ!

「何故?何故だああ~~~!!」

クロウの右肩から鮮血が吹き出し右腕が復活する気配が見つからない。

その激しい痛みにクロウが悶絶する。

「貴様!!何をした!!」

クロウがライクを睨む。

ライクはチスイの剣先をクロウに向けた。

「お前の血を吸わせて貰った。不死身の男は一度殺している!」

そう言ってライクは剣を頭上に上げた。

「ククク・・・・」

不敵にクロウが笑う・・・。

「驚いたよ・・・・。でも・・・・。君は僕に勝てない。」

そう呟いた瞬間ライクの体が数メートル吹き飛んだ!

何だ???衝撃波?ライクにはこの衝撃が解らなかった。

吹き飛んだまま体を岩山にぶつけた。

激しい痛みがライクを襲う!

「くそっ・・・。」

ライクの体が岩山に減り込む。もがくライクに不敵な笑みを浮かべたクロウは近づき更に念を込める。

その度にライクの体に衝撃が走る。

「ククク・・・。僕の力はどうだい?手を使わずとも君を制御出来る。この力こそが与えられた者の力!」

「与えられた力だと?奪った力じゃないのか!」

ミージュが叫ぶ。一瞬視線を送り再びクロウはライクを見た。

「僕の右腕・・・。返してもらうよ・・・。鎌鼬!!」

クロウが叫ぶと真空の刃がライクを襲う。

「くそ!!動け!!」

ライクは渾身の力で体を揺さぶったが真空の刃はライクの右腕を切り裂いた。

「ククク・・・。」

クロウが笑う、鈍い音を立ててライクの右腕が宙に舞う。

激しい痛みがライクを襲う。

「ククク・・・。やはり・・・。僕より能力が劣るのか・・・。」

確信していたかのようにクロウが笑った。

ライクの右腕はクロウと違い直ぐには回復しなかった。いや・・・。出来ないのである。

小さな傷や怪我くらいなら瞬時に回復する事が出来るのだが、復活させるベースの無い草原などでは右腕と言う大きな体の部分はそう簡単には回復する事が出来ない。

クロウの右腕を切った時、一瞬で右腕が復活した時ライクは痛感していた。

この男は自分より能力が上だと・・・。

「ククク・・・。ミージュなんか見捨てればよかったんっだよ。うらまないでね~」

鼻歌を歌いながらクロウは地面に這いつくばっているライクを見下ろす。

「君は僕には勝てない・・・。始祖・・・。とか言ってたね・・・。多分・・・。僕は始祖よりもっと前そうだな・・・。オリジナルってとこかな・・・。」

「ふざけるな!!貴様はただのコピーだっ!!」

ミージュが叫ぶ。疲労し動けないミージュを睨みクロウが左腕を振り下ろすと真空の鎌鼬がミージュを襲う。

「くそ!」

ミージュが念を込めるとミージュの姿が消えライクの隣にミージュが現れた。

「はあ、はあ、はあ・・・。」

衰弱の激しい姿は顔色だけで解る。

その姿をクロウは顎をさすりながら見ている。

「ほお・・・。まだ力を残していたのかい。限界はとっくに超えているはずなのに・・・。さすがはオリジナル・・・。ククク・・・。僕はコピー・・・。でも・・・。君より強いよっ!」

クロウが左腕を振り下ろす、真空の刃が二人を襲う!

ライクはミージュを庇うように覆い被さった。

「なぜ・・・。そこまでして助けてくれる・・・。」

ミージュは理解出来なかった。

ほんの数分前に出会ったばかりである、あまつさえ彼を女性と見間違えた。

その男に対して自らの命を投げ出してまで救う価値などないのではないか・・・。

いや・・・。自分には到底出来ない事だった。

「誰を助けるとかではない・・・。私が助けたいから助けるだけだっ・・・」

ライクの言葉と真剣な眼差しにミージュの頬を涙が伝った。


激しい音が響いた・・・。


大きな衝撃が周囲を走る。


「ククク・・・。さて・・・。ミージュの能力を頂くか・・・。」

クロウが含み笑いを浮かべながら爆煙を上げている二人の近くへと足を運んだ。

次の瞬間・・・。



「僕を殺しに来たって聞いたから迎えに来たらこんな所で死にそうになってるとはな・・・。バカじゃないのか?」

クロウの体がはじけ飛ぶ。


クロウの目に今まで見た事も無い少年が入ってきた。


その少年はライクとミージュを庇うように立っていた。



「アベル・・・?」

ライクが砂煙の中で見たその姿は三年前の戦いで親友となったもう一人の始祖だった。


「フレア!!」

そう叫ぶと空中に待機していた数人の竜騎士達が火矢をクロウに浴びせる。


「ふざけるなっ!!」


クロウは体に刺さる火矢の傷を自慢の超回復で回復しながらアベルに突進してきた。


「わかってないな・・・。フレア!」


アベルが叫ぶと突き刺さっていた火矢が大きな爆発をおこしクロウの腕をはじき飛ばした!


「なっ!!」


次の瞬間、クロウの全身を炎が包む。


「なんだっ!!回復が・・・。追いつかない・・・。」

「ちっ!!」


そう言い残すとクロウは一人の竜騎士を倒し南の空へと飛んでいった。


「貴様!!もう少しで・・・。この世界の神となる事が出来たのに!!」


クロウの声を薄らいだ意識の中でライクは聞いていた。


「神・・・。そんな人会った事ないよ・・・。君はバカじゃ無いのか?」

飛び去る男をよそにライクの方へ駆けつける。


「大丈夫か?ライク・・・。」


ライクはアベルに抱えられていた・・・。


「アベル・・・。すまない・・・。でも・・・。やめてくれ・・・。」


ライクは息も絶え絶えにそう言った。

ライクの右腕が無いのを見つけたアベルは近くにあった右腕をライクにつけてやった。

見る見るうちにライクの右腕が回復していく。

その力にライクは大きく目を見開いた。

「アベル!そこにミージュって人がいる助けてやってくれ」

ライクは回復していく自分の力を感じながらアベルにそう語りかけた。

「ミージュ?どこにいるんだい?」

アベルは怪訝とした顔をした。

ライクが振り返るとそこには誰もいなかった・・・。

ただ・・・。そこには確かに誰かがいた。

その証拠にミージュがいた場所には「ありがとう」と刻まれた地面と一つの指輪が置かれていた。

うつろな目のまま、ライクはその指輪を手に取った。

そして、クロウとミージュの事を考えた、彼達は一体何者なのか?始祖でも無く、オリジナルとか言っていた、そして自分達より強力な能力・・・。

父が言っていたこの大陸の危機とあの男達が関係しているのか・・・・。


ただ・・・。

今は眠りたかった・・・・。

疲労のたまった体を預けるには少し不安があるが・・・。

不覚にも助かった命の安心感からライクは目を閉じた。


「ゴクリ」




ライクが最後に聞いたのは、アベルの生唾を飲み込んだ音だった・・・・。














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