時を継ぐ者たち
剣と魔法の時代…。
この大陸の最北の国「グラジオラス」その王都から物語は始まる。
大陸最北の国は別名「薔薇騎士の国」として有名でこの大陸の伝説にある時の大戦を伝説の魔法使い「ミストリアン・エンジラード」と共に戦った騎士「アンジェスター・リオン・キュート」が当時仕えていた盟友「フレイグ」と共に築いた歴史ある国である。
その国の首都「アンジェスター」古の国王が友であり、戦友であった騎士の名を冠した街である。
アンジェスターの中心に国王の城がある。
その王の間にて若き王「フレイグ・ドネル18世」が若い騎士を前に立っていた。
「本当に行くのか?心変わりはないのか?私はこの国の王である。しかしその前にお前の一番の友でありたいとも思っている。いいか?心配なのだ・・・。私が王と言う立場で無ければ君と共に旅に出たいのだが・・・。」
若き王は少し寂しそうに目の前の若い騎士にそう語った。
若き騎士は美しい金髪を掻き上げ、膝間ついて言った。
「フレイグ国王、私の父アナベルは国王の意思に背き反乱を起こしました。この大陸は古より五国王によって統治されてきました。それを亡き父アナベルはフィサリスを乗っ取りこの大陸の平和を乱そうと反乱を起こしました。本来であれば私は反乱軍のリーダーの子として死罪も免れぬ状態・・・。それを王の温情により父と対峙する機会を与えて頂いた事は忘れがたき恩義と感じております。」
「ならば・・・。なぜ?今この国から出て行くというのだ?ライク?」
フレイグ王は先の国内での反乱「薔薇騎士の反乱」を回想していた。
「薔薇騎士の反乱」は3年前の出来事である。
グラジオラスが騎士の国と呼ばれているのには訳がある。
この国を守護している騎士団は全部で5師団ありすべての騎士団が薔薇の紋章を象られている。
その最高位にある騎士団「黒薔薇騎士団」の団長こそが、ライクの父であるアナベル・キュート黒薔薇騎士団長であった。
ライクの父アナベルは3年前・・・。黒薔薇騎士団を率いてフレイグ16世を殺害し反旗を翻した。
それは、瞬く間に他の4王国に伝わり、当時皇太子であったフレイグ18世が4王国を後ろ盾に王位に着き反乱を鎮圧した。
その時ライクは17歳まだ見習い騎士達の集まりである、白薔薇騎士団に入団して間もない頃だった。
本来は反逆者の子として捕らわれの身になるべき所ではあるが、聡明なるフレイグ18世は幼き頃から兄弟のように育ってきたライクを捕える事は忍びなく、父を撃ち騎士の汚名を挽回するチャンスを与えた。その事からもわかるよう、ライクとフフレイグ王の間には臣下の域を超えた友情があった。
「国王・・・。父はあなたの父を殺害し、反乱を起こしました。その戦いの中で私は父からこの大陸の秘密を知る事となりました・・・。それが真実なのかどうか・・・。私の目で確かめてみたいのです。あれから3年・・・。私の腕は当時とは比べ物にならぬ程成長しました。再建が進んだこの国を捨てても我が忠義はフレイグ王と共にあり・・・。決して国を捨てる訳ではございません。」
ライクは美しい騎士であった。
その美しさ美貌は群を抜いていた。
その姿は騎士の恰好をしていなければ女性と見間違う程の美しさをもっていた。
ライクはその美しさ故に幼い頃から女騎士とからかわれていた。
しかしその美しさは成人してからはあらゆる女性を虜にした。
だがこの若き騎士は実直な性格と良く言えば自分を持っていると言えばよいのであろうか。
普通の少年では無かった。
自分の美貌に溺れる事もなく、自身が持って産まれた運命に憶す事無く、この少年は大人へと成長していた。
「王。私はこの大陸に産まれし「E」の紋章を持つ者を殺害しなければなりません。その運命は亡き父より受けし運命・・・。幼子であろうと老婆であろうと私は殺害しなければなりません。フレイグ王。心から私はあなたに忠誠を誓っておりますが、私はこれから人殺しの汚名を受ける運命にあります。敬愛なるあなたの部下としてその汚名を受ける罪は抗えません。今より私は騎士団員でもなく、グラジオスの民でも無くただの旅人として暮らしてゆきます。その無礼をお許し下さい。」
そう言ってライクは立ち上がった。
その心に重く大きな運命を持って・・・。
王の間を出る少年の瞳はかつての幼き騎士の目では無く、その運命を前にしても強い意志をもったひとりの青年にライクは成長していた。王の間の豪華な扉を門番が開けると長く続く廊下の先に四人の男達がライクを待ち構えていた。
「別れの挨拶は済んだのか?」
四人の騎士の中でも一番大柄な男がライクに尋ねた。
騎士達の姿を見ればその佇まいや容姿から団長クラスの猛者である事がわかる。
「はい…。今日から私は旅に出ます。この世界の謎を…。自分の目で確認しなければならない。たとえ一人きりであろうと…。」
大柄な男は何も言わずに頷いた。
「1人ではないさ。」
今度は髪の長いやせ形の男が言った。
「俺達はアナベル団長の教えをうけて育った仲間であり兄弟のようなものだ。俺達の絆は誰にも縛れない。そうだろ?ライク?」
ライクは涙目になり、黙って頷いた。
「ありがとうございます。師匠達に教えて頂いた技と勇気を持って旅にでます。」
ライクは震えた声を絞り出した。ではとその場をさろうとしたライクに
「忘れ物だ・・・。」
銀髪の男が言って一振りの刀を手渡した。
その剣を受け取ったライクは少し怪訝な顔をしたが、何も言わず頭を垂れた。
こうしてライクの旅が始まった。
アンジェスターの街を後に長い一本道が続く。
旅の行き先は実際どこでもよかった。
ライクの旅の目的はこの大陸に住む各部族に会い「E」の紋章を持つ者と対面する事にあった。
この大陸には10の部族がいる。
それぞれが傑出した能力を持っている。
その中でも「E」の紋章を持つ者は「始祖」と呼ばれ部族の中でも特に高い能力を持っている。
ライクも「始祖 」の一族の末裔でいわゆる普通の人間ではない。
ライクは先の内戦で父からその事実を教えられた。
ライクの父アナベルも当然「始祖」であり、ライクと同じ能力を持っている。
そしてフレイグ王も「E」の紋章を持つ「始祖」の1人であった。
フレイグ王も父アナベルも共に人間としての魅力あふれる誠実な男でライクにとってかけがえのない存在であった。
その2人が殺し会わなければならなかった理由をライクは今一度考えた。
「確か…。南の島国から帰ってきてからだぜ」
不意に声が聞こえた…。
ライクはため息をついた。
「起きていたのか?チスイ…。」
ライクの廻りは見渡す限り草原で爽やかな風の音だけが聞こえる。
「ああ。アナベルとの付き合いは俺様の方が長いからな。」
ライクは視線を銀髪の男から手渡された刀に落とした。
銘刀「血吸丸」キュート家に代々伝わる刀で妖刀である。
「なあライク。相変わらず俺の事は嫌いかい?だがお前の旅に俺様は必要不可欠だぜ。なんて言ったって俺様がいなければお前は父親を殺せなかったんだからな。」
ライクは刀をその場に投げ捨てた。
「おっ!おい!!何してんだよ!?俺をこんな所に捨てていくつもりか?なあライク悪いっ!!俺が言い過ぎた。なあって!!」
刀の叫び声にライクはため息をつきながら血吸丸を拾い上げた。
「おい。これ以上僕をイラつかせるな・・・」
ライクは言った。
「・・・。。」
まるで何事も無かったかのようにチスイは黙り込む。
「ふん!」
そう言ってライクはチスイを腰に下げた。
「南か・・・。」
妖刀血吸丸、そして他二本の刀を腰に下げライクは南に進路をとった。
チスイの言う通りその刀が無ければライクは父を殺す事は出来なかった。
しかし、その時のライクはチスイに魅入られていた。
妖刀の持つ力に取り込まれていた。
もう・・・。
ああはならない・・・・。
ライクはそう心に固く誓っていた。
「10部族・・・。残り・・・。8部族・・・。」
ライクは呟いた。
ライクの頬を暖かい風が吹き抜けて行った。